「内航海運」という言葉を聞いたことがありますか? 内航海運とは、国内の港から港へ、鉄鋼やセメント、石油などの資材、食料品や日用品などの貨物を運ぶ、私たちの暮らしと産業の発展に欠かせない海上運送のこと。

そんな「内航海運」に携わる職業に就いている「船員」さんは、普段、どんな仕事をしているのでしょうか? これまでのキャリアは? 仕事のやりがいは? 知っているようで知らない、船の仕事とその魅力について、中国地方海運組合連合会(以下、中海連)の青年部に聞いてきました。

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〇プロフィール

中海連 青年部委員長 渡邉和寛氏
エヴァライン 専務取締役。エヴァラインと関連会社では、8隻の船舶を保有・運用。北海道から鹿児島までジャガイモを運ぶポテト丸をはじめ、それぞれユニークな特徴を持った船舶を使って貨物を運んでいる。

中海連 副委員長 岡本将治氏
岡本海運 取締役、岡本汽船 取締役。岡本海運では、RORO船(荷物を積んだトラックがそのまま乗り降りできる貨物船)を事業者に貸渡する船舶貸渡業のほか、セメント専用船の船舶管理・船員配乗などを行っている。

中海連 副委員長 西本直人氏
愛鷹海運 代表取締役/西本汽船 取締役。愛鷹海運・西本汽船では2隻の船舶を使い、瀬戸内~中京~京浜の日本沿岸を主要航路として、主に鋼材製品を運搬している。

中海連 副委員長 吉岡裕一郎氏
イコーズ 海務部長。イコーズは内航海運船舶の管理を行っており、オーナーから船舶をお預かりして、様々な課題を解決。船舶の保守・管理、船員の管理、運搬管理を主な業務としている。

中海連 副会長(青年部担当) 岡峰洋之介氏
オーライン 代表取締役社長。オーラインでは、保有船舶3隻で石灰石や石炭の運搬・運航業務を行っている。石灰石(鉄鋼製造の副原料)を鉄鋼メーカーに、石炭(火力発電のエネルギー資源)を火力発電所に輸送。

意外!? 海運業界には中途採用の人が多い

――皆さんが、いまの職業に就いた経緯について教えて下さい。

親族が海運会社を経営しており、私も小さい頃からドックで手伝いなどをしていました。でも大学を卒業して、そのまま都内の企業へ就職したんです。本社勤務ということもありデスクワークが中心でした。実際の商品は自分の知らないところで動いており物を動かしている実感が沸かなかったことを覚えています。20代のうちに広島県・呉市にある親族の会社へUターンして13年ほどが経ちます。


渡邊さんと同じく、私も学生時代には家業を継ぐことは考えていませんでした。本当は、海上自衛隊に入りたかったんです。でも父親に『俺が引退する時期が遅くなるだろう』と言われまして(笑)。オペレーター(運送業)や造船所等で6年ほど下積みをさせていただき、28歳で家業に戻りました。今年で11年目になります。


私も調理学校を出てから、ホテルで調理師として働いていました。当時は仕事を継ぐなど考えていませんでしたが後継者がいないという話になり、24歳の時に鋼材などを運搬している叔父の海運会社への入社を決断しました。自分を育ててくれた会社がなくなるのは嫌だったからです。この業界に入って16年目になります。

私はもともと美容業界のとある企業で営業をしていました。でも労務管理の仕事をしたくて、前の会社に勤めながら社労士の資格を取得したんです。そして37歳のときに、労務管理のポストを募集していた現在の会社に入社しました。この業界に入って5年目になります。内航海運という世界をまったく知らずに入ったので、初めて船を見たときは『船ってこんなに大きいのか』と素直に驚きましたね。

小さい頃から、父の傍らで船の進水式などを目にしてきて『うちは船の仕事をしているんだな』と、おぼろげな認識がありました。ただ、モノを運んでいるとは理解できていなかったです。大学に上がる春休みにアルバイトで乗船したのが、この業界との出会いでした。大学を卒業して親の会社に入り、今年で22年になります。

――ほかの業界から内航海運業界に転職された方が多くて驚きました。社内における中途採用者の割合はどのくらいですか? また、転職に年齢制限はありますか?

いろいろな経路から商船の船乗りになる人がおり、その多くは中途採用だと思います。現在ほかの仕事をされている方が30代で一念発起してこの業界に入って来られても全然遅くはない印象です。

大学を卒業して社会人になってからでも、転職先として検討してもらえたらと思いますね。年齢は問いません。私の知っている範囲でも、50歳過ぎの女性が海技学校に入学して卒業され、この業界に入りました。

――やはり、海技学校に入って資格を取得する必要がありますか? その場合、学費はどのくらいかかりますか?

