2019年3月13日、東京・秋葉原UDXで「顧客にとっての最高のおもてなしとは? カスタマーエクスペリエンスの本当の姿」セミナーが開催された。会場には約100名の聴講者が駆けつけ、デジタルコミュニケーション時代における“おもてなし”とは何か、顧客にとっての価値最大化に最先端技術をどう活かせばいいのか、そのエッセンスを示す2つの基調講演に熱心に耳を傾けていた。ここではその模様をレポートする。

  • 「顧客にとっての最高のおもてなしとは? カスタマーエクスペリエンスの本当の姿」セミナー

時間と距離の壁を超えた接客拡張を追求

開会挨拶のあと、最初に登壇したのは、パルコのグループデジタル推進室でデジタル推進担当 部長を務める野中健次氏。「PARCOの目指す『Serendipity Center』実現に向けたデジタル×リアルの融合」というテーマで基調講演を行った。

株式会社パルコ グループデジタル推進室 デジタル推進担当 部長 野中健次氏

株式会社パルコ グループデジタル推進室 デジタル推進担当 部長 野中健次氏

顧客接点のチャネルが多様化する中で、店舗やオンラインで顧客とコミュニケーションを取るためにパルコはどういった施策を導入・実行しているのか、野中氏は実例を交えて紹介していった。

「パルコでは、テナントスタッフの接客機会を拡張することで個客の満足度を高めれば売上拡大につながる、と考えている」としたうえで、「パルコが創業以来大切にしている“街づくり”“インキュベーション”“情報発信”の3つの価値に加え、テクノロジーを活用した接客の拡張によって、個客の満足をいかに最大化するか。リアル店舗には時間や距離等の壁がどうしてもありますが、テクノロジーでこの障壁を払拭し、接客を拡張していくというテーマを持って業務に取り組んでいます」と語った。

パルコは、接客の拡張戦略でどういった戦術を取っているのか。野中氏は、従来の店頭での接客にオンラインストアやスマートフォンアプリ、ブログ、SNSといったWebツールを組み合わせるオムニチャネルによって、時間と距離を超えて接客できる「24時間PARCO」プラットフォームの構築に取り組んでいる、とした。

そのプラットフォームでコミュニケーション活性化のために使っているツールとして野中氏が挙げたのは、まずショップブログだ。パルコではテナントがコンテンツを直接発信できるショップブログを情報発信の起点と位置づけ、いつでもどこでもWeb接客が可能になるようにしている。

こうした情報を客側が受け取るためのツールが、スマートフォンアプリ「POCKET PARCO」。単にショップブログ情報を受け取るだけでなく、2018年11月には大型リニューアルにより、コンテンツの拡大を図り、ユーザー稼働率向上とオンラインストアとの連動強化による売上アップを図っている。

また、ショップブログを起点にWebとリアル店舗のオムニチャネル化を促進する目的で、リアル店舗の在庫をECサイトで24時間販売する「PARCO ONLINE STORE」を運営している。

パルコでは個客の分析にも力を入れている。アプリユーザーの「来店前」「来店中」「来店後」という3つのフェーズでストーリーをイメージ。「来店前」はスマートフォンの位置情報を活用して設定したエリア内にいるユーザーにセール告知等を送り、購入につながる率を抽出するプロモーションを行ったほか、ショップブログのお気に入り登録、気温・降雨データなどを使って行動分析や購買促進策等を展開している。

「来店時」は、スマートフォンの歩数データに応じたポイントの付与、特定条件で買い物をしたユーザーへの優待情報のプッシュ配信などを実施。こうした施策の対象となったユーザーは、その後の買い回り店舗数が増える傾向にあることをつかんだ。

そして「来店後」は、ユーザーに店舗の評価を星やコメントで投稿してもらう。このデータはテナントにも開示しているので、テナント側は接客に役立てられるという。

  • アプリユーザーの「来店前」「来店中」「来店後」という3つのフェーズでストーリーをイメージ

「パルコは各種データをCRMに活用できる環境の構築を進めているほか、IoT、AI、ロボット、VRなどの先端テクノロジーを使って、快適で新しい購買体験の実現に力を入れています。「SC」は一般的には「ショッピングセンター:shopping center」ですが、パルコはそれを超えて、「セレンディピティ(serendipity:素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること)センター」のSCを目指していきます」と締めくくった。

最先端技術は人を幸せにするために使う

2人目の基調講演は、ドローンやセグウェイを操り、「富田“考力塾”」も主宰するなど多彩な活躍のフィールドを持つ富田直美氏。ロボットの接客で話題になった「変なホテル」も富田氏が仕掛けたものだ。

