2018年4月19日、ベルサール東京日本橋にて「オスラム オプトセミコンダクターズ LEDセミナー 2018」が開催された。同セミナーでは、LEDやレーザーなどオスラム オプトセミコンダクターズの事業、製品および最新技術動向なども、分科会形式で詳しく解説。そこで本稿では、当日の講演内容の中から、同社の一般照明用LED、植物育成用LED、マルチマーケット事業について紹介する。

  • オスラム オプトセミコンダクターズ LEDセミナー2018 当日の様子

    オスラム オプトセミコンダクターズ LEDセミナー2018 当日の様子

セミナー冒頭の全体会では、セールスシニアエキスパート 小高 央氏が、同社の業績、市場動向、注力事業の状況などについて紹介した。

オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン セールスシニアエキスパート 小高 央氏

オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン セールスシニアエキスパート 小高 央氏

はじめに、同氏は2017年10月、新会社「オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン」が設立したことを報告。日本に根ざし、日本市場での顧客により良いサポートを提供するための新会社設立であるという。事業内容は、LED、エミッター、センサー、レーザーなど同社製品の販売である。

オスラム(本社ドイツ・ミュンヘン)全社での売上高は2017年度に41億2,800万ユーロ、営業利益16.8%となっている。このうち、LED関連事業を手がけるオプトセミコンダクターズ社の収益が、全体の32.1%を占めている。ここ10年ほどの間に収益割合が数%から3割超まで増加していることからも、LED事業の高い成長性がうかがえる。オプトセミコンダクターズ単体での売上高については、2017年に16億8500万ユーロと報告されている。

さらに、市場調査会社IHSのデータによると、車載市場、赤外部品市場、プロジェクタ光源市場(モバイル向け)、といった分野で同社製品が世界シェア1位を獲得している。一般照明用LED市場は競争が激しくシェアの入れ替わりが激しい分野だが、同社は上位8位以内に入っているとみられている。また、オプトエレクトロニクス市場全体でのグローバルシェアは世界2位。2016年の7.5%から2017年には8.3%にシェアを伸ばしている。

オスラム社の特徴について同氏は「封止材、リフレクター、熱管理、蛍光体など、LEDにまつわるすべての技術をもっており、前工程(チップ製造)から後工程(パッケージング)まで一貫して行うことができます」と強調。製造拠点は、ドイツ(レーゲンスブルク)、マレーシア(ペナン)、中国(無錫)に加えて、新工場をマレーシア(クリム)に建設し、2017年11月から稼動を始めた。東京ドーム約14個分という広大な敷地面積の工場であり、世界最大級の6インチウェハー工場として量産メリットを出すことによって市場競争力を高めていく戦略を進めている。

同社が特に注力している事業として、ビデオウォールや植物育成用LEDなど今後の高い市場成長が見込める分野があるが、小高氏は「車載、民生、産業、一般照明とすべてのセグメントに対してバランスよく進出していきます」と説明した。

また、同社はこれまで比較的規模の大きい企業との取引がメインであったが、クリム新工場の稼動とも連動して、中小企業に向けた事業も強化していく方針であるという。同社ではこれを「マスマーケット拡販プログラム」と位置づけており、2016年度には10%弱だったマスマーケット売上比率の拡大や、顧客数倍増といった目標を掲げ、専任組織も2017年3月に設立し、販売代理店へのインセンティブ拡充などに取り組んでいる。

一般照明向けハイパワーLEDは豊富なラインアップに強み

一般照明用LED事業については、同社ジェネラルライティング マーケティング アシスタントマネージャー 佐藤信宏氏が、ハイパワー領域の白色LEDを中心に説明した。

オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン ジェネラルライティング マーケティング アシスタントマネージャー 佐藤 信宏氏

オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン ジェネラルライティング マーケティング アシスタントマネージャー 佐藤 信宏氏

