• 「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」

人々の生活に必要な鉄鋼やセメント、石油などの資材、食料品や日用品などの貨物を国内の港から港へ運ぶ「内航海運」。私たちの生活や産業の発展のためになくてはならないものですが、近年、人材不足という課題に悩まされています。

人材不足を含む諸課題を解決するため、内航の“ミライ”を研究する一般社団法人 内航ミライ研究会が2020年10月に発足。次世代内航船「SIM-SHIP」のコンセプトを提唱しました。さらに、2024年4月には内航ミライ研究会の先端技術と研究成果を基盤とした株式会社SIM-SHIPが設立。

今回は、内航ミライ研究会・株式会社SIM-SHIPの活動内容や、2024年11月6日(水)に進水式を終えたばかりの「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」開発背景について聞きました。

内航のミライに貢献する
内航ミライ研究会のサイトへはここから!

産業と暮らしを支える
日本内航海運組合総連合会のサイトはこちら!

船舶業界に革新をもたらす「SIM-SHIP」

まずは、内航ミライ研究会とSIM-SHIP、株式会社SIM-SHIPについてうかがいました。

●お話してくれた方

 浦山 秀大さん
株式会社SIM-SHIP代表取締役

――まずは内航ミライ研究会とSIM-SHIPについて教えてください。

内航ミライ研究会は内航業界の諸問題を解決すべく、船主、船用メーカー、設計会社、研究団体、金融機関などが参画する形で発足しました。船員の高齢化に伴う人材不足の解消、労働環境の改善・簡素化・合理化、温室効果ガス(GHG)排出削減などの課題解決に向けて取り組んでいます。



内航ミライ研究会が2023年に建造したのが「SIM-SHIP1 mk1(國喜68)」です。同船では、高効率プロペラ、省エネ付加物、高機能スラスター、コンテナ型バッテリー、統合管理パネル、陸上サポートシステム、省電力電動甲板機械といった最新設備の搭載により、デジタル化・自動化・遠隔化・省エネ化を実現しています。


  • 「SIM-SHIP1 mk1(國喜68)」

「SIM-SHIP1 mk1(國喜68 )」について
紹介した記事はコチラ

そして、これまでの研究成果を新造船に落とし込んだのが、プロジェクトの第二段階として開発した「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」です。「SIM-SHIP1 mk1(國喜68)」のバージョンアップではなく、はじめから異なるコンセプトで開発しました。


  • 「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」進水式の様子

また、内航ミライ研究会では船舶業界に革新をもたらすべく、有志が中心となり2024年4月1日に株式会社SIM-SHIPを立ち上げました。内航ミライ研究会の先端技術、研究成果を基盤にして、機器からコンセプトシップまで開発・販売するほか、内航業界の諸問題の解決に向けたコンサルも手掛けています。


――株式会社SIM-SHIPの具体的な業務内容について教えて下さい。

株式会社SIM-SHIPは2つのサービスモデルを展開しています。1つは、船主のニーズに応えて船舶の建造をコンサルタントする「コンサルSIM-SHIP」事業です。そもそも「SIM」とは、Ships Integration Managerを略したもの。造船所、メーカー、船主を繋ぐコンサルティングサービスです。



もう1つは、市場が求めるコンサルSIM-SHIPを量産して唯一無二の価値を提供する「量産型SIM-SHIP」事業。メリットとしては同一図面で建造し、仕様も統一するので修理もしやすい、違う船種に乗っても同じ操作方法なので取り扱いやすい、人材の横の交流も活性化できる、省人化に貢献する技術も取り入れている、船の安全管理にも有効、といったことが挙げられます。特に749トン以下の船においてSIM-SHIPを開発していく考えです。


――そこで開発されたのが「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」なんですね。

そうです。内航ミライ研究会のメンバーであり、船主である和幸船舶の499GT貨物船(積載量499トンの船舶)として建造いたしました。


内航のミライに貢献する
内航ミライ研究会のサイトへはここから!

産業と暮らしを支える
日本内航海運組合総連合会のサイトはこちら!

“初”の試みが盛りだくさん! 「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」とは

「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」についてさらに詳しい話を聞くため、愛媛県今治市にある矢野造船を訪れました。巨大なドックでは、あちらこちらで様々な船舶を建造中。その中に、竣工間近の「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」の姿も確認できました。

  • 矢野造船(愛媛県今治市小浦町二丁目4番54号)

●お話してくれた方

 垰野治次さん
内航ミライ研究会 代表理事、たをの海運 代表取締役社長

 浅田允さん
内航ミライ研究会 事務局 業務部、ナカシマプロペラ 国内営業部

 正岡梨々香さん
内航ミライ研究会 事務局員、SIM-SHIP 営業担当、SKウインチ 営業部

「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」の特徴は?

