セルラー技術はモバイルや産業用のM2Mアプリケーションに限定されていましたが、新たな種類のセルラーモデムによって状況が変わりつつあります。

第一世代(「1G」)のセルラー通信が登場したのは1970年代のことです。アナログのシステムがトラフィックを処理し、端末は扱いづらく高価でした。しかしこの着想は広く受け入れられ、1990年までに全世界の契約者数は2,000万人に達しました。それから28年間後、移動体通信会社の活動を支援しているGSM Association(GSMA)によると、携帯電話の契約者数は50億人を超えています。また、最新世代のセルラー技術である4G Long Term Evolution(LTE)は、全世界の70カ国以上で50%以上の市場シェアを獲得しており、10年前には想像できなかった安価で高画質のストリーミングサービスを提供しています。

セルラーは計画段階から市場に浸透するまで長期に及んだため、エンジニアは、普及性、信頼性、セキュリティ、使い勝手の良さという消費者と商業の要求を満たすように技術を最適化することができました。また、通信事業者も収益と時間を確保しながら、世界全体をサポートするのに必要な巨大なインフラの構築強化が可能でした。

セルラー技術は、他の無線技術よりもカバレッジが優れています。この技術は、通信事業者とデバイス製造業者間の長年に及ぶ継続的な技術改良と激しい競争により高い信頼性を築いてきました。無線システムを構築するエンジニアの主要な検討事項であるセキュリティは、セルラーネットワークのエンドツーエンドの優先事項です。また、ストリーミングビデオや他のデータ集約型のサービスにアクセスする何百万人もの契約者の需要を満たすために、高スループットが組み込まれています。このようなセルラー技術の強みは、堅牢なプロトコルによってもたらされる高いサービス品質(QoS)、およびセルラー通信で使用される周波数割り当ての規制、認可、および管理によってより強化されています。

セルラー技術の利点の多くは、IoT(モノのインターネット)構築に携わるエンジニアの関心を引きました。セルラーは、長距離で低消費電力の広域ネットワーク(LPWAN)のIoTセンサーをクラウドに直接接続するソリューションを実現します。それに加えて、セルラー技術は、Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)やThreadといった短距離の無線技術で構成されるローカルエリアネットワーク(LAN)のクラウドへのゲートウェイとして機能するLPWANの基盤として使用することも可能です。しかし、いずれのビジョンもすぐに実現とはなりません。

IoTアプリケーション向けモデム

高スループットのセルラー技術は、非常に複雑で高価であり、ハードウェアがかさばる上に電力消費が高くなります。セルラー技術が消費者が求めるサービスをシームレスに提供するため、消費者は端末コストと日々の充電の負担を厭いません。ただし、IoTエンジニアにとって、高スループットのセルラー技術のコスト、複雑性、消費電力の高さは、IoTを構成する何百ものコンパクトな電池式のセンサーによるネットワークの構築を困難にしています。

それでもなお、セルラーモデムは、高価なリモート資産をクラウドに接続するのに適していることがわかっています。例えば、次世代送電網の制御に用いられる地方のIntelligent Electronic Device(IED)は、セルラーモデム経由でコントロールセンターに情報を定期的に送り返しています。また、(鉄道の駅など公共の場に設置された)自動販売機のような業務用機器の事業者は、本社への情報の返信にセルラーモデムを使用することで、サービス担当者を派遣して手動で在庫を確認するよりも営業経費を削減できます。セルラーモデムは、Wi-Fiのような信頼性の低い無線通信技術を用いて危険を冒すことのできないセキュリティ関連会社でも高い評価を得ています。

ただし、こうしたアプリケーションを稼働するモデムはIoTには適していません。第一に、モデムの多くは段階的に廃止されるレガシーの2Gネットワークを使用しています。周波数割り当てが非効率で、4Gと間もなく登場する5Gトラフィックでかなり必要となるため、2Gネットワークは2025年には事実上姿を消すことになります。第二に、セルラーの2G、3G、および4G LTEモデムは高価でかさばり、電力を大量に消費します。これは、電気通信の標準化団体の共同プロジェクトである3rd Generation Partnership Project(3GPP)のより高いカテゴリー(高スループット)の動作向けの仕様を満たすように設計する必要があるからです。

低コスト、低スループット、低消費電力の優れたIoTの需要に対する従来のモデムの欠点を認識した3GPPは、モデムカテゴリーを拡張して2015年の「Release 13」の仕様にLTEカテゴリーM1(LTE-M)とナローバンド(NB)IoTを含めました。こうした措置によって、高カテゴリーのユニットの基盤では実現困難であったIoTアプリケーション向けの4G LTEモデムの開発が促進されました。

