Infineon Technologiesが実はUSBのソリューションの中では業界トップ、というのは案外に知られていない。1996年からUSBのソリューションを提供してきた同社は、業界トップだったCypressを2020年に買収、そのままCypressのラインナップを継承している。

  • 図1: Infineon は2019年時点で累計26億個のコントローラを出荷。2015年以降だけでもUSB PDのコントローラを累計10億個以上出荷している

たとえばUSB Type-CのPDコントローラにおけるUSB-IFのCertificationを取得した数を比較しても業界トップというポジションは明白である(図2)。USB-IFからCertificationを取得するにはそれなりの手間とコストがかかるものだが、「47」という結果からは、Infineonがどれだけの手間とコストをUSB PD関連製品に投じてきたかがうかがい知れるだろう。2014年に仕様が策定、2015年頃から市場で普及し始めたUSB Type-Cに関しては、USB PDの普及と相まって急速にマーケットが拡大しており、Infineonもさまざまなソリューションを投入している(図3)。

  • 図2

  • 図3

本来USB PDそのものはUSB Type-Cと無関係の規格だが、USB Type-Cの普及にあわせて急速に利用されるようになってきた。そこで今回は、InfineonのPDソリューションから3つほど注目の製品をインフィニオン テクノロジーズの山田 祥之氏に紹介してもらった。

  • インフィニオン テクノロジーズ マーケティング・ディレクター 山田 祥之氏

    インフィニオン テクノロジーズ
    マーケティング・ディレクター
    山田祥之氏

Barrel ConnectorをUSB Type-Cに置き換える「EZ-PD BCR」

BCR(Barrel Connector Replacement)のBarrel Connectorとは、従来型のACアダプタのコネクタ部分だ。ご存じの通り従来型のACアダプタには標準と呼ばれる規格がなく、電圧が統一されていないことから、同じメーカーにも関わらず互換性がないといったことも多く、製品ごとにACアダプタを用意しなければならなかった。そのためe-Waste(電子ゴミ)に関する2017年の統計では、ACアダプタの廃棄量が100万トンにもおよんでいたという。こうした環境に負荷が高い状況を変えるべく、2018年にEUはUSBインターフェースの促進や仕様策定を目的とした団体USB-IFとMOU(Memorandum of Understanding:了解覚書)を交わし、すべての電子機器の充電手段をUSB Type-CベースのPDにする方向で動いている。これによってメーカーはUSB Type-C PDのみをサポートすればよくなるし、ユーザーは手持ちのUSB Type-Cケーブルやアダプタが流用できるため、双方にとってメリットがある話といえる。しかしその実現に向けては従来型のACアダプタをベースにした設計をUSB Type-Cに対応させる手間が発生してしまうのだ (図4)。

  • 図4

この手間を最小限にしてくれる製品が「EZ-PD BCR」である。EZ-PD BCRはACアダプタと接続するパワーシンク側のBarrel ConnectorをUSB Type-Cに置き換えることに特化しており、最小限の周辺チップで構成され、コントローラのファームウェアの開発なども一切不要となる (図5)。移行も簡単で、USB Type-CアダプタとEZ-PD BCRの開発キットを用意し、これを自社の機器に繋ぐだけだ 。もちろん量産するにあたっては設計変更が必要となるが、動作確認までのフローは非常に迅速に進められる。

  • 図5: 電圧監視の機能も搭載。外部のMCUなどと接続して使うことも単独での動作も可能で、電源モジュールと同じ感覚で扱える

製品ラインナップとしては、従来のBarrel Connectorの代替機能のみのEZ-PD BCR-Light(CYPD3178)と、細かな調整や古いPD規格への対応、電流/温度保護機能などフル機能を搭載したEZ-PD BCR-Plus(CYPD3176)、その中間的な位置付けであるEZ-PD BCR(CYPD3177)の3種類が用意され、ニーズと価格に合わせて選べるようになっている。

MCUにUSB PDの制御機能が追加された「EZ-PD PMG1」シリーズ

よりきちんとUSB PDを製品に取り込みたいという場合に便利なシリーズが「EZ-PD PMG1」(Power Delivery Microcontroller Gen1)だ(図6)。そもそもInfineonのUSB関連製品はすべて内部にMCUを搭載しており、これらは主にPDの制御に利用されているが、実は製品がUSB PDに繋がっておらずバッテリー駆動で動いている状態はもちろん、PDを利用しているときでさえも大半の時間は休止している。この休止しているMCUを別の用途にも利用できれば、BOMコストやフットプリントの削減に貢献できる。このEZ-PD PMG1は汎用MCUにUSB PDの制御機能を追加したものといえるが、USB PDに対応するため、高電圧(~28V)への耐圧が付加されており、単純なDCモータの制御などにも使える。もちろん本格的なBLDCモータの制御は厳しいが、そうした用途にはInfineonが提供するFM4シリーズがおすすめだ。モータだけでなく、ちょっとしたセンサーハブとかリモコン、簡単なHMIの構築に必要な周辺機器が揃っており、こうしたシステムを低コストで構築できる。

