割賦販売小委員会が本年6月に再開し、傘下にクレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会が組成され、セキュリティ対策強化への取組みが加速しています。

ウイズコロナにおいて人々の生活様式・行動様式が変化していくにつれて、キャッシュレス決済が幅広い世代に浸透する中、利便性だけでなく更なる安全性の向上も業界として求められています。

今回は、日本クレジット協会の副会長でもある三菱UFJニコス株式会社の石塚社長に業界の現状や課題から今後の在り方についてお話を伺いました。

石塚 啓 (いしづか・ひらく) 竹平 晃子 (たけひら・あきこ)
1960年12月29日生
1984年4月 (株)三和銀行 入行
2011年6月 (株)三菱東京UFJ銀行 執行役員
2012年6月 (株)三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役員兼任
2014年5月 (株)三菱東京UFJ銀行 常務執行役員
2018年6月 三菱UFJニコス(株) 代表取締役副社長兼副社長執行役員
2019年6月 三菱UFJニコス(株) 代表取締役社長兼社長執行役員(現任)
2022年6月 一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任)
宮崎県出身。 宮崎公立大学人文学部国際文化学科卒業。
テレビ西日本報道部リポーターとして
「TNCスーパーニュース」リポーター、
「TNCニュース」キャスター、
NHK総合「首都圏ネットワーク」キャスター&リポーター、
「おはよう日本」企画&リポーターなどを担当。
イベントでは「宮崎国際音楽祭」司会など、
テレビ、ラジオ、 WEB番組のキャスター、
ナビゲーターからイベントMCまで幅広く活躍中。

クレジットカード業界を取り巻く環境について

アフターコロナを見据え、キャッシュレス決済を発展させていくために

竹平:コロナ禍以前と比べ、衛生的な手段としてキャッシュレス決済が浸透し、少額決済や多様な決済手段への紐づけなどでもクレジットカードが選ばれるようになってきました。このような状況を踏まえ、業界の現状と今後についてお考えをお聞かせください。

石塚:新型コロナウイルス感染症は、我が国の社会・経済に多大な影響を及ぼしていますが、我々クレジットカード業界にとりましては、「個人消費の減退」と「決済に係わる行動様式の変容」という面で顕著な影響がありました。今年度に入り、行動制限の緩和等により、大きな打撃を受けた個人消費にも徐々に回復の兆しが見え始め、経済産業省が公表したクレジットカードに関する統計によると、2020 年度に大幅に落ち込んだ飲食や宿泊・旅行などのレジャー関連消費にも持ち直しが見られています。 

また、「行動様式の変容という観点」では、「巣ごもり消費の拡大」に伴うEC 決済や、「決済時の接触機会の回避」を目的としたタッチ決済が注目され、「キャッシュレス決済」、特にクレジットカードは幅広い年代層に受け入れられています。2021 年度における我が国のキャッシュレス決済比率は32.5%(前年比+2.8%)と着実に伸長し、その中でもクレジットカードのショッピング取扱高は82 兆円(前年比+8.8%)と民間最終消費支出の本格回復を待つ前に、成長軌道に戻りつつあります。

キャッシュレス決済額の85% がクレジットカード利用によるものであり、これは後払いという商品性による「EC 決済との親和性」の高さや、各種公共料金や税金、あるいはETC やスーパー等の「生活全般で網羅的に利用可能」であるという利便性、更には「支出をまとめて管理したい」というお客さまのニーズにも合致した結果と考えています。

便利で衛生的なツールとして浸透したキャッシュレス決済は今後もより一層の拡大が見込まれ、その中心であるクレジットカードに関わる我々事業者も、一段と利便性や安全性の向上に努めていく必要があります。

竹平: 昨今の決済ビジネスにおいて、業界を取り巻く環境が著しく変化してきており、業界全体として対応が求められておりますが、このような状況において、キャッシュレス決済市場の動向・課題をお聞かせください。

