物流や測量、倉庫管理、警備など、さまざまな産業分野において、ドローン ( 無人航空機) の活用が話題となっています。しかし、日本では航空法の制限や操縦の困難さなどから、空撮分野を除いては普及がそれほどすすんでいません。そうした中、産業活用のハードルを引き下げることでドローン ビジネスの行く末を照らそうとしているのが、Liberaware とホロラボです。両社は、Microsoft HoloLens による直感的なドローン・ナビゲーション システムを開発し、さらにドローンをセンサー デバイスとしてとらえ直すことによって、今までにないソリューションを構築しました。2018 年春に同システムをリリースして以降、多くの大手企業が、ドローン活用の具体的なアイデアをもって両社を訪れています。Microsoft HoloLens とドローンを組み合わせたあらたな可能性が、いま、着々と現実化しつつあるのです。

航空法の制限を受けない屋内で、ドローンを産業利用する

近年、テレビや映画などでドローンによる空撮映像を頻繁に見るようになりました。また、物資を空輸する「ドローン宅配便」の実証実験がニュースとして取りあげられるなど、産業におけるドローン活用が大きな注目を集めています。ところが、こうした話題性に比例して実際の産業活用が広がっているのかというと、実はそうではありません。この理由に挙げられるのが、航空法をはじめとする法規制です。

たとえば日本の場合、「空港等の周辺空域」「人または住宅の密集している地域上空」「地表または水面から高さ 150m 以上の空域」では、重量 200g 以上のドローンを飛ばすことができません。さらに、飛行にあたっては「日中であること」「目視できる範囲であること」など、さまざまなルールが設けられています。許可や承認を得れば、これらの条件によらず飛行させることができますが、その手続きには 1 か月以上かかることもあります。ドローンを産業活用するためには、数々の障壁を乗り越える必要があるのです。

ただし、屋内でドローンを飛行させる場合なら、これらの航空法の規制は及びません。近年は GPS が届かない屋内や地中であっても、カメラやセンサーから取得した情報をもとにして「自分が地図上のどこにいるのか」「周囲に何があるのか」が判断できる SLAM (Simultaneous Localization and Mapping) 技術を使うことによって位置管理や制御が可能となっています。こうした SLAM を実装した産業用ドローンを開発する株式会社Liberaware 代表取締役の閔 弘圭 氏は、屋内、地中における産業ドローンの活用について、つぎのように語ります。

「空撮の実用化が進み、物流用途でも研究が進められるドローンは、現在、世界的に『大型化』が主流となってきています。ただ、日本の法規制の下では大型ドローンは用途が限られてしまいます。われわれがすすめているのは、ドローンの『小型化』による、産業活用のあらたな姿の開拓です。すでに保全、点検業務のために、いくつかのインフラ企業と実証実験をすすめています」(閔 氏)。

  • 2018 年 2 月にインフラ企業と共同で、複合ビル内にあるエネルギー プラント間をつなぐ洞道における実証実験をおこなうなど、Liberaware では産業ドローンのあらたな可能性の開拓に向けた活動に精力的に取り組んでいる
    ※写真、情報提供 : Liberaware

Microsoft HoloLens でドローンを操作することには大きな意義がある

下水道管や冷水、蒸気が通る空調用パイプの点検など、インフラ業、建設業の保全業務には、どうしても「キツい」「危険」といったイメージがつきまといます。小型産業ドローンを活用すれば、こうした保全業務の効率化や質の向上がおおいに見込むことができるでしょう。これにくわえて閔氏は、「ドローンという先進技術を用いて作業することによって、仕事に『ワクワク感』を与えるという効果も期待できます。従来は『つらい作業』だった保全業務を『楽しい仕事』に変える力が、ドローンにはあると考えています」と語ります。

つづけて、株式会社Liberaware 取締役 アプリケーション開発部長の小川 祐司 氏は、小型産業ドローンの持つこうした可能性をさらに拡大するために、現在、現実の映像にコンピュータからの情報や画像を重ねる MR (Mixed Reality : 複合現実) 技術を用いたドローン・ナビゲーション システムの開発をすすめているといいます。

