アシックスは海外売上高が4分の3を占める、日本有数のグローバルスポーツメーカーだ。特に、アシックスが持つ4つのブランドのうち、60〜70年代のレトロデザインを現代に再興させたスポーツライフスタイルブランドの「オニツカタイガー」は世界中で人気を博している。江戸時代から続く「裂き織」を使ったモデルや、中敷きとストライプにコルクを使用したデザイン、サイクルファッションとのコラボレーションなど、ラインナップは多種多様だ。

そんなオニツカタイガーのデザイナー達は、昨年から3Dモデリングツール「Evolve」の利用を始めた。家電や自動車の分野ならいざ知らず、ファッション・アパレルのデザイナーが自ら3Dモデルをつくることは世界的にも珍しい。3Dツール導入の背景にはどんな想いがあったのだろうか。

  • 複雑な形状のソールのデザインも3Dモデリングツール「Evolve」なら簡単に作成できる

    複雑な形状のソールのデザインも3Dモデリングツール「Evolve」なら簡単に作成できる

頭の中にある「理想のデザイン」が伝わらない

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム マネジャー 国分大輔氏

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム マネジャー 国分大輔氏

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム マネジャー 国分大輔氏は、デザイナーなら誰でも経験したことがあるであろう悩みについて次のように語る。

「紙に描いたものを立体物として人に伝えるのは、とても難しいんです。最高にカッコいいものを頭の中に思い描いても、それが周りに伝わっていないもどかしさを感じています。上から見た絵と横から見た絵を紙に描いて、マーケティング部門と打ち合わせをしても、『何これ?』『これじゃ売れない』と意図が分かってもらえず、ひどく言われることもよくありました」(国分氏)

足下をじっくり眺めれば分かるが、靴は複雑な形状をした立体物だ。かかとの微妙な曲線も、底面の波形も、側面の凹凸も、照明の当て方次第で印象が変わる。訓練された専門家でなければ、平面図から完成形を思い描くのは難しい。どうすれば理想のカタチをそのまま物理世界に出力できるのか。国分氏と3Dツールとの最初の出会いは、5年前、アシックスのイノベーション・ワークス・ラボに所属していた時のことだった。先進テクノロジーを使った開発を研究する中で、3Dプリンタの可能性に光を見出した。

「描き直していないのに、いろんな角度から見ることができる。それどころか、平面で描いたものが立体物として現れてくる。これは面白いと思いました。その後、オニツカタイガーに携わることになり、設計部門でCADを使っている同僚に『デザイナーでも使える良い3Dモデリングツールはないか』と相談したところ、紹介されたのが『Evolve』だったのです」(国分氏)

3Dモデルは「言語」を超える

Evolveの導入について、デザイナーの中尾知世氏は「正直初めは不安を感じていました」と、本音を漏らす。

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム 中尾知世氏

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム 中尾知世氏

「今までも絵を描いてデザインはできていたんです。わざわざこれを使う事で、より時間がかかってしまうんじゃないかという不安がありました」(中尾氏)

実は、アシックスは数年前、別の3Dツールの利用に「失敗」している。部署横断的に、全ブランドの生産性向上を目的として導入プロジェクトが進められたが、3Dモデルをつくる時間がかかりすぎてしまい、むしろ効率が悪くなってしまったのだ。今回の導入について、国分氏は「やりきること」を心がけたと言う。

「ぼくたちは今でこそAdobe Illustratorを当たり前のように使いこなしていますが、最初はパスを引くことも満足にできませんでした。とにかく一通りのオペレーションができるところまでやりきって、その上でツールの有用性について最終的なジャッジをすべきだと考えたんです」(国分氏)

オニツカタイガーのデザインチームは、2017年6月にEvolveの利用を始めた。実際にツールを利用していくことで、デザイナーの印象やマーケティング部門との打ち合わせに大きな変化が生まれたという。

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム 松浦貴広氏

オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム 松浦貴広氏

「以前使用していたツールと比べて、操作がとても分かりやすく、こだわりたい部分の作業履歴が残せるのも嬉しいです。打ち合わせの反応も全然違って、見せたいカタチが瞬時に伝えられるようになりました。従来は『この部分をもう少し厚くしよう』という結論になっても、増やすのは3ミリなのか5ミリなのか、そもそもそのミリ数で本当に問題ないのか、おそらく共通の認識ができていなかったと思います。それが今では、3Dプリンタで出力した試作品のパターンを見せて、どれにすべきか検討できるようになったため、非常にスムーズです」(中尾氏)