石塚: 足許の決済市場の動向を見ると、コード決済や電子マネー、デビットカード、あるいは近年注目を集めるBNPL(バイ・ナウ・ペイ・レイター)等、様々な決済手段の相乗効果もあって、キャッシュレス決済の裾野は着実に広がっています。その中でも長年に亘り消費者の生活とともに発展してきたキャッシュレス決済のパイオニアである「クレジットカード」は、必要不可欠な社会インフラとして確固たる地位を築いているものと自負しています。

コロナ禍の2 年半、各社や業界においては、新型コロナウイルス感染症の防止策と並行し、お客さまには極力不便をお掛けしないよう、総力を挙げ対応してきました。その結果、励ましのお言葉や謝辞も多く頂戴するなど、コロナ禍においても70 年に及ぶ当業界の存在意義を改めて実感しているところです。私どもの使命は、その地位に胡坐をかくことなく、安定的且つ革新的に維持・発展させていくことであると考えています。

特に感じているのはウイズコロナ環境における「非接触」「非対面」のニーズの高まりです。具体的には、対面取引におけるタッチ決済が急速に普及し、決済の少額多頻度化の傾向が見られます。また経済産業省によればEC取引の市場規模も増加基調にあり(2021 年BtoC 市場規模 20.7 兆円(前年比7.4%増))、クレジットカードとの親和性からも更なる市場の拡大が見込まれます。

一方で、急速な環境変化に対応できていない課題も顕在化するに至っております。特にセキュリティ対策はクレジットカード業界の目下の最優先課題と言っても過言ではなく、セキュリティ面への消費者の不安を解消することは、今後のキャッシュレス推進には避けて通ることの出来ない取組みです。

竹平:今もお話に出た、セキュリティ面での課題について、具体的にお聞かせください。

石塚:クレジットカード番号盗用による不正利用被害が2021 年に過去最高の330 億円を突破し、2022年1 月から6 月では既に206 億円を超え(前年同期比33% 増)、被害拡大が続いている状況にあります。

我々クレジットカード業界は常に不正利用と戦ってきた歴史があります。2003 年にピークを迎えた「偽造カード」による対面取引の不正被害については、小売事業者さまの協力も得ながら「IC カード化」と「PIN 入力による本人認証」や「カード番号の非保持化」など、複数の対策を同時に講じた結果、足許ではゼロに近づくまで被害を削減することが出来ました。

しかしながら、消費動向の変化に伴い、不正利用もその対象取引が「対面」から「非対面」へと急速にシフトし、被害が拡大しています。

足許では、6 月に経済産業省にて「割賦販売小委員会」が再開されました。傘下に実務的・技術的な検討を行う「クレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会」が組成され、取引認証(EMV3-D セキュア)、ワンタイムパスワードの導入に向けた環境整備、イシュアー間での不正利用データの共有・共同システムの在り方等、当協会が事務局を務める「クレジットカード取引セキュリティ対策協議会」の対策を土台として、技術的側面を中心に検討が進められています。

セキュリティ対策は、もはや各事業者が個々に対応するような状況ではなく、業界が一丸となって取り組むべき「協調領域」です。クレジットカード事業者のみならず、行政や小売事業者、決済代行事業者、セキュリティ事業者等、決済に関わる全てのステークホルダーで取り得る対策とその役割分担を明確にすることにより、網羅的に俯瞰し具体的な対策を実行するフェーズに突入したと考えています。

三菱UFJニコスのこれまでとこれから

「人々の豊かさに貢献する」という理念のもと時代の変化に挑戦していく

竹平:三菱UFJ ニコスのこれまでの歩みを教えてください。

石塚: 当社には、4 つの源流があります。設立順に申し上げると、1951 年設立の旧日本信販、1967 年設立の旧ディーシーカード、1968 年設立の旧UFJ カード、1983 年設立の旧協同クレジットサービスの4 社です。3度の合併を経て、2007 年に三菱UFJ ニコス株式会社と商号を改め、現在に至っています。

