ニューノーマル時代を迎えるにあたり、企業はデジタル化とデータ活用にどう取り組んでいけばいいのか。本記事では、2020年12月3、4日の両日に開催された「マイナビニュースフォーラム 2020 Winter for データ活用 ニューノーマルに備えるデータ戦略」から、オイシックス・ラ・大地株式会社 COCO(Chief Omni-Channel Officer)・執行役員で顧客時間 共同CEOも務める奥谷孝司氏と、インキュデータ株式会社 代表取締役社長兼CEOの藤平大輔氏による対談「ニューノーマル時代の消費者行動の変化とマーケティングのあり方」の模様をお届けする。

コロナ禍における消費者行動の変化を見る

オイシックス・ラ・大地は有機野菜などの食品宅配を事業とし、顧客時間は企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やOMO/CRM/D2C支援などを行う会社である。一方のインキュデータはソフトバンク・博報堂・トレジャーデータの3社共同で2019年に設立された、データとテクノロジーを武器に日本企業のDXにおける課題を解決し、事業変革に向けたコンサルティングや施策実行の支援を行う会社だ。

オイシックス・ラ・大地株式会社 / 株式会社顧客時間 執行役員 Chief Omni-Channel Officer / 共同CEO取締役

オイシックス・ラ・大地株式会社 /
株式会社顧客時間
執行役員 Chief Omni-Channel Officer / 共同CEO取締役
奥谷 孝司 氏

冒頭、奥谷氏は、コロナ禍が消費者行動にさまざまな変化を起こし、企業にとっても顧客とのつながり方やマーケティング方法が変わってきていると述べた。その上で、顧客時間と三井住友カードが共同で発行した「コロナ影響下の消費行動レポート」のデータを示し、「ウィズコロナで、ECの比率が順調に推移しています。高齢者もECにシフトしているほか、外出がままならない中で生活・健康美容関連をECで購入する人も増えています」と語った。

続いて、三井住友カードとマクロミルの共同調査結果を基に、コロナ前後の生活スタイルについてマトリックスで分析した結果を提示した。マトリックスは「休日のおでかけ範囲が増えたか/減ったか」「家中消費が増えたか/減ったか」で4象限に分けている。 このうち奥谷氏は、出かける範囲と家中消費が共に増えたタイプを生活が多様化している「変化適応型」、出かける範囲が減りながら家中消費が増えたタイプを「巣ごもり疲弊型」と呼んだ。そして「変化適応型はオン・オフの融合型で、コロナに対して前向きに対応しており、新たな買い物価値を提供できそうなので、新しいマーケティング活動を展開していきたい。また巣ごもり疲弊型は、ストレスを抱えており、何か癒やしになるものを提供すれば新しい消費行動が生まれるのではないか」と述べた。

インキュデータ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 藤平 大輔 氏

インキュデータ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
藤平 大輔 氏

藤平氏も「まさに巣ごもりの消費欲求の高まりを感じています。ただ、それは社会環境によって変わるもの。現在のように社会環境が変わり続けるなかで、企業として何をなすべきかを決めるのは難しくなっています。日本が得意としてきたものづくりでは、なかなか対応できません。そこで注目すべきなのが、やはりデータです。DXはデジタル化によって業務を効率化するだけのものではなく、その先につながる競争優位の確立・維持という重要な目的も持っています」と語り、コロナによる強制的なゲームチェンジでDXは“待ったなし”になったと指摘した。

いま求められる顧客基点のマーケティング

ウィズコロナ・アフターコロナの時代、企業は何をやらなければいけないのか、また何から着手していくべきなのか。

  • 対談を行う奥谷氏と藤平氏

    対談を行う奥谷氏と藤平氏

藤平氏は「日本企業においては現在、売上データ、会員データ、Webデータなどさまざまなデータがサイロ化しており、横断して利用できないことが弱点。そのため、まずは各々のデータを“箱”から出し、使える状態にすることが先決です。データ収集・蓄積・統合についてCDPを中心に行い、分析、施策実行、効果検証でPDCAを回す。そこで得られたものでさらに事業を変革する……日本企業のDXはまさにここから始まると思います」と語った。

