「『機械』を進化させ、豊かな生活空間をつくる『ひと』と『作業』の関係をより快適に、より高度に、より効率的なものに」などの企業理念を掲げ、建設機械や環境関連製品の開発・製造・販売・レンタル・アフターサービスを行う日立建機。連結会社は国内10社海外75社で、2019年の売上高は1兆337億円、連結従業員数は2万3858名に及ぶ。

製品ラインアップは、油圧ショベルやホイールローダーなどの建設機械に加え、鉱山などで使用されるマイニング機械としてダンプトラック、超大型油圧ショベルを展開。そのほか、安全性と生産力の向上とライフサイクルコスト低減に寄与する鉱山運行管理やICT施行などのソリューションビジネスを展開している。

建設機械を取り巻く環境は大きく変化している。排ガス規制や省エネ、電動化といった市場の環境変化やユーザー要求の多様化にあわせて、適正な仕様・品質の製品をタイムリーに市場へ投入することが求められる。

そんななか、日立建機が力を入れているのが、製品開発における品質・効率の向上と事前評価だ。そのための組織として実験解析評価センタを設立し、「製品開発支援(実験・解析双方からの迅速な問題解決)」「設計段階での事前評価精度の向上(実験、Validation、ALD)」「実働状況に応じた評価手法の確立(実働負荷測定、分析、ベンチ化評価指針)」に取り組んでいる。

そんな日立建機の実験解析評価センタが取り組んだ「油圧ショベルの周囲騒音解析における効率化手法」が、2019年9月10〜11日に行われたアルテアエンジニアリングのユーザーイベント「Altairテクノロジーカンファレンス」で紹介された。本稿では、実験解析評価センタの松下純平氏に話を聞いたので、その内容を紹介する。

  • 日立建機株式会社 実験解析評価センタ 松下純平氏

    日立建機株式会社 実験解析評価センタ 松下純平氏

実験解析センタの役割とは

──建設機械はどのような市場環境にあるのでしょうか。

松下氏 排ガス規制、省エネ、それから今後に向けて機械をどう電動化していくかが大きなテーマとなっています。近年、欧州では内燃機関を廃止していく方向で進んでおり、本格的に各国・地域でEVが普及していく見込みです。現在、弊社が販売しておりますハイブリット油圧ショベル「ZH200-6」では、自動車分野で培われた技術を応用したモータ一体型エンジンと、日立グループの技術によるリチウムイオンバッテリーを採用し、作業性や操作性を維持しながら低燃費を実現しています。また、鉱山で使用されるトロリー式ダンプトラックは、車体上部に搭載されたパンタグラフにより、登坂路に設置された架線に流れる電力を取り込むことで、燃費を大幅に改善するとともに、登坂時のスピードはディーゼルエンジン式に比べて速くなり、生産性が向上しました。このような基本的な性能確保に加えて、情報コミュニケーション技術(Information and Communication Technology;ICT)、安全性、耐久性、地域別生産に向けた製品の開発も求められています。

──そのなかで実験解析評価センタはどのような位置づけになるのですか。

松下氏 適正な仕様・品質の製品をタイムリーに市場へ投入するため、製品開発において製品品質と開発効率の向上と、事前保証の実現のためにALD(Analysis Lead Design:解析主導型設計)を推進しています。ALD技術の実用化には解析だけに留まらず、現象が実車実験などによって解明されていること、さらに解析手法と結果の妥当性が必ずバリデーション実験によって保証されていることが重要であり、これらが実現できてはじめて水平展開可能な実用技術となります。そのため、弊部では実験・評価・解析を一貫して行っており、実験では現象解明実験やバリデーション実験を、解析ではCAEによるシミュレーション、評価では実機実働調査や振動耐久ベンチの開発などを行っています。

日立建機株式会社 実験解析評価センタ 松下純平氏

──ALD(解析主導型開発)のメリットは何でしょうか。

松下氏 従来の開発フローは製品を試作してからそれを検証するという流れでした。開発後期に問題が見つかると、設計済みの他の要素との兼ね合いにより対策手法への制約が大きくなるため、解決には多くの時間・工数を要します。一方、試作前に事前に解析を行うことで、開発後期で見つかる課題を、構想設計段階で解決することができ、開発効率・製品品質が向上します。事前解析評価を実現するために、これまでに構造強度や熱流体、振動などの分野でさまざまな解析技術を開発してきました。いわゆる構造体の強度や信頼性、差別化につながる乗り心地について事前評価を行ってきており、今回その次の段階として重視するようになったのが騒音です。騒音は、作業現場周辺の住人やオペレータへの環境改善や各国の法規制に対応するためにも重要なテーマとなっています。

