高度な電子化や環境、安全技術の進化などにより、エンジン制御ソフトウェアも大規模かつ高度化・複雑化の一途をたどっている。マツダでは、このエンジン制御ソフトウェアについて品質とスピードを損なわずに開発し続けるべく、約30年にわたり受け継がれてきた開発手法をモデルベース開発により刷新。さらに、開発プロセスの各工程で生じた成果物間のトレーサビリティを確保することで、品質と説明責任の担保、そして「IEC61508」や「ISO26262」などの機能安全規格を満たす基盤が実現した。今後はエンジンだけでなく、シャシーやADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)など複数ドメインの開発においても、トレーサビリティの適用領域を拡大していく予定だ。

お客様の課題 導入効果
従来のトレーサビリティツールに不具合やバグが多かった トレーサビリティ専用設計ならではの優れた機能と利便性
機能性と使い勝手のいずれもツールとしての一体感がなかった カスタマイズにも柔軟かつスピーディーに対応
開発育成やカスタマイズにも多くのコストがかかっていた ハードウェア環境の刷新で理想的な環境を構築

 

導入の背景と課題

受け継がれてきた開発手法を刷新
モデルベース開発で業界の新たな扉を開く

マツダが掲げるブランドスローガン"Zoom-Zoom"には、"走る歓び"にあふれたクルマを作り続けたいという熱い想いがこめられている。この想いは現在でも脈々と受け継がれており、2007年に"走る歓び"と"優れた環境・安全性能"を両立するべく技術開発の長期ビジョン「サステイナブル"Zoom-Zoom"宣言」を発表。そして2017年8月には、2030年を見据えて「地球」「社会」「人」という3つの観点からそれぞれの課題解決を目指す、新たな技術開発の長期ビジョン「サステイナブル"Zoom-Zoom"宣言2030」を発表した。

地球環境への配慮と快適な走りの両立に向けた取り組みは、2010年10月発表の新世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」として具現化している。2011年6月発売のデミオに搭載された新世代高効率直噴エンジン「SKYACTIV-G」もそのひとつで、量産ガソリンエンジンとして世界で初めて「14.0」という高圧縮比を実現。また、燃費・トルクともに従来比で約15%の向上が図られた、まさに自動車業界の新たな扉を開くエンジンだ。EPA(Environmental Protection Agency:米国環境保護庁)が毎年公表している「燃費トレンドレポート」において、2018年まで同社が5年連続で総合1位を獲得するなど、その実績はワールドワイドでも脚光を浴びている。

現行のSKYACTIV-G

こうした次世代エンジンの開発にあたっては、想像を絶する苦労が伴ったという。マツダ 統合制御システム開発本部 情報制御モデル開発部長の今田 道宏 氏は「従来の開発は、実物の試作エンジンとそれを制御するECU(Engine Control Unit)でトライアル・アンド・エラーを繰り返しながら、シミュレーションが後追いする形で進められてきました。しかし、走行・環境性能を向上させるために重要なエンジン制御ソフトウェアの規模は、1990年から2010年の20年間で約100倍まで指数関数的に大規模化しています。たとえばSKYACTIV-Gの場合、数万個のプログラム変数、約10万個のデータ(パラメータ)を有しており、仮に印刷すると1万ページ前後にまで達するほどです。しかし、ここまで高度化・複雑化したエンジン制御ソフトウェアを、品質とスピードを損なわず開発し続けるには、従来の開発手法を根本から覆す必要がありました。そこで注目したのがモデルベース開発です」と語る。

マツダ
総合制御システム開発本部
情報制御モデル開発部長
今田 道宏 氏

モデルベース開発とは本来、制御モデルと制御対象(プラント)モデルを用いて、机上で行われる制御開発を指す。しかし同社では、自動車用システムの複雑化によって制御対象がクルマ全体へと拡大しつつあることに加え、あらゆる開発を机上化するという理想を叶えるべく、制御対象モデルのみならず従来のCAE(Computer Aided Engineering)モデルも含めて、シミュレーションによる開発全般をモデルベース開発と定義している。
こうして同社では、約30年もの長きにわたり受け継がれてきた開発手法を英断によりすべて刷新。モデルベース開発へと移行することで、「SKYACTIV TECHNOLOGY」の実現につなげてきたのだ。