これを受けて奥谷氏は、顧客視点のマーケティングへと話題を移した。

「ビフォーデジタル、アフターデジタルという分け方がありますが、リアル世界がデジタルに包まれるアフターデジタルでは、業界を問わず、企業は顧客とデジタルでつながらなければなりません。それにより“リアルをデジタルで守る”状態をつくらないと、たとえば小売でいえばお店そのものが成り立たなくなってきます。そのためにも、藤平さんが言ったように、まずはデータから積み上げていくことが重要です」(奥谷氏)

その上でウィズコロナ・アフターコロナ時代は、オンラインを基点としてオフラインに進出することをベースに、顧客との優れたつながり、体験、エンゲージメントをつくりだし、“勝てるマーケティング”をしていかなければいけないと強調した。

このマーケティング変革の手段として奥谷氏が提案するのが、マーケティングをフロー型(顧客起点発想)からリテンション型(顧客基点発想)に変え、行動を提案することだという。奥谷氏は“マーケティングの4P”を引き合いに出して解説する。

「良い商品(Product)を良い価格(Price)で販促(Promotion)すると、販路(Place)ができる、つまりモノが売れていく。ビフォーコロナのDXはこの流れを前提に、Placeをリアルとデジタルの組み合わせにしてみるか、ECでもやってみるか、といった動きでした。このPlaceからマーケティングを変えていくのが、デジタルを活用した新しいマーケティングです。私はそれをオンライン基点の事業モデルとして“エンゲージメント4P”と呼んでいます」(奥谷氏)

奥谷氏によると、エンゲージメントとは「顧客価値」であり、Placeは「顧客接点」だという。顧客とつながる接点には、店舗もあればネットストアもあり、さらにはスマートフォンなどのデバイスもある。まずはこの接点をつくることが大切で、そこで顧客とデジタルでつながり、顧客の要望をデータでしっかり理解する。その理解の上で、残りの三つのPを提案する。これこそが行動提案型の新しいマーケティングだと奥谷氏は言う。

「従来、顧客の時間という観点では、圧倒的に購入前の『選択』と『購入』に重きをおいていました。デジタルを活用する現在は購入後の『使用』の時間にも着目し、カスタマージャーニーをしっかり見てエンゲージメントをつくる必要があります。顧客が商品を使った上でどうなのか、行動データを把握し、商品・価格・販促のすべてを最適化するということです」(奥谷氏)

データ活用でDXを進めるためのヒントとは

顧客を理解する上でポイントとなるのが、いかにデータを活用するかだ。藤平氏はデータ活用の課題として「経営目標を達成するためのビジョン・戦略の欠如」「データ戦略を実行する組織・人材の欠如」「データマネジメントにおけるサイロ化と先行投資不足」の3点を挙げ、インキュデータがDXを支援した事例を示した。

  • 様々な業種・業態のDXにおける課題をご支援

「ある生命保険会社は、ミレニアル世代・Z世代向けの新商品を開発し、顧客価値を上げるため、データを使い、適切なタイミングでのOne to Oneコミュニケーションを可能にすることを目指しました。同社の課題は、さまざまなデータを持っているにもかかわらず、やはりそれらを一貫して使えていなかったことです。そこで当社がCDP活用から施策設計までを支援しました」(藤平氏)

別の例として、不動産業界でも近年は事業が変わりつつあり、顧客体験をデータとして取得・活用することで、施設・設備の高度化に取り組むようになっているという。藤平氏は「画期的な不動産も、開発が終わるとその後は当たり前になり、陳腐化するといわれます。しかしデータ活用の仕組みを入れていれば、データによって新しいソフトを次々と生み出すことができるので、建設関連企業はいまデータによる高度化に取り組んでいます」と話し、さまざまな業界でデータにより顧客を理解した上で行動提案や改善をしていくことの重要性を語った。

さらに藤平氏は、リアルとデジタルの関係について「日本ではまだまだ、消費の8割はリアル。日本はセキュリティが高く、アクセス性も良いのでリアルが強いのが現状です。そのため、ECがリアルから市場を奪うという見方をされがちなのですが、そうではなく、データをリアルに持ち込めばいいだけです。デジタルが発展し、移動時間など不要なリアルの部分はなくなるかもしれませんが、リアルな店舗やコミュニケーションはやはり大切なもので、決してなくなることはないでしょう」と指摘。奥谷氏も、リアルとデジタルを共存させる際のバランスの大切さを確認した。

最後に、企業がDXを進める上で専門家の知識と経験をうまく利用することが重要になるという認識が両者から示され、対談は終了した。

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