みなさん、「希少疾患」「インクルーシブな社会」とは何か、知っていますか? 文字からなんとなく連想することはできるかもしれませんが、よくわからない……という方が多いのではないでしょうか。
そこで少しでも理解を深めるために、先日開催された「Rare Disease Day 2022 シンポジウム - 希少疾患当事者にとってインクルーシブな社会を目指して - 」の内容を振り返るとともに、インクルーシブな社会を実現するための理解を深めていきましょう。
【約1,000名に大調査】
希少疾患についてどこまで知ってる?
まずは希少疾患について、世界人口における患者数がどれくらいいると思うか、1,003名を対象にクイズを実施。「約1,000人に1人」「約100人に1人」「約20人に1人」の3つの選択肢の中から、答えを選んでもらいました。
※1 希少疾患とは患者数が極めて少ない疾患を指します。結果はというと、60%以上の方が「約1,000人に1人」、約27%の人が「約100人に1人」と回答。しかし、どちらも不正解。正解は「約20人に1人」です。多くの人が思っているよりも、実際に希少疾患を患っている人の割合は高いのです。
希少疾患とは、患者数が少ないことや病気のメカニズムが複雑なことなどから、治療・創薬の研究が進まない疾患のことで、希少・難治性疾患を指します。 世界には約7,000種類(※2)の希少疾患が存在し、患者数は推定3億人(※3)とも4億人(※2)にものぼるとも報告されています。日本の総人口から推計すると、日本には患者が約600万人いると推定され、約20人に1人となります。
この「約20人に1人」という現実を、あなたはどう受け止めますか? 決して、「希少」とは言えないですよね。
では、なぜそんなに身近にいるにもかかわらず、その存在に気づいていないのでしょうか。実はそれこそが、大きな課題なのです。その課題を解決するためにも、「希少疾患」「インクルーシブな社会」の在り方について、もっと理解を深めていきましょう。
※2 出典:「Global Genes」のRARE Disease Factsより(https://globalgenes.org/rare-disease-facts/)
※3 出典:「RARE DISEASE DAY」より(https://www.rarediseaseday.org/)
Rare Disease Day 2022 シンポジウム - 希少疾患当事者にとってインクルーシブな社会を目指して - へ参戦してきた
去る2022年2月6日(日)、Rare Disease Day in Japan 2022のイベントの1つとして武田薬品工業株式会社とRDD日本開催事務局の共催による「Rare Disease Day 2022 シンポジウム - 希少疾患当事者にとってインクルーシブな社会を目指して - 」が開催されました。
シンポジウムでは3名のスピーカーが登壇し、それぞれの立場からインクルーシブな社会を実現するために必要なことを講演してくださいました。
塩瀬隆之さん
京都大学総合博物館准教授。専門はシステム工学。インクルーシブな社会をテーマに取り上げ、デザインプロセスから除外されてきた人々をデザインプロセスの初期段階から巻き込む手法であるインクルーシブデザインの工学展開の第一人者。共著書に『問いのデザイン』『インクルーシブデザイン』などがある。
小澤綾子さん
筋ジストロフィーの当事者であり、障がいのある当事者のチャレンジを応援する車いすチャレンジユニットBeyondGirlsの代表。外資系IT企業に勤務しながら、バリアのない世界を目指して歌を通してその思いを伝えるシンガーソングライター、主婦の3つの顔を持つ。東京パラリンピック閉会式にも出演。
結城明姫さん
オリィ研究所の共同創設者COO。テクノロジーによって人々の新しい社会参加の形の実現を目指し、難病や障がいなどで寝たきりの人や外出することが困難な人がロボットを遠隔操作して、店員として働くことができる「分身ロボットカフェDAWN ver.β」を運営。
「Rare Disease」とは、患者数が少ないことや病気のメカニズムが複雑なことなどから、治療・創薬の研究が進まない疾患のことで、希少・難治性疾患を指します。 患者とその家族のQOL(生活の質)の向上を目指し、2008年2月29日(うるう年で希少なため)にスウェーデンにて初の「Rare Disease Day」が開催されました。それ以来、2月最終日を「世界希少・難治性疾患の日」と定め、世界各国でイベントを開催しています。日本でも2月は希少疾患月間として様々な講演会やコンサートの映像配信、パネルや写真の展示などが企画されています。2月28日(18時~24時)には、東京タワーがRDDのロゴマークカラーである、グリーン、ピンク、ブルーの3色にライトアップされました。
