ビジネスのデジタル化が、あらゆる分野で加速しています。通信ネットワークが陸上ほど整備されていない海洋産業であっても、これは同様です。世界の航海規則を定めるIMO ( 国際海事機関) は、2018 年までに船舶への電子海図表示装置の搭載を義務づけました。翌 2019 年からは、燃料消費や航海距離といった運航データの報告も必要になるなど、海洋産業はいま、デジタル化の大きな転換点を迎えているのです。

船舶に関わる企業もまた、この変革に対応していかねばなりません。1948 年の創業以来、船舶の動力、制御システムを主製品として海洋産業を支えてきた JRCS は、自社だけでなく海洋産業のデジタル トランスフォーメーションを推進すべく、2018 年 4 月に“JRCS Digital Innovation LAB”を新設。同社がめざすのは、海洋産業に漂う閉塞感から脱却した未来型産業の創造です。”INFINITY プロジェクト”のもと、マイクロソフトのデジタル アドバイザリー サービスとともにデジタル トランスフォーメーションの挑戦をはじめました。

閉塞感の漂う産業に「デジタル化」という一石を投じたい

ヒトやモノを運ぶ手段は陸、海、空さまざまありますが、海運はその中で、もっとも大量の貨物を低コストで輸送できる手法として知られています。世界貿易の実に 9 割は海運によって担われており、日本でも石油や鉄鉱石といった資源の大量輸入、自動車や重電機などの輸出で、海運が用いられています。海運が世界経済にとって重要な物流手段であることはいうまでもありません。しかし、安全性や過酷な労働環境を背景として、海運は船員の確保、育成不足という大きな産業課題を抱えています。この状況を見定め、デジタルの力によって産業全体を変えようと一石を投じているのが、JRCS です。

山口県下関市で創業した JRCS は、エネルギーを輸送するタンカーから、コンテナ船、客船、フェリー、海洋大学の練習船、海上保安庁の巡視船まで、7,000 隻以上の船舶の電源系制御、モニタリング システムを納めてきました。そんな同社は近年、船舶機器メーカーからデジタル企業へと、ビジネス シフトを進めています。

JRCS 株式会社 JRCSグループCEO 代表取締役 社長の近藤 高一郎 氏は「どんな産業であっても、その状況を『当たり前』と思い込んでいては変化など起こせません」と語り、ビジネス シフトのねらいを説明します。

「海洋産業は”働く環境が厳しい”というイメージがあり、職場として敬遠されています。船員という仕事に誇りや夢をもつ若者も減る一方です。世界貿易の主流でありながら、この閉塞感はどこからくるのか。その原因の 1つが、他の産業と比較してデジタル化が大きく後れをとっていることだと思います。このまま従来の“当たり前”に甘んじていては、この業界は時代に取り残されてしまいます。少子化が進み、労働人口が減少する中で人材を集めるには、船の仕事を、未来的でワクワクするものに変えていかなければなりません。われわれがデジタル企業への転換を進める理由は、“ 海洋産業を魅力あるものに変えたい”という想いに尽きます。言いだした以上、責任をもって当社が先陣を切る覚悟です。日本の海事クラスター ( 産業群)は世界に類を見ない規模と連携の強さを誇っており、その中で JRCS がデジタル トランスフォーメーションの必要性を発信することには、大きな意義があると考えています」(近藤 氏)。

しかしながら、船舶はエンジン、電源、レーダーなど、無数の機器、装置を備えています。海洋産業のデジタル トランスフォーメーションは、JRCSだけで成し得るものではありません。関連企業のデジタル化がともなってはじめて、近藤 氏のめざすイノベーションが生まれるのです。

「自前主義は成長を阻んでしまいます。デジタル化を推進するうえでは、海洋産業に関わる企業、そして先進 IT に長けた企業と共同して、これを進める必要があると感じていました」近藤 氏はこう語り、2017 年に日本航空が発表した「MR ( 複合現実) 技術の空運適用」の報道を機に、同社の取り組みが大きく加速したと説明します。

「報道の中でめざされていた産業の変革を海運でも起こしたい、そう考えてマイクロソフトに相談したところ、同社よりシアトル本社のラボに招待いただきました。そこで衝撃を受けたのを覚えています。『デジタルの力で産業を変えたい』というわれわれの漠然とした想いを、マイクロソフトは『デザイン思考』という手法のもと、わずか数日で具体化し、説得力のあるビジョン、計画にまとめてくれたのです。IT だけでなくこうしたビジネス デザインの側面からも支援いただけるならば、産業変革は夢ではない。そう確信して、マイクロソフト デジタル アドバイザリー サービス (DAS) を契約して”INFINITY プロジェクト”に着手することを決断しました」(近藤 氏)。

"関連企業を巻き込んで海洋産業にデジタル トランスフォーメーションを起こす。そこで求められるのは、説得力のあるビジョンです。マイクロソフトには、IT だけでなく、こうしたビジョンの構築とその実現も支援いただけるという大きな期待がありました "

