アウトドア向けスマートウオッチとして気を吐くカシオの「PRO TREK Smart」。その最新機種「WSD-F30」(以下、F30)が発表されました。F30は、小型軽量化や(GPSと連携した状態でマップが最大3日間も使用可能な)「エクステンドモード」が注目されがちですが、今回も時計メーカーならではのこだわりが、その全身に詰まっているようです!
そこで今回は、そのデザインを担当したスタッフを直撃! 特にこだわったという、外装などのデザイン要素についてお話を伺いました。
デザイン優先の設計で実装を見直す
――本日はよろしくおねがいします。まず、ケースサイズについてお聞きします。「WSD-F20」(以下、F20)の61.7×57.7×15.3mmから、F30では60.5×53.8×14.9mmへと大幅に小型化されましたね。これはどのような工夫によって可能になったのですか?
鈴木氏:「開発サイドに内部ユニットの実装を見直してもらい、無駄をそぎ落とした形を目指しました。具体的には、バッテリーとモニターを小型化できたのが大きかったと思います」
小島氏:「WSD-F10(以下、F10)やF20のときは、内部の仕様がすでに決定されていたんです。したがって、それらが収まるサイズでデザインをしなければなりませんでした。でも、F30では小型化を最優先するという命題があって、デザインも比較的自由にしていいとのことでした。そこで我々も当初から、開発のスタッフに“もっと小さくしてほしい”と要求していました。
ムーブメントギリギリまで、ケースサイズを小さくする。それは時計を作る上で重要なテーマだと、私たちは考えています。それによってデザイン的に引き締まる。線に緊張感が出て、造形にシャープさが生まれるんです」
――デザイン優先で進められたということですが、もっと大胆にイメージを変えてしまおうとは考えませんでしたか? たとえばF10のデザイン段階で候補に挙がった、モニターが四角のものとか。
鈴木氏:「おかげさまで、このシリーズがアウトドア向けスマートウオッチとして多くのお客様に評価いただいているので、そこは円形のモニターの良さを守って行こうとは決めていました」
「画面が小さくなった」を感じさせない
――そのモニターですが、F20の1.32インチから、F30では1.2インチになりましたね。画面の大きさはシリーズの売りでもあるだけに、これを小型化することに反対意見は出ませんでしたか?
小島氏:「正直、たくさん出ました(笑)。視認性と操作性の高い大画面が好評だったのに、それを小さくしてまで小型化すべきなのか、と。でも、ケースサイズの小型化は多くのユーザーからの要望でもあったんです。登山をする女性にすすめられるサイズにもしたかった。
そこで、画面サイズの異なるモックアップを3Dプリンターで製作して、見やすさや操作性のシミュレーションを繰り返しました。画面の大きさを直接触れる形で検証したかったのです。3Dプリンターのおかげで、さまざまな形状のモックアップをすぐに作れるようになったのは便利でしたね。以前なら1カ月かかっていたモックアップが、今は3日で作れますから」
――それにF30のモニターは、実は解像度もF20より上がっているんですよね。
小島氏:「F20のモニターは320×300ピクセル、対してF30のモニターは、390×390ピクセルです。なお、F30のモニターには、発光効率が高くユニットの厚みも薄くできる有機ELを使用しています。こうして、小さくてもF20に勝るとも劣らない視認性と操作性を実現できました」
――確かに、小さくなったことによるデメリットはまったく感じられないですね。文字の読みやすさも、まったく遜色ないですし。
小島氏:「F30の画面は、F20の90%のサイズです。これは最初から“90%に収めよう”としたのではなく、見やすさ、操作性、ケース形状などを追求していった結果、自然に90%になった。ただ、インタフェースには個人の好みもあって、やはり画面は少しでも大きいほうがいいというお客様もいらっしゃいます。その場合は、引き続き併売されるF20をお選びいただければと思います」
――F30は、ケースサイズに対して画面が大きく見えますね。これは新設計のベゼルの効果もありそうですね。
小島氏:「その効果は狙っています。ベゼルを新設計とした理由に”フェイスデザインの価値と品質をワンランク上げたかった”というのがあって、その手段として非常に精緻な形状が成形できる”ナノ加工”を使用しています。具体的には、ベゼルに刻まれた同心円の溝の部分。溝のエッジが立っていて、樹脂とは思えないほどの精度でしょう?」
――えっ、このベゼル、樹脂なんですか? てっきりメタルパーツかと思っていました! 溝がすごくシャープなので、画面をスワイプして指が端へ逃げるときの感覚がとてもいいですね。快感(笑)。
小島氏:「この溝のピッチは0.2ミリという細さです。これはナノ加工でなければ作れません。ナノ加工ではマスター型を超微細に振動させながら、金型を彫っていくんです。しかも、作業に24時間くらいかかる。その間に地震があったりしたら、高価な金型(小さなものでも数百万円以上!)が一瞬で使えなくなってしまいます。だから、高度な金型技術としっかりとした耐震設備がある工場でないと作れません。ちなみに、このベゼルのナノ加工は山形カシオで行っています」