LPWANの大規模配備

Nordic Semiconductorや他の企業は、LPWANの急速な大規模展開を促進してIoTの成長を加速させる最適な技術はLTEとNB-IoTモデムであると考えています。この考えは、LTEがオープン標準で、認可されたRF周波数割り当てで動作し、カバレッジに既存のインフラを活用しており、基地局ごとの高ノード数に拡張可能な共存メカニズムを備えているという事実に基づいています。それに対して、競合するLPWANの独占技術には、特定の企業が所有および制御するコンポーネントが含まれているため、他のベンダーが採用するとライセンス料が発生し製品差別化の余地が限られる上に、認可されていないRF周波数割り当て(通常はサブ1 GHzの周波数)で動作します。こうした周波数は共有リソースなので、共存が難しいという課題があります。

オープンスタンダードが新技術の急速な採用のきっかけとなることは、IEEE 802.11やBluetooth無線といった技術によって繰り返し証明されています。Ericsson社やGSMA社といったテレコム装置メーカーによると、低消費電力LTEも同様に「大規模なIoT」の配備をけん引するようです。両社はそれぞれ2017年から2021年にかけてセルラーIoT市場の年複利成長率(CAGR)が約27%拡大すると予測しており、この成長の主要な実現要因として低消費電力LTEを挙げています。

低消費電力LTEは、全世界の割り当て済み/使用ライセンス取得済みの周波数で動作します。これは、多くのIoTアプリケーションにとって非常に有益です。なかでも重要なのは、周波数割り当ての所有者(通信事業者)がデータの制御と優先順位付けを行うことが可能で、周波数が他のRF伝送の発信元からの干渉の影響を受けないことです。第二に、周波数割り当てが他のRFブロードキャストと共有されないので、コネクテッドデバイス同士の共存の管理がはるかに簡単であることです。LTEの共存技術は、実績のある周波数と時間領域のソリューション、および矛盾するRF信号の「自律拒否」といった他のメカニズムに基づいています。

結果として、LTEは、基地局ごとに最大20万までアクティブな低消費電力モデムのノード密度をサポートできます。最後に、LTEプロトコルで送信されるデータは、最初から高度なセキュリティが標準に組み込まれているため、不正アクセスから保護されます。こうした機能を通じて、通信事業者は信頼性と高いサービス品質(QoS)を確実に提供することができます。

これに対して、独自な技術は、他の多くのサービスと共有するべき未許可のRF周波数に依存しています。干渉回避技術が導入されていても、非常に多くのサービスが周波数割り当てを共有しているため、LTEのノード密度、信頼性、およびQoSに適合させることは言うまでもなく、近づけることも非常に困難です。さらに、LPWAN独自技術のベンダーは、自社のネットワークをサポートするためのインフラ構築という大きな課題に直面しています。これは高価で時間のかかるプロジェクトとなるため、採用には時間がかかります。

  • LTEインフラ施設

その一方で、全世界に広がるLTEインフラは、157カ国に480のネットワークで広く配備されています。低消費電力LTEをサポートするためにアップグレード(主にソフトウェア)が必要となりますが、一からインフラを構築することに比べれば些細なことです。インフラが配備済みであるため、低消費電力LTEのサポートは直ちに追加され、市場での受け入れを推進します。試験運用が構築済みで、既に数カ国では商業展開が行われています。2018年末までに、世界のかなりの地域で商業展開されることになります。

自社のIoTコネクテッド製品に低消費電力LTEを採用する企業は、構築や保守にかかる費用を負担することなくこのインフラを活用することができ、代わりに自社のサービスやビジネスモデルに投資をすることができます。

また、通信ネットワークが4Gシステムから5Gに発展しても、3GPPがこの技術のアップグレードパスを確保しているため、低消費電力LTEが廃れることはありません。数年後には、さらに高い無線周波数(最大26 GHz)を使用した5Gによって、はるかに大きなスループットが提供されるため、IoTにさらに重要な機運がもたらされるでしょう。

IoT対応の設計

LTE-MおよびNB-IoT製品は、既に市場に少しずつ登場し始めています。Nordic Semiconductorでは、フィンランド拠点の自社エンジニアのLTEに関する専門知識と、ノルウェーの自社エンジニアの超低消費電力無線に関する専門知識と組み合わせて、3GPPのLTE-MおよびNB-IoTの仕様に従って最適化されたセルラーIoTソリューションを設計しました。

この成果が、低消費電力で超小型のセルラーIoTソリューションであるSystem-in-Package(SiP)のnRF91シリーズです。IoT特有のユニークな需要を満たせるように設計されているため、製品設計者は、従来のセルラーモジュールとは全く異なるアプローチを採用し、これまでセルラー市場では見たこともない機能が数多く追加された製品が開発されました。

Nordic SemiconductorのnRF91シリーズの心臓部は、同社の低消費電力のグローバルLTE-M/NB-IoTマルチモードの System-in-Package(SiP)で形成されています。SiPでは、モデム、トランシーバー、RFフロントエンド、専用アプリケーションプロセッサー、Flashメモリ、電源管理回路、およびクリスタルと受動部品が10x16x1.2mmパッケージに組み込まれた、完全な低消費電力セルラーIoTシステムを構成しています(図1)。

  • 図 1:nRF91シリーズ SiPは、フィンランド拠点のNordic Semiconductorの経験豊富なセルラー設計チームとノルウェー拠点の同社の低消費電力無線の専門家によって共同開発されました。SiPは、RFフロントエンド、nRF91 シリーズ SoC、およびレギュレータで構成されます。

