2019年11月1日、東京・六本木にて、企業の財務責任者を対象にしたイベント「Kyriba Japan Treasury Night 2019 Autumn」が開催された。最新の金融情勢、現状の課題、今後必要とされる取り組みなど、財務部門のあり方をさまざまな角度から見つめ直す内容で、当日は約40名が参加した。

  • Kyriba Japan Treasury Night 2019 Autumn

日本企業が警戒すべき、米国通貨・金融政策事情

博士(経済学)・帝京大学経済学部教授 宿輪 純一氏

博士(経済学)・帝京大学経済学部教授
宿輪 純一氏

セミナー冒頭では、経済学博士で、帝京大学経済学部教授を務める宿輪 純一氏が、「大きく動き始めた金融市場-米国通貨・金融政策に振られる日本-」と題して、財務リスクに関した基調講演を行った。

宿輪氏は現在の世界金融について触れ、米国は中国の次に、EUをターゲットに関税の引き上げを始めているが、これはトランプ大統領が国外に敵をつくり、国内をまとめて再選を果たすためだと指摘。「この状態は(大統領選が終わる)来年11月まで続きます。それまでの間、政治に端を発するいろいろな問題が発生してくることが予想されます」と警鐘を鳴らした。

また、アメリカでの信用リスクの高まりが、米レポ金利の高騰というかたちで現れてきており、金融危機の前兆を感じていると語った。ほか、FRB(連邦準備制度)での新決済システム「Fed Now」の導入、日銀ネット=香港の決済システム接続などによる影響などについて言及し、本イベントの参加者に備えを促した。

CFOが直面している財務部門の課題調査

基調講演後には、2019年5月企業のCFO(最高財務責任者)を対象に実施された調査の内容が紹介された。

調査によると国内グローバル企業における海外売上高の比率が平均58.4%にものぼる中、各企業の財務部門がリスクと捉える内容にも変化が生じてきている。前回調査(2016年)ではトップだった「為替リスク」に代わり、「内部不正リスク」「外部不正リスク」がランクアップ。これまで資金調達は現地任せが当たり前だったが、不正送金や国際的な詐欺の危険性が高まり、企業としても対策に注目していることが、このランキングからわかる。

またCFOは、自身の重要課題として「企業価値最大化を達成する投資マネジメントの徹底」「会計や財務オペレーションの効率化」「ファイナンス人材の確保・育成」を挙げ、これらを解決するうえで重要な経営資源は「人材」と「IT」だと回答している。特に「IT」は、前回調査の51.5%から76.1%へと主要度が上昇している。

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    CFOにとっての重要課題

国内グローバル企業大手3社が語る、財務の今と将来

こうした認識を共有したうえで、グローバル企業で財務部門の要職を務める3名を招いたパネルディスカッションへと進んだ。

  • 国内グローバル企業で財務部門の要職を務める3名を招きパネルディスカッション

    国内グローバル企業で財務部門の要職を務める3名を招きパネルディスカッション

パネリストは印刷用のインクや樹脂製品を手がけるDICの財務部長 堺 公紀氏、3PLや国際物流の大手に位置する日立物流の執行役 財務戦略本部 副本部長 本田 仁志氏、ポンプやコンプレッサーなどの産業機械メーカーである荏原製作所の経理財務統括部 財務部長 青木 仁氏。業界が異なる3社の財務責任者が、どのような課題や展望を持っているのかを探ることで、財務部門のあり方や、他社にも応用できる課題解決策を探っていく趣向だ。進行はキリバ・ジャパン 代表取締役社長 小松 新太郎氏が務めた。

トピック1:これから1年で想定される財務リスク

  • DIC株式会社 財務部長 堺 公紀 氏

    DIC株式会社
    財務部長 堺 公紀 氏

  • 株式会社日立物流 執行役 財務戦略本部 副本部長 本田 仁志 氏

    株式会社日立物流 執行役
    財務戦略本部 副本部長
    本田 仁志 氏

  • 株式会社荏原製作所 経理財務統括部 財務部長 青木 仁 氏

    株式会社荏原製作所
    経理財務統括部
    財務部長 青木 仁 氏

キリバ・ジャパン 小松氏:皆さんは今後の財務リスクについて、どのようにお考えでしょうか。

DIC 堺氏:米中貿易摩擦をきっかけに、景気の不透明感が強まっていると感じます。株価はそれほどではありませんが、多くの事業で売上が落ちてきており、財務的には総合的なキャッシュフローが見えにくい状況です。

