埼玉県では仕事と生活の両立を支援するため、テレワークや短時間勤務など柔軟で多様な働き方に取り組む企業を「多様な働き方実践企業」として認定しています。
その取組の一環として、男性の育児休業取得を後押しすることを目的に埼玉県が創設したのが「埼玉PX大賞」です。同大賞は「多様な働き方実践企業」の認定を受けているなかでも、特に男性の育児と仕事の両立を積極的に推進する中小企業を表彰しています。2024年度は大賞1社、奨励賞4社を埼玉PX大賞に決定し、11月27日(水)に知事公館(埼玉県さいたま市浦和区)にて表彰式が開催されました。
受賞企業のどのような取組が評価されたのか。そして、受賞企業はどのような想いで男性の育休取得を推進しているのか。本記事では埼玉PX大賞の表彰式の模様をレポート。さらに受賞企業5社による座談会を開催し、男性の育休取得への取組について詳しく伺いました。
埼玉PXとは
埼玉PXとは、父性を意味するパタニティと変革を意味するトランスフォーメーションを組み合わせた造語。男性従業員の育休取得の推進を契機として、誰もが安心して育児と仕事を両立できる職場環境づくりなど、組織の活性化や企業風土の改革に取り組むことを指しています。埼玉県では男性の育児と仕事の両立を積極的に推進する企業を表彰する埼玉PX大賞を創設しました。
埼玉PX大賞の表彰式を開催、大野知事がPXへの想いを語る
表彰式には、大賞・奨励賞を受賞した5社から代表者が出席し、緊張の面持ちでイベントがスタートしました。
まずは大野元裕埼玉県知事が登壇。次のように挨拶を行いました。
「埼玉県、あるいは日本は超少子高齢化社会に直面しつつあります。そのような中で企業が持続的な発展を遂げるためには、働く人にとっての環境が極めて重要です。女性の出産というライフイベントを、男性も含めた社会や企業全体で支えていく必要があると考えています。埼玉県は地方自治体としてはおそらく初めて、ジェンダーメインストリーミング(男女の平等を促進し、ジェンダーに基づく不平等を解消するためのアプローチ)をすべての政策に適用しています。それぞれの企業においてはPXで柔軟に可能性を高めてほしいと願っています」
大野知事の挨拶のあとは、受賞企業への表彰が行われました。大賞に輝いたセキネシール工業株式会社をはじめ、奨励賞を獲得したアイバ産業株式会社、新興プラント工業株式会社、株式会社ティー・アイ・シー、株式会社日さくが順に登壇。大野知事から賞状と記念品を贈呈されました。
「埼玉PX大賞」受賞企業が語る男性育休取得の推進施策とは
●受賞企業・座談会参加者プロフィール
セキネシール工業株式会社
代表取締役 関根 俊直氏
自動車や産業用のエンジンに使われるガスケットパッキンを製造・販売するメーカーアイバ産業株式会社
代表取締役 若海 哲氏
ガス消火設備をはじめとした消防設備の工事、保守、点検、建設物の総合管理及び営繕まで幅広く対応する設備管理会社新興プラント工業株式会社
専務取締役 榎本 修子氏
埼玉県所沢市に拠点をおき、全国に顧客を抱えるサニタリー専門のプラント配管加工・工事会社株式会社ティー・アイ・シー
人事経営戦略部 部長 飯田 観和子氏
公共、医療、流通、金融の4分野を柱に、ソフトウェア・システム開発を行うシステムインテグレーター株式会社日さく
総務部人事課 課長 杉山 りえか氏
井戸の掘削業を柱に、地質調査や土木工事などの事業を展開する工事会社
ーー本日は受賞おめでとうございます。まずは受賞企業の皆様が男性育休取得推進についてどのような取組を行っているのか、具体的にお聞きします。
セキネシール工業株式会社では、「文化」と「制度」の2つをつくることに注力しています。私は現在、父のあとを継いで代表取締役社長を務めていますが、入社したのは2020年です。当時はなかなか男性が育休をとる文化はなかったのですが、私の前職であるITベンチャーでは多くの男性が育休を取得しており、大きなギャップを感じたんです。そこでまずは後継者である自分自身が育休を取得することで範を示そうと考え、入社したその年に育休を取得しました。また制度面については、社員のスキルをしっかり見える化して、多能工を目指せるようなバックアップ体制をとっています。福利厚生や就業規則なども私が社長になってから大きく変えました。時短勤務やフレックスタイム制、看護休暇、在宅勤務などあらゆる制度を導入することで、男性育休を含め、すべての社員が多様な働き方ができるように改革してきました。 |