ハイパワーのLED照明は屋外での使用を想定して、大気中のあらゆるガスに対する耐性を持たせることや、湿度・熱の変化により性能低下が起きないようにするといったものだ。こうした課題をクリアするためには、チップ製造、蛍光体材料、レンズ設計、パッケージなどLED分野のすべての技術を総合した製品開発が必要であり、同社では、これまで車載分野で培ってきた信頼性の高いLED技術を一般照明分野で展開するなどして、ハイパワー製品の開発に取り組んでいる。

ハイパワーLEDを実現する同社のチップ技術の一例として「UX:3」という技術がある。これはチップ表面にビア構造を形成することにより電流密度をチップ全体に均一に拡散させることができる。一般的なサファイア基板チップと比較した場合、UX:3チップでは電流のリニアリティが23%向上し、電流を増やしたときの光取り出しの減衰が抑えられるという。チップサイズへの依存性が小さいこともUX:3技術の特徴であり、335μmから2mmサイズまでパワーに応じた幅広い種類のチップに同技術が導入されている。

ハイパワー領域のLED照明市場としては、屋外照明用の白色LED、植物育成用LED光源、屋外カラー投光機などに使われる色物LEDという3分野をターゲットとしている。高天井向けのLED照明については、低コスト化の要求からミッドパワー製品が使われるケースも増えてきているが、同社のDURIS S 8製品に優位性も多くあることからこの分野にも引き続き注力していくという。

同社の一般照明用LED製品には「OSLON Square」「OSCONIQ」などのシリーズがある。このうち「OSLON Square」は、ハイパワーLEDで一般的に使われているセラミック基板を採用。第3世代品が市場投入されており、佐藤氏は「2Wクラスの製品の中で光束・効率において世界トップレベルの性能」と説明した。第3世代品(2Wクラス)の代表性能値は、700mA定格で光束323lm、発光効率165lm/Wなどである。さらに性能を高めて170lm/Wに近づく次世代品開発もスタートしている。

一方、新製品の「OSCONIQ Pシリーズ」は、同社の車載LED製品の技術をもとにして樹脂基板が採用されている点が大きな特徴である。セラミック基板の製品では、実装基板との熱膨張係数の違いなどから高温環境で使用した場合に、はんだ部の整合性が悪くなって、はんだクラックなどが生じるリスクがある。「OSCONIQ」の樹脂基板では、汎用的に用いられる二次基板に近い熱膨張係数になっており、この問題を軽減できる。

このOSCONIQ Pシリーズ製品では8Wクラスで熱抵抗を大幅に下げることに成功し、米LEDs Magazine誌の「Sapphire Awards 2017」を受賞している。熱抵抗が下がると、ヒートシンクのサイズを小さくできるなど顧客側にもメリットが大きく、システム全体のコストも下げることができる。また、2Wクラスのシリーズは価格あたりの光束(lm/$)が特に高く、コストパフォーマンスの良い製品となっている。

佐藤氏は「性能、用途、コスト面などで、さまざまな要求に応えられる豊富な製品ラインアップが揃っているのが、オスラムのLEDの特徴」と強調した。

植物育成に必要な「光のレシピ」

一般照明用LED事業のうち、白色以外のカラーLED製品と植物育成分野の技術動向については、アプリケーションエンジニア 金綱 俊和氏が説明した。

オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン ジェネラルライティング アプリケーションエンジニアリング エンジニア 金綱 俊和氏

オスラム オプトセミコンダクターズ ジャパン ジェネラルライティング アプリケーションエンジニアリング エンジニア 金綱 俊和氏

同社の一般照明用カラーLEDは、ミッドパワーからハイパワーまでの出力、ディープブルーからファーレッドまでの広い波長域に対応した、豊富な種類の製品が揃っていることが特徴である。配光角についても80°/120°/150°の3タイプが用意されている。このため、屋内外の一般照明、スマートライティング、景観照明、サイネージ、舞台照明、植物育成など、用途に応じた最適な製品を提供できる。

配光角は120°の製品が標準的だが、80°製品ではスポットライトのような狭く絞ったLED光を実現できる。2次レンズを使って光を絞る方法に比べて光学ロスを低減できるなどのメリットがある。一方、広角側の150°製品は、リフレクターによる配光制御や、色の異なる複数のLEDチップを並べて混色して使う場合などに適している。