──今回は、油圧ショベルの騒音についての取り組みでした。

松下氏 油圧ショベルの主要コンポーネントはエンジンや油圧ポンプで、冷却にファンと熱交換器を用いています。油圧ショベルは、その場で掘削するため、クルマやトラックなどと異なり走行風がありません。また定常作業でありエンジンの負荷率が高いという特性があります。このため冷却性能は厳しい状況にあります。ファンは軸流ファンとしてはかなり大型でなおかつ、高回転数のため、エンジンに次ぐ騒音源となっています。

──従来はどのように対策していたのですか。

松下氏 冷却性能の確保のためには、冷却風の通路である開口部を十分に確保する必要があります。一方で、静音化のためには、車体内部にて発生するエンジンやファンの音がスピーカーのように放射されるため、できるだけ開口部を少なくし、騒音を閉じ込めたい状況にあります。従来は、冷却性能の向上および最適化のため、構想設計段階で熱流体解析を行ってきました。一方、騒音についてはコンポーネント毎の評価および解析を実施してきましたが、車体全体の解析は不十分でした。そのため、最終的な評価は実機にて騒音/風量を測定し、開口部の形状や面積を調整するという方法を行っていました。それを今回、さらに開発効率を向上させるため、精度の良い音響解析技術の構築をめざしたのです。

──具体的にどのように進めたのですか。

松下氏 解析モデルを構築し、ファン騒音の音源を取得し、それらを実験と比較して精度を検証していきました。今回のポイントは、音響解析モデルの構築と、ファン騒音予測手法の構築の2つです。まず、音響解析モデルの構築についてですが、最初は、モデル構築工数や解析時間を短くするため、簡易解析モデルを構築しました。車体の複雑な構造を直線で表現した解析モデルです。

  • 簡易モデル

    簡易モデル

  • 詳細モデル

    詳細モデル

──積み木でつくったおもちゃのような形状です。

松下氏 この簡易モデルでは、車体内部で音波が反射する際の音波の減衰や、モデル外側の反射の影響なども考慮した設定を行い、妥当性の検証を行ったのですが、精度が不足していました。評価では、開口条件を変化させたときに音響パワーレベルの増減量が再現できるかを確認しました。ところが、実際の測定では増加していたのに解析では減少しているなど逆転する項目があったのです。そこで取り組んだのがモデルを詳細に再現することでした。

解析の効率化に貢献したSimLab

──実際の車体と同じモデルで解析したのですね。

松下氏 CADモデルと同等の形状を再現しました。すると逆転していた条件についても逆転が直り、精度が向上していることを確認しました。ただ、空間要素は2.5倍に増大し、モデルの構築工数も8倍に増加しました。1モデルあたりのメッシュ作成に要する時間は約85時間。なかでも工数がかかっていたのが、モデルの修正やメッシュ作業、リメッシュ作業、メッシュアセンブリ作業でした。この課題を解消するために採用したのがAltair SimLabです。

──SimLabはどう活用されたのですか。

松下氏 音響解析メッシュ作成には、まず、モデルの外形上を再現したラッパーメッシュを作成する必要があります。従来は流体解析用のプリポストソフトを使用しており、ラッピングサイズを一律でしか設定できなかったため、メッシュサイズを荒くすると形状の再現ができず、メッシュサイズを細かくするとメッシュ数の増大を招いていました。一方、SimLabでは、形状を保ちたい部位のみに細かいメッシュ割当が可能です。また、形状が複雑な部位や薄板ではメッシュが交差するため、交差しているメッシュを削除し、削除した領域を手動で修正する必要がありました。SimLabではこの交差したメッシュも自動で修正してくれます。そのほかにもモデルの修正が容易な点やメッシュ同士のアセンブリが容易なこともあり、モデル作成の工数削減に貢献しました。

