新型コロナウイルスは人々の生活様式を大きく変え、日本でもデジタル化の波が一気に押し寄せている。そこで本稿では、2020年12月10日に配信されたオンラインイベント「SITECORE DX TOKYO2020」のなかで語られたデジタルプレゼンス向上のための考え方や、具体的な行動について、各セッションの内容を交えながら紹介する。

顧客に選ばれるためのデジタルプレゼンスの向上

  • 酒井 秀樹氏

基調講演に登壇したサイトコア株式会社の代表取締役 カントリーマネージャー 酒井 秀樹氏は、セッション冒頭で山梨県の温泉旅館「真木温泉」に宿泊したときのエピソードを紹介し、次のように述べた。

「心理学のとある研究によると、私たちは体験したほとんどのエクスペリエンスを忘れていて、ときどき感じた素晴らしいことだけ(あるいは素晴らしくないこと)が残るようになっています。この研究では2つの瞬間が重要であることがわかっています。ひとつは『ピーク』、最もエクスペリエンスが高まったポジティブな瞬間です。もうひとつは『転換点』、最初と終わりのことをいいます」

酒井氏が温泉旅行の話をしたのは「さまざまな思い出のなかでピークとなる瞬間こそ、印象に残るエクスペリエンス」であることを伝えるためだ。

ここで話は現在の情勢に移る。企業のリモートワーク実施率が74.3%に達し、自宅で過ごす機会が大幅に増加した。コロナ前と比べ、ネットの活用時間は質・量ともに増えており、企業はますますデジタル上における存在感が重要になる。そのため「デジタルプレゼンスを持たない企業は、今後さらに大きな影響を受けるでしょう」と酒井氏は述べた。

では、そのためにはどうしたらよいのか。酒井氏は「顧客が欲している情報を、共感力をもって提供すること」と「デジタルのなかでしっかり存在感を持ち、ピークとなる瞬間を作ること」が重要だという。

「エクスペリエンスのピークになるような、つまり共感を与えるような情報をデジタルで提供すること。そして、それらを迅速にさまざまなチャネルで提供することが重要です。この2つを行うことで顧客体験のピークを提供し、かつそれがデジタルプレゼンスを向上することにつながると考えています」

瞬間瞬間で顧客体験を演出する3つの大切な要素

  • ペイジ・オニール氏

続いて登場したSitecore社のCMO ペイジ・オニール氏は、2020年を「控えめにいっても興味深い年」と表現した。顧客が企業に求めるニーズが様変わりした一方、次々と現れるニーズに応えられた企業は数少ないとして「瞬間瞬間でニーズを理解し期待に応えることは、これからリアルでもデジタルでも求められる」と強調した。

いま多くの産業で消費者動向がデジタル化へ大きくシフトしているが、今後はデジタルの移行によって次々に生まれる顧客のニーズに対していかに企業が即応し、カスタマーエクスペリエンスを提供できるか否かが重要視されるのだ。コロナ終息後も瞬間瞬間のニーズに応えることが企業にとって最大の課題になるとされ、それに対応するための大切な要素は「共感」「コンテンツ」「敏捷性」だという。

オニール氏は「共感」について「お客様の視点に立ち、抱えるニーズに応えるために何をすべきかを考えて行動してください。お客様のニーズに応えうる体験を構築すれば、その過程ではるかに深い信頼関係を築けるでしょう」と解説した。

「コンテンツ」の戦略で必要とされるのは、顧客とのあらゆる接点と、状況に適したコンテンツをすぐに提供できる体制づくりだという。そのためにSitecore社がコンテンツを制作・管理・配信できるプラットフォームの提供に取り組んでいることを紹介した。

3つ目の要素となる「敏捷性」については、コロナ禍で必要が生じれば敏捷に対応できることを証明したと語った。さらに敏捷性に欠けているビジネス領域に応用するため「ニーズに即応することをはばんでいる古いプロセスやオペレーションを修正」する必要があるとし、企業全体で取り組むべき課題であることを強調した。

具体的な事例として、我々も日々テレビなどで目にするようになった「ジョンズ・ホプキンス病院」が紹介され、同院のデジタルコンテンツマーケティングの担当ディレクターを務めるアーロン・ワトキンス氏とWeb対談が行われた。

  • アーロン・ワトキンス氏

同院はコロナウイルスの流行当初「自分たちが専門知識を共有できる重要な役割を担う」ことに気づき、迅速に「コンテンツ」を制作。2020年1月にはすでにコロナウイルスに関する情報を掲載し、3月半ばごろには、コロナに関するWeb検索でトップに表示されるようになっていた。その結果、Webサイトへのアクセスは4倍に伸び、コロナのコンテンツを掲出していたSNSからの流入は370%増加したという。