同社のカラーLEDでは「Thinfilm素子」と呼ばれるデバイス構造を採用。従来素子では発光層であるPN接合部を透明基板上に形成するのに対して、Thinfilm素子では発光層と透明基板の界面にミラー層を置く。ミラー層をはさむことで、発光層の光がすべてデバイス表面から上向きに放出されるようになる。ハイパワー・高効率の製品に適したデバイス構造であるといえる。

金綱氏は「こうした技術が他社製品に対する優位性につながっている」と説明する。例えば、ミッドパワーの赤色LEDについては同社の「OSCONIQ P 2226」が、100mA・温度25℃という条件下で光束21lm、発光効率100lm/Wという性能を実現しており、競合製品を上回る値となっている。ハイパワーのハイパーレッドLED「OSLON Square」、ファーレッドLED「OSLON SSL」についても、放射強度、発光効率、順方向電圧(VF)といった性能値で競合製品を上回っていることが強調された。

同社がカラーLEDの重要なアプリケーションと位置づけている植物育成用途については、特に詳しい解説があった。まず、植物育成用LEDの市場規模について触れると、2018年のLED照明システム市場が8億6250万ドル、LEDデバイス市場が5610万ドルという予測がLEDinsideから発表されている。さらに2020年までに市場規模は1.5倍に拡大すると予測されており、同社としても、高い成長を期待できる植物育成分野に向けた製品を拡充していく計画だ。

植物育成を行う上で光は重要なパラメータの1つである。植物の成長と発育を制御するためにはそれに適した照射時間、光の強度、波長などのパラメータを調整した「光のレシピ」が必要になる。

光の波長については、450nm(青)、660nm(赤)、730nm(ファーレッド)などが特に重要である。450nmおよび660nm付近の波長はクロロフィル(葉緑素)に吸収され、植物の光合成に深く関与していると考えられている。また、種子発芽、花芽分化、開花などが光環境の変化によって制御される「光形態形成」現象にはフィトクロムという色素が関与しているが、このフィトクロムは660nm付近の光で活性化し、730nm付近で不活性化するという性質がある。植物工場ではこのスイッチング作用を利用して発芽、開花、成長などの制御を行っている。

クロロフィルの吸収波長範囲400~700nmの領域は、光合成有効放射(PAR:Photosynthetically active radiation)と呼ばれる。光の強度については、PAR領域の光の単位時間あたりの光量子数(PPF:Photosynthetic photon flux)や、電気エネルギーをPARの光量子に変換する照明システムの効率を表す光量子効率(PPF/W)などが、植物育成用LEDの性能指標として重視されており、同社の植物育成用LEDのデータシートにもこれらの値が記載される。また、植物の成長育成に関係している波長は他にもあり、波長範囲280~800nmの光量子束は生物学的有効放射(BPF)と呼ばれている。BPFについてもデータシートに掲載されることがある。植物育成に必要な光量子束密度(PPFD)の数は、植物の種類によって大きく異なるため、どんな植物を育てるかによってLEDの出力や個数を調整する必要がある。

同じ色温度の光であっても、光源の種類によって波長成分は大きく変わる。つまり、光源の選定によって植物への効果も大きく違ってくるのだ。金綱氏は、植物工場でも広く使われている高圧ナトリウムランプについて、「450nm、660nm、730nm付近の光の成分が少ないので、植物育成に有効かどうかは疑問です」と説明した。一方、最適なLED光源の選択、組み合わせにより、植物の成長と形態形成に有効な光を効率よく供給可能であると説明した。また、放射熱の低さ、寿命の長さ、水銀汚染の有無といった点でも、高圧ナトリウムランプと比べて植物育成用LEDに優位性があると語った。

同社のカラーLED製品の中で、植物育成に最も適したものとして推奨されているのはハイパワーの「OSLON」シリーズである。セラミックパッケージを採用しており、長寿命で耐腐食性に優れるという特徴もある。