  • 図6: EZ-PD PMG1シリーズの概略。PSoCシリーズとは別の製品ラインとなっている

EZ-PD PMG1は、周辺回路やメモリ、ピン数にあわせて5種類がラインナップされており、低価格なアプライアンスやちょっとしたモータを利用した機器の構築など、求める機能に応じて最適な製品を選べるようになっている。もちろんこれだけであらゆる用途に対応可能というわけではないが、InfineonからはPSoC 6シリーズのような高機能MCUもラインナップされている。

  • 図7: Cortex-M0+を搭載するPMG1-S3シリーズは今年第4四半期から量産開始の予定で、他はすべて量産されている。プロトタイピングキットも全製品向けに用意

EZ-PD PMG1の周辺回路そのものは同社のPSoCシリーズと共通であり、またMCUコアも同じCortex-Mとなる。そのため開発環境はPSoCと同じくModusToolbox IDEがそのまま利用でき、USB PD Stackなどが追加されているためSDKのみ変更するだけで済む。そのUSB PD周りに関しては、EZ-PD Configuratorという専用ツールをModusToolbox IDEから呼び出す形で設定できるので、従来のPSoCの開発環境に慣れた開発者であれば違和感なく利用できる点もありがたい。

2ポートとPMICの内蔵を実現したEZ-PD CCG7D

いまや車載向けにも広範にUSB Type-C PDが普及してきており、欧州では2022年あたりから本格的に搭載され始める。 USB Type-C PDの使われ方もさまざまで、たとえば前席はカーナビ連動や運転者のスマートホン連動が、2列目はヘッドレストの裏に搭載されるモニター連動、3列目は単に充電できればよい、というように多様化しつつある。

  • 図8

車載向けのPDコントローラとしては、2017年に発表されたCypressのEZ-PD CCD3PAが広く利用されてきたが、ここに新たに投入されるのがEZ-PD CCG7Dである。2ポートをまとめて管理することで、両ポートを連動させての制御も可能になった。たとえばトータル100Wのところに120Wを要求された場合、45Wずつ提供する50-50 Sharingと、片方を60W、もう片方を40W提供するBalance of Powerなど、どのように分散させるかをダイナミックに変更できる。

  • 図9

CCG3PAとCCG7Dの最大の違いはポート数(1→2)と、PMICの内蔵である。EZ-PD CCD3Aは1ポートのUSB PDコントローラであり、また設計の柔軟性を高める目的でPMICはパートナー企業のものを利用していた。ところが昨今の車載向けでは2ポートを必要とするようになっており、PMICを2ポート分外付けにしようとすると物理的に収まらないという問題が浮上していた。InfineonがCypressを買収したことで、Infineonの優れたPMICを利用できるようになったため、コントローラに内蔵することでフットプリントとBOMコストの削減が可能になった。なお、外付けのドライブ用FETに関してもInfineonの車載向けのラインナップが利用できるようになり、すべての部品をワンストップで提供できる点はCypress 時代と異なる点だ。

もちろんCCG3PAの優れた特徴はそのまま継承されている。USB-PDだけでなくQualcommのQC2.0~4.0+やApple Charging/Samsung Active Fast Chargeなど独自の充電プロトコルへの対応、過電圧/過電流/逆流/短絡などへの保護回路、最大600KHzまで選択できるスイッチング速度、PSM(Pulse Skipping Mode)/FCC(Force Continuous Current Mode)への対応、車載向けのLIN I/Fの搭載など、CCG3PAの特徴はさらに強化されている。また新たにPCB上を8つのゾーンに分けての温度管理機能も追加され、車載向けにより安全性を高めている。

  • 図10

車載向けにAEC-Q100認証を取得しているのはもちろん、Secure Firmware Updateも可能で、I2Cを利用したOTA Updateと、Type-Cポートを利用してのUpdateの両方に対応しており、昨今のConnecting Carの要件をしっかり満たしている。このEZ-PD CCG7Dは現在サンプル出荷中であり、間もなく量産開始予定である。

本稿ではInfineonのUSB PD製品を3つほどご紹介したが、これ以外にもさまざまな製品を提供しており、今後も投入予定である。USB PDを利用した機器を設計する必要がある方は、Infineonのラインナップを一度確認してみてほしい。

[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