Formlabsは2019年9月13日(金)、都内で「Formlabs USER SUMMIT JAPAN 2019」を開催。米国にて4月に発表した3Dプリンタ「Form 3」「Form 3L」のお披露目を行った。

  • Formlabs USER SUMMIT JAPAN 2019

Formlabsのこれまでと「Form 3/3L」

2011年、MITメディアラボから誕生したFormlabs。CPO(最高製品責任者)のデビッド・ラカトス氏は、同社の沿革について簡単に説明。同社が3Dプリンタに取り組んだきっかけは、2000年初期の産業用3Dプリンタに触れたことにある。だが当時の3Dプリンタは非常に高価で、一般ユーザーが気軽に使えるものではなかった。

Formlabs 株式会社 CPO David Lakatos(デビッド・ラカトス)氏

Formlabs Inc.
CPO David Lakatos(デビッド・ラカトス)氏

そこでFormlabsは「だれでも、どんなものでも作れる3Dプリンタ」の提供を目指して開発に着手する。目的はシンプルなものに据えた。それは「産業用と同じものを1%のコストで作る」ことだ。こうして完成した「Form 1」は、クラウドファンディングサイトのKickstarterで300万ドルの資金を調達。市場からの喝采を浴び、大成功を収めることになる。

Formlabsはその後も製品の改良、刷新を重ね、2014年に「Form 1+」、2015年に「Form 2」を発表。そして本年4月、「Form 3」「Form 3L」を正式に発表し、3Dプリンタの歴史に新たな1ページを刻んだ。

本年4月に発表された「Form 3」

本年4月に発表された「Form 3」


7年をかけてFormlabsも大きく成長し、現在では500名以上の社員と7つのオフィスを構えるまでになった。150名以上のエンジニアが引き続きよりよい製品を提供するために、日々開発を続けている。

ハードウェアだけではなく、素材の対応の幅を広げる取り組みにも注力。衝撃に強く伸縮性に富み、そして生態系にも影響を及ぼさないプロダクトが作れるようになっている。

ラカトス氏は「我々のマシンはこれまで5万台を売り上げ、のべ4,000万ものパーツを作っています。また、このマシンは実は歯科学に向いていることがわかりました。まだ始まったばかりの分野ですが、日本のマーケットでも積極的に広めていければと思います。また商用製品にも多数使われており、ニューバランス社やジレット社ともコラボレーションしました」と最新の事例を挙げ、日本ユーザーにアピールした。

LFS方式によって刷新された「Form 3」

「Form」シリーズの仕組みは、基本的にSLA (Stereolithography Apparatus)という光造形方式に基づいている。製品を仕上げるにあたっては、フォトポリマーレジンにレーザーを照射することで造形を行う。 今回発表された「Form 3」は、この光造形の仕組みを再定義し、新たにLFS (Low Force Stereolithography)という方式を採用した。イルミネーションエンジンを使ったライト・プロセッシング・ユニット(LPU)によって、プリント面に対し常に垂直に高精細なレーザービームを照射し、高い精度と信頼性を実現。またリジットタンクからフレキシブルタンクへの変更により、プリントするパーツにかかる力を軽減し、滑らかな仕上がりと簡単な剥離が行えるようになった。

これによって実現した機能の1つがライトタッチサポートだ。プリント上のタッチポイントのサイズを従来より小さくできるようになり、構造上今までよりも剥離しやすくなっている。

またプリンタ内のセンサー数を増やすことで、一貫した品質のプリントを実現。カートリッジ内のレジンの量を特定するために、カートリッジ検知機能も追加された。さらに、ハードウェアだけでなくソフトウェアの改善も進み、プリンタから離れた場所からでもプリントが可能なリモートプリンティング機能が搭載されている。

  • マットな質感のカラーモデルをプリントできるカラーキット

    新たにLFS方式を採用した「Form3」。カートリッジ検知機能の追加やプリンタ内のセンサー数を増やし、高い精度を実現

3D HUBからの情報によると、ユーザーからの需要がもっとも高いパーツのサイズは3~6センチで、かなり小さいことが判明しているという。「Form 3」はこのニーズをふまえて開発を行ったとラカトス氏は述べる。

一方で、さらに大きな造形を求める声も上がっており、そういったニーズに対して大型の3Dプリンタも用意された。それが「Form 3L」だ。サイズは「Form 3」の約5倍でLFS方式を採用する点は同様だが、LPUを2基搭載。2つのレーザーが連携して機能し、大きなパーツであってもスピーディに造形することができる。

ラカトス氏は「Form 3のレビューがすでに上がってきていますので、ぜひそちらもご覧ください」と紹介したあと、「プロダクトデザインに関与する、パーツそのものを作るというかたちで世界中のさまざまな分野で我々の製品が使われていくことを目指しています」とFormlabsの展望についてまとめた。

日本におけるFormlabsの働きについて

Formlabs CMO (最高マーケティング責任者)のジェフ・ボヘーム氏は「私の仕事で一番好きなことは、ユーザーの皆さんとやり取りすることです」と前置きし、日本においてのFormlabsの活動について触れた。

Formlabs 株式会社 CMO Jeff Boehm(ジェフ・ボヘーム)氏

Formlabs Inc.
CMO Jeff Boehm(ジェフ・ボヘーム)氏

Formlabsはアジア太平洋地域の大手製造業に対して製品を提供し、日本は製造業で世界3位に位置しているという。もともとは数名で立ち上げられたFormlabsだが、いまやアジアで強固なプレゼンスを築いており、現在では8,000台以上のプリンタが販売され、7万本以上のレジンカートリッジが消費されているという。

ボヘーム氏は「3Dプリンタでプリントをする手前の段階に大事なステップがあります。それは素晴らしい設計をすることです」と説明。「我々の素晴らしいパートナーが設計用のソフトウェアを提供してくださっています」とパートナー企業の重要さを強調した。

「何より大事なのは日本のお客さまです。日本におけるビジネスは非常に順調に推移しており、昨年はオートデスクや日本大学の学生と連携しながら、宇宙エレベータをデザインしました。皆さまとのさらなる連携を楽しみにしています」とボヘーム氏は日本のユーザーに語りかけた。

「Form3」の価格と発売時期は?

