「キャッシュレス・ポイント還元事業」によりキャッシュレス決済の裾野が広がるとともに、新型コロナウイルス感染症防止対策としてキャッシュレス決済の利用が推奨されるなど、引き続きクレジット業界はキャッシュレス社会における重要な役割を担っています。 このような状況の中、今回は、日本クレジット協会の副会長である株式会社クレディセゾンの山下社長に、今後のキャッシュレス社会の展望及び同社の取組みについてお話を伺いました。

山下 昌宏 (やました・まさひろ)
1958年3月5日生 1981年 4月 株式会社西武クレジット(現:株式会社クレディセゾン)入社
2010年 6月 同社 取締役
2012年 3月 同社 常務取締役
2016年 3月 同社 専務取締役
2019年 3月 同社 代表取締役社長COO
2020年 3月 同社 代表取締役兼社長執行役員COO(現任)
2020年 6月 一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任)

倉見 慶子(くらみ・けいこ)
神奈川県出身。津田塾大学学芸学部卒。外資系企業に就職したのち2003年に長野放送に入社。長野放送で様々な番組のメインキャスターやリポーターを担当。その後、NHK総合のリポーター、NHKBSのキャスターを担当。イベントの司会進行などでも活躍。長野市民新聞にコラムも執筆。幅広く活躍中。

クレジット市場の現状と業界への影響

クレジットカードを利用できる取扱領域の拡大が今後の成長の鍵

倉見新型コロナウイルスの影響を受け、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが1年延期となりました。期待していた訪日外国人による経済効果はもとより、国内だけでなく全世界で個人消費が落ち込み、経済全体が大きな打撃を受けました。このような状況の中、クレジット業界への影響等についてお聞かせください。

山下コロナ危機による経済収縮が直撃し、日本の消費支出は大きく減少しており、クレジット業界も多大な影響を受けています。クレジットカードの利用が多い百貨店売上高は4月▲72.8%、5月▲65.6%、6月▲19.1%、ショッピングセンター売上高は4月▲68.8%、5月▲61.4%、6月▲15.0%、旅行業取扱高は4月▲95.5%、5月▲97.6%、6月▲92.9%と前年比で大幅なマイナスとなっています。

クレジットカードの取扱高は、4月▲16.3%、5月▲17.0%、6月▲3.3%と持ち直しの兆しも見せたものの、7月からの新型コロナウイルスの感染再拡大により、その影響はまだ続くものと想定しています。

一方でクレジットカードと親和性の高いインターネットを利用した支出額はコロナ危機においても4月+6%、5月+16%、6月+20%と取扱高を拡大しており、クレジット業界としては影響を最小限に止め、順調に成長していくためにはクレジットカードが利用できる取扱領域の拡大が重要なのでないかと考えています。

倉見今年6月に終了した政府主導の「キャッシュレス・ポイント還元事業」について、キャッシュレスの普及という点においては一定の効果があったものと考えられます。今回の政策が業界にもたらした影響及び今後のキャッシュレス市場の動向についてお聞かせください。

山下今回の「キャッシュレス・ポイント還元事業」の影響としては、勿論、クレジットカード取扱高が増加したということはありますが、最も影響が大きかったのは「キャッシュレス」という言葉が日本全国に浸透し、キャッシュレス支払いへの抵抗感が薄まった、ということではなかったでしょうか。これまでキャッシュレス決済にあまり積極的でなかった中小加盟店が積極的にキャッシュレス決済で5%還元をアピールしたこと、加えてコロナ禍という状況もあいまって消費者もこの機会にキャッシュレス決済を経験し、その便利さを体現されたのではないでしょうか。  

また今回、中小・小規模事業者約115万店が参加し、決済端末が設置されていなかった中小加盟店にはクレジットカード会社と国の負担で端末の設置が進み、キャッシュレス決済のためのインフラ整備が進んだということも大きな効果をもたらしました。  

我々クレジット業界としては現在コロナ禍で取扱高は低迷していますが、今回の「キャッシュレス・ポイント還元事業」で消費者が体現されたキャッシュレス決済の利便性を益々浸透させ、未来投資戦略に掲げられた2025年6月までにキャッシュレス決済比率40%を実現することを目指して、各社が施策を実行していくことが重要だと思います。

クレディセゾンとしての取組み

多様なマネーサービスを提案し続ける真のファイナンスカンパニーを目指す

倉見クレディセゾン社のこれまでの歩みについてお聞かせください。

山下当社は1951年、月賦百貨店の緑屋として創業し、1976年に西武百貨店と資本業務提携したのち、1980年に(株)西武クレジットに社名変更のうえ、総合金融業へ業態転換を経て、現在に至ります。(1989年に(株)クレディセゾンに社名変更)。  

