コロナ禍以降、導入が進んできたテレワーク。時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方は、新たな「働く」可能性を生み出しています。そんなテレワークの導入・活用を進め、優れた取組を実施している企業として、株式会社山岸製作所が「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」に選出されました。

家具販売業を営む同社は、一見テレワークを導入しにくい業種のようにも思えますが、どのような取組を行っているのでしょうか。今回は、代表取締役社長・山岸晋作さんにお話を聞きました。

  • 株式会社山岸製作所 代表取締役社長 山岸晋作さん

総務省主催「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」とは?


テレワークの普及促進に向け、総務省が実施している表彰。テレワークの導入・活用を進めるとともに、優れた取組を行っている企業・団体を選定、公表しています。 2024年度は「テレワークの活用による経営効果の発揮」「テレワークの導入が馴染まないと思われている業態の企業におけるテレワーク活用・業務改革」等の観点を踏まえ、審査が行われました。
きっかけは自分たちのオフィスのショールーム化?

――石川県でオフィス・インテリア家具の販売業を営まれている山岸製作所。販売業はテレワークが難しいイメージがありますが、導入を決めた経緯を教えてください。

山岸さん  当社は2018年からテレワークを実験的に導入していますが、前段部分としてまずは、ショールームの展開についてお話させてください。我々の販売業は、基本的にカタログを持ってお客様のところへ向かうというビジネスモデルです。


ただ、家具とは本来触ってみないと価値が分かりづらいもの。以前から付加価値を付けるにはどうしたらいいかと考えていたこともあり、今から7年ほど前に、実際に商品を見てもらえるショールームを展開することにしました。ただ、単なるショールームではつまらないと考え、自分たちが働いているオフィスをフリーアドレス化し、そこをショールームとして公開することにしたのです。

――反響はいかがでしたか?

山岸さん  7年前は、当社の周りにある企業はどこもまだフリーアドレスを導入していなかったこともあり、色々な方に足を運んでいただきました。とはいえ、導入するのは、そう簡単ではありませんでした。

――導入していく中で、どういった気づきがありましたか?

山岸さん  まずフリーアドレスとなるとデスクトップではなく、タブレット型のPCや無線LANも必要です。それに、固定席がないと誰がどこにいるのか分からないようになり書類を渡すのも一苦労……。そういった様々な課題に対して向き合っていく中で、グループウェア(※) を取り入れたほうがいいと思い、クラウド上でデータを管理するようになりました。こうして、どんどんデジタル化が進みました。

※メンバー間の円滑なコミュニケーションと業務効率化のために組織が用いるツール

――なるほど。

山岸さん  そのような中、2018年1月に大雪が降り、出社できないほど雪が積もりました。石川県ではさほど珍しいことではなく、いつも通り社員を自宅待機にしようとしました。しかし、そのときに「今なら、家でも仕事ができるんじゃないか?」と思い、社員に「今日は出社しなくてもいいから、できる業務をやってみて」と伝えたのです。そうすると、ちょっとした事務作業を社員たちが自宅でやってくれました。新しい働き方の可能性が見つかりました。

――そこからテレワークに繋がるわけですね。

山岸さん  テレワークについては、総務省などが2017年から取り組んでいた「テレワーク・デイズ」(※)を知ったことが導入のきっかけになりました。当社は2018年から「テレワーク・デイズ」に参画し、1日だけテレワークを実施してみました。そこから、次の年は1週間……と徐々に期間を延ばしていこうと考えていましたが、そんな矢先、コロナ禍がやってきました。不要不急の外出は避けるといった状況に、石川県・金沢の各企業は慌てふためいていました。

※総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府が、東京都及び経済界と連携し展開した、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした働き方改革の国民運動。

――一方の山岸製作所は、テレワークをする土壌があったから、すぐに対応ができたと。

山岸さん  はい。テレワークの取組については、自身のSNSなどでも紹介していたのですが、地元の新聞社やテレビ局が「家具屋がテレワークしているぞ。どういうことだ?」と取材にきてくれました。そのときに、「みんな、こういう働き方を知りたい、こういう働き方を提案すると喜ばれるんだ」ということも分かりました。そこからは新しい働き方に振り切って、テレワークの積極的な活用やフレックスタイム制の採用など、社員に最大限の裁量を与える業務形態にシフトしました。テレワークを進めていくなかで、テレワークというのは型にはめてはいけないんだということを学びました。

