富士通クラウドテクノロジーズ(FJCT)は8月29日、同社セミナールームにおいてクラウドエンジニアの交流イベント「ニフクラ エンジニア ミートアップ」を開催した。同イベントは、今回が7回目。ドリンクと軽食を片手に、リラックスした雰囲気で、ニフクラユーザーだけでなく、他のクラウドのユーザーや、クラウド活用に関心があるエンジニア同士で交流を深めるという主旨はこれまでと同じだが、今回は大きな「変化」がひとつあった。それは「引っ越し」だ。

ニフクラを運営するFJCTは、2018年7月に、旧ニフティクラウド時代から長らく拠点としてきた新宿区北新宿から中央区銀座へと本社を移転した。新社屋は5路線3駅(新橋駅、築地市場駅、東銀座駅)からアクセスできる便利なロケーション。オープンエリアやセミナールームも拡充され、FJCTが顧客やパートナー企業と交流しながら、コラボレーションを触発する拠点としての役割も担う。

この本社移転にちなんで、今回のミートアップのテーマは「引っ越し」。オンプレミスからクラウドへ、あるいはクラウドからクラウドへの「サーバの引っ越し」にちなんだ複数のライトニングトーク(LT)が行われた。

VMwareユーザーがニフクラへ「引っ越し」する時のポイントは?

最初のLTは、同イベントのコーディネーターでもある、日本仮想化技術代表取締役の宮原徹氏が行った。宮原氏は、VMware関連ソリューションを10年以上取り扱い、複数の書籍執筆にも携わってきたエキスパートでもある。その立場から「VMwareユーザーのためのニフクラ超入門」と題し、VMwareユーザーが「ニフクラ」を利用する場合に押さえておくべきポイントについて紹介した。

VMwareユーザーが「ニフクラ」を選択するメリットして、宮原氏は「VMwareとアーキテクチャーが一緒なので新規学習コストが低い」ことと「課金体系が実務に即しており使いやすい」ことの2点を挙げた。

日本仮想化技術代表取締役 宮原 徹 氏

日本仮想化技術 代表取締役
宮原 徹 氏

「UIは変わっているものの、頭の中で『この機能はVMwareのあれに対応しているのだろうな』といったイメージがしやすく、すんなりと使える。また、ビジネスで利用する場合には、課金体系が明瞭で使いやすいものになっている点もポイント。ネットワーク転送量についてはリージョンごとに月あたり10TBまでが無料。むしろ無料分を使い切るのが難しいレベルで、転送量課金を恐れずに使える」(宮原氏)

また、パブリッククラウドである「ニフクラ」を使う場合と、VMware環境を独自に構築する場合とを比較すると、使える機能や柔軟性という点では限定的だが、通常の利用には必要十分な機能はコントロールパネルやAPIから利用できる。また、構築やリソース増強が手軽、障害対応やバージョンアップなどの運用作業を任せられるといったメリットがある。

宮原氏が特に注意すべき点として挙げたのは「ネットワーク設計」だ。普通に使う分には困らない程度ではあるものの、共有サービスとしての性質上、ニフクラのネットワーク環境の構築には多少の制限がある。特にこれまで他の環境で動かしていたシステムのネットワーク構成をなるべく変更せずにニフクラへ移行したい場合などには注意が必要だという。

「ここは逆に考えて、もしニフクラにそのまま持ってこられないようなネットワーク構成になっているのであれば、設計ポリシーを改めて再構築する機会と捉えることもできる」(宮原氏)

その一方で、VPN環境やロードバランサーといった「使いたいけれども、自前で用意しようとすると面倒なもの」を、提供されている機能の一部としてすぐに使えるのは、ネットワーク面における「ニフクラ」の嬉しい点だとした。

実際に、VMをニフクラへ移す際には、用意されているVMインポート機能を利用できる。このあたりの手軽さはニフクラならでは。また、大量のデータやVMを移したい場合には、物理的なディスクを介してニフクラ側でデータ移行を代行する「ディスク受取サービス」も提供されている。VMインポート時の具体的な注意点としては、ニフクラが用意している公式ドキュメント類も充実しているため「それらを参考にすればスムーズに作業できるだろう」(宮原氏)とした。