日立物流 本田氏:私はM&Aやグローバル化に伴うリスクを4つのキーワードで捉えています。1つめは規模拡大に伴い、監視が行き届かなくなるために発生する不正リスク(Fraud)。2つめは為替リスク(Forex)。そして、タイムリーな情報入手と予測ができないことで生じる経営リスク(Forecast)、最後に海外現地法人での「型」が決まっていないことによるリスク(Format)の4つです。一般的に日本人は気合いと根性だけで海外展開しようとしがちですが、一定の「型」がないため現地スタッフの方はすごく苦労しているのではないでしょうか。

小松氏:その「型」というのは、何かを標準化したり、ツールを使って仕組みを統一したりするという意味でしょうか?

本田氏:ITツールもそうですが、ルールやワークフローなどの仕組みや仕掛けも含めてです。権限に対する考え方も、システム上で統制するのがよいと思っています。たとえば最後のペイメントのボタンを押すのを全く別の人が対応するとか……。こういうことはERPだけでは厳しいですね。

荏原製作所 青木氏:当社は3つのことをリスクとして想定しています。1つめは、マーケットの急変や災害で、現状は手元資金やコミットメントラインを厚く持つことで対応しています。2つめが外部の不正です。新興国のベンダーを開拓していると、メールのやり取りに犯罪者が関わってきて、詐欺に巻き込まれそうになることがあります。今は人海戦術で防いでいますが、かなり危ないですね。3つめは地政学的リスクです。国際情勢の急激な変化に合わせて、海外現法から日本への送金を前倒すなどの対応をしています。

小松氏:詐欺の話はよく聞きます。月締めのギリギリになりすましメールが来ると、信じ込んでしまうケースもあるようですね。

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    今後1年に想定される財務リスクの重要度

トピック2:財務人材の育成について

小松:続いては人材育成の取り組みについて伺います。財務には専門的な知識が要求されますが、どのように人材を育成しているか、またジョブローテーションについてもお聞かせください。

堺氏:今、財務系の拠点は国内外で4つあり、海外には日本からマネージャークラスを駐在させていますが、今後はITを使って、一拠点から複数拠点を見ていく一元化を進めようとしています。将来的には日本に集約するのではなく、トレジャラーという専門職の人材マーケットがある欧米で、デリバティブをきちんと分析できる人材を活用していこうと考えています。

小松氏:そうなると日本の財務部の人は……?

堺氏:組織は上に行けば行くほど、そこまでの専門性は必要なくなります。たとえば、為替のベンチマークを110円と決断するのと、そのベンチマークに対してどういうアプローチをするかでは、求められる専門性が違いますよね。ですから本社財務部でベンチマークを設定するという役割になるでしょう。

小松氏:割り切りや使い分けという発想に近いですね。日立物流さんはどうですか?

本田氏:私はプロフェッショナルな対社外スキル、コミュニケーションをとり事業を理解する対社内スキル、そしてマインドの3本柱を持った人材が必要だと考えます。マインドとは「主体的に動けるかどうか」ということで、動ける人材が成果を出せると考えます。

小松氏:そのようなマインドを作るために、どのような方法で意識改革をされているのでしょうか?