当社は、個人・法人のお客さま、加盟店さま、提携取引先のみなさまに支えられ、多くのクレジットカード事業者さまや事業会社さまのクレジットカード関連業務を幅広く受託し、ともに発展してまいりました。

また、創業の精神である「人々の豊かさに貢献する」という理念のもと、時代の移り変わりと顧客ニーズの変化に応じた新たな決済サービスや決済関連ソリューションの提供に挑戦し続けてまいりました。

現在は、三菱UFJ フィナンシャル・グループの中核会社として、キャッシュレス決済という社会基盤の一翼を担い、社会やお客さまとの「安全・安心」に基づく「信頼」を育み、決済インフラ会社として新たな価値・サービスの提供に日々取り組んでいます。

竹平:今後の貴社の展望についてお聞かせください。

石塚:当社の経営ビジョンでは、ミッションとして「豊かさとその先へ」を掲げ、決済サービスを通じ、「物質的な豊かさ」のみならず、コト消費時代を踏まえた「精神的な豊かさ」への貢献も視野に入れ、さらに「その先の」未来へ繋げていく活力になりたい、との想いを込めています。そのために、ストレスフリーな決済サービスの提供により、お客さまの日常を快適で心地よいものとし、先進的な取組みや「テクノロジー」を原動力に、お客さまに感動していただける会社でありたい、と考えています。

個人のお客さま、法人のお客さま、加盟店さま、提携先さま、それぞれの市場やニーズに柔軟かつ迅速に対応していくことが変化の速い時代にあっては重要だと考えていますが、中でも、今後の市場成長を考えますと、法人のお客さまとの取引、特にBtoB 決済市場の広がりには期待しています。グループ会社である三菱UFJ 銀行の法人のお客さま基盤にリーチできるのが当社の大きな強みでもあり、優先的に経営資源を投入していくつもりです。

幸い、銀行との連携体制も、相互の人材交流の拡充を含め大幅に強化したことから、銀行からの新規のお客さまのご紹介や取引サポートの実績も順調に増え、手ごたえを感じているところです。

また、当社独自の新たな取組みとしてクラウド型システム基盤を活用したスマホアプリによる各種サービス機能の提供を開始しました。具体的には、2022 年2 月、中部国際空港さまと協業し、「セントレアアプリ」の取扱いをスタートさせています。このサービスは、スマートフォンのアプリでセントレアさまのお客さま向けに独自のQR コード決済やポイント機能の提供を可能にしたもので、クラウド型システム基盤の開発により実現しました。

キャッシュレス決済の多様化が進む中、新たなお客さまニーズも積極的に取り込み、顧客サービス拡充やDX 支援に繋げていきたいと考えています。

そうした取引を支えるシステムについて、並存する3ブランドのシステム統合に取組んでいます。システムの拡張性や機動性の確保により、お客さまのニーズに応え続けられる基盤をしっかりと整えることを目指しています。

竹平:社会貢献事業への取組みについてお聞かせください。

石塚:当社はMUFG の一員として、グループが掲げる「サステナビリティ経営」のもと、社会の一員としてSDGs の達成に向けて様々な取組みを行っています。

具体的には、グループ全体で業務純益の一定割合を社会に還元する枠組みを構築しており、当社もこれに参画しています。昨年度で申し上げると、コロナウイルス対応のワクチン開発や女性の健康への支援、水素バス運営事業者への寄付など、グループ一体で様々な社会貢献に取り組んでいます。

また、当社独自の取組みも進めており、一例として、クレジットカード会員へ紙媒体で送付していた規約を、二次元コード読取によりスマホやPC から閲覧できるスキームを構築し、ペーパーレス化を実現しました。

部拠点単位で何が出来るか検討したところ、全社で207 件の取組み目標が確認できました。サステナブルな社会の実現に向けて、実行可能なものから着実に取組みを進めていきたいと考えています。