――型にはめてはいけない。

山岸さん  テレワークというのは、自分のベストパフォーマンスを発揮できる場所・環境を自分で選ぶ制度だと私は思っています。だから、会社から勤務形態を押し付けても意味がないと思います。むしろテレワークをするのか、出社して働くのか、選べるようにするのが重要だと考えています。例えばカタログを見てもらいながらの打ち合わせや、家具を触ってもらうなどは、家よりも会社のほうがやりやすいですからね。

テレワークは社員の自主性を引き出すことに繋がる

――テレワークを導入したことで、どのようなメリットがあったのか、改めて教えてください。

山岸さん  まず、社員たちがベストパフォーマンスを発揮できる環境を選べるようになったことで、業績が延びました。直近6年間のオフィス家具部門の営業総利益は200%以上成長し、残業時間も減少しています。

――すごい成果です。

山岸さん  それから、新しい繋がりが増えました。山岸製作所では複業人材を受け入れているのですが、それによって首都圏に住んでいる優秀な方々たちと一緒に仕事ができています。例えば、大手企業で主力商品のマーケティングを担当されていた方や人事部長などです。こういった方々と繋がれたのは、仕事場を固定しないテレワークを導入したからだと思っています。

――複業人材を受け入れたことへのメリットも感じていらっしゃるんですね。

山岸さん  非常に感じています。複業人材の方々とチームを組んで1週間に1時間ほど山岸製作所のマーケティングや課題について考えているのですが、優秀な方々の考え方をインストールしたことで、組織文化が変わってきました。経験則を重視するだけではなく、柔軟に物事を検討できるようになりました。ベテランを中心にコミュニケーションをとっているので、これから彼の部下たちにも影響があるのではないかと期待しています。

――なかなかテレワークを導入できない企業に、アドバイスをお願いします。

山岸さん  まずは、会社の抱えている課題を洗い出すことが重要だと思います。それをどうやって解決していくのか考えることが大切なのかなと。テレワークありきで考えると、うまくいかない気がします。

――手法から考えるとうまくいかない。

山岸さん  はい。強制してもいい結果には繋がらないと思います。テレワークは、生産性の向上や多様性への対応など、様々な効果がありますが、個人的には社員の自主性を引き出すことに繋がるのが最大のメリットだと感じています。会社は何かとルール化してしまいがちですが、それによって、社員が窮屈な働き方をしている可能性もあります。今みなさんの企業が抱えている課題は、社員の自主性を重んじることで解決するかもしれません。

――その手法として、山岸製作所ではフレックスやテレワークを導入しているということでしょうか。

山岸さん  そのとおりです。山岸製作所は、個人に大きな裁量権を与えて、自主性を思いっきり楽しんでもらう働き方を推進しました。「自由=責任」ですが、業績の結果や責任ある行動をとっているかどうかを見ていたら、会社で社員の姿や働き方を見ていなくても評価はできます。

――デジタル関係の知見がなくてもテレワークの導入はできる?

山岸さん  もちろん勉強したほうがいいとは思いますが、人の力や知恵を借りるという方法もあるので、どれだけアンテナを張っているのかが大切だと思います。自分に知見がなくても、何をしたいか、どうすれば解決できそうかが分かれば、導入はできると思います。

働く可能性が広がるテレワーク

ショールームの展開やテレワークの導入などにより、業績を大きく延ばした山岸製作所。求人についても、応募がほぼなかった状況から、求人応募数も増え、実際に多くの方が採用されているそうです。山岸さんは最後に、「今後もテレワークでの業務は継続していき、もっと社員同士が助け合える体制・空気作りをしていきたい」と言葉にしていました。

自分のパフォーマンスを最大限に発揮できる可能性を秘めたテレワーク。自分らしい働き方・生き方を求めている読者の方は、「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」受賞企業をチェックしてみてはいかがでしょうか。

山岸晋作さん
株式会社山岸製作所 代表取締役社長 山岸晋作さん
外資系の大手企業で勤めたのち、2004年に山岸製作所に入社。その後、2010年に社長に就任。就任当時から赤字続きだった木工家具の工場を苦渋の決断で閉鎖。その後、オフィス・インテリア家具の販売業の業績を延ばすため、ショールームの展開、テレワークの導入などを行ってきた。

