高級外車が飛んだりぶつかり合ったりするシーンを見たことがあるだろうか。カーアクション映画ではなく、1時間に何度もガチンコでそんなシーンにお目にかかれるのが、Amazonプライム・ビデオで10月6日から配信されるバラエティ番組『戦闘車』だ。

そのスケールの大きさは、まさに規格外。収録では“初めての体験”の連続だったという、よしもとクリエイティブ・エージェンシーの神夏磯秀プロデューサーに、現場の様子などを聞いた――。

『戦闘車』

――これまではどのような番組制作に携わってきたのですか?

以前は芸人さんのマネジメントを6年くらいやってまして、島田紳助、加藤浩次、チュートリアル、タカアンドトシ、ロンドンブーツ1号2号、フットボールアワー、友近、キングコングなどたくさんの芸人さんを担当させてもらい、今から3年ぐらい前に映像制作の部署に異動してきました。異動してからは、1から番組企画を作って各局に提案することを夢中になってやってまして、テレビ東京で日曜深夜に放送している『博多華丸のもらい酒みなと旅』は今も続いています。最近立ち上げた企画でいうと、今年の年末に日本テレビで放送するコンテスト番組『女芸人No.1決定戦 THE W(ザ・ダブリュー)』などがあり、過去にはNHK『タカトシのよみがえりマイスター』など、40本くらい新企画を立ち上げてきました。

神夏磯秀プロデューサー

――その中で、今回の『戦闘車』でメインを務める浜田さんとのお付き合いはあったのですか?

浜田さんと直接お仕事させていただくのは、今回が初めてなんです。これまでは収録の現場でごあいさつをさせていただく程度だったので、初めて浜田さんとお仕事をさせてもらって、番組制作者として本当にうれしかったです。最初の打ち合わせから、企画意図を瞬間で理解していただき、面白い番組として成立させるためのポイントを即座に数点指摘していただきました。収録を通して、浜田さんの「オモロイなぁ~」という言葉が聞けた時、めちゃくちゃうれしかったです。今なかなか地上波ではできない規模感と激しさの中で、ただただ面白いことができたので、楽しんでいただけたのではないかと思います。

――#1の冒頭では、時代劇設定のミニコントみたいなシーンもありますよね。ああいう浜田さんは久しぶりで、イキイキされているように見えました。

そうですね。完全にコントシーンなのですが、本域で演じていただきまして、思いっきり笑わせていただきました(笑)。浜田さんがどう思われたかはお聞きしてませんが、僕の目からは、アホ全開の設定を凄く楽しんでやっていただけたように見えました(笑)。今後、別の新しい企画をまた浜田さんとご一緒させてもらえたらこれほどうれしいことはない、と思っています。

――ジュニアさんとのお付き合いはあったのですか?

『THE EMPTY STAGE』っていう即興お笑いショーを3年ぐらい前から一緒にやらせていただいてまして、打合せをしたり食事に行ったりしながら、今ジュニアさんが関心のあることや考えている企画の話を聞かせていただいたり、すごくお世話になっています。自分が企画した特番にも何度か出演していただいたり、尊敬する大好きな芸人さんの1人です。

――浜田さんとジュニアさんがメインで組むというのは珍しいですよね。

番組作りの際のポイントとして、なかなか他では見ないドキドキするような組合せの実現も1つのテーマと思っていまして、今回、浜田さんとジュニアさんにメインMCをお願いさせていただきました。面白い人に面白い人をかけあわせる際の増幅率の想像をしている時は、とても楽しいです。

――『戦闘車』という企画は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?

Amazonさんにいろんなジャンルのたくさんの番組企画を提案している中で、1つ手応えがあった番組企画があったんです。どこかで今後実現するかもしれないので全貌は内緒ですが(笑)、その企画を数回配信のシリーズ番組として実現しようと、毎回のネタ内容のプランを出し合っている時に、「地上波ではできない規模感でえげつなく激しく車で戦い合う」というアイデアが出ました。すると、このワンポイントを抜きとって1つの番組化をしたら面白いんじゃないかという話が進んで、そこを思い切り広げて産まれたのが『戦闘車』です。

――本番では、車が飛んだり、ぶつかり合ったりと、かなり激しい場面が見られるのですが、出場タレントさんたちは、結構訓練もされたんですか?

撮影当日、プロの方にコースガイドやレクチャーを受けたり、1つ1つの競技の前に見本演技を見せてもらったり、もちろん入念な準備運動もしてから本番に臨んでいます。でも、今回の企画は、どれだけスピードが出せるかとかコーナリングがうまくできるかというテクニックを見せることが売りではないので、気合い、根性、お笑い魂、の強さの勝負です。なので、そういう意味では特別な訓練はしてませんが、出演者の皆さんがこれまでの芸能生活で積んできた日々の訓練の成果の場である、と言えるかもしれません。

――あの迫力ですから、怯んでしまう人もいたのではないでしょうか。

ビビるタレントさんと、全くビビらずに思い切り挑むタレントさんに見事に分かれましたね。ビビリで言うと、フジモン(FUJIWARA・藤本敏史)さん(笑)。オファーをかけさせていただいた時から、「安全は大丈夫? 大丈夫?」と何度も聞かれましたが、いざレースが始まると、抜群に盛り上げていただき、さすがだと思いました。逆で言うと、(千原)せいじさんはすごかったですね。そこまでいくか!?っていうくらい全くビビらずに、猪突猛進されてました(笑)

――何といっても、大規模な屋外セットがこの番組の魅力の1つですが、最初に企画した時点では、ここまで大きなスケールになることを想像されていましたか?