「保全業務の場合、屋内を飛行する小型ドローンに求められるのは、その場所のデータを収集、分析することです。何か物理的な作業をするためではなく、状況を判断するための『エッジ デバイス』として機能すべきなのです。しかし、小型という性質上、ドローン本体に高性能な処理をさせることは困難です。また、屋内や地下で利用するわけですから、常にドローンを目視できるわけではなく、操縦に相当な鍛錬が必要となります。こうした課題を解消し『だれでも、どこの情報でも収集できる』ことをめざして取り組んでいるのが、ホロラボとの共同開発による、Microsoft HoloLens を用いたドローン・ナビゲーション システムです」(小川 氏)。

Microsoft HoloLensは、Windows 10 を搭載した MR 対応端末として提供されているゴーグル型デバイスです。通常、ドローンは離着陸、ホバリング、前後左右移動といった基本動作を手持ちのリモコンで制御する必要がありますが、両社の開発したドローン・ナビゲーション システムを利用すれば、音声やジェスチャーで直感的に操縦することができます。リモコン スティックの微妙な操作に習熟しなくとも、ゴーグル越しに見えるドローンを指でつまんで移動すれば、現実のドローンもそのルートどおりに飛行してくれるのです。さらにドローンと Microsoft HoloLens 間は SLAM 技術によって空間情報が共有されるので、壁や地面で遮られていたとしても、まるで透視しているかのように、ドローンの現在位置を見ながら操縦することが可能です。

  • Microsoft HoloLens を用いたドローン・ナビゲーション システム。操縦者は音声やジェスチャーでドローンを操縦することができ、右下にあるようにドローンのまわりの空間をゴーグル上に投影しながらコントロールすることも可能

Liberaware と共同でこのシステムを開発した、株式会社ホロラボ CTOの島田 侑治 氏は、Microsoft HoloLens を用いてドローンの操縦をおこなうことの優位性をこう説明します。

「Microsoft HoloLens を使えば、いまこの瞬間にドローンがどこを飛んでいるのかという情報を『現実に重ねて表示』することができます。道路上から地下の下水道を点検する、室内から天井裏を点検する、といった作業が、ドローンを仮想的に目視しながらできるようになるのです。表示だけならば、スマホやタブレット、AR でも良いかもしれません。ですが、Microsoft HoloLensを使うもう 1 つの大きなメリットは、ドローンの操縦がすべてハンズ フリーとなることです。実際に経験しなければわからないかもしれませんが、現場の作業員にとって『両手が空く』ということは、きわめて重要なことなのです」(島田 氏)。

さらに閔 氏は「エッジ デバイス」として求められる通信や処理機能も、Microsoft HoloLens によって拡張することができると語ります。

「ドローンをセンシング デバイスとして考えた場合、取得したデータをいかにして蓄積、分析、活用するかが重要となります。Microsoft HoloLensを経由することによって、クラウドやデータセンターと容易に通信することが可能です。また、Microsoft HoloLens に搭載されているWindows 10 は、学習済みの機械学習ライブラリをローカルで実行することができる Windows ML を実装していますから、スタンド アローンであっても AI によってリアルタイムに分析処理することが可能となります」(閔 氏)。

  • Liberaware では現在、Microsoft Azure と ドローン・ナビゲーション システムとを組み合わせたソリューションの準備をすすめている

"Microsoft HoloLens とドローンとを連携することによって、小型産業ドローンのエッジ デバイスとしての活用領域、可能性を大きく広げることができると考えています。 "

-閔 弘圭 氏: 代表取締役
株式会社Liberaware

共創のきっかけとなった Microsoft Innovation Award

Liberaware とホロラボが共同開発したドローン・ナビゲーション システムは、2018 年 4 月に開催された "Microsoft Innovation Award 2018" においてファイナリストにおいて 4 部門受賞されるなど、市場から高い評価を得ています。

