オートデスク 技術営業本部 アナビ 英子氏

オートデスク 技術営業本部 アナビ 英子氏

続いて、オートデスク技術営業本部 建設ソリューションスペシャリストのアナビ英子氏が登壇し、施工段階におけるクラウド活用ソリューションを紹介した。前述したように、建設業の55%がデータ不整合による手戻りが生じていることが調査で判明しているが、施工段階のデータ管理に関する問題点として情報のタイムリーな共有ができていない、情報の在処がわからなくなっている、ドキュメントに対して成果物管理となり情報の一元管理ができない——といったことに要因があるという。近年の複雑形状の建築物においては2次元だけでは納まり検討が困難で、3次元での確認が必要不可欠であるにも関わらず、BIM導入のハードルが高いこと、そしてBIMモデルを閲覧するだけなのにソフトの導入や教育に時間が掛かるといった課題を挙げた。

また、海外での施工BIM事例として、スコットランドの美術館「V&A Dundee」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)での事例を紹介した。この建物は、スコットランドの湾岸線の崖をイメージして設計されており非常に複雑な形状であるため、従来の測量方法では困難であるうえ、誤差を3mm以下に抑える必要があったという。ツールとして、設計ではRevit、統合管理でNavisworks、墨出しのソリューションとしてPoint Layout、情報共有のためにBIM 360を利用したとのことだ。その成果として、Revitモデルを作成することでクライアントとのモデル合意がスムースであったほか、事前に検討できたために手戻り作業をなくすことができたということだ。

  • スコットランド「V&A Dundee」では、Revitモデル作成によりクライアントとのモデル合意がスムースに行われた

    スコットランド「V&A Dundee」では、Revitモデル作成によりクライアントとのモデル合意がスムースに行われた

この事例を紹介する動画のインタビューのなかでは、コンサルタントをはじめとするさまざまなステークホルダーと、BIMを使うことで現場でもiPadを使って3次元モデルにアクセスし、リアルタイムに情報を取り出すことができることをメリットとして挙げていた。さらに同インタビューでは、建設業をデジタルトランスフォーメーションするにはハードルが高く困難だが、オートデスク製品を使うことで困難なプロジェクトをなし得たとも語っていた。

  • BIM 360 プラットフォーム

    BIM 360 プラットフォーム

続いて、オートデスクのクラウドソリューションとBIM 360の紹介へと移った。アナビ氏はBIM 360について、設計段階から引き渡し、運用、維持管理まで、 ライフサイクル全体の情報を共有する仕組みだと説明した。クラウド内には、AutoCAD、Revit、Navisworks、InfraWorks、Civil 3Dなどで作成された図面からPDFやOfficeファイル等のドキュメントデータまで、50種類以上のファイルをフォルダに格納できるという。データをプラットフォームに蓄積することで、サードパーティー製のアプリケーションとも連携して利用でき、データを2次元利用できるということだ。

  • 「BIM 360」ならRevitモデルをいつでもどこからでもデータにアクセス可能

また、BIM 360はWebアプリケーションのため、インストールやアップデートは不要であるうえ、デバイスを問わずに利用できる。データへはどこからでもアクセス可能で、ストレージやプロジェクト数は無制限となっている。タブレットからはWebブラウザのみならず、iOSやAndroid向けのアプリも用意されており、オンライン時に図面をダウンロードしておくことでオフライン時(電波の届かない現場など)でも閲覧できるという。さらに、セキュリティ対策も万全で、ISO等の認証を取得していると説明した。

  • BIM 360における施工BIMのワークフロー

施工BIMのワークフローとしては、まず設計段階にRevitで作成したモデルを受領し、計画段階でNavisworksを使って干渉チェック、設計シミュレーション、ステップ管理等を行える。施工現場ではRevitやNavisworksでクレーンの適正配置、工程管理、数量拾い、仮設図、生産設計図などを作成することも可能だという。これらのデータの格納先をBIM 360にすることで、データの受け渡しがスムースに行え、データを一元管理することも可能だという。現場ではBIMやCADソフトを持たないユーザー、あるいはBIMソフトに不慣れなユーザーであっても、BIM 360のビューイング機能でモデルを閲覧でき、計画に巻き込むことができるとのことだ。

  • ワークフローがiPadで閲覧可能に

次に行われた「BIM 360」のデモンストレーションでは、パソコン上で「Revit」のデータを閲覧しながら、モデル内をウォークスルーしたり、任意の場所でカットして断面を閲覧したり、あるいは図面をクリックした場所をモデル上でハイライトするようすを紹介し、2次元と3次元が連動し整合性が保たれていることを示した。さらに、iPadでも同様に閲覧できるようすも披露した。

  • iPadでウォークスルーや断面の閲覧が可能

続いて、無償でダウンロードできるiPadアプリ「BIM 360 Layout」(英語版)を紹介。同アプリはレイアウトナビゲーターやトータルステーションと接続してポイント情報を活用できるもので、作業人員やワークフローの手順を大幅に削減できると述べた。

アナビ氏はBIM 360のまとめとして、さまざまなステークホルダーに対して適切な情報共有を行うことが可能となり、Docksによるドキュメント管理はもちろん、製品を組み合わせて活用することで、施工現場でも活用できる環境を構築することができるソリューションだと説明した。

  • BIM 360によりさまざまなステークホルダーに対して適切な情報共有が行える

最後にオートデスクの新しいソリューション「Construction IQ」の紹介に移った。これは「BIM 360 Field」を保有しているユーザーに対してプレビュー版として提供しているもので、AIを活用してプロジェクトの品質や安全性の問題を自動識別するシステムだという。これによりチームは早急に行動でき、大事故を回避できるほか、コスト問題やスケジュール遅延を引き落とす後工程を防ぐことができると説明し、このセッションを締めくくった。

  • オートデスクの新しいソリューション「Construction IQ」(プレビュー版)