2017年における日本国内のサーバーOS市場は、Linuxが急成長を遂げているが、一方でWindows Serverが52%でトップシェアを有しており、この傾向はしばらく続くとされている(*1)。また、差し迫るWindows Serverのサポート終了に伴い、多くの企業は対応を検討しているが、このタイミングで、クラウドへの移行を踏み切るケースが増えてきている。そこで課題となるのは、Windows Serverを選択する場合、簡単に移行できるのか、あるいは移行後の自社のシステム運用はどのように変わるのか、という点だ。

(*1)出典:「国内サーバーオペレーティングシステム市場予測を発表(IDC Japan)」https://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20180821Apr.html

そんな中、2018年10月 東京新宿にて開催されたセミナー「半日で学ぶWindows環境のクラウド移行時に知っておくべき7つのポイント」では、Windows Server移行時にAWSクラウドを選択するメリットについて、様々な事例をもとに解説。本稿では、当日行われた4つのセッションについて、それぞれの概要を紹介する。

協和発酵キリンはなぜ「クラウドファースト宣言」をしたのか

最初のセッションに登壇したのは、協和発酵キリン ICTソリューション部 インフラソリューショングループ マネジャーの楠本貴幸氏。2013年の「クラウドファースト宣言」以来、同社はサーバー更新のシステムと新規導入システムを対象にクラウド移行を進めていた。

協和発酵キリン ICTソリューション部 インフラソリューショングループ マネジャー 楠本貴幸氏

協和発酵キリン ICTソリューション部 インフラソリューショングループ マネジャー 楠本貴幸氏

「システムを選択する際、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の観点から第一にSaaSを、それができない部分についてはIaaSを選択しています。オンプレミスは、選択肢としては最後となります」と楠本氏は語る。ちなみに現在のオンプレミスとIaaSの比率は1:3で、IaaSの9割はアマゾン ウェブ サービス(AWS)を使用している。

協和発酵キリンが「クラウドファースト宣言」をした理由について楠本氏は「インフラの管理運用にかかっている手間、コスト、時間、それらを抑制することでした。ですから決してインフラの管理が目的ではありません」と語る。

  • 協和発酵キリンが「クラウドファースト宣言」をした理由

    協和発酵キリンが「クラウドファースト宣言」をした理由

AWS移行から5年が経過した協和発酵キリンの今

協和発酵キリンがAWS移行の際大切にしたことは「移行の負荷、運用メンバーのスキルを考慮」すること。 「移行は一気にやるのではなく、ハードウェアの更新時を見計らって段階的に行いました。OSもメンバーが使い慣れているということもあり、Windows Serverのシステムを継続して利用しています」(楠本氏)

では、そもそもなぜ協和発酵キリンはAWSを選択したのか、その理由は明確で「クラウドファースト宣言の時点では当社にとって最も適したサービスであり、その時点において他に選択肢がない状態だったから」とのこと。それから5年が経過した現在は、様々なクラウドサービスが登場しており選択肢も増えている。それでもAWSを選び続けるのは、「今現在も、AWSが当社にとってもっとも相性がよいクラウドサービスだから」と楠本氏は語る。

「AWSはイノベーティブで、常に最先端の機能やサービスが追加されています。SaaSを一番の選択肢と考えている私たちとの相性も非常によいため、AWSを選択し続けているのです」

AWS導入によって、ビジネスの変化に対応するITへ

AWSを利用するメリットは数多くある。楠本氏によると「現場の担当者に訊くと、AWSを使っていても忙しさは変わらないが、「忙しさの種類とその目的」に、ポジティブな変化があったそうだ。

「確かに、クラウドに移行したことで管理運用の手間は減りました。ですが、最近ではビジネスが日々変化しており、システムもそれに迅速に対応していかなければなりません。クラウド導入前は、トラブル対応で忙しい日々を送っていましたが、今は、ビジネスの変化に伴うITの対応に時間を割いておりと、業務の内容が前向きに変わってきています。また、 AWSも常に進化をしています。ですので、私たちもAWSのセミナーや勉強会に参加したり、AWSパートナーや営業担当に相談したりと、日々変化するビジネスに対応するためのITを提供するため、情報収集していく必要があるのです」と語り、楠本氏は講演を締めくくった。

Windows環境のAWS移行における3つのポイント

続いて登壇したのはAWSが2018年4月に新しく立ち上げた「Amazon EC2 for Windows Server」プログラムの認定パートナーである富士ソフト ソリューション事業本部 課長の田中基敬氏。同社は、移行計画から運用まで一気通貫で支援する「AWSマイグレーション サービス」を提供している。

富士ソフト ソリューション事業本部 課長 田中基敬氏

富士ソフト ソリューション事業本部 課長 田中基敬氏

田中氏は、Windows環境をAWSへと移行する際には「知っておくべきこと、やっておくべきことの事前確認が大切」と語る。

まずはじめに、クラウド移行に際して社内の方針をまとめることがあげられる。担当者は、経営層への説得、“反対勢力”との調整、システム部門との連携など、各部門の抱える課題や問題を考慮しながら社内を取りまとめていく必要がある。方針がまとまれば、クラウド移行への実施プロセスを検討する。

田中氏は「オンプレミスとクラウドは、管理や運用の手段はもちろん、発想そのものがまったく異なります。システムを移行する際には、それぞれの違いを、移行に携わる関係者全員がしっかりと理解した上で、必要な施策を事前に検討しておくことが何よりも大切です」と語る。

例えば、Windows Serverをクラウドに移行する際には、保有している既存のラインセンスがクラウドでも利用可能か、という点。もし確認を怠ると、不要なコストが掛かることに加え、移行のスケジュールにも大きな遅れが生じる場合もある。