  • テクノロジーによるイノベーションを表彰する、Microsoft Innovation Award 2018。2007年のスタートから約 10 年の間で、数多くのテクノロジー スタートアップを世に送りだしてきた

閔 氏と島田 氏の両名は、この Microsoft Innovation Award の存在が同システムを開発するきっかけだったと明かし、こうしたスタート アップ プログラムの存在をつぎのように評価します。

「MR やドローンといった先端技術を使えば、働き方をもっとイノベーティブなものにすることができます。しかし、『今までのやり方』で築かれた考え方が変わり、『あたらしいやり方』が認められるまでには時間がかかります。この過渡期では、たとえイノベーティブな技術があったとしてもなかなかそれが具体的な案件としてすすまないものです。もし、こうしたアワードで評価されれば、われわれが持つ想い、コンセプトを、実績を示しながら素早く浸透させることができると考えて、ホロラボに共創を持ちかけ、一緒にチャレンジしました」(閔 氏)。

「音声やジェスチャーで操作が可能、ハンズ フリーでスタンド アローンでも稼働するなど、Microsoft HoloLens は未来的ですばらしいデバイスです。しかし、これ単体で使ってもあまり意味が無いなとも感じていました。他の ICT や物理的なしくみと連携させてこそ、大きな価値を生みだすものなのです。今回、Liberaware からお声がけを頂いて『小型産業ドローン』をテーマに共創できたことは、Microsoft HoloLens の持つ可能性を拡大するうえでも大きな意義があったと感じています」(島田 氏)。

"あらたに開発したシステムは、産業の働き方を変える大きな力をもっています。この共創のきっかけとして、Microsoft Innovation Award は非常によい機会を与えてくれたと思います。 "

-島田 侑治 氏: CTO
株式会社ホロラボ

  • 取材中にも Microsoft HoloLens のあらたな活用アイデアが生まれていた。両社の共創からは、今後世の中の働き方を変えていくだろうという期待を感じることができる

Liberaware が期待したとおり、ドローン・ナビゲーション システムの認知は、ニュースリリースや Microsoft Innovation Award、展示会などをきっかけにして、急速に広がりつつあるといいます。現在、Liberaware とホロラボの両社にはさまざまな産業から問い合わせがあり、既に何件かが具体的な実証実験に向けたフェーズへとすすんでいるのです。

あらゆる場所のデータを活用できる、未来のソリューションをめざす

Microsoft HoloLens と小型産業ドローンを組み合わせたあたらしいシステムは、今後、倉庫、植物工場、駅、橋梁など、さまざまな産業分野において、実利用がはじまっていくことでしょう。閔 氏と島田 氏は、今後の展望と期待をそれぞれつぎのように語りました。

「われわれがめざすのは、小型ドローンを販売するメーカーではありません。センサー デバイスとしてのドローンを柱にした、データ ソリューションプロバイダーです。この在り方に向けて、Microsoft Azure と Microsoft HoloLens、ドローンを組み合わせた "Intelligent Cloudソリューション" の提供準備を現在すすめています。ハードウェアとソフトウェアをアップデートしていくことによって、本当の意味で『あらゆる場所の情報をデータ化し、活用できる企業』へと発展させていきたいと思います」(閔 氏)。

「紙とペンでおこなってきた作業が PC やモバイル端末に置き換わってきたように、今後は保全業務に限らず、さまざまな作業が Microsoft HoloLens のような次期テクノロジーに移っていくと考えています。そこで重要なのは、いかに多くのデバイスやシステムと連携できるか、という事だと思います。次世代の Microsoft HoloLens でさらにインターフェースの互換性を高めて頂ければ、活用の可能性はもっと拡がることでしょう」(島田 氏)。

大型化を主流とするドローン産業の潮流に対し、Liberaware とホロラボは「小型化」「エッジ デバイス化」という独自のコンセプトを打ち出してあらたな産業価値を生みだしつつあります。両社の共創によって生まれたサービスは、近い将来、いくつもの産業の働き方を大きく変えていくことでしょう。

[PR]提供: 日本マイクロソフト