インクルーシブな社会の在り方を考えるときに、まず知ってほしいことは“選択肢を狭めない。できることを一緒に考える”
筋ジストロフィーの当事者である小澤綾子さんは、20歳の時に難病と診断されたそうです。病名がわかるまで、実に約10年の歳月が経っていました。
20歳の時に筋ジストロフィーと診断され、10年後には車いす生活、その先は寝たきりになると宣告されました。絶望した一方で、みなさんは想像がつかないかもしれませんが、やっと病名がわかってホッとしました。それまで誰も病気だとわかってくれなかったから。ずっと自分に自信が持てなかったけれど、私は悪くなかったんだと嬉しかったんです」。
その後、更なる絶望が待っていました。それが、就職活動をしていた時期だそうです。
現在は、外資系IT企業に勤務されている小澤さん。こちらの会社は“違いを価値に変える会社”で、初めて“やりたいこと”を聞いてくれた会社なのだそう。さらに、自分らしく生きる人々を応援する車いすチャレンジユニットBeyondGirlsを立ち上げたり、“私たちは世の中にいるんだよ、忘れないでね”という思いを伝えるべく、シンガーソングライターとしても活動されています。そこには、「難病だと診断されても、自分らしく生きることをあきらめたくない。選択肢を狭めたくない」という、強い思いが感じられます。
みなさん、身近なところに治療で症状をコントロールしながら活躍している人がいるということがおわかりになりましたか? そして、その当事者が一番、辛いと感じていることは社会から孤立することによる孤独感、ということを忘れてはいけません。
●私たちの身近なところに、難病と向き合い、治療で症状をコントロールしながら活躍している人がいる。
●本当の悲しみや辛さは、社会からの孤立、孤独感。
●障がいや難病を理由に、選択肢を制限してはいけない。できないことよりも、できることに目を向けて。
過ごしやすいインクルーシブな社会の実現には
“「ために」よりも「ともに」、寄り添う姿勢”が大事
より多様性が求められている今、みんなが過ごしやすいインクルーシブな社会とは、一体どのような社会なのでしょうか?
インクルーシブデザインの専門家でもある京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之さんは、「多様性は、私たちに新たな気づきをもたらしてくれる」と言います。塩瀬さんが取り組んでいるインクルーシブデザインとは、特定のユーザーを決めてから、その人に向き合い企画・開発の初期から参加してもらう、ロンドン発のデザイン手法のこと。
そのユーザーというのは、障がいのある方や高齢者、子ども、妊婦など。デザインやサービスを考えるときに、意見を聞く順番が後回しにされてしまいがちな人たちを最初に巻き込んで、一緒に考えて、よりよいアイデアを見つけ、それを形にしていくという手法です。
例えば、車いすの方と博物館を回ったり、視覚に障がいのある方と美術館を回ったりすると、思いもよらない新たな気づきがあり、双方向の学びになるとおっしゃいます。
相手を巻き込みつつ、自分も巻き込まれることで生まれる新たな気づき。塩瀬さんには、インクルーシブデザインを紹介するときに大事にしている言葉があるそうです。それが「ために」から「ともに」へ、です。
また、難病などによる外出困難者がインターネットを通じて、自分の分身となり店員として働く分身ロボットカフェを運営している、オリィ研究所の共同創設者COO、結城明姫さんは、孤独の解消が課題だと唱えます。
分身ロボットカフェで働いている方々は、接客も初めてという方ばかりですが、お客様とコミュニケーションを取り、お客様に喜んでもらえることで、自分が必要とされているという実感を得ることができていると言います。まさに個人、企業、社会、それぞれがいい関係を築けている好例とも言えます。
自分ができることを見つけられる環境があり、居場所があることの大切さ。この孤独にまつわる問題は、人生100年時代となった今、誰もが当事者になりえる現実問題です。平均寿命と健康寿命には約10年の差があり、最後の10年間をいかに自分らしく謳歌できるかは、まさにインクルーシブな社会かどうかに関わってきます。
一人一人がお互いの違いを楽しんで、受け入れられる社会であれば、みんなが自分らしく生きられ、誰もが生きやすい社会へとなってくれることでしょう。
●障がいや難病、ハンディキャップを持つ人の視点や意見が問われ、相互理解を深めること。それが学びとなり、事業へと生かされること。
●「ために」よりも「ともに」、寄り添う姿勢が大事。
●物理的、精神的な孤立、孤独を解消すること。安心できる居場所を作ること。
あなたも誤解しているかも?
