イースタン・リーグで腕を磨くスワローズ期待の星を紹介する連載企画『2軍燕たちの挑戦録』の第2回は、25歳のルーキー下川隼佑投手(右投右打)をフォーカスする。特に近年、希少となったアンダースローの下川は個性が際立つ存在。彼の「これまでの歩み」と「今後の可能性」を考察─。
個性と可能性を評価されての育成3位指名
アマチュア時代から、決して目立つ選手ではなかった。
小学生の時に野球を始めた下川は「並木ジャイアンツ」「東金沢リトルシニア」を経て、湘南工科大学附属高校に進学。ここで内野手からアンダースローの投手に転向するが、高校3年夏の神奈川県大会では初戦で敗退している。神奈川工科大学進学後も1、2年時は公式戦出場ゼロで大した成績は残せなかった。
それでも高いレベルで野球を続けたい、プロ野球選手になりたいとの想いは強く、独立リーグ(BCリーグ)のオイシックス新潟に入団。主力投手として活躍し2シーズン目には26試合に登板し11勝1敗、防御率2.38の好成績を残した。そして3年目の2024年シーズンからは所属するオイシックス新潟がイースタン・リーグに加わり、ここでも下川は躍動した。40試合4勝8敗、防御率3.86ながら奪三振102をマーク。これはリーグトップの数字だった。
個性の豊かさと可能性が認められ2024年秋のドラフトでスワローズから育成3位指名を受ける。念願だったプロ野球(NPB)のユニフォームに袖を通すことになった。
育成3位から一気に1軍デビュー
ドラフト育成3位指名ながら、高津臣吾監督から高い期待を寄せられている。3桁の背番号を背負う育成選手ながら2025年春季キャンプは異例の1軍スタート。
その後、イースタン・リーグで5試合に先発し2勝1敗、防御率1.80と好投したことが評価され5月1日に育成選手から支配下登録選手となり、背番号も「013」から「69」に変更された。さらに1カ月後には1軍昇格。6月2日、横浜スタジアムでの横浜DeNAベイスターズ戦で1軍初登板を先発で果たした。佐野恵太に一発を浴びはしたが4回まで投げて「被安打3、失点2」。試合は2-3で敗れた(下川に勝敗はつかず)が、デビュー戦にしてはまずまずの投球内容だったと言えよう。ローテーションの谷間での先発起用だったため、翌日に1軍登録からは抹消されるも、次のチャンスに備えるべく、以降はイースタン・リーグで先発起用されている。
アンダースローの個性を活かしたい
アンダースローは特異な存在だ。
セントラル・リーグにおいて、下川のほかには鈴木健矢(広島)、中川颯(横浜DeNA)、高橋礼(巨人/今季1軍未出場)ら数人しかいない。よって打者にとってアンダースローとの対峙機会は極めて少ない。
あるセ・リーグの選手が、こう話していた。「アンダースローとの対戦は嫌ですね。特に調子の良い時は当たりたくない。投球フォームが違うからタイミングの合わせ方も異なる。下手投げに合わせようとする中で、フォームを崩してしまうことがありますから」
つまり、ほかの投手とは違うフォームで投げる点だけでもアンダースローには存在価値があるというわけだ。下川の最高球速は130キロ台後半、スピードで押す投球ができるわけではない。それでも下手投げ特有の打者の手元で浮き上がるボールと沈むボール、あるいは低い位置からそのまま低めに投じるコントロールでバッターを幻惑できる。かつてスワローズにはアンダースローで活躍した選手がいたことを憶えている人もいるかと思う。ドラフト8位という下位指名ながらルーキーシーズンから10年間(1971~80年)1軍に在籍し273試合に登板、29勝を挙げた会田照夫だ。先発、リリーフの両方で活躍し、76年には10勝をマーク、通算3度の完封勝利も収めている。
会田も個性を武器に闘った投手だった。将来的には下川の「会田超え」を期待したい。
求められるタイミングを外す投球術
いまチーム状態は決してよくない。
ならば今後も1軍と2軍の選手の入れ替えが頻繁に行われることが予想される。イースタン・リーグでの投球内容次第だが、今シーズン中、それも早い時期に再度、1軍のマウンドに立つチャンスが下川には訪れるのではないか。
「1軍で投げられたことは嬉しかったし、いい勉強になりました。そして課題も見つかりました」
課題とは何か?
「緩急のつけ方。ストレート、変化球のコントロールをもっと磨いていきたい」
シンカー、チェンジアップの精度を高めれば、これまで苦手としてきた左打者を封じ込めることもできるはず。
下川はプロ入り前からスポットライトを浴びてきたエリート選手ではない。だが、それ由の粘り強さを備えている。地道にスキルを磨き、打者のタイミングを外す投球術を身につけたなら1軍で先発ローテーションの一角に食い込む可能性も十分にある─。
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