近年、AIやRPAなどを活用した社内プロセスの自動化が注目されている。自動化による業務効率化は、労働人口の減少が進む日本企業にとって、大きな可能性を秘めた技術であることは間違いない。しかし既存のプロセスにそのまま導入しても、AIやRPAの導入効果を最大化することはできない。

本記事では、2019年6月27日に開催されたマイナビニュースフォーラム「働き方改革×生産性向上の両輪経営を目指して」にて、自動化における「プロセスのデジタル化」の重要性を説いた講演を紹介する。

AI・RPAによる自動化の落とし穴

公益財団法人 日本生産性本部によると、労働生産性における日本の順位は主要7カ国(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本)のうち47年連続最下位となっている。

少子高齢化による労働人口の減少が確実となった現在の日本において、効率の悪い働き方の見直しは必須の課題だ。だからこそ付け焼き刃ではない、抜本的な働き方改革が求められる。そして、その抜本的な改革を実現する手法として注目されているのが、AIやRPAを用いた業務の自動化である。

トレードシフトジャパン株式会社 ゼネラルマネジャー 菊池孝明氏

トレードシフトジャパン株式会社 ゼネラルマネジャー 菊池孝明氏

ただしAIやRPAは決して万能なツールではない。AIであれば活用するのに十分な学習が必要で、そのための設備も揃えなければならない。また、RPAであれば人が無意識に行っている識別や微妙な判断などについてもルール化して対応できるような正確な設定が求められる。自動化の精度を維持するためには運用後のメンテナンスが必要なほか、システムダウンなどの障害発生時・イレギュラーケース発生時を想定すると、人によるコンティンジェンシープラン(緊急時の対応計画)の立案とその予行練習は欠かすことはできず、結果として運用に多大な労力を要することもある。

トレードシフトジャパン株式会社 ゼネラルマネジャー 菊池孝明氏はこう語る。

「人が行っている作業をそのままAIやRPAに置き換えても、理想的なプロセスにはなりません。デジタル化された新しいプロセスを前提として自動化する必要があります」(菊池氏)

自動化で「減らす」のではなく、デジタルで「なくす」

請求書の処理で発生する流れを例にみてみよう。

受注側は、見積書や契約書などで決定した金額を元に、Excelなどで請求書を作成して、印刷した書面に捺印を行い、発注側に郵送またはFAXする。発注側は、受け取った請求書の内容を経理システムに入力して処理を行う。

この一連の流れの中で自動化できる部分を探すと、受注側は「見積書の内容と連携して請求書をRPAで自動作成する」、発注側は「請求書をスキャンしてAI-OCRによって自動判別し、結果を経理システムに入力する」などが考えられる。

※AI-OCR:AIを用いて精度を大幅に向上させるOCR(光学的文字認識)技術。

もちろん、そのような自動化は可能である。ただし、それは100年以上前から行われている手作業のプロセスをそのまま置き換えているだけだ。インターネットが普及し情報がデジタルで流通する今、デジタルを前提としたプロセスへと見直す必要がある。

「この一連のプロセスでは、受注側がデジタルで作成した書類を印刷してアナログで相手に送付し、発注側はそれをスキャンしてデジタルに戻しています。これは、明らかに無駄な作業です。郵送やFAX を前提としたプロセスの縛りによって、双方が必要のない作業をしているのです。デジタルで作ったものなら、デジタルで送ってデジタルで処理すればいい。そうすれば、手順そのものをなくすことができます」(菊池氏)

人が行っている作業を単純に自動化し時間と労力を減らしても、その先の効率化はシステムのパフォーマンスを上げてできるだけ時間を短くするということ以外になく、それは決して0にはならない。そうではなく、まずは「この一連の手作業のプロセスが、本当に必要なのかを検討すべきです」と菊池氏は語る。

先の例では、そもそも請求書を紙で作成するのではなく、電子取引によって相手にデータとして送るデジタル化したプロセスに変更する。それにより、紙起因の社内配送やデータ入力、ファイリングなどの保管業務を一切なくし、データであったとしても判断が必要な仕訳のプロセスなどの部分に、AIやRPAを用いて自動化する。そうすれば、自動化による効果が最大化できるはずだ。

さらに、電子取引のシステムが、クラウド型でモバイル端末にも対応していれば、請求書や納品書、経費の申請を、いつでもどこからでも行うことができる。紙の文書をスキャンするためにオフィスに行く必要もなくなり、リモートワークやテレワークが可能となるため、働き方改革の実践にも役立つだろう。