 

選定ポイント

ツールとして一体感のある機能性と使い勝手
カスタマイズにも柔軟かつスピーディーに対応

同社が「SKYACTIV-G」の開発を通じて得たもののひとつに、トレーサビリティの重要性が挙げられる。開発プロセスの各工程で生じた成果物間のトレーサビリティ確保は、大規模化したエンジン制御ソフトウェアにおいて品質と説明責任を担保するだけでなく、「IEC61508」や「ISO26262」などの機能安全規格を満たすうえでも必要不可欠な存在だ。こうした背景から、同社では2012年よりトレーサビリティツールの導入検討をスタート。制御モデルが扱えるか、開発ツールとの親和性があるか、さらにコストやサポート体制なども考慮し、海外大手ベンダーの製品導入を開始した。しかし、それも約2年で実使用上の限界を感じたという。
今田氏は「トレーサビリティツールの特性上、当初からカスタマイズを前提に導入したのですが、不具合やバグが多かったことに加えて、使い勝手の悪さが大きな課題でした。本来、ツールは使い勝手を意識させることなく、手足のように扱えるのが理想です。しかし、当時はどの製品も既存のツールにトレーサビリティ機能を追加したものばかりで、機能性と使い勝手のいずれもツールとしての一体感がありませんでした。その時点ではまだ商品の実開発に影響がなくても、使い続ければいずれ弊社内でもユーザー数が数百人規模に達します。また、開発育成やカスタマイズにも多くのコストがかかるため、トレーサビリティツールについて全面的な見直しを図ることになりました」と語る。

そうした中で、今田氏は2014年2月に、NTTデータグループのキャッツが提供するトレーサビリティツールプラットフォーム「ZIPC TERAS」との出合いを果たす。
「チームメンバーからの薦めもあり、正式リリース前の報告会に参加しました。制御モデルを扱うためのMATLAB/Simulink, Stateflowなどのツールとの親和性はもちろん、トレーサビリティ専用に開発されたツールならではの直感的に扱える操作性は、弊社が求めるレベルに近いものでした。また、海外ベンダーが多い中で、国内における導入実績や評判などから信頼があり、カスタマイズについても国内ベンダーならではの柔軟な対応と意思疎通が期待できたことからZIPC TERASならいけるのではないかと感じました」(今田氏)

こうして同社では、2014年11月より「ZIPC TERAS」のトライアル導入を開始したのである。

 

導入の流れ

現場目線の支援で手間なくスムーズに導入
カスタマイズやサポートの体制も充実

「ZIPC TERAS」を導入するにあたり、キャッツではトライアル時にドキュメントの提供からレクチャーまでを一貫してサポート。本格稼働時には、トライアルで得た知見を活かしてマツダが独自に社内教育を実施し、特に問い合わせが多発するようなこともなかったそうだ。
実際の導入作業に関しても非常にスムーズで、今田氏は「システムの構築作業はもちろんのこと、従来の成果物をZIPC TERASへ取り込む作業にも、キャッツが全面協力してくれたのはありがたかったですね。そのおかげで、開発部門が本来の業務に注力できて大変助かりました」と語る。

また、トライアル段階では既存のハードウェアを流用していたが、本格稼働に際しては「ZIPC TERAS」の実力を最大限に発揮できるよう、NTTデータによる支援でサーバを含むハードウェア環境の刷新も行われた。
同 情報制御モデル開発部 主幹の末冨 隆雅 氏は「膨大なドキュメントを管理するために必要なサーバの仕様からサーバ-クライアント間の通信環境まで、NTTデータの適切な支援で理想的なハードウェアとインフラ環境が整いました。これまで数多くの大規模なITシステム案件に携わり、日本トップクラスの実績と知見を持つNTTデータならではの安心感がありましたね」と語る。