1982年から年会費無料セゾンカードの発行、即与信・即発行のカード開拓モデルを確立し、セゾンカウンターの全国展開を開始しました。その後も系列や業態などの枠組みを超えた多様なアライアンスに取組み、約250社と提携カードを発行し、全国のセゾンカウンターですぐにカードをご利用いただける環境を構築してまいりました。また、経営理念に「サービス先端企業」を掲げ、1990年にサインレス決済、1997年にアメリカン・エキスプレス社との提携開始(アメリカン・エキスプレス社と日本初のライセンス契約を締結)、2002年永久不滅ポイントプラットフォームの構築、2016年には永久不滅ポイントで投資を疑似体験できる「ポイント運用サービス」の提供を他社に先駆け開始するなどイノベーションによって時代の変化を先取りする画期的な商品、サービスを生み出してまいりました。  

さらに、独立系の強みを活かし、リース&レンタル、信用保証、住宅ローンをはじめとするファイナンス商品の提供など、多様なビジネスを展開しています。 現在は、中期経営ビジョンに「Neo Finance Company in Asia」を掲げ、アジア圏内への進出を拡大し、グローバル事業展開を推進しております。

倉見2019年3月に社長に就任されました。経営理念として掲げている「サービス先端企業」についてお聞かせください。

山下私たちは、サービス先端企業として「顧客満足主義の実践」「取引先との相互利益の尊重」「創造的革新の社風創り」の3点を共通の価値観として浸透させ競争に打ち勝ち、お客様、株主の皆様、そしてすべての取引先の皆様の期待に添うようにチャレンジを続け、より豊かで便利な社会の発展に寄与することで、持続的な企業価値の向上と社会への貢献を果たしていきたいと考えています。

倉見ミッションステートメントについてもお聞かせください。

山下ミッションステートメントとして『お客様と50年間を共に歩むファイナンスカンパニーへ ~お金に関する「安心」と「なるほど」を~』を掲げて2019年度からの3年間の中期経営計画を策定しました。「人生100年時代」といわれるなか、サービス寿命の長いクレジットカードをタッチポイントに、お客様のライフステージの変化に合わせてお客様一人ひとりに寄り添い、多様なマネーサービスを提案し続けられる真のファイナンスカンパニーを目指しています。

倉見今後のクレジットカードの成長戦略・構造改革についてお聞かせください。

山下当社ではかねてより、各商業施設などで提携カードのサービスの一環として申込後、即時に特典・付加価値を提供できるカードの「即日発行サービス」を強みにペイメントビジネスに取組んでまいりました。この「即日発行サービス」については、現在の顧客ニーズやユーザビリティーに合わせた形で提供していくことが重要と考えています。  

その具体的取組としては、クレジットカードのお申込み後プラスチックカードの受け取りを待たずにすぐに利用したい、というお客様の要望に応えるため、2019年11月に提携先アプリと連携した提携先店舗でご利用いただける「セゾンカードレス決済」を開始し、パルコ、ヤマダ電機で提供しています。

また、これをさらに発展させ、スマートフォン上でバーチャルなクレジットカードを発行(アプリ上に番号などカード情報を表示)することで、実店舗でのスマートフォン決済やオンラインショップなど利用先を選ばず、すぐにご利用いただける新ペイメントサービスを今年の秋より提供してまいります。  

新ペイメントサービスではバーチャルなクレジットカード発行後に、フィジカルのクレジットカードを発行する場合も、カード券面に番号が表示されることに対するセキュリティ上の不安を解消するため、カード券面にクレジットカード番号、有効期限、セキュリティコードを一切表示せず、最高のセキュリティを実現します。  

一方で、当社ではプロセシング事業の拡大にも注力しています。2017年11月に移行した新共同基幹システムは順調に稼働しており、この新基幹システムを武器に、多種多様なアライアンス先に対し新基幹システムの利用を提案し、事務処理の受託も含め、プロセシング事業を更に拡大してまいります。

倉見先ほどのお話の中で、中期経営ビジョンとしてアジアを中心としたグローバルな事業展開を推進しておられるとのことでした。詳しくお聞かせください。

山下当社では2013年からグローバル事業を本格展開し、成長著しいアジア圏内において各国に即したリテール金融ビジネスを現地企業との事業提携により展開しており、現在9ヶ国へ進出しています。台頭する中間層や銀行の金融サービスを受けられない層(Unbanked層)を対象にスマートフォンを中心にした金融サービスを提供することでファイナンシャルインクルージョンの実現を目指しています。今後も中長期的な海外戦略の基盤づくりと事業展開を加速させ、「アジアにおいて他にないファイナンスカンパニー」にむけて挑戦を続けてまいります。

倉見SDGsをベースにESG経営を実践されていると伺いました。具体的にどのように取組まれているのでしょうか。

山下「サービス先端企業」という経営理念のもと、当社独自のノウハウ、経営資源、そして社員一人ひとりの経験を活かし、クレディセゾンだからこそできる社会の発展・課題解決に日々の事業を通じて貢献することで、今よりもっと便利で豊かな持続可能な社会をつくっていくことを基本的な考え方としています。  

