「人、そして物の移動を支え、豊かで住みよい世界と未来に貢献する」を企業の使命に掲げ、90を超える国・地域にHINOブランドでトラック・バスなどの商用車を展開する日野自動車。トラック・バスのグローバル販売台数は2018年度に20万台を超え、連結売上高は1兆9,813億円に達する。

製品ラインアップは、大型トラック「日野プロフィア」(HINO 700シリーズ)や中型トラック「日野レンジャー」(HINO 500シリーズ)、小型トラック「日野デュトロ」(HINO 300シリーズ)などのほか、大型観光バスの「日野セレガ」、コミュニティバスの「日野ポンチョ」など。国内拠点は、本社・日野工場のほか、東京・羽村、群馬・新田、茨城・古河に工場を持ち、茨城・常陸大宮にはテストコースがある。

トラックやバスは一般乗用車と同様、開発における早さ、安さ、頑健さが求められる。一方で、特に、パワートレーン(駆動システム)は、故障や設計不良がクリティカルな問題となる基幹部品であり、自重だけで1トンを超える部品があるなど、設計から量産までのスピード、コスト、安全において、一般乗用車よりも困難な面がある。

そこで日野自動車ドライブトレーン設計部が取り組んでいるのが、解析主導型の設計である「Simulation Driven Design」だ。2019年9月10〜11日に行われたアルテアエンジニアリングのユーザーイベント「Altairテクノロジーカンファレンス」では、メッシュレスの高速構造解析ソフト「Altair SimSolid」を活用したシミュレーション事例が紹介された。本稿では講演を行ったドライブトレーン設計部 DT開発管理室 設計技術グループ 主管 須藤伸也氏に話を聞いた。

  • 野自動車株式会社 ドライブレーン設計部 DT開発管理室 設計技術グループ 主管 須藤伸也氏

    日野自動車株式会社 ドライブトレーン設計部 DT開発管理室 設計技術グループ 主管 須藤伸也氏

工数が6分の1に。SimSolidの魅力とは

──パワートレーン解析でSimSolidを適用した成果を発表されていました。そもそもどういう経緯でSimSolidを採用したのでしょうか。

須藤氏 去年のアルテアのカンファレンスに参加してそういう新製品があると知りました。日野自動車のドライブトレーン設計部では、CAE専任者を置かず、設計担当者が自らCAE評価を行っています。CAE評価のツールを導入する際に気をつけているのは、設計者が日常的に使えることです。そのためには、ツールの種類は最小限が望ましく、工数も最小限で、ユニット部品は可能な限りシステムに組み込んで評価できることが重要です。SimSolidはこれらの条件を満たせそうだと考えました。

──SimSolidは何が魅力だったのでしょうか。

須藤氏 CAEでは一般にFEM(Finite Element Method)が用いられますが、メッシュを切ったり境界条件を設定したりといった面倒な作業が発生します。解析のステップが多く、時間がかかるため、設計者にとって敷居が高いのです。そんななか「CADデータさえあれば、なんらかのリーズナブルな答えが出せそうです」と紹介されて、専任者のいない僕らとしては「じゃあ一度やってみましょう」となり、2019年2月から導入検討をはじめました。

「SimSolidはとにかく計算が速い」と語る須藤氏

「SimSolidはとにかく計算が速い」と語る須藤氏

──最初に触れてみたときはどう感じましたか。

須藤氏 とにかく計算が速い。これだったら設計者のみんなに使ってもらえそうだなと。結果についても、設計をしていくうえで設計の方向を決めるのには十分だと感じました。実際に導入して、いま半年くらい利用しているという状況です。

──計算が速いことで設計者には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。

須藤氏 CAE評価に時間がかかると、設計にそのフィードバックを反映させるのに時間がかかります。タイミングがどんどん後ろにずれて、設計の納期に間に合わなくなります。納期に間に合わせるために解析の対象範囲を減らさざるをえない場合も出てきて、あとから思わぬ手戻りが発生することも。計算の速さは、設計だけでなく開発プロセス全体に好影響をもたらすと感じています。

──SimSolidをどのように検証していったのか教えてください。

須藤氏 大規模アセンブリ(ASSY)への適用前に、まず、小単品部品における振動解析をFEMとSimSolidで行い、結果を比較しました。1つはトランスミッション用オイルフィルタガードという板厚2.3mmの板金部品で、もう1つは大型車クラッチハウジングという部品質量約30kgの部品です。いずれの部品もFEM解析とSimSolidのモード周波数の差は1%程度に収まることが確認できました。また、変形モードもFEMとSimSolidで合致。モデル作成から計算にかかる工数はSimSolidがFEMの6分の1でした。

