1987年に設立され、高品質な産業用ネットワーキング製品をグローバルに提供しているMoxa(モクサ)。台湾本社を中心に世界各国に12の拠点を開設しており、日本においても2019年~2020年初頭を目指して事務所設立の準備を進めている。そのMoxaが現在注視している分野が「鉄道のデジタル化」市場だ。

2019年11月7日に東京・秋葉原で開催されたMoxa主催のセミナー「Smart Rail Seminar」では、世界の鉄道業界で培われた同社の経験から見えてくる鉄道産業におけるネットワーク技術のトレンドや、鉄道システムでのサイバーセキュリティの現状などが解説された。

  • 会場では鉄道産業向けWi-Fi技術や車両-地上間通信システムおよび運転手用パネコンについての展示を用意
  • 会場では鉄道産業向けWi-Fi技術や車両-地上間通信システムおよび運転手用パネコンについての展示を用意
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海外の導入事例から見えてくるCBTCの最前線

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン・ゼネラルマネージャー チャールズ・チェン氏

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン・ゼネラルマネージャー チャールズ・チェン氏

「特にアジア・太平洋地域における鉄道のデジタル化市場は非常に大きな成長を遂げています」

セミナーの開会挨拶でこのように述べたのは、Moxa アジアおよび台湾ビジネスディビジョン・ゼネラルマネージャーのチャールズ・チェン氏。日本を含めたアジア・太平洋地域における都市化の進行が鉄道産業に大きな変化をもたらしている中で、今後注目すべきキーワードとして「TSN」「Shift2Rail」「5G」「サイバーセキュリティ」「ネットワーク管理ソフトウェア」などを挙げた。

グローバルな動きとなる都市化の進展と、それに伴う鉄道産業の変化については、エンゾ・チェン氏により詳しく説明された。同氏は「Wi-FiベースのCBTCの必要性と課題」をテーマにセッションを展開。2018年に国連が取りまとめた報告書においてすべての地域で都市化率が上がっており、日本でもすでに91%、将来的には95%が都市部に住む状況になることを指摘した。都市化が進行すれば交通インフラの拡大は必然となり、都市鉄道と都市間をつなぐ都市鉄道にも大きな影響を与える。

MOXA 鉄道ソリューション アーキテクト エンゾ・チェン氏

Moxa 鉄道ソリューション アーキテクト エンゾ・チェン氏

そこで求められるのが都市鉄道の輸送力を高めるテクノロジーだ。「列車間隔の短縮」というニーズには「CBTC(無線式列車制御システム)」、「乗客スペースの拡大」というニーズには「車両内設備/配線の削減」などの無線技術が注目されているという。このほかにも、欧州における鉄道に関する研究開発プロジェクトとなるShift2Railの中で開発されている「バーチャル・カップリング」(車両同士を有線でつなぐことなく連動させる無線技術)など、注目すべきテクノロジーが登場してきた。

CBTC向けのWi-Fi無線システムに関する課題としてエンゾ・チェン氏は次のように語る。

「信号技術にWi-Fiのテクノロジーを使用するには、いくつかの基本的な機能が担保されなければなりません。ローミング時間は『50ミリ秒以下』、パケット成功率は『99.999%』、そしてデータ遅延は『5ミリ業以下』に抑える必要があります」

一般的なWi-Fiテクノロジーでこれらの要件を満たすことは難しく、CBTCを導入するにはパフォーマンスを向上させるための技術やメカニズムを追加する必要があるとのことで、これらの要件をクリアするためのMoxaの取り組みについて、タイ バンコクの高架鉄道システムを「更新」した事例を紹介した。

本プロジェクトの流れは「ラボでの新技術(Wi-Fi製品)の検証」→「屋外の試験」→「現場の調査」→「調査結果から実際の展開を決定」→「実際に列車を走行させて確認」となるが、今回のような更新のケースでは既存インフラによる制限があり、新旧の無線製品が併存する期間も列車の運行を妨げてはならない。そのため非常に困難なミッションになったとのことで、試験運行フェーズで2つのシステムが同時に動作する環境を構築するため「ナローバンド技術」を活用し、周波数帯の利用を改善したとエンゾ・チェン氏は話す。

今回の事例においては、同じ場所であっても時間などの状況によって干渉状況が変わってくることが明らかになったという。Moxaではラボでの試験で無線の特性と干渉の影響を把握し、信号フィルターを設計。さらに、チャネルに干渉があると、すばやく最適なアクセスポイントにハンドオーバーする「スマートハンドオーバー」や、一定時間ごとに無線の動作チャネルを切り替える「周波数ホッピング」などを導入し、干渉対策を行っている。これらは実装が難しい技術といえ、Moxaでは継続した研究が進められている。

また、今後CBTCの無線技術に影響を与えていくと思われるものとして「サイバーセキュリティ」や「V2V技術」が挙げられた。特にV2V(車車間通信)は、5Gの登場により注目が高まっているテクノロジーで、自動車だけでなく鉄道分野でも活用が期待されているという。

デジタル化の進行でサイバーセキュリティの重要性も高まる

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン 日本営業部 長澤 宣和氏

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン 日本営業部 長澤 宣和氏

「サイバーセキュリティ」については、Moxa 日本営業部 長澤 宣和氏によるセッション「鉄道システムとサイバーセキュリティ」において詳細に解説された。長澤氏は、日本における鉄道サイバーセキュリティの指標のひとつとして、国土交通省の「鉄道分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン」を紹介し、Moxaが海外で手がけている事業におけるサイバーセキュリティを提示。鉄道システム要件にサイバーセキュリティの項目が含まれることが多くなってきたと語り、重要な指針として完全かつ包括的な産業用セキュリティ規格である「IEC62443」を取り上げた。

