2019年1月、カシオ計算機の3作目となるスマートアウトドアウオッチ、PRO TREK Smart「WSD-F30」が発売された。そこで、同社専務であり事業戦略本部で時計事業の総指揮を執る増田裕一氏、そしてF30の商品企画を推進したリスト機器開発部の坂田勝氏にインタビューを敢行。ハードウェアとして、またビジネスとしての両面から、カシオ計算機が考えるスマートウオッチの未来像についてお話を伺った。

カシオの「スマートアウトドアウオッチ」

本題に入る前に、カシオのスマートウオッチの歴史について、簡単におさらいしておこう。カシオが最初にリリースしたスマートウオッチは「WSD-F10」(以降、F10)だ。発売は2016年4月。現在に続く「スマートアウトドアウオッチ」のコンセプトのもと開発されているが、この時点ではまだ製品ブランドにカテゴライズされない、カシオブランドのスマートウオッチだった。

堅牢さに加え、バッテリーが残り少なくなっても時刻のみ表示できるようカラーとモノクロの2層ディスプレイを搭載するなど、配慮された設計であったが、当時は各社からスマートウオッチが続々と登場したこともあり、「競合製品との差別化を今一歩アピールしきれなかった」(増田氏)という。

  • カシオ計算機株式会社 取締役専務執行役員 開発本部長 兼 事業戦略本部BU長時計事業担当 増田 裕一氏

この経験を受け、1年後、第二弾となる「WSD-F20」(以降、F20)が登場。GPSを内蔵したことで地図の使い勝手が格段に向上しており、また、登山に主眼を置いたスマートウオッチとして、「PRO TREK Smart」の製品ブランドを冠した。これにより「製品イメージが明確化して、目的や機能が伝わりやすくなった」と増田氏は語る。

  • カシオ発のスマートウオッチ第一弾のWSD-F10(右)と、第二弾のWSD-F20(左)

F20は省電力性能も向上していたが、これをさらに推し進め、2~3日のアクティビティでの使用も可能にしたのが、2019年1月に登場した第三弾の「WSD-F30」(以降、F30)だ。本機ではスクリーンの視認性を維持しながら、LSIの高度集積技術により本体を一回り小型化。時計としてのデザイン性と装着感をいっそう高めている

  • 2019年1月発売のWSD-F30

坂田氏:「GPSを内蔵したF20は”スマートウオッチはスマホとセットで使うもの”という固定観念を覆すことができたと思います。その後継機としてのF30はアウトドアでの実用性をより高めました。F10、F20へと進化していく過程において、小型化や省電力性能の向上は、お客様とのコミュニケーションを重ねる中で、多くリクエストをいただいたテーマでした。

  • カシオ計算機株式会社 開発本部時計開発統轄部 リスト機器開発部 商品企画室 室長 坂田 勝氏

登山をされる方は1~2泊が多いので、1日8時間使うとして、バッテリーが3日はもってほしいだろうと。これを目標に、アルゴリズムや回路回りの消費電力を見直しました」

「ハードウェア技術だけでは差別化できない」時代へ

また、F30は、2層ディスプレイによるモノクロの時計モードで表示できる情報も増えている。

坂田氏:「3日間のアクティビティで仮に電池が残り少なくなったとしても、PRO TREK同様のセンサー機能をお使いいただけるようになっています」

  • 左からF10、F30、F20。すべて時計モードだが、F30は時刻の他に、気圧や高度、歩数、バッテリー残量などのも表示も可能

今後のスマートウオッチの進化について、カシオではどのように考えているのだろうか。

増田氏:「スマートウオッチ一般で言うと、ことハードウェア技術に関してはどんどん差別化できなくなると思っています。これはデジタル分野のひとつの特徴でしょうけれど、CPUやメモリ、GPSなどの部品を世界の一番強いメーカーが膨大な数で大量生産して、それを世界中に売る。そして、メーカーはみんなそれを使うんです。Wear OSも、Googleが作ってみんなが使うでしょ。それと同じ構造です。実際、多くのメーカーがスマートウオッチを出していますが、機能的にいえばほとんど同じです。使われているパーツが同じなんだから。

したがって、これからはブランドに立脚した用途、特徴を明確化していくことが重要になる。でないと、類似商品に埋もれてしまうでしょう」

だから、カシオはF20で登山を想定した機能を実装して、それをわかりやすく伝えるPRO TREK Smartというブランドで、旗幟(きし)を鮮明にしたのだ。

増田氏:「幸いカシオには、G-SHOCKをはじめとする時計で培ってきた”デザインの表現力を高める”というノウハウがあります。デジタルデバイスから入ったメーカーは、スマートウオッチに時計の要素を付加していくことしかできませんが、カシオは時計技術にスマートウオッチの機能を付加していくことができる。時計を作り続けてきたからこそ実現できる格好良さや、使いやすさ。そういうカシオの強みの中に、スマートウオッチを持ってくるという考えですね。

いずれにしても、従来の時計とスマートウオッチは、将来的に同じカテゴリーとして集約されていくでしょう。私たちも新規事業としてスタートしたスマートウオッチを、従来の時計事業の中に組み込み始めている。機能が違うだけで、思想は同じです」