SimSolidはとにかく計算の早さが際立つ

──精度はほとんど変わらないのに計算時間は6分の1に。それを受けて大型トラック用パワートレーンに適用を検討していったのですね。

須藤氏 はい。パワートレーン全体の曲げ振動に適用しました。パワートレーンはエンジン、トランスミッション、リターダー、プロペラシャフトなどから構成される大きなシステムです。重量はエンジンが1000Kg以上、トランスミッションが300㎏以上など合計2トン近く。振動で亀裂が入るとシャフトが飛び跳ねて事故につながります。モデルの部品点数は約2,000点、接続設定箇所は5000点。エンジン、トランスミッション、プロペラシャフトは種類がいくつかあり、組み合わせの合計は100種類以上に及びます。部品点数、組み合わせ数が多いため、FEMでは設計者の手に負えないという事情があります。

  • SimSolidをパワートレーン全体の曲げ振動に適用

    SimSolidをパワートレーン全体の曲げ振動に適用

──どのような結果が得られたのかを教えてください。

須藤氏 エンジン、トランスミッション、プロペラシャフトで曲げ共振点、変形モード、応力分布について計算し、実機での実験と比較しました。まず、固有振動数については、実機に対し20%程度高い値となりました。これについては、各接続部の剛性を見直す必要があります。また、固有値でのモードシェイプについては、実機と同様の結果が得られました。今後、ユニットの大小、ペラのバリエーションなどを追加計算し、さらに検証していきます。周波数応答による応力分布についても、実機同様の分布が得られました。絶対値についてはモードシェイプ同様、今後のバリエーション計算で追求していく予定です。

  • SimSolidによるパワートレーン大規模モデルでの曲げ振動計算結果

    SimSolidによるパワートレーン大規模モデルでの曲げ振動計算結果

──計算の速さについてはどうですか。

須藤氏 FEMでの工数は正確には出せないのですが、今回のSimSolidと同レベル規模のFEモデルを作成/計算すると仮定します。計算モデル構築に200時間以上、モード計算に4時間、周波数応答(応力)計算が10時間以上だとすると、SimSolidの場合は、計算モデル構築に8時間、モード計算に0.25時間、周波数応答に1.25時間(1ケース)になります。計算時間を含めない実作業工数で見ても、おおよそFEMの20分の1以下になります。

──SimSolidで作業が20倍以上高速化したとも言えますね。

須藤氏 はい、そうです。とにかくセットアップと計算が速くFEMでは1日2水準程度しかセットアップ/計算できなかったものが、10個、20個と簡単に計算できるため、答えを見つけやすくなっています。GUIもシンプルで操作しやすいので、設計者が日常的に使うのに適していると思います。また、表示機能でのブックマーク機能が非常によい。見たい結果をすぐ表示できるので、資料作成にも便利です。

アルテア製品を活用しながら新たな設計の在り方を探る

──改善してほしいところはありますか。

須藤氏 今回のように、モデル規模が大きいせいもあると思いますが、接続設定の確認表示に時間がかかりました。Assembly毎に設定した接続条件をそれぞれ保持したままモデルインポートできると改善されるので、ここは今後のバージョンアップに期待しています(※)。また、モデルファイル内でAssembly/Partの移動ができるとなおいいですね。※2019年11月時点

──SimSolidに対する全体的な評価をお願いします。

須藤氏 パワートレーンのような大規模振動計算にも十分適用可能です。FEM計算と比較すると、計算必要工数は圧倒的に小さく、精度も単品・小規模システムでは遜色ありません。これにより、設計者が自ら少ない工数で簡便にシステムを解析することができます。また、設計段階であらかじめ厳しいところの仕込みが可能となり、設計の手戻りを減らすことができます。

──日野自動車では、HyperWorksをはじめ、アルテア製品を数多く利用していらっしゃるのとのことですが、今後、どのようなチャレンジを行っていくのか教えてください。

須藤氏 振動解析ではSimSolidをかなり使っていて、ほかのプロジェクトへ適用し始めています。ただ、さきほど固有振動数が20%ずれているという話をしたようにまだ精度が適切でないところもある。それを10%に入るように精度を上げていこうとしています。また、構造解析・強度解析にも今後力を入れていきます。

トラックやバスにも電動化の流れが来て、エンジン車の更なるCO2削減要求がある中で、CAEだけでなく設計のやり方そのものを変えていかないと流れの速さについていけないと考えています。ポイントは、いかに設計の最初の段階で、クリティカルなところを見つけられるか。最終形状の図面を引く前には詳細計算・設計評価が全部終わっている。そういった設計のあり方を作り出していきます。

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