    図 1:nRF91シリーズ SiPは、フィンランド拠点のNordic Semiconductorの経験豊富なセルラー設計チームとノルウェー拠点の同社の低消費電力無線の専門家によって共同開発されました。SiPは、RFフロントエンド、nRF91 シリーズ SoC、およびレギュレータで構成されます。

SiPでは、通信とセルラー接続に関する承認を含む従来のセルラーモジュールが持つメリットに加え、フットプリントが競合ソリューションと比較し、基板占有面積が 33%、厚さ50%、パッケージ全容量の20%というフォームファクタを備えています(図2)。

  • 図2: nRF91シリーズ SiPは、高度に統合された超小型で低消費電力のセルラーIoTソリューションです。

    図2: nRF91シリーズ SiPは、高度に統合された超小型で低消費電力のセルラーIoTソリューションです。

SiPは統合Arm Cortex-M33ホストプロセッサーをベースとしています。この組み込みプロセッサーは、Arm CryptoCell-310セキュリティIPとともにTrustZone for Armv8-Mを備えています。こうした配置により、マイクロプロセッサーとシステム間で隔離したトラステッドな実行環境を使用してアプリケーションデータ、ファームウェア、周辺機器を保護します。このソリューションは、効率的なセキュリティ基盤を提供し、外部ホストプロセッサーの使用に比べてサイズ、構成部品数(BOM)、消費電力を軽減します。

Nordic Semiconductorは、RFフロントエンドとSiP開発および製造において、米国のRFコネクティビティソリューション企業であるQorvo社を戦略的パートナーとして迎えています。nRF91 SiPは、Qorvo社の実績のあるRFフロントエンド、先進のパッケージング、およびMicroShield技術の採用によって、高性能と低消費電力を兼ね備えたコンパクトなソリューションを提供します。nRF91シリーズは、Nordic SemiconductorのマルチモードLTE-M/NB-IoTモデム、SAW-lessトランシーバー、およびQorvo社のカスタムのRFフロントエンドソリューションを組み合わせることで単独のSiPバリアントでグローバルな動作をサポートします。

さらに、Nordic Semiconductorの低消費電力セルラーIoTソリューションには、迅速かつ正確な位置特定に向けて、セルラーとGPS技術を組み合わせた統合されたアシスト GPS(A-GPS)技術による位置測定機能が内蔵されています。

あらゆるものに対応するセルラー

グローバルでの高度な動作統合と事前認可を通じ、nRF91シリーズSiPは、LPWAN配備に対する従来のセルラーの欠点を克服した上で、セルラー技術の採用に求められる包括的な必要条件を満たすことができます。

セルラーエンジニアリングに詳しくないけれどこの技術を活用したいと考えている開発者に対する主要なメリットは、Nordic SemiconductorがnRF91シリーズ SiPの設計を行った方法によってもたらされます。Nordic Semiconductorは、自社のBluetooth LEソリューションで使用した戦略をこの新製品にも適用しています。Bluetooth LE技術では、完全なシングルチップ(無線通信とプロセッサ)の無線ハードウェアと工場出荷時搭載のRFプロトコル・スタックを提供することで、RFエンジニアリングに伴う複雑性を見えないようにしました。アプリケーションソフトウェアからRFプロトコル・スタックを切り離しておくことで、開発とデバッグが簡単に行えます。

nRF91 シリーズのソフトウェアアーキテクチャは今のところ非公開ですが、RFエンジニアリングにまつわる複雑性を隠しつつ、無線アプリケーションのコードおよびデバッグを可能な限りシンプルにするという開発者を支援するNordic Semiconductorの戦略は変わりません。これにより、あらゆるものにセルラー技術が利用可能となり、無線の経験が少ない開発者がこの強みを探求して創造性を自由に発揮し、新製品を考案できるようになります。この戦略は、Nordic SemiconductorのBluetooth LE技術が世界中に普及したことで明らかになっています。nRF91シリーズSiPは、スマートフォンを超えたあらゆるものにセルラー技術を提供することで同じことを成し遂げます。

決して早すぎることはありません。Ericsson社によれば、セルラーは急速に成長して、2023年までに使用されている18億のLPWANコネクテッドデバイスの75%がセルラーで稼働すると予測されています。

ノルウェーにある携帯電話会社、Telia社などは、既にこの技術に大きな意欲を示しています。Telia Nextの責任者であるAndreas Carlsson氏は次のように述べています。 「Telia社は、LTE-MとNB-IoTに代表される専用のIoT接続に対する前例のない需要を把握しています。このため、Telia社は、新製品の開発においてNordic Semiconductorを支援するパートナーになることを決めました。」

Nordic Semiconductorウェブサイト: http://www.nordicsemi.com/jpn

執筆情報

Nordic Semiconductor Cellular IoT担当プロダクトマネージャー Peder Rand
Nordic Semiconductor
Cellular IoT担当プロダクトマネージャー
Peder Rand

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