従来のウィッグよりもズレにくさや外れにくさが飛躍的に向上し、その名の通りスポーツも楽しめる「スポーツウィッグ」のローンチイベントがこのほど、都内で行われた。開発したのは、富山県に拠点を置くベンチャー企業のハリイ。同社の池野順子社長は、汎発性脱毛症で毛髪を失った自らの経験を交えながら、この商品に懸ける思いを熱弁した――。
大好きだったサーフィンやヨガとの別れ
2018年に脱毛症を発症した池野氏。ウィッグを着用してみたものの、「その生活は想像以上に大変で、それまで大好きだったサーフィンやヨガは、ウィッグが外れたりズレたりすることが怖くて、諦めました」と、使い勝手の悪さを感じたという。
そこから、「ただ当たり前の日常を取り戻したい」と新たなウィッグの開発を決意。ウィッグの知識はなかったため、大手ウィッグメーカーのバックヤードに勤務し、その構造やメンテナンス方法を習得した。
ここで気づいたのは、「従来のウィッグが、着用者の利便性や快適性よりも、ヘアスタイルが自然に見えるという点に重点が置かれている」ということ。そこで、スポーツウェアのメーカーで商品企画やマーケティングに従事していた際、アスリートのパフォーマンス向上のために、「デザイン、パターン、素材、付属に至るまで徹底的にこだわっていた」経験を生かし、着用者のQOL(生活の質)を向上させるウィッグの開発に着手した。
開発には6年の歳月がかかったが、「ウィッグを作り始めてからは、それがライフワークになっていました」と、夢中になって取り組んだという池野氏。むしろ、「脱毛症になった時、情報が少なく不安な中、周りの人からは、急に病人にされてしまう。脱毛症の場合は、体は元気になのに”患者”という、そのギャップが自分の中ではつらかったです」と打ち明ける。
「手軽さにまず感動」「もみあげが堂々と出せる」
従来のフルウィッグは、接着剤やテープを使用した肌への固定方法が多く、スポーツでの使用が困難だったが、「スポーツウィッグ」では、熱を加えると接着性を持つ特殊な樹脂素材を顔まわりに使用し、頭部にしっかりと固定することで、ズレやすさ、外れやすさを大きく軽減。さらに、スポーツウェアの最先端技術「無縫製3Dニット」をベースネットに使用し、縫い目がなくしたことにより、通気性と軽量性も実現した。
このイベントには、お笑いコンビ・駆け抜けて軽トラの餅田コシヒカリ、アイドルグループ・エレクトリックリボンのpippiという脱毛症の経験を告白した2人が、「スポーツウィッグ」を着用して登場。餅田は「今まで私はクリップやピン、下手したら両面テープで留めるしかなかったのが、熱を加えるだけでピタッとフィットする手軽さにまず感動しました。1回装着したら全然落ちないんです!」と感激を語る。
pippiは、水に入る時にも外れにくくなる「もみあげシール」「えりあしシール」を使用。素肌のような見た目で、1週間貼ったままでもOKというアイテムで、「ウィッグが一番バレやすい瞬間って、意外ともみあげだったりするんです。もみあげが堂々と出せるのがうれしいなと思いますし、このまま浴衣着てお祭りにも行きたいですね」と笑顔を見せた。
病気が原因で脱毛症状を抱えている人は、日本だけで約33万人、世界で約2,800万人に上ると言われている中、ウィッグを“欠陥を隠すもの”ではなく“カッコいいもの”にすることで、髪を失った人たちへの社会的偏見をなくす「チャレンジドビューティー」というコンセプトを掲げるハリイ。
池野氏は「人生を山に例えると、一つはなだらかなルートで、もう一つはハードなルートがあります。その時に、すごく険しい山が見えても諦めずに前に進むことによって、何か問題が起きた時には自分なりに解決していく。そのことで、次に同じ険しい山を登る方にも役に立てると信じています」と、「スポーツウィッグ」の開発に懸けた思いを熱弁した。