株式会社hapi-robo st 代表取締役社長/ハウステンボス株式会社 取締役CTO 富田直美氏

株式会社hapi-robo st 代表取締役社長/ハウステンボス株式会社 取締役CTO 富田直美氏

講演タイトルは「AI、ロボット、IoTを社会に活かす。~人がより幸せになるような未来を創る会社の使命とは?~」。登壇した富田氏は、いきなり次のように語った。

「人間には考える力が備わっているにもかかわらず、みなさんは考えていない。みなさんの“考えている”はコピペの延長線上です。日本人はおもてなしができると思っているようですが、考えていないと形から入り、それだけで終わってしまいます。そんなことで本当におもてなしができるんですか?」

富田氏は「僕は世界しか見ていません。おもてなしも日本の専売特許ではない。日本よりおもてなししてくれる人は、中国にも、他の国にもいる。だから、まずは“日本だから”という視野を捨ててください」と断言し、“幸せとは何か”を考えることが重要だと説いた。

そのうえで「おもてなしとは、人を幸せにすること。パターン化したおもてなしはおもてなしではない。では、AI、ロボット、IoTをどう活かすか? これらは全部、人が作った道具です。すべての道具は、人が人を幸せにするために使うもの。おもてなしのキーポイントはそこにあります」とした。

続いて富田氏は、30年前から使っているという「情報のヒエラルキー(階層)富田モデル」について話を進めた。同ヒエラルキーでは赤いピラミッドの下から上まで5つの階層に、それぞれワードが1つずつ入っている。富田氏がスクリーンにピラミッドを表示した時点では、5つの階層はすべて空欄になっており、会場の参加者に一つひとつ「ここに入るものは?」と意見を募っていった。

まず、最も下の階層に入るのは「データ」だ。その上の階層が、データを束ねて意味のあるものにした「情報」。1つ上がり、情報を自分の体に入れると「知識」になる。そしてその知識のさらに上、トップの1つ下に「知恵」がある。

「知識とお金は、持っているだけではなんの役にも立たない。知恵とは、知識を使って人を恵むこと。知識を使って人を幸せにすること。それがおもてなしの極意です。おもてなしはおもてなしをする人によって、また相手によって違う。こうやったらおもてなしだ、などということはない」

ちなみに、時間の関係で触れられなかったが、階層のトップにあるワードは「愛」だった。おもてなしにはやはり愛が重要だということを、富田氏は示唆していたのだろう。

  • 情報のヒエラルキー(階層)富田モデル

富田氏の言う「人によって」のベースになるのが、経験だ。自身が計画した、ハウステンボスで300機のドローンを一斉に飛ばして操るイベントなどを例に挙げ、「僕はこれを考え、実施した。それは僕にとって“経験”。とにかく経験することが大事」と語った。

そのうえで「経験することは1、経験しないのは0。では、1と0の差は? その答えは、無限大です。なんでも、小さな経験でもいいから自分で経験したら、1なんです。やるかやらないかで、無限大の差。自分でやらないから考えることができない。だから全部自分で経験すべきなんです。経験がなければおもてなしも形だけのものになってしまいますが、自分で経験すればその経験に基づいて考え、最先端技術も使って人を幸せにすることができます」と締めくくった。

「顧客中心」の取り組みをサポート

2つの基調講演では、顧客の満足度向上や“人を幸せにする”おもてなしといったテーマが登場した。NTTデータビジネスシステムズ ビジネスソリューション事業部の熱田健氏は、両基調講演に絡めて「顧客中心」の観点から同社の取り組みをプレゼンテーションした。

株式会社NTTデータビジネスシステムズ ビジネスソリューション事業部 熱田健氏

株式会社NTTデータビジネスシステムズ ビジネスソリューション事業部 熱田健氏

NTTデータビジネスシステムズはNTTデータグループの一員として、社会インフラ、ニューテクノロジー、ビジネストランザクション、ビジネスサポートといった企業向けのシステム・サービスをおよそ四半世紀にわたって提供。顧客管理基盤に関するソリューションも提供する。

熱田氏は「企業が顧客と良好な関係を築き、LTV(ライフタイムバリュー)最大化をサポートするという視点から、EC、アプリ、決済などさまざまな顧客接点、言い換えれば“おもてなし”に関する領域をお客様と共に取り組んでおります。多様なチャネルへのシームレスな対応が重要なキーポイントになっています」と同社の取り組みについて語った。

顧客管理基盤の特徴としては、顧客を個人としてだけでなく家族、サークルといった捉え方をすることで、ライフスタイルやライフサイクルが見えてくるとし、サークル形成の一例としてドラッグストアでの提供事例を紹介。顧客を「自転車好き」「新商品好き」「マタニティ・ベビー」などのサークルで捉えることで、新たな商品開発やプロモーション、サンプリングなどが可能になると説明した。

最後に熱田氏は「当社は今回のテーマである最高の“おもてなし”について『感動体験』を顧客に対してさまざまなサービスの連携によって継続的に提供し、また、顧客環境は日々変化し続けているため、その取り組みを止めてはならないと考えています」と語った。

[PR]提供:NTTデータビジネスシステムズ