――「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」の特徴について教えてください。

一般的に、燃料の消費量が多い大型船ではエネルギー削減の取り組みが活発です。しかし小型内航船になると、ほとんど前例がありません。「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」には、小型内航船に革新的な省エネをもたらす「高度空気潤滑システム(ALS)」と「コンテナ型バッテリーシステム(300kWh)」を導入しました。さらに各種データを陸側と連携し、運航計画の最適化に貢献する「船内監視・陸上サポートシステム」を組み合わせることで、海上輸送部門における安定的な省エネルギーの推進を実現しています。


  • 高度空気潤滑システム(ALS)

  • コンテナ型バッテリーシステム(300kWh)「MIRAI BATTERY」

  •      船内監視・陸上サポートシステム「RIKU‐SAPO」

  • 船内監視・陸上サポートシステム「RIKU‐SAPO」

まず、高度空気潤滑システム(ALS)は、ナカシマプロペラが海上技術安全研究所と共同開発している技術です。Air Lubrication Systemの略で、ブロワ(送風機)でつくった圧縮空気を船底から吹き出すことで、船体表面と海水の間に気泡流をつくり、船体の摩擦抵抗を低減する効果が得られます。空気を周期吹出(出したり止めたり)するのがポイントで、従来の連続吹出より高い省エネ効果が期待できます。ちなみに、これが499GT貨物船に適用されるのは国内初です(メーカー調べ)。


  • 空気を出したり止めたりしながら吹き出すことで、連続で吹き出すよりも高い省エネ効果が期待される

省エネシステムのALSを、バッテリー電源によって駆動する試みも日本初です(メーカー調べ)。コンテナ型バッテリーシステム(300kWh)は、陸上の電源を利用して充電できます。ALSへの電源供給は、バッテリーの残容量によって主発電機から、またはバッテリーからを自動で切り換えられる仕様です。


バッテリーはALSを駆動するだけでなく、停泊時の船内電力も賄えます。ディーゼル発電機を使用しないことでCO2排出量を削減できるほか、騒音低減による船内の労務環境の改善、電源の切り換え作業の負荷も軽減できるのです。
なお、バッテリーシステムはコンテナにパッケージングされているので、船の甲板上に置けます。機器の配置スペースが限られている小型船舶でも、船内の設備を大幅に変更することなく使用できます。


  • 「SIM-SHIP1 mk1(國喜68)」のコンテナ型バッテリーシステム(164kWh)

  • 「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」のコンテナ型バッテリーシステム(300kWh)。容量がアップし、さらに進化している

将来的には災害発生時に被災地に送るなど、緊急用のバッテリーとして提供することも視野にいれています。


RIKU-SAPO(船内監視・陸上サポートシステム)では、船に搭載された機器・システムの運転データを一括で収集管理できます。ブリッジや居住区にいながら、船全体の状態を数値データとして把握できるほか、陸上でも同一データを閲覧できるのが特徴です。日々のデータは逐次記録され、また運転状況や記録データは陸上からも確認できるので、機器故障、トラブル発生時の遠隔支援や早期の原因究明にも役立ちます。
このサポートシステムがない場合、船が壊れてから原因を調べ、直していくという後手に回った対応になってしまうんです。


また、甲板にあるウインチにはSKウインチの技術が使われています。これまでは機械の電源を入れるだけで大きな音が出てしまっていました。しかし、今回「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」に搭載されている「YOKOMO+」は電源を入れても動かさない限りは騒音が起こらない(クルマのアイドリングストップのようなイメージ)ようになっているんですよ。これによって省エネも叶えられ、発熱が抑えられます。


  • 「省電力甲板機械 YOKOMO+」

持続可能な未来を目指して

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」は、内航海運業界における持続可能な未来を目指す、実用的かつ革新的な技術の結晶です。これらの船舶は、環境に配慮した航⾏が可能であり、少ない⼈員でも安全に運⽤できることを特徴としています。持続可能な社会の実現に寄与する船舶の普及を加速させてまいります。


また、船主である和幸船舶株式会社の安井社長よりコメントをいただきました。

船主・和幸船舶株式会社 安井社長より

ちゅらさん(SIM-SHIP1mk2)は株式会社SIM-SHIPによりシステムインテグレートされた最新鋭の船です。
各種機器とシステムは省エネだけでなく船内機器データ統合表示や最新のインターネット設備なども船員労務負荷低減に繋がります。当社としては、本船のような船舶が普及することにより、労働環境改善・職業としての価値向上により持続可能な海運業界の実現に期待しています。

「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」は今後、沖縄~新居浜~大阪(南港)の就航を予定しているそうです。 環境にも、船員にも優しい次世代内航船「SIM-SHIP1 mk2(ちゅらさん)」の活躍が楽しみですね。

内航のミライに貢献する
内航ミライ研究会のサイトへはここから!

産業と暮らしを支える
日本内航海運組合総連合会のサイトはこちら!

今回取材・撮影に協力をいただいたのは……
矢野造船株式会社

内航船建造・修繕のプロフェッショナルが集う歴史ある造船所。
昭和28年創業、内航船建造のパイオニアとして確かな技術を確立している。

もっと詳しく知りたい方はこちら

[PR]提供:日本内航海運組合総連合会