実際のとこと遠くない将来に鉄道向けサイバーセキュリティのIEC規格が出てくることが予想されているが、その規格もIEC62443やShift2Railをふまえたものであるため、IEC62443の内容が重要となることは間違いない。同セッションでは、IEC62443シリーズの構造から「識別および認証の制御」「利用制御」「システムの完全性」といった7つのFR(基本要件)、実装のステップまでが解説され、鉄道システムにおけるサイバーセキュリティの現状が確認できた。

長澤氏は、鉄道会社が取っているセキュリティの施策として「サイバーセキュリティ・タスクフォース・チームの創設による規格・ドキュメントの調査とリスク評価」「コンサルタントの雇用」「パートナーとの共催によるワークショップの実施」「PoCプラットフォームの構築」などを紹介。鉄道向けシステムに継続的な投資を行い、製品開発を続けているベンダーのソリューションを選ぶことがセキュリティ向上には重要と語り、セッションを締めくくった。

IoT技術の活用や最新の鉄道システム計画事例を確認

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン 日本営業部 レオ・リン氏

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン 日本営業部 レオ・リン氏

今回のセミナーでは、鉄道産業におけるIoT技術の活用や鉄道通信システム計画の事例を解説するセッションも設けられ、Moxa 日本営業部のレオ・リン氏によるセッション「産業用IoT技術の鉄道への応用」では、PA(放送)/PIS(乗客案内システム)、CCTV、TCMS(列車制御管理システム)、P-Wi-Fiなど、列車内システムのデジタル化の進行と、それに合わせたIoT活用のトレンドについて確認。車両内のシステムのデータや駅構内/沿線(架線、レールなど)のデータを収集・分析することで、効率化や安全性、顧客満足度の向上が図れることが解説された。

さまざまな産業・用途向けにIoT Gateway製品が提供されているが、列車システム向けのIoT Gatewayを選択する際にはロードバランス、マルチキャリア、プログラム可といった追加機能と対応する通信手段(GPS、Wi-Fi、セルラー)が重要とレオ・リン氏。車両内CCTVや架線監視、客席状況の確認といった用途におけるIoT Gatewayの活用例を紹介した。

ビボテックジャパン 営業部長 大舘 靖氏

ビボテックジャパン 営業部長 大舘 靖氏

車両や架線の監視で使われる監視カメラに関しては、ビボテックジャパン 営業部長 大舘 靖氏によるゲストセッション「鉄道産業向けIP監視カメラシステムのトレンド」で、より詳細な解説がなされた。Moxaと同じく台湾で設立され、2018年には日本法人も立ち上げたビボテック(VIVOTEK)では、IP監視カメラシステムのハードウェア/ソフトウェアについて、マーケティングから設計・製造・販売までを手がけている。

鉄道産業向けのカメラシステムには10年ほど前から参入しているとのことで、これまで培われてきた豊富な知見から車両向け監視カメラシステムのトレンドを確認。アップ/パノラマ/マルチビューに対応し、少数のカメラで車両全体の監視を実現する「全方位カメラ」や、パンタグラフ/架線の監視を行う車上設置型カメラといったソリューションが紹介された。大舘氏は、ディープラーニングなど監視カメラで撮影した画像を活用するための技術が今後ますます重要となっていくとし、画像解析技術の進化がIP監視カメラの活用範囲を広げることを期待すると語った。

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン 日本営業部 鉄道事業開発マネージャ ケンジ・リン氏

Moxa アジア 兼 台湾ビジネスディビジョン 日本営業部 鉄道事業開発マネージャー ケンジ・リン氏

最後のセッションとなった「鉄道通信システム計画の事例紹介」では、Moxa 日本営業部 鉄道事業開発マネージャーのケンジ・リン氏が登壇。2018年から中国の政府機関と連携して進めている駅内の統合監視システムについて紹介した。

同氏は従来の駅総合監視制御システムの課題として、改札や乗客案内、監視カメラなどがそれぞれ独立したシステムとして調達・運用されていることを挙げた。これではシステム間の連携に不具合が生じる可能性が高く、機能や設備の拡大も困難、OCC(中央統御式司令所)に負荷が集中し、障害が発生したときの損害が甚大なものになると警鐘を鳴らす。

その対策として「ハードウェアの統一」「OSの一貫性確保」「堅牢・柔軟な仮想化基盤」「設備自体の冗長化」「駅間のサブシステムの冗長化」「OCCの分散化」などがあり、これらを実現する「駅のクラウドベース運営プラットフォーム」を提案した。

また同セッションでは、列車データ通信システムのためのETB要件を定義した「IEC61375」に準拠した車上のネットワークデザインも提示。「WTBとECNの共存設計」「ETBとWTBの共存設計」と、TCMS 2本で冗長化した「フルイーサネット設計」の例を紹介したほか、近年注目が高まっている「Gigabit ETBN」製品についての解説も行われた。

「鉄道のデジタル化」の実現に向け、Moxaの持つ知見は大きな意味を持つ

Moxaが開催した日本初の鉄道産業向けセミナーとなる「Smart Rail Seminar」は、最新のトレンドとテクノロジーを業界関係者で共有するための場でもあった。グローバルで豊富なノウハウを培ってきたMoxaが日本での本格的な活動を開始したことで、日本の鉄道業界全体が大きなパラダイムシフトを起こすことが期待される。鉄道のスマート化を実現するために必要なソリューションを研究・開発し続ける同社の、今後の展開から目が離せない。

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