今年も残すところあとわずかとなり、新年早々に繰り広げられる箱根駅伝の行方が人々の話題となる季節が訪れた。駅伝という競技の特性を考えれば、強いチームづくりのあり方は、企業における強い組織づくりにも当てはまりそうだ。そこで、2009年に初優勝を遂げて以来、箱根駅伝においてこの10年で4回の優勝と5回の準優勝を果たすという際立った実績を誇る東洋大学の陸上競技部 長距離部門監督 酒井俊幸氏と、デルの上席執行役員 広域営業統括本部長 清水博氏に、それぞれの「チームマネジメント論」について語り合ってもらった。

  • 東洋大学 陸上競技部 長距離部門監督 酒井俊幸氏(右)デル 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水博氏(左)

    東洋大学 陸上競技部 長距離部門監督 酒井俊幸氏(右)
    デル 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水博氏(左)

駅伝と企業のチームづくりの共通点とは

清水氏:私が本部長を務める広域営業統括本部では、従業員100人から1,000人未満の大・中堅企業のマネジメント層の方とお話しさせていただく機会が多いのですが、酒井監督のご著書を読んで、駅伝チームのマネジメントにおけるリーダーシップに、企業で求められるそれと共通するものを強く感じました。特に、個々の力を高めながらチームに貢献するという点です。

酒井氏:もちろん個々人が速くなることが大前提ではありますが、だからと言って個人が速くなれば駅伝で強くなれるかというと必ずしもそうではなくて、そこが不思議なところなんです。私は、タイムにはあらわれない強さというものが、「チームワーク」というかたちになってはじめてあらわれてくるのだと考えています。やはり走るのはロボットではなく人ですから。大きなプレッシャーを受け、天候やコースも異なるなか、“皆が待っているから自分がやらねばならない”といった責任感などがチーム力につながるのでしょう。

清水氏:情シス部門におけるチーム力にも共通項があると思います。ITの世界というのは技術の移り変わりが激しいので、常に新しい技術にチャレンジし続けるような組織であることが第一です。しかし、それが行き過ぎてしまうと今度は組織がバラバラになって隙間ができてしまうのです。そこで、いち早く隙間に気付き、それを埋めようとする行動ができる人がいると、組織の力が高まっていきます。この能力を突き詰めると「言語化する能力」ではないでしょうか。「隙間」がどういうものかを言葉にして周囲に伝える力です。

酒井氏:それはすごくわかります。「思っていること」と「話せること」というのは違いますよね。とりわけ陸上の長距離選手には内に秘めるタイプが多く、それもまた美徳なのかもしれませんけれど、相手に思いを伝えられなければ何も始まりませんから。感謝にせよ、叱るにせよ、褒めるにせよ、言葉にできる能力が長距離選手にとっても非常に大切で、エースと呼ばれる選手というのは総じて言語化する能力が高いですね。何というか、言葉に力があります。

そして今は、エースの役割を担う選手を分散したほうが、“継続して強さを発揮できる組織になっていく”という考えのもとチームづくりを行っています。例えば、2009年に箱根駅伝で初の総合優勝を果たしたときを振り返っても、エースがキャプテンの役割も担っているというよりは、エースの柏原竜二を助ける選手たちがしっかりと揃っていたという印象です。

清水氏:確かに、情シス部門でリーダーシップを発揮する人間のタイプにも、上層部とのコミュケーションに長けた人であるとか、技術力の高い人、現場の士気を高める人など、5種類くらいあって、どれか1つのタイプがいればいいというわけではありません。時流や企業の課題などにあわせた、それぞれの組み合わせが大事になってくるのです。

  • 東洋大学 陸上競技部 長距離部門監督 酒井俊幸氏

常に変化を追求できる組織づくりが大事な理由とは

清水氏:チームづくりで理想として掲げているかたちや目標とはどのようなものでしょうか。

酒井氏:箱根駅伝を考えたとき、出場、シード権獲得、トップ3、そして優勝と、目標によってチームのつくり方自体が変わってきます。どこに着眼してチームをつくっていくかが大事になってくるでしょう。東洋大学は既に箱根駅伝で優勝していますし、オリンピック選手も輩出していますので、次のステップとして世界で活躍できる人材や、将来の指導者育成の土台づくりといった事柄が目標となると考えています。

そして、こうした目標を達成できるチームをつくるためにも、先ほどお話したようにキャプテン1人がしっかりしていればいいというのではなく、キャプテンが担う役割をどれだけ他のメンバーが担うことができるかが重要になってきます。これからはもっとチーム全員がそれぞれの役割ごとに力を引き出す方向へと舵を切らねばいけません。ですので、部でも「1人1役」を掲げてすべての部員に何かしらの役割を担ってもらっています。

清水氏:当社もそうなのですが、競争が激しいからこそ、基本的に掟破りで常にイノベーティブに変化を追求できる組織が強いのではないでしょうか。多くの情シス部門でも、1つの技術を取り入れてある程度成功すると、なかなか新しい技術にチャレンジしようとしなくなるケースもあります。1人でも真剣に新技術に取り組んでいるスタッフがいると、その姿を皆が見ているのでチャレンジの姿勢が情シス内のみならず企業全体に拡がっていくのです。そのため私は「情シスの努力は会社の空気を変える」と考えています。そうして目指すのが、これまでどんなにうまくいっていたとしても、既存のやり方を形骸化させずに、本当にこれでいいのかと疑い、改革を続ける組織にすることなのです。

酒井氏:既存のやり方に甘んじることなく常に変えていくというのはとても大事ですよね。東洋大学でも、例えば毎年の合宿は同じ内容にはしないで、合宿地やメニューも毎年変えています。道具やトレーニング手法なども、海外の最新動向などを参考にしながら積極的に新しいものを導入しています。最近の例ですと、いまや世界のゴールドメダリストの7、8割が履いている厚底のシューズを国内チームで最初に採用したのが東洋大学でした。もちろん、「最新=最善」というわけではないので、常にこれでいいのか見直すようにしています。

  • 東洋大学 陸上競技部 長距離部門監督 酒井俊幸氏(左)デル 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水博氏(右)

IT活用で期待すること

清水氏:チームづくりにおけるITの活用についてどのように考えていますか。

酒井氏:ITに期待する効果は大きく2つで、1つがコミュニケーションの円滑化、もう1つが蓄積されるデータの活用です。

清水氏:ITはどちらにも大きく貢献することでしょう。データ活用に関して言うと、データには実に様々な示唆が含まれているはずです。例えば、選手の記録と健康状況をクロスして分析するだけでも、今まで見えなかった傾向などが絶対に浮き上がってくるはずです。もっとも、酒井監督のように経験が豊富になってくると、データがなくても直感的に状況を把握できるので、むしろそうした直感に説得力を持たせて広く伝えるためのツールとして効果を発揮することでしょう。

  • デル 上席執行役員 広域営業統括本部長 清水博氏

5年ぶりの総合優勝を“狙って”果たす

清水氏:いよいよ2019年の箱根駅伝も近づいてきましたが、こうしてお話をうかがった後だと応援にもさらに身が入る気がします。最後に大会に向けた抱負をお聞かせいただけますか。

酒井氏:前回、往路は優勝したものの、復路では準優勝という結果でしたが、現在我々は、次の箱根駅伝で5年ぶりの総合優勝を狙っています。それも結果的に“勝ってしまった優勝”ではなく、“狙った優勝”を掴みに行きたいのです。そして、狙いを達成してそこから先を目指していくには、ITをより一層活用することが欠かせないのかもしれないですね。

清水氏:そのためにも、当社ならではのお手伝いにぜひ期待してください。

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