AI導入・定着においては、「人材の壁」「データの壁」「現場の壁」という3つの壁がある——こう語るのは、ソニービズネットワークス AIビジネス開発部 データサイエンティスト 宮本直宗氏だ。7月14日-16日にオンライン開催された「TECH+ EXPO 2021 Summer for データ活用」で、AI活用に立ちはだかるこれらの壁の乗り越え方、そしてAIプロジェクトをスモールスタート・クイックヒットさせるための秘訣について解説した。

  • ソニービズネットワークス AIビジネス開発部 データサイエンティスト 宮本直宗氏

「人材の壁」は分析ツール×シチズンデータサイエンティストで突破

AIの活用分野が急激に広まるにつれて、AI人材の不足が指摘されるようになった。情報処理推進機構が公開している「IT人材白書2019」によると、IT企業ですらその7割以上が「AI人材が不足している」と回答。みずほ​情報総研の「IT人材需要に関する調査」では、2030年時点で14.5万人の需給ギャップが生じる可能性が報告されている。

そもそも、AI導入に必要な人材を具体的にイメージできているだろうか。宮本氏は、「一般的にイメージされるようなデータサイエンティストではなく、シチズンデータサイエンティストこそが、AI導入に求められる人材」であると指摘。データサイエンティストとシチズンデータサイエンティストの役割分担を、次の表を用いて説明する。

「シチズンデータサイエンティストとは、業務に関するドメイン知識に造詣が深く、課題から分析内容を組み立てることができ、さらに社内のデータに対する理解が深い人材。こうした人材は、必ずしもデータサイエンスに通じている必要はない。データサイエンスの知識が必要なフローについては、分析ツールを活用することでカバーできるためだ。つまり、AI人材不足のなかでも、分析ツールを活用すればAI導入・定着を進めていくことは可能」(宮本氏)

また、宮本氏は、ドメイン知識が不十分な場合に起こしがちな分析の失敗例として「貸し倒れリスクの予測にあたり、申請者の居住地をデータ項目に含んだが、居住地で貸し出し可否の判断をしてはいけないルールがあった」「会員情報から新サービスの購入候補者を選別する予測モデルを作成したが、昨年に行ったアンケートを含んでいたために、新規会員に予測を適用することができなかった」などといったケースを挙げる。

宮本氏によると、このような失敗を起こさないためには、情報処理、AI、統計学などの知恵を理解し活用できる「データサイエンス力」よりも、むしろ現場の理解力である「ビジネス力」、業務データをいかに扱うかという「データエンジニアリング力」のほうが重要だという。やみくもにデータサイエンティスト人材を確保しても現場とデータを知らなければ宝の持ち腐れとなる。シチズンデータサイエンティストがデータサイエンティストに劣る「データサイエンス力」をツールで補うことにより、事業に失敗をもたらさないようにすることが可能となる。

こうした前提のもと宮本氏は、求められるシチズンデータサイエンティストの人物像として、「業務知識に長けていること」、「新しい技術に興味を持てること」、「部門横断的に業務を進められること」、「効率化のために試行錯誤を繰り返せること」を挙げた。また、会社視点では「データを分析し示唆を得てビジネスを改善する取り組みは、一度の実行でうまくいくものではない。結果を焦らずに挑戦しつづけるモチベーションを維持することが大事」と、試行錯誤を繰り返すことができる土壌づくりの重要性も指摘した。

最低限のデータから示唆を得て「データの壁」を超える

ビッグデータが重要視される風潮があるなか、分析に使うデータは多ければ多いほうがよいという誤解が生まれがちだが、宮本氏は「必ずしもそうでもない」と警鐘を鳴らす。

「項目を増やしても、欠損値が多ければ補填する必要があり、平均値や中央値などで補填することが想定されるがそれらが適切であるかの確証もない。よって非常に手間がかかる上に効果も見込みにくいのが実情だ。データが多いことによる価値とコストを天秤にかけて考えることも大切である」(宮本氏)

たとえば、競合のデータやオープンデータなど、集計に手間が掛かるデータを利用しようとすると、コストや時間が掛かってしまう。また、分析のスタートが遅れることにより、当初の目的がぶれたり、機会を逃してしまったりするリスクも高まる。宮本氏によると、まずは最低限のデータで分析を実施して、その結果から示唆を得ることのほうが重要だという。こうした考えについて宮本氏は、次のように例を出しながら説明する。

「分析により『靴の小売業者が販売データを分析した結果、冬にブーツが売れ、夏にサンダルが売れることがわかった』という結果が得られたとしても、当たり前のことがデータで証明できただけ。これまで見えていなかったことを明らかにするためには、売れているブーツはどういうものなのか、店舗によって差はないか、買っている人はどういう人なのか、といった形で深堀りしていくことが重要」(宮本氏)

そして宮本氏は、最低限必要なデータから分析を始め、その結果を踏まえたうえで深堀りに必要なデータがあれば別途集めていくという進め方を推奨。「やってみないとわからないのが予測分析。そうであれば、スタートはなるべく早いほうがよい」と語る。具体的には、次のような手順で分析を進めていくことを提案した。

  1. 仮説を立てて複数のデータ項目を入れてみる
  2. データ項目の予測結果への影響度合い(寄与度)を確認
  3. 寄与度が低いデータ項目を編集する(データの使い方を再検討する)、必要があればデータを追加

「現場の壁」は意思決定にデータ分析をどう取り入れるかがポイント

そして、AI導入・定着の最後の壁となるのが「現場の壁」だ。現場で行われている意思決定にどのようにデータ分析を取り入れるか、という視点が現場導入をスムーズに進めるためのポイントとなる。

従来の手法とAIによる予測分析結果を比べるABテストによってAIの効果が実証できると現場の理解が得られることもあるが、ビジネスにおける要求水準はさまざまであり、簡単にいかないケースも多い。宮本氏は「精度が求められる場合、手間暇を少なくしたい場合など、ニーズによって打ち手を変えていく必要がある。人とのダブルチェックや、人の意思決定をサポートするというAIの使い方もある」と、現場のニーズに合わせて提案していくことの重要性を強調する。

また、現場においては、AIが導き出した予測結果の根拠について説明が求められることもある。これに対して宮本氏は「前提として、AIは人間の理屈とは異なる論理で導き出しているので、予測根拠を完全に説明することは不可能」としたうえで、「ただし、予測結果に寄与したデータ項目を説明することで、ある程度AIの予測根拠を理解することは可能」とする。いずれにしても、ビジネスに対してどのようにデータを活用できるかという視点を欠かさないことが重要だ。

3つの壁を乗り越えられる分析ツール

ここまでご紹介してきた方法で「人材の壁」「データの壁」「現場の壁」という3つの壁を乗り越えられるツールとして宮本氏は、予測分析ツール「Prediction One」を紹介した。専門知識や複雑な操作が不要な一方で、分析内容をブラックボックス化せず、データ項目の寄与度がわかるようになっていることが同ツールの特徴だ。また、年間19万8000円(税別)という導入しやすい価格設定も、導入のハードルを下げる1つの要因となるだろう。

Prediction Oneは、現在30日間の無料トライアルを実施中。申し込み後に送付されるダウンロードリンクから登録すればすぐに利用可能だ。サンプルデータも豊富にあるので、予測分析に興味のある方はぜひ一度試してみてほしい。

▽講演動画はこちらからご覧いただけます https://biz.nuro.jp/service/ai/predictionone/archive/techplus_20210715/

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