インクルーシブな社会にむけて意識してほしいふるまい方は「ともに」考えようとしてくれる姿勢
十分、頑張っているにもかかわらず、「頑張って」と傷つけるような一言を言ってしまったり、必要な配慮のことを、わがままや特別扱いなどと感じてしまったり。私たちがやってしまいがちな誤解について、3名の登壇者によるディスカッションが行われました。
「人間社会にはさまざまな人がいて利害が対立してしまうのは、仕方のないこと。だからこそ対話が必要であり、一緒によりよい社会を作っていくという心をみんなが持つこと、そしてお互いの“ありがとう”という気持ちが大事」と語るのは結城さん。
小澤さんは、「特に希少疾患の場合は事例がないケースが多く、答えがないところを一緒に考えていける人がいるだけで、心が救われる。日々の生活の中で、心が折れる瞬間がたくさんあるので、それを一緒に支えてくれる人、問題を解決するために考えてくれる人、そういう関係性を築ける人が増えていけばいいな」と。
それにまつわるエピソードを、小澤さんがお話してくれました。
杖をついて歩いていた頃のこと、エレベーターもエスカレーターもない駅で、階段が昇れないので車いす昇降機に乗せてほしいと駅員さんに頼んだことがあるそうです。しかし、「車いすの方のものなので」と断られ、「隣の駅まで行ったらどうですか」との返答が。その時、すごく切り離された感じがして、ショックを受けたそうです。そんなこともあり、車いすに乗っている今の方が、逆に生きやすくなったとおっしゃいます。
この事例にも通じるように、私たちはつい見た目で判断しがちですよね。困っている人がいたら、一緒に悩んで解決策を考えられるようになれれば、誰にとっても生きやすくなるのではないでしょうか。
また先ほど、塩瀬さんのお話にも出てきた「ために」「ともに」という言葉について、小澤さんはこう語りました。
「『ために』は、ちょっと重すぎる。『ために』よりも誰かと『ともに』の方がいい。解決する方法を見つけようと、一緒に考えてくれる方が嬉しいです。障がい者だから、難病者だから、社会に受け入れなくてはいけないではなく、そういった肩書きがなくても個人として向き合って、尊敬して受け入れることがインクルーシブな社会なのだと思います」。
●あらゆるシーンにおいて、多様な人がいる可能性を考える。
●一緒に解決策を見つけていく姿勢。
●個人として向き合い、尊敬して相手の違いを受け入れる。
インクルーシブな社会の実現のために、私たちができることとは
私たちが今すぐ、実践できることはあるのでしょうか?
結城さんが挙げてくれたのが、10分間想像すること。「制限のある当事者でもできること、こんなテクノロジーがあったら、こんな人がこんなことができるよねという、楽しい想像をしてもらいたい。もしその想像がいいなと思ったら、ぜひ私たち企業に発信してもらいたいです」。
当事者の立場として小澤さんは、自分たちももっとアクションを起こすべきだと訴えます。「私たちも、わかってもらうための努力をすべき。自分のトリセツを伝えるように、私はこれができて、これができないと。嬉しかったことやあったらいいなと思う制度など、なんでもいいので発信すること。小さなアクションが、社会を変えていくと思います」。
結城さんも「一歩、勇気を持って誰かが発信すると、その人が先駆者となり、それに続く人も出てきて、また違った視点や意見が発信され、横のつながりがどんどん広がっていく。当事者の方たちにはどんどん発信していただきたいし、私たち企業側もそれを発信していかなければいけない」と語ります。
塩瀬さんも一歩を踏み出すことの大切さを語りました。「当事者ではない方も、小さな一歩に慎重になりすぎず、気軽に踏み出して、少しずつ対話を積み重ねてほしいと思います。一歩を踏み出す上で、一歩を軽く、そして毎日少しずつ積み重ねていくことが自分の視野を広げていくことにつながると思ってます。」
みんながそれぞれの立場で想像し、考え、発信する。それがお互いを理解し、よりよい社会を作っていくための第一歩になるのかもしれません。
「約20人に1人」が希少疾患の当事者であるという現実。私たちの身近なところに、難病と向き合っている方がいるということ、そしてそれは誰もが当事者になりうるということ。
社会は、さまざまな要素を持った人たちで成り立っています。線引きせず、みんなが自分らしくポジティブに生きられるために必要なのは対話なのかもしれません。知ったかぶりをせず、わからないこと、知らないことは、自由に気楽に聞いてみましょう。
お互いが偏見を捨て、認め合い受け入れ合う、「ともに」の精神で寄り添うことで、目指すべき理想の社会へと近づけるのではないでしょうか。
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