働き方改革関連法の施行が迫る中、注目を集めているのがRPA(Robotic Process Automation)だ。定型・反復作業を延々とミスなく繰り返すソフトウェアロボットは、働き方改革の救世主となりうる。民間企業では徐々に導入が進みつつあるRPAだが、公共機関の業務にもそれは当てはめられるものなのだろうか。また、どのように導入を進め、浸透させていくべきなのだろうか。こうした疑問に答えるセミナー「公共機関向け働き方改革~AI・RPAを使った業務効率化~」が、2018年10月31日、都内で開催された。

  • 2018年10月31日開催「公共機関向け働き方改革~AI・RPAを使った業務効率化~」

    2018年10月31日開催「公共機関向け働き方改革~AI・RPAを使った業務効率化~」

セッション1 :総務省テレワークマネージャー
必要なのは、労働参加率の向上と生産性の向上

会社員としての本業を持ちながら、副業で総務省から委嘱を受けてテレワークマネージャーを務める成瀬 岳人氏は、「テクノロジーと共存するこれからの働き方」と題した講演を行った。成瀬氏は、働き方改革を進めるにあたって取り組まなければならないテーマは「労働参加率の向上」と「生産性の向上」の2つだと言う。

総務省 テレワークマネージャー 成瀬 岳人氏

総務省テレワークマネージャー 成瀬 岳人氏

「既存の経営とか組織運営の概念を捨て、必要な能力を持つ人材に“労働に参加してもらう”のが、『労働参加率の向上』という考え方です。これを実現するには経営環境を整備し、事情を抱えた個人でも活躍できる場を作っていくことが必要となってくるでしょう。例えば私が勤める会社では『働きたいときに来ればいい』『週3日でも能力を活かしてくれればいい』というスタイルを採っています。その結果、育児中の女性を中心に優秀な方が集まってくれています」(成瀬氏)

もう1つのテーマである「生産性の向上」は、テクノロジーを活用して実践するべきものだが、人材活用に対する考え方にも深い関係があるという。

「IT、特にAIやRPAといった、生産性向上に貢献する新しい技術に知見を持っている人材が少なく、そのため人の取り合いになっているわけです。そういう知見を持った人、優秀な人を1つの組織内に抱え込むのはやめ、人材の流動性を高めるべきでしょう」(成瀬氏)

「持論ですが」と前置きしてから、成瀬氏は働き方改革の3つのステージについて語った。ステージ1は従来の大量生産大量営業時代からの脱却、ステージ2は「多様で柔軟な働き方の実現」、そしてステージ3が「生産性向上とイノベーション促進」だという。ステージ1や2は多様な人材を育てる手段であり、そうした人材がステージ3で活躍し、日本本来の強さをもう一度取り戻すというのが働き方改革の本筋だと成瀬氏は説明する。これを進めるのに「デジタル武装は必須」であり、その武装のひとつとしてRPAがあると成瀬氏は捉えている。

  • 成瀬氏が考える働き方改革のステージ

    成瀬氏が考える働き方改革のステージ

RPA導入、浸透、そして効果の有効活用

「自治体や公共機関の多くはまだ導入計画の最中だと思います。自動化対象業務の選定や、ツールの選定などは緻密に行っていただきたいところですが、RPAは導入したら終わりではなく、導入後、現場が使いこなさないと意味がないツールです。誰がどう使うのかまで考えて導入を進めることをお勧めします」(成瀬氏)

導入前には「本当に効果があるのか」「自分の仕事がなくなるのではないか」という疑念を持つ職員もいるだろうが、きちんと推進チームを組織し、現場や上層部にPoCの結果を伝えて説得していくことが「RPA導入を進めていくときのセオリーです」と成瀬氏は語る。そして導入後は、ロボット作成で出てきた課題や解決策を周囲と共有し、横展開を行っていくことも重要だ。また、浸透させるには焦らないことも必要だと成瀬氏は言う。