デザイナーの松浦貴広氏は、自ら3Dモデリングができるようになったことの意義を次のように話す。

「デザインをする上では、あいだに誰も入らないことが大事だと思います。別の人を介在してしまうと、どうしても他の要素が入ってきて、100%つくりたいものではなくなってしまうからです。自分の頭の中にあるものをポンと出せることが大事で、そう言った意味では『言語』を超えたツールだと思っています。海外販社にプレゼンする時も、最近はみんな3Dプリンタで作ったモックを触ってばかりで、せっかく練習してきた私の英語なんて誰も聞いていません(苦笑)」(松浦氏)

「こだわり」に合わせてツールを導入

デザイナーがツールを使いこなせるようになるため、神戸のアシックス本社では講習会が計4回おこなわれた。講師はEvolveを提供するアルテアエンジニアリングの担当者だ。デザイン・開発・設計・生産というアシックスのワークフローに沿うように、また、靴型の3Dデータといった情報資産を活用できるようにした上で、デザインに最も時間がかかっていたソール(靴底)を対象に、カリキュラムは組まれた。

「最初から靴全部の3Dモデルを作るのではなく、底面のギザギザとか、自分が一番デザインでこだわりたい部分から段階的に教えてもらえると知って、心が楽になりました。『ここを動かしたらこの形状が変わる』といった初歩から始まり、できることが増えてくるにつれ、やる気がどんどん湧いてきました」(中尾氏)

松浦氏は、自分たちでマニュアルを製作したことも早期習得に繋がったと話す。

「得手不得手のばらつき無く、チーム全員が同じレベルでEvolveを使えるようになる必要がありました。そこで、講習後の課題モデル作成について、これは誰が、どんな手順でつくったのか、順番にマニュアルをつくっていったんです。人に教えられるようにまとめることで、作り方を忘れずに習得していくことができたと思います」(松浦氏)

デザインとエンジニアリングを融合させる

ソールという靴の一部分であるが、デザインチームが3Dモデリングツールを使いこなしつつある現状について、国分氏は次のように評価する。

「Evolve導入にはすごく満足しています。今までは立体サンプルを作るまでに、発注資料を作り、承認を得て、工場に依頼していたため、1ヶ月近くの時間がかかっていました。それが今では3Dモデルのデータを作って、帰り際に3Dプリンタのボタンを押せば、次の日にはできあがっています。ぼくらデザイナーの仕事って『伝える』ことだと思うんです。まず社内に伝えて、協力会社に伝えて、そして顧客に伝える仕事です。3Dのモックを見れば、どんなソールになるのか、誰もが同じイメージを持てるようになりました。これは大きな進歩です」(国分氏)

今後は靴全体のモデリングや、テクスチャの貼り付けによる質感表現を追求していく。また、より本格的な3Dモデルを作れるようになれば、姿形だけでなく、「構造」「機能」をコンピューター上でシミュレートすることが可能になる。たとえば、この靴底は濡れた路面でどれくらい滑るのか、現物を作らなくとも3Dモデルによって解析することができるのだ。

「『歩きやすさ』はアシックスの冠ですから、『厚底だけど歩きやすい靴』のように、一見相反する『デザイン』と『機能』の両方を成立させる形状はどのようなものか。今後は3D解析によって、デザインする時点から探っていけると考えています」(国分氏)

アシックスの創業者である故・鬼塚喜八郎は、タコの吸盤にヒントを得たバスケットボールシューズや、空気を入れ換える構造を持ったマラソンシューズなどを考案し、アスリートからの人気を集めて「オニツカタイガー」のブランドを確立していった。たとえ仕事であっても買い物であっても、「歩く」という運動に歓びをもたらす靴は、デザインだけでなく、機能を限りなく追求した中で成長していったのだ。

国分氏は最後に、今後の夢をこう語った。

「オニツカタイガーは創業者の名前を背負っているブランドです。3Dツールを使いこなすことも含めて、まだまだできることはいっぱいあります。今後は、日本から世界に発信することができる、真のブランドにしていきたいと思います」

  • オニツカタイガー統括部 オニツカタイガープロダクト部 フットウェアデザイン・カラーチーム

オニツカタイガーデザイン部インタビュー(Evolveユーザー事例)

オニツカタイガーのデザイナーが講演、8月3日「Converge 2018」開催

3DモデリングツールEvolve

[PR]提供: アルテアエンジニアリング