5月18日、マルハニチロは、子会社の桜島養魚において、ブリ・カンパチの尾数自動計測を行う「AIトラッキング魚体計数機」システムを、今年4月から運用開始したことを発表した (マルハニチロプレスリリース記事)。このAIトラッキング魚体計数機の構築について、マルハニチロと計測システムを構築したTAI(Tokyo Artisan Intelligence)、及びFPGAボードであるUltra96を提供したアヴネットの3社の担当者に、話を伺った。

~導入の動機~

――マルハニチロがアヴネットの評価ボードUltra96の導入に至った経緯を教えてください

そもそもの動機は沖合船上で養殖魚の尾数計測を自動化したい、というものだった。理由は以下、4点が挙げられる。

1.従業員の人為的ミスの軽減:尾数の数え間違いを減らす事で商品力向上

2.従業員の体力的負担の軽減:跳ね回る魚の数を数えるのは体力的にも大変な作業で、これを軽減する事での安全性向上

3.労務費等の経費削減:計測にかかる人員そのものを減らす事で、結果的に利益を向上

4.労働人口の減少対策:今後、少人数での養殖事業の運営を可能にする可能性の追求

TAI:元々はAI EXPO 2019で、弊社の前身にあたるシンコムのAI事業部として高速物体検出のデモ展示をしておりました。そこにマルハニチロ様がお越しいただき、弊社の技術に興味を持っていただきました。その後、商談を進める中で、本プロジェクトが実現することになりました。

活魚のカウントを行うという目的において、AIのアクセラレーターは必須でした。また、養殖場の船上という環境下では防水、塩害対策などが考慮された、できるだけコンパクトなスペースにバッテリーと共にシステムを収める必要がありました。

そのような環境下で高速かつ高性能なAIを動作させるためには、GPUやその他のアクセラレーターでは消費電力や発熱及び信頼性に欠けているため、FPGAが最も適していると考えていました。また、弊社が保有しているニューラルネットワークの圧縮技術は専用ハードウェアを構成できるFPGAとの相性も良いという理由もありました。

その一方、尾数カウントシステム全体としての構成を考えた場合、AIのみで実現できる訳ではないので、汎用CPUとかConnectivityも必要になり、こうした状況を勘案して私たちが提案したのが、アヴネットのUltra96でした。

  • アヴネット Ultra96 開発ボード

    アヴネット Ultra96 開発ボード

マルハニチロ:弊社が求めていた機能の充実性とは、非常に小型でコンパクトであること、消費電力が少なく、給電線の確保が不要なこと(バッテリー稼働に対応)、Wi-Fi出力出来ること、プログラムの書き換えが容易であることの4点でした。特にコンパクトであることは、システム全体の防水性・耐久性を充分に向上させる大きな要因となりました。

アヴネット:TAI様とは一世代前のZYNQ-7000搭載のZedBoard時代からご一緒させていただいておりますが、組込みに適した小型・軽量で有りながら、高い処理性能を得られるソリューションというニーズに対しては、Ultra96が適正だとお話ししたのが始まりです。

Ultra96はソフトエンジニアの観点でも、Edge IoT開発が気軽に出来るように、カメラ・ディスプレイやWi-Fi/ Bluetoothインターフェースを持ち、FPGA部分の設計を行わずともLinuxベースの設計でスタートできる小型モジュールです。組込み機器で問題となる消費電力も抑え、2019年にアップグレードしたUltra96 V2ではファンレスモデルを提供しています。

~システム構築~

――システム構築時のエピソードをお聞かせください

マルハニチロ:場所が沖合の船上というのは流石に過酷でした。開発の過程で、TAI様のSEは船酔いにかかられたり、PCが塩害で破損したりと大変ではありましたが、それでも設計部門がここまで最前線に出て一緒にやってくださるというのは、我々にとって非常に珍しい存在でした。これは開発担当のみならず、現場職員も同意見です。

もちろん、導入する過程で現場情報の要点はTAI様に伝えながら進めたつもりでしたが、今回の一番の成功要因はTAI様が作業現場まで何度も足を運び、波をかぶりながらも現場でシステム構成の検討・修正をわれわれと討議しながら進めた事ではないかと思います。

TAI:今までもエンジニアが顧客先で評価することはありましたが、基本的には第3次産業で、まれに第2次産業として工場での評価部分まででした。ただ画像認識AIは、使用する環境や条件にかなり左右されるため、実際の養殖場におけるオンサイト確認や画像取得が必須となり、エンジニアが直接船上で作業を複数回にわたり行いました。

メンバーも時に船酔いをしながら、実際の作業員と同じ体験をする中で、現場で使ってもらうために本当に必要なことをキャッチアップして製品に盛り込むことができ、決して開発は一筋縄ではいかなかったものの、これを無事乗り越えてシステム稼働に繋がりました。

  • システム概要

    システム概要

~今後の展望~

――このプロジェクトの成功をきっかけに、各社が今後どのように取り組まれていくのかお聞かせください。

マルハニチロ:現時点ではブリ・カンパチの成魚についての効果を検証済ですが、今後はブリ・カンパチの稚魚、あるいはそれ以外の魚種についても運用を拡大していく予定でいます。今後もTAI様やアヴネット様と、養殖産業以外でもAI・IoT技術開発を協働で生み出していきたいと考えております。

TAI:弊社は2020年3月に起業ということもあり、現時点では、まだ具体的な第1次/第2次産業分野での実績はありませんが、AI、特にエッジAIは現場に即したシステムになっていなければ、PoCまではできたとしても、量産には結び付きません。今後も、TAIでは実際に使ってもらえるように、現場に即したAI開発を進めてまいります。

アヴネット:これまでは部品として見られてきたFPGAボードですが、TAI様のようなパートナー企業と協力し、さまざまなマーケットに利用可能な「プラットフォーム」してハード設計者の方々だけではなく、ソフト設計エンジニアの方々にも便利に使って頂けるモジュールとしての提案を今後も促進していきたいと考えています。

TAI:クワッドコア ARM Cortex-A53搭載のZynq MPSoC及び、Wi-Fiやその他十分なインターフェースが名刺大サイズの1枚のボードに収まったUltra96は、まさに今回のアプリケーションに最適なデバイスでした。アヴネット様がUltra96用に公開されているPYNQもAIアプリケーション開発との相性が良く、開発時間を短縮することに非常に役立ったと思います。

アヴネット:Ultra96に関心を頂くお客様は、業種というより、インテリジェント・エッジ製品設計を目指すお客様が多いと感じています。AIを使ってリアルタイムに分析、結果を表示・送信したいお客様が多いですね。業界は多岐にわたり、産業、医療、モビリティそして今回のような1次産業関係でも多くお話を頂いております。それぞれの業界で新しいアプローチをしているマーケットでは、AIやIoT活用のアクションが具体化していると思います。

産業の世界では生産性や安全性の向上、社会インフラでは行動や動向モニタリング、医療では遠隔や熟練度サポート、そして、一次産業では新しい生産スタイルの確立を目指すお客様の引き合いがあります。どれも、新しいライフスタイルを目指すもので、それに触れるだけでワクワクする案件が増えています。

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今後はニューノーマル時代を生き抜くためにもAIやIoTの活用が推進されていくなか、ますますアヴネットのUltra96が活用されてゆく事例が増えてゆくであろう。

[PR]提供:アヴネット