ワトキンス氏は、感染拡大前から同院が描いていた基本デジタル戦略について「多くのユーザーが活用する検索エンジンで上位になれるよう『共感』を重視したアプローチでコンテンツを制作しています」と解説。さらに現場で医療活動にあたる専門家と連携して情報を集めたことで、通常ではありえないような「敏捷性」で上質なコンテンツを驚異的な量で生み出せたとのことだ。

ワトキンス氏は「ユーザーとビジネスのニーズが変化していることを実感しています。コロナ以外にも一般的な健康ニーズへのサポートが必要です。私たちはコンテンツをタグ付けし、パーソナライズのテクニックを使って、人々が日々直面する健康やストレスなどの症状の情報へ誘導するようにしました」と、いまもなお変化するユーザーのニーズに対応していることを語った。

受け身のDXだけでは悲劇が待っている

  • 松永 エリック・匡史氏

イベント最後の特別講演では、青山学院大学 地球社会共生学部 教授 (国際ビジネス)の松永 エリック・匡史氏が登壇。「受け身のDXだけでは悲劇が待っている~デジタル上の顧客体験に対する期待値が激変」と題して講演を行った。

松永氏はDXの重要性が高まっている理由としてデジタルネイティブな世代の出現を挙げ、特に「ミレニアル世代」の2分化に着目した。

ミレニアル世代はネットを重視する人たちと、直観や思いつきで行動し独自の世界観を持っている人たちにわかれる。このうち「直観」を信じているミレニアル世代がビジネスを行うようになり、経営が大きく変化しているという。

「この会社は100年の歴史があるから安心だよ、という時代は終わりを迎えたと感じます。面白いな、かっこいいなと思うことに対してお金を払う時代に変わっているのです」

松永氏は、イノベーションを起こすための「デザイン思考」のポイントとして、どんなものに対しても「共感」すること、そして共感から得られた直観で「プロトタイプ」を制作することが重要だという。

さらにDXを「マインドセットの変革」であると述べ、顧客だけでなく自分の会社も合わせていく必要があると強調。DXはテクノロジーを直接意味するのではなく、クリエイティブな問題解決方法を提示してユニークな体験を創造し、ビジネスにイノベーションをもたらすことだと松永氏は語った。

「テクノロジーはあくまでもDXを成功させるためのツールであり、大切なのは顧客と向き合うことです。そして、体験を創造し、直観を独自の世界観としてかたちにするのです。また、この行動はスピード感を持って対応する必要があるため、ITのパートナーを見つけることがカギとなります」

松永氏はここで、昨今話題になっている「DXアジェンダ 6つの問い」を挙げた。

1つ目の「コロナがDXに与えた影響は」という問いには、リアルの代替品だったデジタルをリアルに押し上げた成果について語った。

2つ目の「これまでのデジタルの革命とDXとの違いは」では、デジタル機器を導入することが“デジタル化”だった従来から、DXでは新しいマインドセットや新しいユニークな価値観を伝えることが求められている点が違いだという。

3つ目の「『デジタルこそリアル』にするためには何が必要か」という問いに対しては、“デジタル イズ ナンバーワン”という考え方へシフトしていくことが必要だと話した。「銀座の店舗をデジタルに持っていこう」ではダメで、「自社でも他社でも、いままでにないデジタル店舗を一から作り上げる」意気込みで臨む時代なのだと強調した。

4つ目は「日本は世界から圧倒的に引き離されてしまっている?」という問いだ。日本はいまだDXをテクノロジーだと思っているが、DXは顧客のために経営がテクノロジーを支配するために行われる、という意識が必要だと語った。

5つ目の「コロナで企業の不安要素はどう変化したか」については「コロナを後ろ向きに考えず起業元年と考えて、リアルでやってきたことをネットでやってください。いまは不安要素がプラスに変化する過程です」と述べた。

6つ目は「これから、企業はどうあるべきか」。松永氏は「企業は開き直っていい」と話し、あらためて企業の変遷を振り返り、そのうえで独自の世界観を出すべきだと語った。

「まさにいま、ここが出会いの場です。まずサイトコアさんと、とことん話し合ってみてください。共感はぶつかり合わないと出てきません。そのなかで真剣に自分たちの未来を変えるITのインフラ、デジタルプレゼンスについて、経営を含めて考えてください。大事なこととして、IT部門や情報システム部だけに任せるのではなく、経営マターで動き、一緒に考えてください。経営は変わっています。そして、ITは本当に変わりました」


「デジタルプレゼンス向上」をテーマに行われた本イベントでは、コロナ禍で変化した消費者、企業、社会のデジタルエクスペリエンスに共感し、それを体験できるコンテンツを作ること、そして刻一刻と変わるニーズに対して、スピード感を持った行動をすることが、一貫して語られていた。

ニューノーマル時代に突入し、これらは今後もデジタルプレゼンス向上のために継続して取り組む必要があるだろう。まずはその第一歩として、ITのパートナーにサイトコアを検討してみてはいかがだろうか。

[PR]提供:サイトコア