マツダ
総合制御システム開発本部
情報制御モデル開発部
主幹 末冨 隆雅 氏

さらに、カスタマイズやサポートの体制についても「NTTデータとキャッツが実際の開発現場に入り、設計の手順や課題などを細かくヒアリングした上で、トレースする単位や手順の提案がありました。そのお陰で、我々の各業務に合った最適な環境が構築できました。逆にマツダ独自にカスタマイズしすぎたことで、連係する開発ツール側の更改にあわせてZIPC TERASにも改修が必要になっているというような反省や課題事項も残っていますが、単純に販売して終わりではなく、現場目線で一緒に作り込んでくれるという姿勢も、現場の信頼感を高めるポイントです。また、現在は我々の5年程度先までの計画をNTTデータ、キャッツに共有し、将来的なドキュメント量の増加などに備えたサーバ環境の設計も一緒に取り組んでいただくなど、課題解決を進めています」と話す。

 

導入効果と今後の展望

ZIPC TERASの適用ドメインを増やしつつ
"走る歓び"と"優れた環境・安全性能"を追求

こうしてマツダでは、2017年3月よりZIPC TERAS本格稼働をスタート。2018年2月現在のユーザー数は300人を超えるまでに広がり、ZIPC TERASに取り込んだ成果物の数は約3万5000件にもおよぶ。今後、さらに拡大していくためには、機能面・非機能面における課題解決が必要となるが、2020年頃までの全部門適用を目指して開発を進めている。
「クルマはエンジンだけでなく、シャシーやADASなど複数のドメインが密接に関係して"走る歓び"や"優れた環境・安全性能"が生まれます。要求仕様から始まり、その後のすべての工程・成果物がZIPC TERASで繋がるよう、今後も適用ドメインを増やしていきたいですね」と今田氏。
ZIPC TERASの導入効果については、「SKYACTIV-Gでは、モデルベース開発を採用した段階で、エンジン制御に関する不具合を約6割削減することができました。トレーサビリティによる細かい効果検証はこれからですが、開発における上流から下流工程までが繋がることで、要求仕様や、その後の変更要求に対する抜け漏れなどが解消され、残る不具合についてもさらなる削減効果が期待できそうです」と続けた。

マツダでは現在、クルマの持つ魅力である「走る歓び」によって、「地球」、「社会」、「人」それぞれの課題解決を目指すべく、Mazda Co-Pilot Concept(人間中心の自動運転コンセプト)のモデル開発に対するAI活用など、先進的な取り組みを始めている。その取り組みの一つとして、JASA(Japan Embedded Systems Technology Association:組込みシステム技術協会)で取り組んでいる次世代人工知能・ロボット中核技術開発にアドバイザーとして参画している。 NTTデータはグループ一体となり、知識型AI開発用のルールベースプラットフォーム「ZIPC R&B」をはじめとした各種ITツールにより、同社の取り組みを全力でサポートしていく予定だ。

人馬一体の走りへの想いを余すことなく注ぎ込み、躍動する美しさを妥協なく磨き上げたクロスオーバー SUV「マツダ CX-5」

お客様プロフィール

マツダ株式会社

所在地 広島県安芸郡府中町新地3番1号
会社設立 1920年(大正9年)1月30日
事業概要 広島の地で育まれた不屈のチャレンジ精神を武器に、"走る歓び"にあふれたクルマを作り続けている自動車メーカーのマツダ。その情熱は、国内初となるロータリーエンジンの実用化をはじめ、近年では「魂動」デザインやモデルベース開発の採用、新世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」の開発など、最先端技術への取り組みに注がれている。また、EPA(Environmental Protection Agency:米国環境保護庁)が毎年公表している「燃費トレンドレポート」では、2018年まで5年連続で総合1位を獲得。日本国内はもちろん、ワールドワイドでも脚光を浴びている企業だ。
URL http://www.mazda.com/ja/

■本稿に登場したサービス

・ZIPC TERAS
成果物・ドキュメント間のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保・支援する「ツールプラットフォーム」です。ソフトウェアだけでなくさまざまな業務で活用することができます。

※本事例に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

[PR]提供: NTTデータ