アイバ産業株式会社をはじめ、同業界は以前、完全な男性社会でした。女性社員も事務職が1、2人といったところ。しかし、時代の流れとともに現場にも女性が増え、活躍するようになってきました。そんななか、女性社員が産休に入ったので会社として支援金を支給することにしたのです。すると、男性社員からも「自分も子育てに参加するために育休を取りたい」という声が上がりました。そこで気づいたのが、なぜ女性には育休支援金を支給しているのに男性にはないのかということです。会社としてそれではいけないということで、育休を取得する男性にも支援金を支給し、さらにその期間に欠員分をフォローしてくれた社員に対しても、報奨金を支給することにしました。 |
新興プラント工業株式会社は、後継者である息子が大学時代に留学を経験しており、グローバルな考え方を持っています。「男性が育休を取りにくい日本は遅れている」ということで、息子が育休を取得するところから制度改革が始まりました。やはり後継者自ら育休を取ったのは大きく、それからは男性社員もどんどん育休を取るようになりましたね。はじめは1週間という短期間からでしたが、現在では3カ月間取得する男性社員も珍しくありません。育休制度の充実については社員のご家族からも感謝の声が届いています。赤ちゃんをつれて会社に来てくれたりもするんですよ。 |
昔は当社も決して働きやすい環境とはいえず、育休を取得した女性社員が戻ってきてくれないことも……。そこで誰もが働きやすい環境を整えようと会社として制度設計に力を入れ始めたのが今から8年前ほどでした。まずは、仕事と家庭を両立できるよう、看護休暇や介護休暇、時短勤務、テレワークなどを導入しました。さらにコミュニケーション活性化のためにサークル活動やフリーアドレスも行っています。男性の育休もそのなかで整っていきました。現在では上司から社員へ積極的に声掛けを行い、1on1ミーティングを実施して育休取得の推進に努めています。また、社内報に育休取得者の経験談を掲載するなど、育休を取得しやすい文化を醸成しています。 |
株式会社日さくでは、男性が育休をしっかり取得できるよう、DXによる業務効率化を進めています。当社は創業113年の歴史ある会社で、これまで情報の扱いはデータではなく紙が主流だったのです。それをデータ化し、クラウドで管理するようにしました。それによってどこからでもデータが確認できるようになり、現場からいちいち会社に戻らず直行直帰が可能になりました。こうした改革により、仕事がしやすくなり、同時に無駄な時間が減り、休みも取りやすくなったのは大きかったですね。また、ティー・アイ・シーさんと同様に、男性育休を取得したことによる喜びの声を社内報に掲載するなどして、男性が育休を取りやすくなる文化をつくっています。 |
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なぜ「多様な働き方」を推進するのか? 多様な働き方が企業に与える好影響とは
ーー皆様が「多様な働き方」を推進する理由について教えてください。
当社は7月に企業理念をアップデートしました。そこで掲げているビジョンが「世界に誇れる特殊な機能紙メーカー」です。ポイントは「誇れる」ということ。社員にとって誇れる会社であることは、すごく大事だと思います。そのために重要なのは「働きがい」の追求。働きがいとは、「働きやすさ」と「やりがい」のこと。そこを目指すからには、多様な働き方の実現によって働きやすい会社をつくらなければならないと考えています。 |
当社の社員は20代から70代まで非常に幅広い世代がいます。なかでも若い人は残業してお金を稼ぐというよりも、家族を大事にしたいからしっかり休みたいという考え方を持っている人が多いように感じています。また、やりたいことも将来のキャリアの構想も、社員一人ひとりまったく違います。技術を磨きたい人もいれば、幹部を目指したい人もいますし、独立したい人もいるので、それぞれの将来像や価値観を大切にして、自分自身で人生を選べるように会社として支援したいと思っています。 |