続いて田中氏は、移行する際の検討ポイントとして、「移行コスト」「セキュリティ」「役割分担」の3つを挙げた。

複雑な移行方式を選択すれば必然的に移行コストはあがる。そのことを踏まえた上で 、できる限りコストを削減する手法を選択すべきだ。セキュリティは、AWSの責任共有モデルを理解したうえで、ユーザー企業側の責任範囲について対策を検討しなければならない。また、アプリ開発やインフラの構築を依頼する場合には、ユーザー企業側と開発会社、それぞれの役割分担を明確にしなければ、移行作業の進捗にも影響が出る。AWS移行時には、これら3つの検討項目について、豊富な知識と経験を持っているパートナーの選択が重要なポイントとなる。

  • 富士ソフトが提唱する、Windowsサーバーを移行する際の注意点

    富士ソフトが提唱する、Windowsサーバーを移行する際の注意点

最後に田中氏は、「クラウドは、移行して終わりのシステムではありません。より良く、そして効果的に活用するためには、利用料の見直しによるさらなるコスト削減や、セキュリティを担保した上で、AWSのサービスを活用したシステムの構築が必要です。私たち富士ソフトでは、独立系のSIerならではのメーカーにとらわれない豊富なサービスと、6,000名を超える技術者集団、そして豊富な開発実績に基づいた経験と知識によって、お客様の悩みに対してワンストップでお応えしていきます。Windows環境のAWS移行でお悩みの際には、是非ともお気軽にお声がけください」と語った。

  • 独立系SIerならではの、自由度の高い提案力、サポートが富士ソフトの強みだ。

    独立系SIerならではの、自由度の高い提案力、サポートが富士ソフトの強みだ。

AWSのノウハウが満載な技術ブログ「Developers.IO」

3つ目のセッションに登壇したのは、クラスメソッド AWS事業本部 コンサルティング部 部長の西澤徹訓氏。同社は、APNプレミアコンサルティングパートナーに4年連続で認定され、社員が保有するAWS公式認定資格の数が400を超える「AWS専業のプロ集団」である。同時に、AWSのVDIサービスであるAmazon WorkSpacesの導入支援を行っており、事業会社の「働き方改革」に取り組む企業でもある。

クラスメソッド AWS事業本部 コンサルティング部 部長 西澤徹訓氏

クラスメソッド AWS事業本部 コンサルティング部 部長 西澤徹訓氏

当日のセッションは、WorkSpacesを活用した「働き方改革」をテーマに、同社が運営する月間170万PVの技術者ブログ「Developers.IO」の記事を紹介するという手法で進められた。

例えば、よりセキュアに使いたい場合には「[AWS]WorkSpacesのデバイス認証を使ってセキュリティを向上させる」という記事が、Microsoft Active Directoryの利用については「Microsoft AD(AWS Directory Service)を利用する上で注意すること」という記事が西澤氏によって紹介され、それぞれ簡単な解説が行われた。

「AWSのサービスは魅力があるものばかりです。ただ、それ以上にすばらしいのは、このコミュニティの中に存在する数々のドキュメントです。ノウハウを積極的に共有していこうという流れが、AWSのコミュニティには存在します。交流が広がれば知識も深まり、みんながハッピーになります。その交流の場として、Developers.IOをご活用いただければ幸いです」

Windows環境のクラウド移行時に知っておくべき7つのポイント

最後のセッションに登壇したのは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューション営業本部 本部長 吉田淳氏。セッションでは、Windows環境のクラウド移行時に知っておくべき7つのポイント、ならびに、なぜWindows Serverの移行先にAWSを選択するべきなのか、について解説が行われた。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューション営業本部 本部長 吉田淳氏

アマゾン ウェブ サービス ジャパン ソリューション営業本部 本部長 吉田淳氏

吉田氏はまず、Windowsアプリケーションの移行にまつわる、ユーザーが抱える課題や不安を3つ挙げた。「古いバージョンのサーバー、データベースは移行可能か、広範囲にわたるMicrosoft製品が問題なく稼働するか、既存ライセンスは引き続き活用できるか、の3つに集約されます。そして、これらの課題は、AWSですべて解決できるのです」

加えて吉田氏は、「Windows環境のクラウド移行時」における重要なポイントとして、最適なコスト、信頼性とセキュリティ、サポートと移行手段の充実、豊富な実績、ビジネスの俊敏性、豊富なサービスと将来性、充実したエコシステムの7つを挙げた。

AWSでは、過去11年間で65回以上値下げを実施し、高い耐障害性を実現するアベイラビリティーゾーンと数々のセキュリティ規制へ準拠している。また、24時間365日環境の日本語サポートと環境に応じた複数の移行サービスがあり、 日本国内における数々の導入実績も豊富だ。

そして、初期投資については不要で、かつスケールアップ・ダウンが容易、125以上の豊富なサービスと最新の技術(Alexa、Amazon GOなど)、223社のコンサルティングパートナーと315社のテクノロジーパートナーによって、7つの重要ポイントに対応している。サービスを選択する際に、このポイントに注目しておけば、移行時や移行後に発生するトラブルを未然に防ぐことが可能となるだろう。

最後に吉田氏は、「AWSでは、Windows Server 2003 R2から2016までのバージョンをベースにしAMI(Amazon Machine Image)を提供しています。ライセンスの選択肢も複数取りそろえているので、状況に合わせた移行が可能です。またAmazonEC2 for WindowsというWindowsの移行に特化したパートナーさんもいらっしゃいます。ちなみに、今回ご登壇いただいた富士ソフトさんとクラスメソッドさんもパートナーです。ですので、Windows Serverからの移行に際しても、安心してAWSをご利用いただけます」と締めくくった。

  • Windowsインスタンスへの連携の歴史と実績

    Windowsインスタンスへの連携の歴史と実績

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