-近藤 高一郎 氏: JRCSグループCEO 代表取締役 社長
JRCS株式会社

  • JRCS株式会社 JRCSグループ CEO 代表取締役 社長 近藤高一郎 氏

“INFINITYプロジェクト”がめざす、完全自動航行

DAS は、124 か国 750 件以上の実績をもとに企業のデジタル トランスフォーメーションを支援するマイクロソフトのサービスです。

本取り組みで DAS が提供する主なアイテム
JRCS の現状ヒアリングと中期経営計画書分析
最先端技術トレンドとグローバルの業界動向調査
デジタル トランスフォーメーション ビジョンの策定
デジタル成熟度モデルの調査
デジタル トランスフォーメーションの計画立案
デジタル トランスフォーメーションの実行、支援
  • 図解①
  • 図解②

    企業、従業員の中にデジタル カルチャーがなければ、イノベーションは生まれない。DASでは、「文化」「基盤」「取組」の 3 つを軸に、イノベーションを生み出すための企業文化の形成とそのサービス化、市場戦略の立案までをワン ストップで支援する

同支援のもとで産業のデジタル トランスフォーメーションに挑む JRCS。この“INFINITY プロジェクト”がめざすのは、クラウド、IoT、MR、AI といった先進 IT を駆使した、「海洋産業のオートノマス(自律) 化」です。たとえば JRCS の取り扱うような船舶の動力機器の場合、きわめて高電圧であるために、少しの操作ミスで、大きな事故を引き起こす可能性があります。

先進 IT によって船舶自体がこれを制御する、遠隔から船舶を監視、制御できるようになれば、産業の働き方を大きく変えることができるのです。

JRCS 株式会社 イノベーション営業部 部長 Digital Innovation LAB CDOの空 篤司 氏は、この”INFINITY プロジェクト”においては、自動走行車でいうレベル 5 (場所の限定なくシステムが全てを操作する) 水準での完全自動航行をめざしていると説明。そこに向けたロードマップを、こう話します。

「システムそれ自体が自律的に稼働するオートノマスは、可能性の塊といえます。プロジェクトに”INFINITY”と名をつけた理由はまさにここにあるのですが、可能性を現実のものにするためには、船舶に関わるあらゆる企業を巻き込む必要があります。まずは各社が抱える共通課題を解決していき、パートナーを増やしながら各社の製品に標準化したしくみを実装する、そうして各製品からデータを収集、蓄積してプラットフォームを確立していく、といったプロセスが不可欠なのです。JRCS とマイクロソフトではこのプロセスを、『[1]INFINITY Training』『[2] INFINITY Assist 』『[3] INFINITY Command』と細分化し、すでに具体的な取り組みとしてスタートさせています」(空 氏)。

“INFINITY プロジェクト” のロードマップ
[1] INFINITY Training
リモートトレーニング
・共通の産業課題の解消と、パートナー拡大
[2] INFINITY Assist
リモートメンテナンス
・各社製品への標準化したしくみの実装
・各製品のデータを収集、蓄積するプラットフォームの確立
[3] INFINITY Commandオートノマス ・先進 IT 、プラットフォーム、大量のデータ群をもった、オートノマス化の実現

“INFINITY プロジェクト”がかかげるビジョンはきわめて大きなものですが、空 氏も触れたように、このゴールに向けた具体的な動きはすでにスタートしています。JRCS は 2019 年度より、第 1 フェイズである [1] INFINITY Training を開始予定。MR ( 複合現実) 技術と Microsoft holoLens を用いた遠隔トレーニングによって、パートナーの拡大、ユーザーへのベネフィットの提供が計画されています。

「船舶が備える装置の扱いは、とても座学のみで会得できるものではありません。安全性の観点からスイッチ ボードの扉 1 つ開けるにも特殊な手順が必要であり、その複雑さは実物を見なければ理解することさえ困難です。これを学ぶために、JRCS が山口県下関に構えるトレーニング センターには、国内外から多数の方々が研修に訪れます。ここで注目すべきは、彼らが当社製品だけでなく、エンジンなど他社製品の取り扱いについても、別日に他メーカーを訪問して学んでいるということです。これらを 1 か所で提供できれば、断片的に各機器の知識を得るのではなく、船の取り扱いを体系的に学べるようになります。また、移動による時間とコストの負担が減ることで、乗組員が新しい挑戦をしたり、プライベートを充実させたりなど、陸上にいる束の間の時間を有効に使えるようになります」( 空 氏)。

「MR 技術を使えば、どの国に対しても、遠隔で実践的なトレーニングを提供することが可能になります。研修コストが下がれば、海運会社は受講する人数を増やすことができますし、復習のための定期的なリピート受講を促すことも可能です。遠隔トレーニングは熟練した船員を増やす有効な手法であり、これを提供すること自体がメーカーにとってのあらたなビジネス チャンスになります。このように [1] INFINITY Training は、ユーザー、パートナーの双方にベネフィットを提供する取り組みであり、[3] INFINITY Command に不可欠なパートナーシップを構築するための重大なプロセスでもあるのです」(近藤 氏)。