宮原氏はまとめとして「既存環境からニフクラへの移行は、新規にVMを作成して試しつつ、できるところから段階的に移行し、ハイブリッドな構成で運用していく形が現実的なのではないか」とした。また、日本仮想化技術は今年よりニフクラの正式なパートナーとなっている。ニフクラの活用支援をはじめ、VMwareによる既存環境の移行、統合をはじめ、新規システムの構築、運用保守などもサポートできるので「何かあれば声をかけてほしい」と述べた。

「引っ越し」したシステムの運用管理にHinemosが役立つ理由

続いて登壇したのは、NTTデータ先端技術の石田純一氏。同社で「Hinemos」のプリセールスおよびプロモーションを担当する石田氏は「引っ越しても安心! Hinemosで運用管理を一元化」と題し、システムをクラウドへと移行していく際の「運用管理」に、Hinemosをどう活用できるのかについて紹介した。

Hinemosは、NTTデータがOSSとして開発した、エンタープライズシステム向けの統合運用管理ソフトウェアである。現在は、石田氏の所属するNTTデータ先端技術において、開発やサポートが行われている。

企業が運用管理にHinemosを導入する際のメリットとして、石田氏は「システム管理の統合」「データ収集と活用における自動化」「運用コストの削減」の3点を挙げた。

NTTデータ先端技術 石田 純一 氏

NTTデータ先端技術
石田 純一 氏

「システム管理の統合」は、オンプレミスとクラウドの混在環境においても、VMのOSより上のレイヤーに対して監視やジョブ管理といったさまざまな運用要件を実現できるという、Hinemosの基本機能だ。VMの「引っ越し」を進めていくにあたって避けられない、ハイブリッドな構成を管理していくにあたり、ワンパッケージで両環境に対応できることは運用コストの削減にもつながる。

また、クラウドサービス側で提供しているAPIを活用した監視についても、Hinemosが提供するカスタム監視/カスタムトラップ監視機能を使うことで実現可能という。さらに、Hinemosを通じたクラウド環境に対する運用操作の定型化や自動化、クラウド側での構成変更情報のHinemosへの反映といった作業についても、クラウドサービス側のAPIとHinemos側のAPIを組み合わせて実現でき、運用の効率化に寄与するという。

「データ収集と活用による自動化」は、オンプレ、クラウドにかかわらず、Hinemosで管理しているシステムのあらゆるログデータを収集し、可視化や監視を行える機能になる。従来は、集計したデータに基づくシンプルな監視のみに対応していたが、近年の機能強化により、データに対して統計的な処理を施したうえで、将来的な異常発生時期の予測や、普段の傾向との差による異常値検知なども行えるようになっている。分析の結果に基づいて、必要な操作や処理を自動的に行うといったことも可能だ。こうした、より高度な自動化のための仕組みをワンパッケージで実現できるのもHinemosの特長だという。

HinemosはOSSとして公開されているが、サブスクリプションによりトレーニングやアップデートを含む商用サポートが受けられる。サブスクリプションは、管理対象単位ではなく、管理を行うマネージャー単位での課金となっているため、リソースのスケールアウトやスケールアップ、導入後のVMの配置変更などによって費用は変動しない。仮想化環境の運用に合った課金体系と、高度な自動化機能を組み合わせることによって「IT管理コスト全体の約45%を占めるといわれる運用コストを大きく削減できる」とする。

「Hinemosのニフクラ上での動作は既に確認済み。また、実案件での導入実績もあり、しっかりとした企業向けのシステムであっても、ニフクラ上で稼働させ、Hinemosで管理できることが実証できている。もし、現在のVMware環境からニフクラへの引っ越しを考えているのであれば、ぜひ、Hinemosの導入も合わせて検討してほしい」(石田氏)

引っ越し後のFJCTが始める「ニフクラボ」「ニフクラウンジ」って何?