坂田氏:「時計で培ったUIの考え方や実装技術の強みもまた、カシオの大きな武器です。たとえば、F10から続くUIとして、ダイレクト操作に必要な3つのボタンがありますが、これを最初に搭載しようとしたとき、当時のAndroid Wear(現Wear OS)にはそんなことは想定されていなかった。そこでGoogleと交渉して、3つボタンを使用できるようにしてもらったんです。当然、2層ディスプレイも想定されていなかったので、こちらもOSがサポートしてくれるよう交渉しました。

今振り返ってみると、Wear OSでもボタン3つの製品は当たり前になってきたし、時計表示モードを持つ製品が他社からもリリースされるようになりました。このように時計作りのノウハウを投入することで、今後もカシオが業界のイニシアチブを取れたり、技術をリードしていける部分は十分にあると思います」

  • F10から採用されている3つの大型ボタンは、迅速で快適な操作性を提供する。写真はF30

「スマートウオッチの進化」の道をカーナビが示す

実装技術の例としては、G-SHOCK「MASTER OF G」シリーズのRANGEMANも挙げられる。そのGPS搭載モデル「GPR-B1000」は、ひとつの試金石と増田氏は話す。

増田氏:「スマートウオッチの機能、GPSをソーラー電池で駆動させられないかという狙いがありました。スマートウオッチは、現在はまだ充電が必要ですが、駆動電力をソーラーである程度補いながら、実用レベルまで押し上げられないか、と。GPR-B1000は100%ソーラーで動くわけではありませんが、これは将来、いつかできるようになっていきますし、カシオの技術こそがそれを可能にしていく必要があると思っています」

  • G-SHOCK「MASTER OF G」シリーズのRANGEMAN「GPR-B1000」

坂田氏は、スマートウオッチの進化をカーナビの進化に近いイメージで捉えているという。

坂田氏:「カーナビの登場で、昔のようにドライバーや同乗者が紙の地図を見る必要がなくなりました。そして今、自動車はネットワークに繋がる”コネクテッドカー”へと進化しつつあります。車自体が色々な情報を集約して、最適なタイミングでドライバーに必要な情報を提供する。カーナビは、そのインターフェースに変わろうとしている。

我々もスマートウオッチに同じような進化を思い描いています。以前は紙の地図で座標を見て、いわゆる地図読みというのをやっていました。それがF20やF30でカーナビと同じように、パッと自分の居場所がわかるようになった。そして次に目指すのは、これをアウトドアで身に付けていれば、何をしたらいいか、周囲でどんなことが起きているか、時計が必要な情報を判断してアドバイスしてくれる、という形です。

進路の間違いを検出してガイドしてくれたり、天気の急変を知らせてくれたり。さらに、ユーザーの思考や行動、体調に合わせた情報まで提供できる、アウトドアに必須のデバイス。それが私たちが目指すスマートウオッチの形です」

一方、ビジネスのステージとしてのスマートウオッチ業界は大きく変わっていくと、増田氏は予想する。

増田氏:「時計メーカーは今まではハードウェアを売ってきました。しかし、スマートウオッチはそう単純には行きません。というのも、スマートウオッチはユーザーの目的によって使われ方が大きく変わるからです。

たとえば、活動量計を使う人からは心拍数や血圧などの生体データ、マップを使う人からは移動距離や訪れた場所などの行動データをどんどん集めてきて、ビッグデータとして次のマーケティングに活かしていく。むしろそちらがビジネスとしては主目的で、時計で儲けようとは思っていない。そんな企業はすでにたくさんあります。ウェルネスやフィットネス、保険などと絡めて新しいサービスを提供したり、あるいは子供やお年寄りの位置情報を時計から定期的に発信したり……。こういったビジネスは、今後ますます多くなるでしょうし、ジャンルも多様化してくると私は見ています」

続伸するスマートウオッチ市場で

カシオも、そういったビジネスを視野に入れているのだろうか。

増田氏:「もちろん、情報セキュリティの担保や法令遵守を前提として、ゆくゆくは考えていかなければいけないと思っています。そのためには、蓄積されるデータをマーケティングに有効活用できるビジネスパートナーと協業していくことが重要になるでしょうね。カシオだけでできる範囲から”外のマーケット”へと出て行かないと可能性が広がりませんから」

坂田氏:「もうひとつ、スマートウオッチのビジネスとして新たに取り組み始めている領域としては、BtoBがあります。たとえば、PRO TREK Smartを”(両手が塞がっていたり、水しぶきがかかる場所など)スマートフォンが使えない、あるいは使いにくいシーンでも使える堅牢性の高い端末”として見たとき、さまざまな業種の方々のお役に立てると思うんです」

たとえば、それは警察や消防、山岳救助隊などだろうか。

増田氏:「すでに、岡山県警さんにWSD-F20の法人向けモデルを納入させていただいています。こういった分野で評価されることが、やがてBtoG(政府機関)のマーケットに参入するきっかけになるかもしれない。そういったビジネスも、スマートウオッチ事業のひとつの軸になってくるでしょうね」

ウェアラブル・スマートデバイスの世界集荷数は、2022年までに約2億台まで拡大するという調査もある。そして、その半数近くをスマートウオッチが占めるというのだ。そんな中、PRO TREK Smartも、ますます存在感を強めていくだろう。カシオのスマートウオッチのさらなる進化に期待だ。

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