――森嶋さんの人生を変えた漫画という意味では『テニスの王子様』はやはり欠かせない作品なのではないかと。

そうですね。声優の世界に入ったきっかけです。

――もともとプログラマーとして働いていたときに『テニスの王子様』を読んで声優を志したんですよね。そこではどういった心の動きがあったんですか?

もともと漫画もアニメも大好きだったんですけど、僕が中高生くらいのときって、いわゆるオタクの立場的なものがあまり良くなかったんですよ。カミングアウトしても良い印象は持たれないのはわかっていたので、ずっと隠していたんです。

――森嶋さんがよく言っている「オタクを封印した」時期ですね。

社会人1年目になるくらいまでなので、5~6年は封印していましたね。隠しているうちに漫画やアニメ趣味から離れちゃったんですよ。離れたままプログラマーとして働きだしたんですけど、会社では先輩たちが休憩時間に漫画を読んでいたんです。僕も休憩時間は寝る以外やることがなかったので、なにか漫画を借りようと思って読んだのが『テニスの王子様』。

――そこでハマッた。

読み始めていくうちにめちゃくちゃテンション上がってしまったんです。1巻からあるだけ読んでいきました。そうしたらTVアニメの方も気になって、レンタルショップで全巻借りてきて、全話観るために5徹しました(笑)。

――ご……!?

最終話で主人公の(越前)リョーマが手塚(国光)部長と試合をするんですけど、リョーマが先輩たちの技を使いながら「ありがとうございました」ってお礼を言っていくんです。

――リョーマが最後に泣くシーンですよね。

そう! ふつうは懐かしい技が出てきたって思うかもしれないんですけど、僕にとってはこの5日間に起きた出来事なんですよ。もう記憶がよみがえってきて、僕も号泣しちゃって。朝の5時か6時くらいに(笑)。

――それくらい心を揺さぶられたんですね。

やっぱり漫画やアニメが好きなんだなって改めて考えましたね。オタクの血が再燃しました。

――そこから声優になろうと決意するわけですよね。

はい。ちょうどそのころは、自分の人生に迷っていた時期でもあったんです。僕はもともと大学で統計を勉強していたんですけど、自分を統計分析にかけたら「好きなことを仕事にすると、後悔しない人生を送れる」という性格だったんです。「じゃあ自分の好きなことってなんだろう」と。

――自分の好きなことを探している時期に『テニスの王子様』で号泣していたら、もう……答えはひとつですよね。

ですよね。漫画やアニメに関われる職業ってなんだろうと思って、ネットを駆使して調べ、そこで声優にたどり着いたんです。アニメはずっと観ていたし、声優も大好きだったので、まさにこれがやりたい職業だなって。

――そこに迷いはなかったんですね。声優になるために最初に取った行動は?

まずは専門学校か養成所に入るルートがあるというのはわかったんですけど、当時はまだ働いていたので、養成所の方を選びました。そこから以前の事務所に所属するわけですね。

――いきなり二足のわらじは大変だったのでは。

やっぱりプログラマーという職業柄、土日に出社したり、終電で帰ったり、徹夜で働いたりしていましたからね。どうしても練習時間を確保したいと思って編み出したものがあるんですよ。

――それは?

「トイレ行ってきます」って抜け出して、トイレにこもって外郎(ういろう)売りをやっていました(笑)。

――ははは。なんというか執念ですね。

睡眠時間も削っていましたけど、やりたいことなので後悔はしたくなかったんです。

――そこでレッスンをして、事務所に所属して、声優になっていく。声優になり、これまで好きだったアニメや漫画といったものに携われるようになるわけじゃないですか。「関わりたい」と思う意識に変わりはなかった?

ないですね。まさに自分の全身全霊をかけて出来る仕事に出会えたという気持ちでした。プログラマーから声優になったおかげで、白髪は生えなくなったし、肌荒れもしなくなったんです。ストレスが目に見えて軽減されているのがわかりました。

――細胞が喜んでいるんですね。

まさにその通りです。気持ちがぜんぜん違いました。

――声優になって最初のお仕事は?

「カードゲームしよ子」というブシロード商品のCMを行うキャラクターがいるんですけど、しよ子はみもりん(三森すずこ)が演じていて、僕はその相方のめー君というキャラクターを担当しました。そこで「うん」というセリフを言ったのがはじめてですね。

――しよ子の「カードゲームしよ」というセリフ対する「うん」ですよね。

そのときはまだ名前も出ないお仕事で、どこかのイベント会場で放送されるというCMでした。その次がゲーム『探偵オペラ ミルキィホームズ』の小林オペラ役ですね。

――あー、別の役のオーディションだったけど、たまたまオペラそっくりの服装だったという伝説の。

懐かしいですね(笑)。

――いろんな漫画好きの方に聞いているんですけど、好きな漫画作品がアニメ化するとき、そのオーディションには行きますか?

やりたいですね。思い入れのある作品には特に関わっていたいですし、好きなキャラクターは演じてみたいですね。

――ちなみに、いま演じてみたい作品は?

現在読んでいる漫画だと『転生したらスライムだった件』のスライム役ですね。あとは、妖怪ものが好きなので『もののべ古書店怪奇譚』も演じてみたいです。