「現場の人々は、実際に自動化が行われているのを見て『そういうことができるのか』と実感を得ていくことが多いので、推進側には焦らずジワジワと広めていく努力が求められます」

講演の最後に成瀬氏は「RPA導入や楽をすることが目的なのではなく、自動化によって創出された時間を有効に活用することが本質なのだということを忘れないでほしい」と念を押した。

「AI・RPAが発達すれば、人が1人で行う仕事はなくなっていき、“人ならではの価値”やイノベーションを生むためのコラボレーションワークが重要となります。自分とは異質の経験値を持つ人と会い、コラボレーションの時間を創出するために、デジタルツールを利用するという考え方が、これからは重要になってくるでしょう」(成瀬氏)

セッション2:UiPath(ユーアイパス)
RPAソフトウェア「UiPath」、その特長と公共機関でのメリット

次に登壇したのは、RPAソフトウェアの開発・販売を行っているUiPath社のクライアントソリューション本部 クライアントソリューションマネージャー 廣瀨 明倫氏だ。同社製品であるUiPathの特長と、公共機関で利用する際のメリットなどを紹介した。UiPathは、現在世界で1,800社以上、国内でも550社以上が採用しているという。

UiPath株式会社 クライアントソリューション本部 クライアントソリューションマネージャー 廣瀨 明倫氏

UiPath株式会社 クライアントソリューション本部 クライアントソリューションマネージャー 廣瀨 明倫氏

RPAソフトウェアUiPathの特長は、主に5つある。1つ目は「コンピュータビジョン」だ。RPAツールは画面内容を機械的に認識して操作を覚え、実行する。そのため操作を覚えた時(シナリオ作成時)と実行時で画面環境が変わると、クリックすべきボタンや入力フォームの位置にずれが生じ、動かなくなることもある。こうした事態を回避するため、UiPathではオブジェクト認識という手法をメインに据えている。これは画面の構造情報を把握する仕組みで、位置や解像度に多少のズレがあっても作業には大きな影響を及ぼさないという特長がある。

「また様々なアプリケーションやブラウザに対応できるので、サイロ化してしまったシステムの横連携を行うような時にも有効に働きます」(廣瀨氏)

特長の2つ目は「ユーザビリティ」だ。ロボット運用の準備段階では、人間が行う細かい操作を連ねたシナリオを作成する必要があるが、UiPathにはこれを円滑に進めるために「クリック」「ダブルクリック」などを指定する部品が多数揃っており、シナリオ作成の手間を大幅に省くことができる。また人間が行った操作を自動でシナリオ化する機能も搭載されている。

「法令や条例の改正などがあって、業務フローを変えなければならないという時にも、迅速にロボットの改修が可能です」(廣瀨氏)

3つめの特長は、PC2台からの「スモールスタート」が可能で、拡張にも柔軟に対応するという点だ。運用効果・投資効果を確認しながら台数を増やしたり、管理用コンソールを追加したりしながら、大きな構成に育てることができる。その他、柔軟なインターフェースが備わっており、レガシーシステムとの連携はもちろん、AIやOCRと組み合わせられること、無料講習やトレーニング用Webサイトが用意されていることが特長として説明された

短縮された時間を、より高度な住民サービスに

UiPathは既に茨城県、奈良市、下関市などの地方自治体で採用されている。また加賀市では、契約管理と電子入札に利用するシステム間で、情報を転記する作業に導入したところ、年間169時間かかっていた作業が54時間にまで短縮可能であることが示されたという。

「1つの案ですが、大きな災害が発生したときの連絡体制の中にRPAを入れ、市町村からの第一報をすぐに県のWebに掲載させる仕組みをRPAで整えれば、時間短縮効果もあるでしょう。災害情報に限らずRPAの時間短縮効果を、より高度な住民サービスの提供に活用していただきたいと思います」(廣瀨氏)