本体のブルーは、こだわりの新色。バンドは結晶体をイメージ
――本体カラーに新色「ブルー」が加わりましたね。
鈴木氏:「中身も外見も大きく変わったので、新しいイメージカラーで行こうと。本シリーズでは新色となりますが、ブルーは時計でよく使われる色ですし、人の腕にも合います。より時計本来のマナーに寄せることで、お客様の層を広げたいという考えもあります。とはいえ、ただブルーというだけではつまらないので、F30のコンセプト“ネイキッド”を受け、“むき出しの鉱物(ネイキッド・ミネラル)”の深みのある青をイメージしました。日本国内では、これがF30のメインカラーになります」
小島氏:「実はこのブルーも色々ありまして……。ケースはメタル製ですかとよく聞かれるのですが、これも樹脂製。着色は塗装です。今回はケースの上からベース色、シルバー(アルミの塗装層)、クリアブルーと、3層の塗装をしています。ただ、実はこれが難しい。下地の色やクリアカラーの濃度、吹き方で容易に色が変わってしまいますし、アウトドア用途ですから塗膜の強度も必要なんです。塗料メーカーさんにお持ちいただいた山のような吹き付けサンプルをすべて見て決めました」
――外観のデザインとして、ひと目見て大きく変わったと感じるところは、カン足(ケースとバンドの接続部)の形状ですね。ここがぐっと絞り込まれたことで、より時計的な形状になったと思います。
小島氏:「そうですね。また、ケースサイズを小さく見せる上での効果も狙っています。F20のようなカン足にくびれのない形状は、ケースからバンドへのラインのつながりがキレイなのですが、そのぶん容積が大きくなってしまいます。そこで、この広がっている部分の実装を削減してくださいと(開発サイドに)お願いしました。
PRO TREKのデザインで特徴のあったビスも横から打つ形にしたので、大きく印象が変わりました。同時に、バンド取り付け基部としての性能も改善していて、装着感がより向上したと思います。
――このバンドは、うっすらと浮かぶパターンがキレイですね。一見するとカーボンみたいな、あるいはホログラムのような。
鈴木氏:「ありがとうございます。バンドは樹脂のみで、カーボンのようなものは一切使っていません。が、樹脂を越えた別の質感に見えるような効果をめざして、試行錯誤を繰り返しました。先ほど、むき出しの鉱物のイメージがコンセプトという話をしましたが、それはバンドにも生きています。鉱物のようなソリッドで硬質なものがカットされて、その断面が光を複雑に反射する、そんなイメージで試作を重ねました」
――なるほど、パターンの形が六角形の重なりで構成されているのは、そのせいなんですね。
アウトドアウオッチブランドの視点を凝縮
――バンドの表面を指でなでてみると、すごく微妙な凹凸のパターンになっているんですよね。
小島氏:「これも金型メーカーさんと喧々諤々で……。こんなのできないよって言われて(笑)。でも、とにかくやってみてくれと。そこを粘り強く説明、説得して、金型メーカーさんも頑張ってくれたおかげで、何とか実現できました」
――バンドの穴の数も多いですね。耐久性は問題ないのですか?
鈴木氏:「デザイン的な見た目とともに、装着時、より微調整ができるようにと、穴の数を増やしました。従来8mm間隔だったものを5mm間隔にしたので、ご自分の腕に最適な位置で留めていただけると思います。強度については何度もシミュレーションを繰り返したので、実用面ではまったく問題ありません。それどころか実は裏側(内肉)を削ぎ落としているんですよ。このおかげでバンドが柔らかくなり、装着感がさらに向上しています」
小島氏:「あと、F30のバンドはスライドレバー式で簡単に取り外せるんです。手軽に取り外して、時計、バンドとも水洗いできるなど、メンテナンス性が大きく向上します。アウトドアで使うものだけに、汚れを気にされる方も多いでしょうから」
――そういえば、以前発売されたWSD-F20Xでは交換用のクロスバンドが付属していて好評でした。あれに近い方式(まったく同じではない)ですね。ということは今後、オプションで交換用バンドが発売されるのでは? カラビナ付きのストラップとか。
小島氏:「現時点では何も決まっていませんが……今後、お客様からのニーズが出てきて、やることになったら面白いですね。製品の世界観も広がりますし」
一般的なスマートウオッチは外注の既製ムーブメントを自社のケースに入れたものや、通信機器メーカーによる「時計とは異なる文脈からのアプローチ」によるものが少なくありません。
そんな中でカシオは、アウトドアという独自で明確なコンセプトのもと、機能や用途の提案、外装デザインへのこだわりや品質を追求。歴史あるアウトドアウオッチ「PRO TREK」の血統を受け継ぐ新しい時計として、他メーカーとは一線を画すブランディングを行っていると再認識しました。
[PR]提供:カシオ計算機