ここからは、FJCTのエンジニアにより、銀座への「引っ越し」を機にスタートした、同社の新たな取り組みについての紹介が行われた。

インフラデザイン部の田上亮氏によるLTは「次世代アーキテクチャーを実験/検証するサーバールーム『ニフクラボ』はじめます(もうすぐ)」と題されたものだ。

「ニフクラボ」は、端的にいえば、クラウドを使う側としてではなく、「ニフクラを作る側」としてサービスを提供しているFJCTにおいて、より高性能、より高品質なサービス提供を行っていくためのインフラ管理のあり方を実現していくための実験、検証施設ということになる。

富士通クラウドテクノロジーズ インフラデザイン部 田上 亮 氏

富士通クラウドテクノロジーズ
インフラデザイン部 田上 亮 氏

「ニフクラのインフラ管理については、これまでかなり自動化を進めてきたものの、それでもまだ手順書ベースでの仕事が必要な部分が残っている。今後、物理インフラの運用についてもCI化を進め、コードベースでの自動化を実現していきたい。ニフクラボは、その実験と検証に特化して利用できるサーバールームだ」(田上氏)

物理サーバ、ストレージ、ネットワーク機器、VMwareの仮想化基盤、自社製アプリケーションといった「ニフクラ」の構成要素を、本番環境とは切り離された模擬環境として構築することで、意図的に障害を発生させたり、物理機器の状態に依存したりするようなテストも、より行いやすくなる。そうした環境を使いながら、物理インフラの運用をCI化していくことで、「運用者側での生産性の向上」「インフラの健全性維持」「デリバリーのスピード改善」といった効果を見込んでいるという。

「ニフクラボでは、クラウドを構成するコンポーネント単位、あるいはクラウドシステム全体についてのお客様目線、運用者目線双方でのテストを行いながら、ニフクラの物理インフラ運用のCI化を促進していく。それに加えて、大規模な模擬環境として、性能検証やチューニング、障害体制の検証、障害復旧手順の確認や復旧訓練などにも活用していきたいと考えている」(田上氏)

田上氏に続いて登壇したのは、データ・IoTデザイン部、エンジニアタスクフォース委員長の織田晃弘氏だ。同氏によるLTのテーマは「エンジニアコミュニティ支援『NIFcLounge(ニフクラウンジ)』はじめました」である。

FJCTでは、これまでもクラウドに関わる技術を扱うエンジニア同士の情報共有やスキル向上、コミュニティの醸成に関する活動に取り組んできた。もちろん「エンジニア ミートアップ」もそうした活動の一環だ。同社では銀座へのオフィス移転を機に、こうした取り組みを事業の一部として、より本格的に展開していくことを発表した。プレスリリースはこちら

「ニフクラウンジ」は、FJCT内のセミナールーム(今回のミートアップの会場)を、ITエンジニアやクリエイターによる自主的な勉強会の会場として無償提供する取り組みである。 利用条件は「IT系の技術勉強会であること」「非営利の勉強会であること」「会の中で営業行為を行わないこと」。この条件に同意する主催者は、専用のGoogleフォームから利用申請を行い、審査をパスすればニフクラウンジを利用できるという流れだ。

会場は最大収容人数が約200名と、かなり大規模なもの。電源、Wi-Fi環境、プロジェクター、マイクといった勉強会に必須の設備も無料で利用できる。平日は15時から23時、休日は9時から21時までの利用が可能となっており、社会人向けに就業後や休日での開催をしたいというニーズにも対応できる。

富士通クラウドテクノロジーズ データ・IoTデザイン部 エンジニアタスクフォース委員長織田 晃弘 氏

富士通クラウドテクノロジーズ
データ・IoTデザイン部
エンジニアタスクフォース委員長
織田 晃弘 氏

「FTCJはクラウドを提供する側の企業であり、社内外のエンジニアによる意見交換や情報共有をさらに活性化することで、我々自身の技術向上や新たなコラボレーションにつなげていきたいという思いがある。ニフクラウンジは、会社として展開するそうした施策のひとつ。ぜひ、多くのエンジニアのみなさんに活用してほしい」(織田氏)

今回は、今までに紹介した4つ以外にも、飛び入りでのLTがいくつか行われ、多くの参加者がその内容に遅くまで聞き入っていた。新たな社屋において初めての開催となった今回のミートアップは、新体制でスタートを切った「ニフクラ」の改めての決意表明の場ともなったようだ。

[PR]提供:富士通クラウドテクノロジーズ