堀口氏は、家庭の日常使い、あるいはホテルや料理店などで使用する業務用の高級食器、酒器類にとどまらず、従来の江戸切子のイメージを超えた作品を多く手がけています。一例を挙げると、リッツカールトン東京のレストランや、東急プラザ銀座の切子ラウンジの照明等々。今回のOCEANUSのベゼルも、そのひとつといえそうです。

  • リッツカールトン東京のスイートルーム照明(堀口切子Webサイトより)

    リッツカールトン東京のレストラン照明(DESIGN STUDIO SPIN)

  • 東急プラザ銀座の切子ラウンジの照明(堀口切子Webサイトより)

    東急プラザ銀座の切子ラウンジの照明(Nacasa&Partners Inc.)

  • この清涼飲料のペットボトルに施された江戸切子調のデザインも堀口氏が監修したもの

    この清涼飲料のペットボトルに施された江戸切子調のデザインも堀口氏が監修したもの

堀口氏:「作り手として、求められる物ごとに自分の引き出しを使い分ける、時代の流れに沿ったものを作るというのは、自分にとってごく自然なこと。そんな中でも、時計のベゼルに江戸切子が使われたのは、世界でも初めてじゃないでしょうか

いよいよお話の核心に迫ります。でもその前に、今一度、堀口氏渾身の美しいベゼルをご覧いただきましょう。普段は落ち着いた風采で、ビジネススーツにも違和感なく調和するOCW-S4000Cのベゼル。それが光を受けると一転、深みを帯びた青がキラリと輝き、強烈な個性を放ちます。光源や光の反射で大きく印象を変えるベゼル。少しずつ角度を変えて、シャープな江戸切子と鮮やかなオシアナスブルーのコンビネーションをいつまでも探求したくなる、そんな時計です。

このベゼルのデザインは、どのように決められたのでしょうか?

堀口氏:「何度か打ち合わせを重ねた後、カシオのデザイナーさんから提示されたものです。このような共同案件では、もちろん自分がデザインをするケースもありますが、デザイナーさんがいらっしゃる場合は、基本はその方の意見を尊重するようにしています。そうしないと、お互いの立ち位置がおかしくなってくると思うので」

自身の作品では、デザインも手がける堀口氏。受注品に関しても「自分ならもっとこうするのに」と思うことがあるのではないでしょうか。実際の加工技術や素材に関しては、デザイナーより堀口氏の方が詳しい点も当然あるでしょう。

堀口氏:「それも確かにあります。だから、こういう仕事は結構難しいんです。ただ、今回の件に関してはカシオのデザイナーさんが、江戸切子で“できることとできないこと”をちゃんと判断して、このデザインを出してくださいました。そして自分も、このデザインなら行けると思ったので、安心して“作り手”に集中できました。

というのも、ベゼルのわずかなスペースの中に、グラスで使用する模様のような要素を盛り込むのは、そもそも無理な話なんです。そこがわかってもらえるかが、最初は大きな不安でした。でも、1回目の打ち合わせで、デザイナーさんが自分の作品を見て、『この感じが良いね』と言われたのが、自分の『束(たばね)』というシリーズのグラスだったんです。この方向性なら、『ベゼルのスペースの中でも世界観を表現することができるかもしれない』と思いました」

  • OCW-S4000Cと、そのベゼルの原点的なイメージとなった堀口氏の作品「たばね」のグラス

    OCW-S4000Cと、そのベゼルの原点的なイメージとなった堀口氏の作品「束(たばね)」のグラス