  • SimLabによるメッシュ作成工数削減

──メッシュ作成の作業工数は実際にどのくらい削減できたのでしょうか。

松下氏 従来手法で1モデルあたり約85時間かかっていた作業日数が約3分の1の26時間にまで低減できました。さらに、メッシュアセンブリが容易なため、共通部品のメッシュをデータベース化し、メッシュ作成工数を低減することも可能です。例えば、弊社はさまざまな大きさのショベルをラインナップしていますが、運転室などの共通部分が多数あるため、メッシュを共有することでさらなる工数削減につなげることができるのです。

──同じようにファン騒音についても工数を削減する手法を発表していました。

松下氏 はい。従来は非定常流体解析によるファン騒音の取得を行っていて、解析時間は1ケース当たりに数日かかり、さらに開口条件を変えるごとに再解析が必要でした。そこで、工数を削減するため、ファン騒音データベースを構築しました。これは、開口面積を変化させた際、ファンの動作点の変化にともなって騒音も変化していることに注目し、動作点ごとの騒音をデータベース化したものです。定常流体解析を行い車体の動作点を算出し、データベースよりファン騒音を推定することで、解析時間を数時間に短縮できるようになりました。

──今回の取り組みでSimLabが果たした役割は何でしょうか。

松下氏 メッシュ作成やリメッシュ作業といったモデリング作業が大幅に短縮化されたことです。建設機械は1万数千のパーツで構成されています。その解析のために手動でリメリッシュ作業を行うことは大きな負担ですから、自動的に適用できる点は大きな力となりました。さらに、今回構築した音響解析モデルと、以前は別途作成していた熱流体解析の解析モデルを共有することで、モデル詳細化による流体解析精度の向上やモデルの修正工数を低減することができると考えています。これらの解析モデル構築に要する時間・工数が短縮されたことで、開発時の検討に時間を割くことができ、品質向上と開発効率向上につながると思っています。

過去のノウハウや資産をいかして、新しいサービスを

──Altair製品に対してはどのような感想を持ちましたか。

松下氏 サポートが手厚いということを実感しました。質問して1時間で回答が来ることもありました。また、質問したあとに対応していない機能があるとわかった場合も、次の製品アップデートで改善されているということがあり助かりました。

──実験解析評価センタは、実験だけでなく解析、評価を一貫して行っていることが大きな強みですね。

松下氏 解析は条件を設定すれば実行できますが、それだと解析結果が実際と異なった場合にモデルがおかしいのか、解析ソフトがおかしいのか、設定した条件がおかしいのか、比較している実際の結果がおかしいのかがわからなくなります。そこを実験解析評価センタでは、実際の車体での結果だけでなく、簡易化したベンチレベルでの基礎実験を行い、解析モデルの妥当性を検証しています。また、現場で機械がどう使われているのかの調査も行っているため、比較に用いる測定結果が適切かどうかの検証や、解析に設定する条件の適正化も行うことができます。また、解析精度を上げていくと、解析モデルの詳細化や、入力条件の複雑化、またそれに伴う解析時間の増加を招きます。その点についても、これまでに行ってきた開発時の対策経験から、適切な精度にとどめることができると考えています。その点は、開発においてとても重要なことだと思っています。

──今後の展望を教えてください。

松下氏 今回報告した音響解析モデルは、簡易モデルにて精度不足であった要因が形状再現不足による影響かを判断するため、CADモデルをほぼそのまま再現して解析・検証を行い、解析精度を向上させました。そのため、解析精度への影響が小さい部品までモデル化していると考えており、今後は音響解析の精度に必要な要素を検証していくことで、さらなるモデル構築工数の低減を図っていきたいと考えています。それに伴い、SimLabによるモデル作成手法もブラッシュアップしていきたいと考えていますので今後ともアルテアさんの手厚いサポートをお願いしたいと思っています。

また、ファン騒音データベース構築により、短時間で車体搭載時のファン騒音の評価が可能となりました。しかしながら、ファン近傍の流れ場を考慮したファン騒音の評価には、非定常流体解析にて速度・圧力の時間変動を算出し、音響解析の入力音源とする必要があります。こちらの非定常流体解析には数日かかることから解析時間の短縮が望まれています。現在、他社ソフトにて非定常流体解析を実施していますが、アルテアさんのAcuSolveは有限要素法がベースの流体解析ソフトであり、解析結果がメッシュ品質に依存せず、またメッシュ数も比較的少なく計算できることから、他社製品と比較し解析時間に優れているため、解析時間の短縮を期待しています。

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