当社は社長が52歳なのですが、社員は20代ばかりです。それもあって社長もITを使いこなし、会社もDXやペーパーレス化を進めています。制服も従業員の意見を取り入れデザイン性を高めていますし、SNSでの発信も進めています。建築業界は後継者不足のため、若い人たちにもっと「かっこいい仕事」であると知ってもらい、同業界を担っていってほしいと思っています。だからこそ会社としても若い人に受け入れてもらえるよう、多様な働き方を推進し、キャリアアップを支援していく必要があると感じています。 |
多様な働き方の実現は、誰もが働きやすくなることにつながります。モチベーションも上がりますし、やりがいも生まれ、生産性も高くなるはずです。そういう意味でも多様な働き方の推進は必要だと思っています。また、同質な人たちだけだと、会議体などでも同じようなものしか生み出せません。多様な人たちが集まることで多様なイノベーションが生まれ、会社も成長できるのだと思います。 |
当社は建設業界では年間休暇128日とかなり多いほうです。加えて時間休や誕生日休暇、アニバーサリー休暇など多彩な休暇制度もあって、プライベートを充実させたい若い世代や、ご家族がいる方にとってもすごく働きやすい環境です。結果として社員のパフォーマンスが上がり、生産性も向上していると感じています。海外出身の従業員も多く所属していて、いろいろな文化が混ざり合う多様な組織文化が生まれており、こうした多様性こそが会社を強くして、この先200年企業を目指していけると思っています。 |
ーー「多様な働き方実践企業」としてさまざまな取組をされるなかで、実際に働いている社員の方の声を教えてください。
社内結婚をした社員がいるのですが、奥さんが育休を取得したときに周囲が業務をバックアップしたんです。そのことを旦那さんがとても感謝していて、ほかの社員が育休を取る場合は、自分が全面的にサポートするといってくれました。結果、女性社員も増えましたし、男女ともに育休を取りやすい文化の醸成にもつながっています。 |
パートナー企業も含め約100社が参加する“安全衛生大会”というイベントを年に1度行っているのですが、そこで当社の社員がパートナー企業の方から、「アイバ産業はすごく良い会社だからやめたらダメですよ」というお声をいただいたそうなんです。そう言っていただけるくらい当社の取組が伝わっているのは光栄なことですね。 |
最近、現場での女性の数が増え、多様性が進んでいると感じています。最初は抵抗感を持つ男性の職人さんもいたようですが、実際に溶接をしてみると女性の職人さんがすごくきれいに仕上げてくれて。そういったところから段々と受け入れられはじめ、社員の意識も変わってきていると感じます。 |
多様性を推進したことで離職率が減ったのは大きいですね。福利厚生がしっかりしているので「転職は考えられない」といった話も耳にします。女性社員からは、「ここは子どもを産んで育てられる会社だからずっといたい」という声があがったこともあります。 |
休暇制度の充実やさまざまな制度については、どの社員からも「ありがたい」といった声をもらいますね。また、入社8年目までは借り上げの社宅に住めるので、家賃がほとんどかかりません。そのため、若いうちからお金を貯められるという話も聞いています。 |
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今回、埼玉PX大賞の受賞企業5社にお話を伺いました。どの企業も男性育休の制度を整えるだけでなく、育休を取得しやすい組織文化や仕組みづくりに注力しており、PXへの強い想いが伝わってきました。加えて、多様な働き方を実現するためのさまざまな制度やサポートの仕組みを用意するなど、先進的な取組を行っていました。
「自分らしい働き方をしたい」、「しっかりと育休を取って家族のために時間を使いたい」という想いから転職や就職を考えている方は、ぜひ埼玉県の「多様な働き方実践企業」への就職を選択肢の1つに入れてみてはいかがでしょうか。
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