Formlabs株式会社 マーケティング部 部長 新井原 慶一郎氏

Formlabs株式会社 マーケティング部
部長 新井原 慶一郎氏

「Form 3」は、57万5,000円(税別)で2019年末ごろに日本において発売される予定だ。また発注時に「Form 2」のシリアルを添えることで、51万8,700円で購入できる「Form 2」ユーザー向け限定キャンペーンも行われる。「Form 3L」は現段階では準備中だ。

フレキシブルタンクは19,000円(税別)となり、Form 2用レジンカートリッジやForm Wash、Form Cureは「Form 3」でも使用可能だという。

Formlabsの新井原 慶一郎氏は「使えなくなってしまうものは一切ありません。『Form 2』に「Form 3」を追加、拡張してほしいと思います」とユーザーメリットを紹介する一方、「『Form 3L』は詳細が決定次第お知らせします。最大限の努力していますので、もうしばらくお待ちいただければ……」と話し、笑いを誘った。 また、日本でFormlabsの検証センターを作ることを報告した。これは自社製品、他社製品との連携を検証するための施設で、埼玉県内において2019年10月にオープン予定だという。パートナー企業との連携がより密になり、ハードウェア、ソフトウェア面の幅が広がることを期待したい。

最新動向紹介・ぶっちゃけ話満載のライトニングトーク

Formlabsの紹介を終え、ユーザー同士の懇親会に移行。この懇親会の合間に行われたのが、パートナー企業による最新動向の紹介や、ユーザーによるライトニングトークだ。

  • オートデスク株式会社 製造業ビジネス戦略&マーケティング部 プロダクトスペシャリスト Fusion 360 圓田 歩氏

    オートデスク株式会社
    製造業ビジネス戦略&マーケティング部
    プロダクトスペシャリスト Fusion 360 圓田 歩氏

  • Pixologic 日本 マーケティング マネージャー 成川 大輔氏

    Pixologic 日本 マーケティング
    マネージャー 成川 大輔氏

オートデスクの圓田 歩氏は、クラウドベースの3D CADソフト「Fusion 360」の最新バージョンについて解説。

ジェネレーティブデザインの特徴を述べたあと、ジェネレーティブデザインを使って作った大型パーツを「Form 2」の出力サイズで出せるように分割したWHILL社の電動車イスの事例を紹介した。
Pixologicの成川 大輔氏は、3D CGソフトウェアの「ZBrush」の最新バージョンを紹介した。「ZBrush」を「デジタルで彫刻ができるソフト」と説明し、アーティストがアーティストのために作っていると解説。

LiveBooleanやスナップショット3D、Zリメッシャー v3.0などの具体例やその効果について述べるとともに、ZBrush Summitについて触れた。

ユーザーによるライトニングトークでは5名が登壇。 TheMarutaWorksの圓田 歩氏は、Fab Racersから3Dプリンタに触れ、「Fusion 360」と「Form 2」で人生が変わったという体験談を語る。

  • カズヤ シバタ氏

    カズヤ シバタ氏

  • セメダイン株式会社 経営企画部 広報室 篠原 泉氏

    セメダイン株式会社 経営企画部 広報室
    篠原 泉氏

カズヤ シバタ氏は、3Dプリンタで作られた自由なアイデアで溢れる自身の発明を紹介した。

セメダインの篠原 泉氏は、社内で「Form 2」による造形物の接着検証を行ったことを報告した。
「造形物同士をくっつけられると造形時間が半分になる」とその意義を説明したあと、自社の4つの接着剤を検証した結果、すべて接着に成功したと述べる。
おススメは「スーパーXゴールド」だが、目的に合わせて選んでほしいという。

  • Bucephalusアートディレクター 古賀 淳也氏

    Bucephalus
    アートディレクター 古賀 淳也氏

  • ストレンジフリークデザインス 代表/デザイナー 古谷 尚人氏

    ストレンジフリークデザインス
    代表/デザイナー 古谷 尚人氏

Bucephalusの古賀 淳也氏は、現代アートと伝統工芸である漆を使ったアートリングの制作について語る。漆加工を施した結果、傷が付きにくくなり全体の強度が上がったという。ちなみに古賀 淳也氏は、あの2009年世界水泳選手権男子100m背泳ぎの金メダリストだ。

ストレンジフリークデザインスの古谷 尚人氏は、Castable Resin、Castable Wax Resin、Grey Resinの使い分けについて解説。「Form 2」は失敗が少ない、とにかく造形がちゃんとできると評価したあと、「レジンタンク割れすぎ」と辛口の批評も行い、会場の笑いを誘った。

  • 懇親会の最後には参加者へのプレゼントを賭けたジャンケン大会が開催され、会場は大いに盛り上がった。

    懇親会の最後には参加者へのプレゼントを賭けたジャンケン大会が開催され、会場は大いに盛り上がった。

3Dプリンタ「Form 3」「Form 3L」の日本発売という大きな正式発表があった「Formlabs USER SUMMIT JAPAN 2019」。その根底にあるのは、ユーザーを第一においたFormlabsの姿勢と、コミュニティを楽しんでいるユーザーらの姿だった。

3Dプリンタは今後、ますます数多くのパーツを生み出していくだろう。その未来を見据え開発を続けるFormlabsの動向に今後も期待したい。

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