協会が果たす役割

キャッシュレス社会の健全な発展に向けて

竹平:クレジットカード業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせください。

石塚:当協会の中期業務運営方針(2020 年度から2022 年度)は、① 関連法令に対する適切な対応の実施、②安全・安心なクレジット利用環境の維持増進、③関係者に対する情報提供の充実、としています。

キャッシュレス社会の実現は、現金取扱いコストの抑制や経理処理との連携の容易さに加え、取引の透明化等、社会の健全な発展に意義のあるものだと考えていますが、喫緊の課題として、業務運営方針②に掲げる「安全・安心なクレジット利用環境の維持増進」の実現のために、避けて通ることのできないものが不正取引への対応強化であると認識しております。

また、フィッシング対策などは、消費者への広報・啓発や金融経済教育にも注力する必要があると考え、協会ホームページ等での不正利用被害の実例を踏まえた注意喚起のほか、「クレジットに関する消費者向け調査」や「成年年齢引き下げに関する広報活動(パンフレットの作成や広告掲載等)」の実施、中学校・高校への講師派遣による「クレジット教育支援活動」等、継続して取り組んでまいります。

また、本年4 月の民法改正により、成年年齢が18歳に引き下げられ、親権者の同意を得ることなく、クレジットカードの申込みや貸付けの契約を締結できるようになりました。18 歳、19 歳の若年者が積極的に社会の中で主体的な役割を果たし、社会に大きな活力をもたらすことが期待される一方、過大な債務を負わないように、我々事業者には特段の配慮が求められています。

竹平:キャッシュレスビジョンでは将来的にはキャッシュレス比率80% を目指すとなっておりますが、達成までの課題や、具体的な方策案などをお聞かせください。

石塚:国際的にみれば我が国におけるキャッシュレス化は道半ばといった状況と考えます。これは現金を嗜好する国民性や、盗難・偽造紙幣のリスクも低く、現金がどこでも使える環境がしっかりと整備されていることの裏返しとも言えますが、見方を変えればキャッシュレス決済の伸び代は大きいと見ることもできます。

消費者がキャッシュレス決済手段を選好する理由を要因別にみると、様々なアンケートで「利得性」と「利便性」が上位を占めています。2019 年から2020 年にかけて全国規模で実施された「キャッシュレス消費者還元事業」では、利得性(5% 還元)が推進のエンジンとなったことは記憶に新しく、ウイズコロナ下ではタッチ決済による小銭不要の「利便性」に加え非接触による衛生面が好まれ、取扱いを伸ばしています。

また、昨年度の経済産業省が主催するキャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会にて、中小店舗さまにクレジットカード決済を導入頂くためには、加盟店手数料の更なる引下げが必要であり、その為にはIRF(インターチェンジフィー)の公開が必要であるとの結論が導き出されました。一方でキャッシュレス決済(後払い)導入による、購買単価アップや決済業務の効率化に繋がるメリットについてマーケットに十分に伝わっていないと感じており、当協会としてもメリット訴求について引き続き努力が必要だと認識しております。

海外のキャッシュレス事情や施策を見渡すと、オランダでの特徴的な施策が鮮やかに映るのでここで簡単に紹介したいと思います。同国では加盟店手数料が高いという声が小売り団体中心に根強くありましたが、決済事業者団体と小売り団体がキャッシュレス決済で得られる便益を数値化したうえで、加盟店手数料率と比較した結果、キャッシュレス決済のほうが経済的メリットありと結論付けられました。その後、双方が協働したキャッシュレス推進キャンペーンを実施するなど、協働施策によるWinWin の効果が創出されています。

加えて、世界の多くの国では「現金払いの上限ルール」を導入しています。導入理由としては、犯罪抑止やマネロン防止、税収増、キャッシュレス推進による社会的コスト削減など様々ですが、導入国では総じてキャッシュレス比率が高い状況も見えます。我が国も世界最高水準のキャッシュレス比率(80% 超)を目指すのであれば、このような思い切った施策も検討の俎上にあげ真剣に議論してはいかがかと考えます。

[PR]提供:日本クレジット協会