新型コロナウイルス感染拡大は、消費者のライフスタイルや企業活動を大きく変貌させた。消費者と企業のリアルな接点が大きく制限され、企業のマーケティング活動も大きな転換期を迎える1年となったといえるだろう。

マーケティング領域で今年のトレンドワードとなったのが「デジタルシフト」という言葉だ。これは、これまで店舗などリアルな接点を購買行動の中心に据えていた企業であっても、消費者と企業のタッチポイントをリアルからデジタルへシフトしていくという考え方で、業種業態に関係なくデジタルマーケティングの様々なメソッドを活用していく必要性を示唆している。

  • デジタルマーケティング

もちろん、従来からデジタルマーケティングを展開している企業についても、改めてその手法を再点検しなければならない。商品やブランドの認知を獲得できる手法を適切に選択し、有効に活用できているか。購買行動に至る顧客のカスタマージャーニーを理解した上で適切な手段で必要な情報を届けられているか。 こうしたきめ細かなマーケティングが実現できているかによって、デジタルマーケティングの世界でビジネスを成功させられるか否かが決まるといっても過言ではない。

テクノロジーが成熟している昨今、デジタルマーケティングの手段は無限の広がりを見せている。それぞれには特長があり、どの側面に有効なのかも異なる。では、それぞれの手段にはどのような役割が適切なのか。今回は近年企業でも急速に活用が進む「SNS」とプッシュ型マーケティングチャネルとして永く用いられている「メール」にスポットライトを当てて解説しよう。

SNSとメール、役割の違いを理解しなければギブアンドテイクにズレが生じる

SNSの公式アカウントを展開したり、顧客を会員組織化してメールマガジンやダイレクトメールを配信したりしている企業は多いのではないだろうか。しかし重要なのは、「SNS」と「メール」にはそれぞれ得意とするコミュニケーションがあり、その役割を理解しなければユーザーニーズと企業の提供したい価値に大きなズレが生じるということ。SNSとメールでは、"対象となる消費者のファネル" と "マーケティング手段としての役割" が全く異なるのだ。

SNSが得意とするのは、ひとことで言うと“カジュアルなコミュニケーション”だ。SNSを利用するユーザーは、タイムラインに流れてくる様々な投稿の中から、面白いものや興味のあるものには即座に反応する一方、興味がないものは数秒でユーザーの画面から消えてしまう。

  • SNSとメールの違いとは?

こうしたメディアの特性を活かそうとしたときに、企業は「興味関心の獲得」を考えなければならない。SNSのタイムラインを消費者と企業の“出会いの場”だと位置づけると、そこでどれだけの印象を与えることができたかによって、企業の製品、ブランドが認知されるか、製品に関心を持ってもらえるかどうかが決まるのだ。ここで気を付けなければならないのは、SNSのタイムラインで大きなインパクトを与えれば即座に商品が売れるとは限らないことだ。SNSは、消費者の商品・ブランド認知を生み出し、興味関心をもってもらうための“きっかけ”にしかならず、新たな顧客の開拓やファンの醸成に向いているといえる。

他方、SNSと同じことをメールでは実現できない。そもそもメールは、消費者が会員登録しなければ送信できないため、“出会いの場”にはなりえない。また、メールは企業から消費者に任意のタイミングでメッセージを送信できるという利点がある一方、消費者がメールを開かなければ企業が伝えたいことを伝えることができない。

ただ、SNSと比較してメールが持つ大きな利点は、掲載できる情報量の豊富さだ。SNSは文字数や画像、動画のフォーマットがプラットフォーマーによって決まっているため、企業はその規定のなかでいかにコミュニケーションを生み出すかを考える必要がある。しかし、メールはテキストの制約などがないだけでなく、HTML形式のメールであればリッチな表現も自由自在にできる。たとえば、セールの案内やクーポンといった販促から自社商品の活用事例やストーリー等見ごたえのあるコンテンツに至るまでだ。この情報量の豊富さは、特に商品・サービスに関心があり購買意欲が高まっている消費者に対して、購買意思を固める後押しとなる

  • メールマーケティング

    メールを使ったセールやクーポンの案内

  • デバイスごとの見え方

    HTMLを使えばリッチな表現も自由自在にできる

つまり、SNSは「製品やブランドを知らないユーザーからの認知獲得やファンづくり」に向いており、メールは「顕在顧客の興味関心の醸成や、購買を検討しているユーザーが購買意思を固めるための有益な判断材料の提供」に向いているといえるだろう。

SNSでは、顧客の態度変容に寄り添ったマーケティングができるのか

昨今のデジタルマーケティングでは、カスタマージャーニーをもとに、見込み顧客が購買に至るどの段階にいるかを把握した上で適切なコミュニケーションをはかることが重要だといわれている。こうしたいわゆる「One to One」のコミュニケーションによる顧客のナーチャリングは、マーケティング活動によって活用できるデータの種類や量が大幅に増加したから行えることであるが、ここでも重要なのはSNSとメールで扱えるデータの種類や量に大きな違いがあるということだ。

  • One to Oneマーケティング

    「One to One」のコミュニケーション

SNS上において消費者がコンテンツに接触して生まれるデータは、あくまでプラットフォーマーが管理しているものであり、近年問題となっている3st Party Cookieを排除する動きなどもあり、統計コンテンツに接触したユーザーがその後企業の製品やブランドに対してどのような動きをしたか細かく分析することは非常に難しくなりつつある。リンクをクリックした先のランディングページでCookieなどを発行できれば、見込み顧客の動向を把握することは可能なのかもしれないが、それはあくまで“動きを把握する”だけに留まり、残された具体的なアクションは広告のリターゲティング程度に限られてしまう。

一方、メールは企業が保有する1st Party Cookieを活用できるため、メール開封状況、閲覧状況の把握からリンクをクリックしたあとの行動履歴を把握することが可能で、そうした行動をもとに次にどのような情報やメッセージを、メールを通じて個々の消費者に届けるかというマーケティングオートメーションを容易に組むことができるのが大きな特長だ。これにより、購入を検討している消費者のステージに合わせたOne to Oneのマーケティングを実現することができる。消費者の購買に至る行動パターンを体系化して、様々なシナリオを用意すれば、自動的に<配信・検証・次の配信>を繰り返しながら消費者を購買行動までナーチャリングすることができるのだ。

プラットフォーマーがデータを管理するSNSに対して、メールはオウンドメディアと同様にアクションによって生み出されるデータを自社のものとして自由に活用することができるチャネルだといえる。こうした1st Party Dataが獲得できるマーケティング手法は、個人情報の保護が求められる現在のデジタルマーケティングにおいても、重要なものなのではないだろうか。