オウンドメディア、SNS、メール、スマホアプリ、リアル店舗など、消費者との接点となるチャネルは、日々新しいものが生み出されている。消費者の嗜好も多様化する中、デジタルマーケティングを高度化、緻密化させなければ、企業はもはや "適切な消費者へ適切な情報を提供する" ことが叶わなくなりつつある。認知、検討、比較、購入、ロイヤルカスタマー化というカスタマージャーニーがある中、どのフェーズの消費者にどんな手段でアプローチを行うべきか。本稿ではメールとSNSの使い分けを軸にして、このテーマを解説していきたい。

メールとソーシャル、それぞれの役割を理解しているか

今日のデジタルマーケティングにおいては、消費者の使用するスマートフォンに直接リーチすることができるSNSの活用が、ひとつのトレンドになっている。Twitter、Facebook、Instagramではユーザー属性を細かく指定したターゲティング広告が配信でき、LINEはフォロワー(お友だち登録したユーザー)へのプッシュ通知という形式でターゲットへ情報を届けることが可能。友人・知人と会話したり、近況を共有したりする "消費者にとって最も身近にあるメディア" を活用することで、企業は消費者との関係構築を図ることができる。

一昔前までは、企業からの情報発信はもとより、個人間でのコミュニケーションにおいても最も用いられた手段は言わずもがな、メールであった。では、こうして企業のSNS活用が浸透する中、メールはマーケティング手段としての役割を終えたのだろうか。 メールによる情報発信は古くからデジタルマーケティングの手段として活用されてきた。SNSの台頭によりその存在感は薄れつつあるが、こうした現状は決してメールマーケティングの終焉を意味しているわけではない。企業のマーケターが改めて考えなければならないのは、 SNSとメールでは、"対象となる消費者のファネル" と "マーケティング手段としての役割" が全く異なるということだ。

  • メールとSNS、それぞれに適切な役割を与えていますか?

    メールとSNS、それぞれに適切な役割を与えていますか?

SNSは広いリーチとカジュアルなコミュニケーションを行う手段

BtoCのマーケティングを例にみていこう。商品・サービスを販売するECビジネスの場合、情報発信の目的は大きくは次の4つに分類することができる。

(1)商品・サービスを認知してもらう
(2)商品・サービスへの関心を高めてもらう
(3)購入への背中を押す
(4)購入後の再購入や利用継続を促す(ロイヤルカスタマー化)

マーケティングにあたっては各フェーズでどのようなチャネルを使いコミュニケーションを取るかが重要となる。多くの消費者にリーチして商品・サービスを認知してもらい、継続的なブランドコミュニケーションを通じて商品・サービスへの興味関心を高めてもらう。 (1)(2)のフェーズにおいていえば、消費者はまだ受動的に情報と接触する機会が多い。このため、"消費者にとって最も身近にあるメディア" であるSNSの活用が有効となる。消費者の生活に近しいセール情報を発信する、話題性のあるトピックを扱ったコンテンツにユーザー呼び込むといった、SNSのカジュアルさを生かした戦略が具体例として挙げられる。

しかし、興味関心が高まり購入に向けて具体的な検討をする(3)のフェーズに入ると、消費者の態度は受動的から能動的へと180度転換するようになる。商品やサービスについてより深く、よりリッチな情報が欲しくなり、自らオウンドメディアやレビューサイトなどを来訪する。ひとつでも多く、能動的に商品・サービスの情報を手に入れようとする。この段階で消費者が求めるのは、特定の商品・サービスに関する情報の "量" だ。この段階でのSNSには、「掲載できる情報量が少なすぎる」という課題が生まれてくる。

また、(3)のフェーズに入った消費者と深いコミュニケーションを図るためには、企業側がその消費者のことをより深く理解している必要がある。SNSはあくまで外部のプラットフォームだ。収集できる消費者の情報には限界があり、個人のパーソナリティに関わる情報は収集できないことも多い。情報を発信した後のフィードバックについても、インタラクションの量を把握することはできても、"誰が" "どのようなアクションをしたか" までは把握することが難しい。SNSは、カジュアルな情報を発信して消費者との緩やかな繋がりを生み出すことは得意だが、深いエンゲージメントを構築することには不向きな場合が多い。

メールは、検討フェーズ以降の消費者の背中を押す手段

SNSと異なり、メールは購入検討フェーズに入り積極的に情報収集をしている消費者に対して有効なコミュニケーション手段だ。アドビシステムズが行った調査では、ユーザーが企業からオファーを受ける手段として、ソーシャルメディアやブランドのモバイルアプリを好んでいないことが示唆され、「メールマガジンのオファーが最も好む」と回答した消費者が52%にのぼったことを報じている。同調査ではこの結果について「消費者は企業とのオプトインメールによる関わり方を好んでおり、それは握手と同じで双方の認識があってこそです」と分析。このことから消費者は、製品の購入にあたって、自身が求む提供元の情報を検討材料として重視することが推測される。マーケティング戦略におけるメールの役割は、先の(3)において、依然として高いのだ。

SNSと比較すると、メールは表現の幅が広く、掲載できる情報量も圧倒的に多い。

例えばTwitterは、文字数制限により掲載できる情報量に限りがある。URLを掲載してウェブサイトへ誘導することは可能だが、消費者にとってはそのワンクッションが、閲覧をやめる(離脱する)要因となりかねない。また、Instagramは "写真や動画を見せるSNS" という大前提があるため、仮にテキスト情報を盛り込んでもあまり読んでもらえない。

これに対してメールは、HTMLでリッチな表現が可能であるほか、テキストの情報も多く盛り込める。企業が発信したいコンテンツを自由に設計でき、なおかつメールを読んでもらうだけで届けたい情報を受け取ってもらうことが可能になる。

また、メールは基本的に、企業が保有する情報をもとに配信する。登録時に収集した属性情報や趣味嗜好情報、オウンドメディアのアクセス履歴や行動履歴、過去のメールの開封率・完読率、メールからウェブサイトへの遷移といったデータから、消費者一人ひとりの嗜好性や検討の積極性、関心の高さなどを測り、送信対象を絞り込むことが可能だ。昨今話題となっている「One to One マーケティング」を実践する上でも、メールは有用な手段だと言えよう。

こうした(3)の役割だけでなく、(4)のロイヤルカスタマー化にあたってもメールは有効だ。購入履歴や購入した日からの経過時間などを加味してメールによる適切かつ継続的なコミュニケーションを図る。これによって、顧客との長期的な関係づくりを推進することができる。メールは、見込み顧客や既存顧客とのエンゲージメントを深めるために重要な役割を持っていると言えよう。