株式会社山岸製作所について詳しくはこちら

テレワークトップランナー2024総務大臣賞 取組事例集はこちら

テレワークトップランナー2024取組事例集はこちら

ほかにもテレワークに尽力しているテレワークトップランナー選定団体を紹介!
01

大同生命保険株式会社

【企業情報】
生命保険業を営む。中小企業マーケットに特化した独自のビジネスモデルを構築。 所在地は大阪府・東京都、従業員数6,830名。


【トップランナーに選出された取組例】
2014年から、本社職員を対象に在宅勤務制度を導入。対面でのやり取りが主だった営業担当者についても、まずは代理店営業組織において、 2019年からZoomの利用を開始し、代理店・お客様との接点拡大の手段として活用。その後、セキュリティ対策やペーパーレス化を進め、テレワークの対象者・対象業務の制限を廃止。全従業員にテレワーク可能なOA機器を配備した。こうした取組により、通勤時間の負担などが軽減。
2020年からは、フルリモートワークにより地方拠点から東京・大阪本社の業務に従事できる、「どこでもホンシャ®」制度を導入。首都圏・近畿圏以外に居住する従業員や勤務地限定職種の職員でも、本社業務に携わることができ、キャリア選択肢の拡大につながっている。

大同生命保険株式会社について詳しくはこちら

02

株式会社ヌボー生花店

【企業情報】
生花販売(生花店)を営む。所在地は長野県、従業員数22名。


【トップランナーに選出された取組例】
社員は女性が大半を占め、結婚などのライフステージの変化での退職が当たり前だった同社。働き続けられる選択肢を増やしたいという想いから、テレワーク導入を決断。店舗では接客や花の手入れなど現場主体の業務が多く、テレワーク導入は大きな挑戦だったが、テレワーク可能な業務を丁寧に棚卸しし、ICTツールを積極的に導入することでテレワーク導入を実現。その結果、産休や育休の取得がしやすい職場環境を実現し、離職率は30%から10%に大幅減少。また、テレワークで対応可能な業務が拡大し、現場業務との役割分担が明確になったことで、接客サービスのレベルが向上し、顧客満足度も向上。1店舗あたりの売上げが7年前に比べて約3割増加した。さらには、在宅勤務専門の人材採用もできるようになり、海外や県外在住の社員が活躍できるようになった。

株式会社ヌボー生花店について詳しくはこちら

03

星野工業株式会社

【企業情報】
製造業・プラスチック射出成型業を営む。所在地は神奈川県、従業員数18名。


【トップランナーに選出された取組例】
製造業務などに関わる資料を紙で管理していた同社。その数は膨大で、保管場所も明確ではない状況を打破すべく、DXを推進。DX化の取組で生じる入力作業が溜まった際に、社員が率先してテレワークを行える体制を整えた。テレワーク導入・活用にあたっては、従業員が高齢ということもあり、取組の浸透は容易でなかったが、実際のPC操作をレクチャーし、時間をかけて理解度を深めた。テレワーク導入とともに会社全体の働き方改革を推進し、変形労働制の導入により、週休3日制を実現。営業職では、取引先との打ち合わせをモバイルで行えるようになり、不必要な通勤時間がなくなったことで残業時間が短縮した。

星野工業株式会社について詳しくはこちら

04

ユーミーコーポレーション株式会社

【企業情報】
建築事業・フランチャイズ事業・不動産事業を営む。所在地は鹿児島県、従業員数310名。


【トップランナーに選出された取組例】
人手不足や現場作業員の高齢化が深刻な問題となっている地方都市の建築業界。同社は、その問題の解消策として、モバイルワークを推進。しかし、協力業者である個人事業主や工務店などの多くはITに苦手意識を持っており、紙でのアナログなやり取りが続いていた。そうした中、2023年9月に、約300社の協力業者との間で請求書などの書類の申請承認が行えるプラットフォームを構築。社内・協力会社への事前説明会やハンズオンセミナーを開催しながら運用をスタートしたところ、現場監督の請求書処理にかかる時間を年間約60時間削減、経理事務員の支払い処理時間を約48時間削減することに成功。さらに、年間約2万5,000枚の紙の発行を削減するペーパーレス化にも繋がった。

ユーミーコーポレーション株式会社について詳しくはこちら

テレワークトップランナー2024総務大臣賞 取組事例集はこちら

テレワークトップランナー2024取組事例集はこちら