船舶職員(船長・航海士・機関長・機関士など)として乗り組むためには海技士の免許が必要になります。船舶職員に必要な免許の種類は、航行する区域や船の大きさなどによって分かれていて、四級海技士(航海)の場合、2年間の短期大学校で取得できます。寮生活だと諸々含めて120万円くらい。卒業したらの筆記試験が免除されます。陸上職であれば、免許がなくてもスタートできるお仕事もあると思います。

まずは陸上職で入社して、船に乗る必要が出てきてから免許を取るパターンもあります。免許は普段の業務を続けながら取得できる資格ではないので、学校に通う期間は、企業が費用を負担をしたり奨学金を利用できるケースもあります。

資格を取らずに、半年間、船に乗ってもらって”航海当直部員”の認定を受けるケースもあります。もちろん、その期間の手当も企業で用意します。実はつい先日、そのようにして船員になってくれた中途採用の社員がいます。志さえあれば、色んな方法で船員になれるんです。

船員になるメリットは? 給料・趣味・休暇……

――船員になるメリットには、どんなことが挙げられますか?

一般的によく言われるのが『地方企業としては考えられない額のお給料をもらえる』ということです。これは事実ですね。さらに、乗船中は衣食住も確保されるほか、お金を使う場面も少ないので貯金もどんどんできます。

ただ、ことさら『給料が良い』だけで来てもらっても、雇用のミスマッチは起こると思います。私個人の思いとしては、海が好き、船が好き、マリンレジャーが好き、釣りが好き、そんな思いが根底にあって『船の仕事をしたい』という人を歓迎したいですね。

内航船は、自然が相手です。陸上で働く仕事と比べたら、対人関係で悩むことは少ないでしょう。毎夜、頭の上には満点の星空が浮かび、これが信じられないくらい綺麗です。野生のイルカが泳いでいる姿も見ます。水平線に沈む夕日も綺麗ですね。
ほかには、全国の港に行くので、各地で”美味しいもの巡り”ができます。あと、釣り好きには天国ですね。航海するエリアによって、釣れる魚も変わってきます。

冬の日本海は寒いし、波も高い。一般的にはツライ仕事なんですよ。でもそんな航路に乗船したがる船員がいて、なぜ行きたいのか尋ねたら、「そこで釣れる魚がとても美味しいんです」という回答が返ってきました(笑)。

自転車やバイクを船に積みこんで、停泊した先でツーリングを楽しむという人もいますね。

休暇サイクルが選択できるのも魅力的ですよね。たとえば、3カ月働いたら1カ月まるまるお休みがとれる会社も多い。その期間を利用して、長期間の海外旅行を楽しむ船員もたくさんいます。普通に社会人生活をしていたら、何週間もヨーロッパを回ることなんてことはめったにできませんよね。あとは、1カ月~40日の勤務で10~20日のお休みが取れる会社も。この働き方なら、家庭を持っている方は家族に会える頻度が増します。

沖縄航路でコンテナを運んでいたとき、港で見知らぬ女性に『あんたらが荷物を運んでくれるから、私たちも生活ができるよ』と感謝されて、あらためて『この人たちのために役立っているんだ』と実感できたことがありました。あのときはうれしかったですね。

あとは、長く働ける仕事だということです。弊社の定年は63歳なんですが、再雇用を繰り返して、いま80歳を超えた機関長も現役で頑張っています。さすがに乗船する年間日数は減らしていますが、体力的に元気ならその年齢でも乗り続けられます。

元気な方が多いですよね! 本当に体力衰え知らずだなと思います。 ただこれはもちろん個人差が大きいです。あとは職種によってもありますね。目が見えないとか耳が聞こえにくいとか、仕事上で求められる力が衰えてしまうと本人の怪我に繋がりかねずどうしても難しくなっていくと思います。

何日間も一緒の空間で生活……トラブルを避けるには?

――船内外でのトラブルなどはありますか?