環境保全の取組みとしては、インターネットを活用し、カード利用明細書やカード申込みのWEB化による紙消費量の削減に取組むとともに、対面においてもデジタルカウンターを活用し、カード申込受付時の95%をタブレット端末で受付するなど、ペーパーレス化を推進しています。  

社会貢献の取組みとしては、2010年より「次世代を担うこどもたちに豊かな自然を引き継ぐ」ため赤城自然園を運営しています。赤城自然園は、赤城山西麓の標高600から700mに位置し、花々が咲き誇る春、生命力にあふれる夏、木々が実り色づく秋、野鳥の声が響き渡る冬と、日本の豊かな四季を織りなす美しい自然を感じることができる森です。  

赤城自然園のフィールドを活用し、地域と連携した環境保全活動をはじめ、次世代支援につながる取組み、観光活性を通じた地域貢献など、多様な活動を行っています。  

さらに、当社ではこれまで培ってきた金融に関する幅広い知識や経験を活かし、次世代を担う子どもたちへ向けた金融教育活動の一環として、全国の中学生、高校生を対象に出張授業を行っています。この「出張授業~SAISON TEACHER~」は、ご家庭や教育現場が抱える金融教育のニーズに応え、「金融に関する正しい知識」「金銭感覚」を身につけ「自立した消費者」として子どもたちを育成することを目的に、2020年より取り組んでいます。

社員の声に耳を傾け「柔軟な働き方」と「スピーディな事業化」を推進

倉見クレディセゾン社では、働き方改革に対してどのように取組まれていますか。

山下当社は「女性活躍推進」「ダイバーシティ」という概念が普及する前の1980年代から、女性の社会進出を推進すべく女性を積極的に採用してまいりました。多様な職種、職位で女性の活躍を実現するため、結婚、出産などのライフイベントによって就業の継続やキャリア形成を諦めることがないよう、社員の声を聞きながら制度を拡充させてきた歴史があり、その結果、女性社員比率は約76%、女性管理職(係長相当職以上)比率も50%になっています。  

長い年月を通して、制度の拡充と実績を積むことにより、女性に限らず、さまざまな制約を持ちながらも仕事との両立を目指す仲間の状況を理解し、サポートし合う風土を醸成してまいりました。  

2017年9月には「社員一人ひとりのポテンシャルを引き出す環境・風土創り」を目指して、これまで専門職やメイト社員(有期雇用契約)など複数に分類されていた社員区分を撤廃し同一労働同一賃金としました。全社員を無期雇用としたうえで、「担う役割」に応じた処遇を実現するとともに、確定拠出年金や福利厚生など、全制度を全社員共通の人事制度に統一しました。  

また、通勤や移動による時間のロスがない働き方で生産性向上を実現するテレワークやフレックスタイム制、育児や介護などに限らない短時間勤務、1時間単位で取得できる時間単位有給休暇などを導入し、社員が個々の事情にあわせた多様な働き方を選択できるようになりました。  2019年からは、個々のキャリア開発を支援する仕組みとして、社員一人ひとりの育成プランを組織的に考える人材育成会議や、上司と部下が双方向でコミュニケーションを行い安心して挑戦できる環境を作るための1on1ミーティング、社員が自ら主体的に考えるキャリア開発支援などを導入し、社員と組織のさらなる成長を目指しています。  

あわせて、2019年より社員のアイデアをよりスピーディに事業化するための社内ベンチャープログラム「SWITCH SAISON」を実施しています。「SWITCH SAISON」は社員がアイデアを生み出す風土を醸成すること、社会のニーズやマーケットの変化に対応した新サービスを創出することを目的としています。すべての社員に応募資格があり、事業化に繋げるべく社内の有識者が発案者と伴走するメンター制度によるサポートや、事業化に当たっては発案者の柔軟な人事異動を実施するなど社員が挑戦できる環境も整備しています。

倉見山下様はクレディセゾン社の社長でいらっしゃるとともに、日本クレジット協会の副会長でもいらっしゃいますが、今後協会の果たす役割をどのようにお考えでしょうか。

山下まず、本年6月に終了した「キャッシュレス・ポイント還元事業」により、中小・小規模事業者も含めて約115万店が参加したことにより、カード決済のインフラは整ってきました。また、新型コロナウイルス感染症の影響により3密(密閉、密集、密接)を回避するために、キャッシュレス決済を利用したいというニーズもさらに高まってきていると感じています。  

このニーズにお応えすべく、協会会員の皆様の協力を得て、クレジット業界全体でお客様が安全・安心に多様な決済手段を利用できる環境を整備すること、不正利用の防止やセキュリティ対策の強化に継続的に取組んでまいりたいと思います。また、クレジットカードをご利用いただくお客様にもセキュリティ対策に対してご理解をいただけるよう、協会として情報発信や啓発活動を継続的に行っていきたいと考えています。

[PR]提供:日本クレジット協会