本田氏:自分で決断するくせをつけるために、たとえば上司に相談する際「どうしましょう」と聞きに来るのでなく「自分の意見を持ってきてください」と伝えています。もちろん会社ですから結論ありきで動くこともありますが、「トップがやれと言っているから」では、欧米の人には通りません。「なぜこうする必要があるのか」という、決定の根拠を整理して話し、日頃のコミュニケーションの中で訓練することが大切ですね。

青木氏:専門スキルの教育に関して、当社はローテーションや階層研修、OJTなどをやっています。私たちが会社として求めているのは、仕事をする中で問題に気づき、改善できる構想力のある人材です。そのため見込みのある人材は、財務・経理系に限らず、意図的に経営企画や社内プロジェクトや、全社的な仕事をする部門を経験する成長機会を設けるようにしています。

トピック3:企業における財務部門の役割

小松氏:最後のテーマです。財務部門の役割、経営に対する貢献度をどう意識されているのか、お聞かせください。

堺氏:財務の重要なミッションはBS、PL、CFを総合的に見て、自社には何がどこまでできるのか経営陣にアドバイスしたり、指針を出したりすることだと考えています。そのためにBS、PL、CFは常に意識してシミュレーションしています。

本田氏:財務は、普段から投資家や株主、金融機関と接し、第三者の意見を直接聞ける大事なセクションだと思っています。社内ではPLの数字だけで物事を考えがちですが、出資者にも出資する意図、金融機関には融資する意図があるわけです。そういう意図や意見を聞いて、「お金の出し手の代弁者」として機能することも重要です。出資者の意見を味方にしつつ、会社をよくしていくことは、財務部の役割の一つです。会社を引っ張っていくくらい影響力のある部門だと思って、日々仕事をしています。

小松氏:「お金の出し手の代弁者」というのは響く言葉ですね。

青木氏:当社の場合、かつては「財務=金庫番」でしたが、今は投資にも携わっています。資金という足下のことだけではなく、常に3~5年を見越した財務戦略を考え、随時アップデートしながら発信することで、企業価値向上に貢献することが求められています。ただ財務が前面に出て戦略をリードできないことがあったり、事業部門との考え方が噛み合わない状況もあったりするのが現実です。先々の戦略までわかりやすく話して、他部門を啓蒙していくことも、自分たちの仕事だと捉えています。

小松氏:確かに投資のあり方やリターンの考え方をしっかりと伝える「事業部門のサポーター」という役割を強化することも大切ですね。お三方、ありがとうございました。

活発な意見交換が交わされた、テーブルディスカッション

その後、セミナーはテーブルディスカッションに移った。6テーブルに分かれた参加者が、これまでの話を聞いて考えたことを討議し、その内容を発表した。そのいくつかをピックアップして紹介しよう。

  • 財務リスクの調査レポートや、パネルディスカッションの内容をふまえ、参加者による課題の共有、討議が行われた

    財務リスクの調査レポートや、パネルディスカッションの内容をふまえ、参加者による課題の共有、討議が行われた

「財務人材を変える方法として気になったのがマインドセットでした。外から人を入れたり、ITや経理と交わらせたり、海外含めて組織を縦串から横串にしたり、人と人とが交流する機会も設けて、少しずつでも人材育成の方法を変えていきたいと考えました」

「定年で人が減少していく中で、アウトソーシングや集約化に加え、RPAやAIで機械化する必要があるという話が出ました。デジタルに強い人材をどう確保していくのかも、財務の大きな役割になってきているようです」

「人材不足によって、日本から海外駐在員を出すのは難しいので、専門性の高いトレジャラーを地域統括会社ごとに採用する方法もあるのかなという意見が出ました」

「日本は終身雇用が前提で、そのなかで財務人材をどう育て、どういうキャリアパスを設定できるのかを考えますし、財務から他のプロジェクトへ移っていく人もいます。そういう環境では、トレジャラーが日本の財務に向くのだろうかという話になりました」

討議時間は短かったものの、それぞれの参加者が課題を共有し、考えを深めるきっかけとなったようだ。最後に主催者であるキリバ・ジャパンの小松氏は、企業の財務部門を支えていく意気込みを語ってセミナーを締めくくった。

キリバ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 小松 新太郎 氏

キリバ・ジャパン株式会社
代表取締役社長 小松 新太郎 氏


「当社は今回のようなセミナーや製品を通して、財務を"作業"ではなく、"人が価値を生む仕事"に変換することに尽力し、日本の財務強化、財務発信の企業競争力の強化を徹底サポートしていきたいと考えています」








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