世界的に広がる電子取引の流れ

現在、世界的に電子取引を積極的に普及させる流れになっている。EUでは「PEPPOL」という電子取引の規格が公共調達の基盤として採用されている。「PEPPOL」はEU諸国のほかにもシンガポールなどで採用されており、企業は各国と「PEPPOL」を通じた電子取引が可能だ。また日本においても、e-文書法や電子帳簿保存法など、電子取引を行う法的環境が整ってきた。

「全世界的に電子取引が広がっています。その大きな理由のひとつは文書のトレーサビリティです」(菊池氏)

電子証明書やタイムスタンプ、ブロックチェーンなど、電子文書の改ざんを防止するための技術は数多く存在する。いまだに多くの人が誤解しているが、電子文書は紙の書類よりも圧倒的に多くの情報を保持しており、正しく運用されれば改ざんされる可能性は極めて低いのだ。また、多くの電子取引サービスは文書を送受信したユーザーや端末の情報、正確な時刻などを保持しているだけでなく、その文書と関連した情報を含めて履歴として残せるため、紙よりも証拠能力の高い証憑書類として扱うことが可能だ。

アプリの活用で取引企業と共に電子取引を実現

数多くのメリットがある電子取引だが、その活用には大きな課題がある。それは「取引先の参加率」である。たとえば前述したプロセスで発注側がいくら電子取引をしたくても、受注側が対応せず紙の請求書を送付してくる場合は、当然効率化は進まない。8割の取引先からの請求が紙では、期待する投資対効果も得られない。このような状況は珍しいことではなく、一般的な電子取引サービスでは、取引先の電子化率は20%以下といわれる。

なぜこのような状況が発生するのか。

従来の電子取引サービスでは、システムを導入する費用やクラウドサービスのコストが発生する。また、機能が豊富であることの副作用として、さまざまな事前設定やマスタ登録が必要になることもあるほか、ユーザーが正しく利用するためにはトレーニングを受けてシステムについて習熟する必要がある。さらに、利用開始の手続きや契約も煩雑だ。これらの「負担」は自社だけでなく取引先も抱える必要があり、取引先が電子取引を開始する阻害要因となる。

このような課題を解決するために登場したサービスが、クラウド型企業間取引ネットワーク「Tradeshift」だ。

Tradeshiftは、世界で150万社が利用する世界最大級の電子取引ネットワークだ。Tradeshiftに参加した企業は、ほかの企業を検索して探し出し、双方が合意すれば互いにつながって電子文書やメッセージの送受信が行える。

  • Tradeshiftの画面

    Tradeshiftの画面

注目すべきは、Tradeshiftは従来の企業向けシステムのように「機能の豊富さ」を重視する複雑なものではなく、誰でもマニュアルなしで使えるシンプルなUI(画面)が標準となっていることだ。これによって、誰もが電子取引に参加するハードルを下げている。また、Tradeshiftは基本的に無料で使うことが可能で、利用企業はインターネットにアクセス可能な環境とブラウザさえあれば電子取引が可能になる。

電子取引のハードルが低いだけではない。大企業に求められるような高度な機能は「アプリ」によって追加可能で、発注前の社内における購入申請のワークフロー、会計ソフトや基幹システムとのデータ連携を構築可能だ。これらのアプリの一部は有料だが、見積書・注文書・請求書など、基本的な電子文書の送受信だけなら無料のまま利用できる。菊池氏によると、2018年末時点で有料・無料を含めて50社以上から200種類以上のアプリがリリースされているとのことだ。

  • Tradeshiftのアプリ例

    Tradeshiftのアプリ例

Tradeshiftは企業間の電子取引を実現する基盤となるが、同時に企業同士をつなぐコミュニケーションツールでもある。Tradeshiftの中で企業同士のつながりが広がり、そこから新たなビジネスが誕生するというケースも数多く発生している。

「事業規模や業態、予算の有無に関係なくすべての企業が参加できる電子取引プラットフォーム、これが実現できれば、単に時間と手間だけを要する付加価値の低い作業がなくなり、社員は本来すべき業務に集中することができます。Tradeshiftをより広く普及させることで、働き方改革の実現につなげていきたいと考えています」(菊池氏)

[PR]提供: トレードシフトジャパン