そうですね。次に乗船する予定だった人が体調不良などにより来れなくなるといったことがあると、そのまま船に乗っていてもらう必要が出てくるんです。これは会社としても申し訳ない思いです。こういうことがあると、休暇がまちまちになることがあります。

あと船内のトラブルだと、食事部屋でお酒を飲んで、些細なことで揉めて、結果どちらかが辞めることになる、というパターンはひと昔前ならよく聞いた話です。

居酒屋で飲んでいたら、『終電があるので帰ります』『店舗が閉店時間になったのでお開き』ということになりますよね。でも、船内では部屋が徒歩すぐという状態なので、いつまでも飲み続けられてしまいます。すると、『ハラスメント?』という状況が起きやすいので気をつけないといけません。

そうなんです。なので、ケンカに発展しないために、その予防策として、飲むなら部屋で独りで飲むこと、手を出したら船長と言えど退職処分にすること、を決めている船も多いですね。何日間も一緒の空間で生活するので、お互いを尊重し合える環境づくりをどこの船でもとても大事にしています。

乗船する船舶があらかじめ決まっていることを「固定配乗」と言います。企業によっては、ローテーションで乗る船を変えるところもあります。職場の雰囲気が変わるので新鮮で、人間関係もこじれない、嫌な人と一緒になっても期間が限られていれば我慢できる、というメリットがあります。

内航海運業界が抱える課題とは

――現在、内航海運業界では、どんなことを課題としていますか?

今後、ますます物流が必要とされる時代になりますが、正直船員さんの絶対数が不足していると感じている。ここに大きな危機感を抱いていますね。これから労働人口減少が言われていることもあり、さらにこの傾向は加速していくと思っています。そのため、船員の人手不足の解消のため、仕事をシェアして1人が負担する量を減らす、海上でやっていた仕事の一部を陸上で負担する、ということを考えています。

中途採用の人が業界に入るハードルをいかに下げていけるか。そのあたりも求められていくのではないでしょうか。

課題解決のためには、運賃収益の改善など難しい現状もありますが、まずは私たち企業側が安定した経営をすること。これを頑張っています。そして就職セミナーの学生たちにアピールすることはもちろん、親子が参加する海のイベントなどにも積極的に露出を増やしていく。業界としてもPRをしっかりやっていきたいですね。

ほかにも、船員さんの労務時間の改善、船の設備を新しくしていく、そうした環境づくりの部分も意識してやっていきます。

船員には、結婚を機に辞めざるを得ない人もいます。実際3カ月間も海に出ることについて、新婚の奥さんの理解が得られなかった、というケースがありました。そうした人が、子育てのひと段落したときに戻ってくることができるような業界へしていきたいですね。

女性の船員さんだと、お子さんが生まれる、でも育休を取ろうにも期間が短すぎるから、陸上職に転職せざるを得なくなるというケースもあります。今後、女性のキャリアパスをどう作っていくか、業界全体で考えなくてはいけない課題のひとつです。

女性に限らず、男性の育休にも、本格的に取り組むフェーズになっています。弊社は男性船員も3カ月の育休を取得できるようになりました。

――新卒の若者に対しては、どのような受け入れ体制を考えていますか?

最近の若い子たちは”怒られ慣れていない”という話をよく耳にします。注意すると、注意されたというインパクトが強くて、何がいけなかったのかまで考えが至らないそうです。そうした意味では、現在船上で働いている(若手を指導する立場になる)船員さんにも教育は必要かなと思います。今でも行っているハラスメント講習の受講に加えて、新人教育の仕方を学んでもらうことも考えています。

僕の個人的な感覚ですが、最近二等航海士から上(一等航海士、船長)を志す人が減った気がするんですよね。その背景には、責任ある地位に就きたくないという今風の考え方があるのでは? と考えています。

原因には、二等航海士でも生活するのに十分な給料を出していることの影響も考えられますね。一等航海士や船長がいないと船は動きませんので、今後、頭の痛い問題になってくるのではと危惧しています。

職種間や年齢で給料の差がつきにくくなってきている状況があるんでしょうね。これも人手不足の弊害のひとつと言えるかも知れません。

――最後に、あらためて内航海運業に興味を持った方に向けてメッセージをお願いします。

私たちの仕事は船で日本を支えています。船が止まると日本の物流が止まるといっても過言ではありません。そういった意味で、内航海運業界は、社会貢献度のとても高い仕事です。そこをやりがいに感じてもらえたらうれしいですね。
現在就職や転職で悩んでいる方の中で、趣味の多い人、まとまった休みがあれば何をしたいか具体的に言える人、クルマを買いたい・海外旅行に行きたいなどの目標がある人は『海の仕事』が合っていると思います。まずは業界に興味を持ってもらい、選択肢のひとつに加えてもらえたら。繰り返しになりますが、30代からの転職でも間に合う業界です! みなさんのエントリーを心よりお待ちしています。

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