  • 建物内

    JRCS のトレーニング センター。多種多様なレバー、スイッチをすべて理解して制御することが求められる。座学だけでは会得が困難なことがお分かりいただけるだろう

  • [1] INFINITY Training ではトレーニング センターと同等の実技を MR 技術で遠隔提供する。 パートナーにとってはあらたなビジネス チャンスとなるため、船舶にかかわるあらゆるシステ ムで [1] INFINITY Training が提供されることが期待される

    [1] INFINITY Training ではトレーニング センターと同等の実技を MR 技術で遠隔提供する。パートナーにとってはあらたなビジネス チャンスとなるため、船舶にかかわるあらゆるシステムで [1] INFINITY Training が提供されることが期待される

  • ”INFINITY プロジェクト”の将来イメージ。すべての船舶が自律的に稼働し、その管理を Microsoft holoLens で遠隔制御することがめざされている

    ”INFINITY プロジェクト”の将来イメージ。すべての船舶が自律的に稼働し、その管理をMicrosoft holoLens で遠隔制御することがめざされている

大きな反響から得られた、産業変革への手ごたえ

JRCS が DAS を契約したのは 2017 年 11 月のことです。同社はそれから半年にも満たない 2018 年 4 月の段階で、全体戦略の確定、[1] INFINITY Training のデモ環境の完成など、同プロジェクトを大きく進展させています。

契約からわずかな期間ながら、空 氏はすでに 2 つ、大きな効果を実感していると語り、その 1 つ目をこう説明します。

「まず挙げられるのは、あらたな思考が得られたことです。産業変革と聞くとスケールの大きさばかりに目がいきますが、実はそこへ到達するためのプロセスは地道な活動の繰り返しです。自社、従業員の中にデジタルの思考、文化、能力が身につかなければ、産業変革に向けた迅速な歩みは起こり得ません。DAS はこうしたデジタル カルチャーの形成とすべての従業員に向けた浸透を、さまざまな気づき、驚きとともに支援していただけます。ほぼ毎週のようにマイクロソフトとワークショップを実施していますが、すでに参加メンバーやそれ以外の従業員の中で、サービスをできる限り早く市場に浸透させていくための方法論、思考術が生まれています」(空氏)。

"わずか半年で戦略を固め、[1]INFINITY Training のデモ環境を完成させたことは、従来のこの業界ではありえないスピードです。それができた要因は、社員の中で思考の変革が進んだということに他なりません "

-空 篤司 氏: イノベーション営業部 部長Digital Innovation LAB CDO
JRCS株式会社

  • 空 篤司 氏 :イノベーション営業部 部長 Digital Innovation LAB CDO  JRCS 株式会社

地道な活動の中から成果をスピーディーに、つぎつぎに創出する。こうした動きによって、空 氏が触れたようにプロジェクトに直接参加しているメンバーだけでなく、全社員にデジタル カルチャーが芽生えつつあるといいます。こうして全社的な事業スピードが向上した結果、第 2 の効果である同業他社、異業種からの反響が生まれていると、近藤 氏はつづけます。

「2018 年 4 月に、マイクロソフトと共同で “INFINITY プロジェクト”の記者発表、展示会での [1] INFINITY Training のデモ公開をおこないましたが、そこからすぐ『詳細を聞きたい』『当社も一緒に進められるか』といった声を数多くの海洋関連企業さまから頂きました。ただの夢物語ではなく、本当に実現することが可能なプロジェクトなのだということが、各社さまに伝わった結果だといえるでしょう。『説得力を持ったビジョン』『事業スピード』いう、パートナーシップを生み出すうえで欠かせない強みを手に入れたのだと実感しています」(近藤 氏)。

  • 2018 年 4 月の記者発表のようす

    2018 年 4 月の記者発表のようす

日本から世界の海洋産業を変革していく

2019 年のリリースが予定されている [1] INFINITY Training は、JRCS だけでなく多くの関連企業とともに提供されることが、先の反響から期待されます。翌年の 2020 年には AI による予防保全である [2] INFINITY Assist をスタートするなど、今後”INFINITY プロジェクト”は、パートナーとともに、「海洋産業のオートノマス化」の実現に向けた歩みを進めていくことでしょう。

近藤 氏は、「1 社でできることには限りがあります。これまでの支援を受けて、われわれは『米国マイクロソフト』にはもちろんですが、『日本マイクロソフト』という日本企業に対しても、技術とビジネスの両面で多大な信頼を寄せています。日本から世界の海洋産業を変革していく、そのパートナーとして、今後も同社の支援のもとでプロジェクトを進めていきたいと思います」と、今後の意気込みを語りました。

「当たり前」を打ち破り、海洋産業のデジタル トランスフォーメーションに大きな一石を投じる JRCS。説得力をもった同社のビジョンは、日本のみならず世界の海洋産業へ大きな波を生み出し得るものです。日本を発端とした海洋産業のイノベーションに、いまから期待が高まります。

  • 集合写真

[PR]提供: 日本マイクロソフト