想像してなかったですね(笑)。どうせやるなら、ダメ元でマックスプランを提示してみようと、スケールや予算を最大規模で提案してみたらAmazonさんにOKをいただいて、マジかと思いました。僕自身、これだけの規模で番組が作れることが初めてだったので、めちゃくちゃテンションが上がりました。出演者の皆さんも、収録現場に着かれた時に「こんなにお金かかってるんや」ってビックリされてましたし、なにより、ベテランの演出陣や美術さん、技術さんたちが、子供のように無邪気に喜んでこの仕事に取り組まれてました。今とは違い、テレビ作りがもっと自由だった時代を思い出して、肩をガンガン回されてました。テレビ番組全盛期にタイムスリップしたような気分になっていたのではないかと思います(笑)

――バラエティで車をぶつけると言えば、昔BIG3でビートたけしさんが明石家さんまさんのレンジローバーでやっていましたが、当時でも相当苦情が多かったのに、現代でより激しくぶつかり合うことができるなんて、思ってもみなかったでしょうね。本番中に、車が横転してしまうシーンもありましたが、あの時の現場はどんな空気だったのですか?

映画でしか見たことがないような光景が目に飛び込んできましたので、緊張が走りましたね。こういう趣旨の企画なので、安全対策は万全にしてましたが、それでもその光景があまりにショッキングで一瞬冷や汗が吹き出ました。出演者もスタッフも一斉に車に駆け寄っていきまして、無事が確認できて皆で安心しました。

――ただの事故ですからね(笑)。そのシーンもカットせずに配信されるということですが、躊躇はあったんですか?

かなり衝撃的なシーンなのでカットするかどうか?という議論がスタッフの間で起きましたが、これをカットしたらこの番組を立ち上げた志の根幹に関わる、との判断で予定通り配信をすることにしました。

――地上波だったらOAは難しいですかね?

間違いなくOAできないでしょうね。そんなシーンを配信できるのがAmazonの自由度の高さであると思いますが、ただ、配信メディアだから危険なことができる、強烈な下ネタが言える、めちゃくちゃできる、という考えは大きな勘違いで、配信メディアならではの予算感の大きさ、表現範囲の自由度の高さ、という恵まれた環境の中で、純粋に面白い作品作りに取り組める、という要素が番組制作者を惹きつける本当の魅力なんですよね。

――今回は4つの対決がありますが、採用されなかったボツ案はあったのですか?

いや、アイデア出しした競技は全部実施しました。特製の土俵の上で車をぶつけ合って押し出すか戦闘不能になるまで戦うという競技があるのですが、正直そんな競技は実現不可能だろうと思ってたんですけど、今回中心になっていただいた演出の林敏博さん(b-DASH)が非常に車に詳しく、大型ロケの経験値が高い方で、派手で危険度の高く見える競技でも、「安全対策を万全にすれば絶対に大丈夫」と自信を持って会議などで言い切っていただいたので、そういう専門的な知識と経験値の高い方がスタッフにいたおかげで、企画が成立できたというポイントは大きいと思っています。車にまったく詳しくない僕だけの判断では、ビビってやめていたかもしれません(笑)

あと、少し話はずれますが、3年前に番組制作の部署に異動したての頃は、「大人たちに頼らず、若いメンバーだけで新しいモノを作るんや」「年配のテレビ人の考えることは古臭くて面白くない」なんて本気で思ってイキがっていましたが、最近よく思うことは、この業界で今でも活躍している経験値の高いベテランの方々は本当に面白いしすごい。そして一度スイッチが入ったら、狂ったように面白いことに突き進んでいくんです。なので、僕たち世代が今やるべきことは、ベテランの方々と若いクリエイターを掛け合わせ、経験値と発想を融合させ、両方の魅力をオイシイとこどりして、マッスルドッキングのような合体技で、面白い必殺コンテンツをガンガン産み出していくことなんだと思います。

――配信前で情報解禁された段階では、周囲の評判などはいかがでしたか?

PR用のスポット動画を公開してまして、ネタバレにならないレベルの映像のみで構成しているのですが、それでもその動画を見た人はド派手な画にびっくりするようで、業界の方数人から「配信を楽しみにしてます」とわざわざ連絡がありました。今回スケジュールが合わず参加できなかった方もいまして、もしシーズン2があったらぜひ参加させてほしいというタレントさんもいらっしゃいます。

――自分の愛車がボコボコになっても参加したいんですね。

まぁ、詳しく内容を知らないから言ってるだけかもしれないですけどね(笑)

――Amazonプライム・ビデオの番組を制作している他のスタッフと、意見交換などはされているんですか?

吉本興業の映像制作セクションの統括という立場上、他のAmazonプライム・ビデオの番組もすべてチェックしていまして、それぞれの番組の演出家やクリエイターの皆さん、そして担当プロデューサーとは常に会話をしています。今は、どんどん面白いコンテンツを作ろう、と夢中で皆が取り組んでいますが、今後は、それぞれのコンテンツの色分けとか、出演者の住み分けとかも含めて、すべての番組を俯瞰(ふかん)で見たトータルコーディネートをしていくべきだとは思っています。

和食もあれば、洋食も中華もあって、たまには激辛のネパール料理も味わえる、ぐらいのコンテンツレパートリーをそろえていくのが直近の目標ですね。各番組のプロデューサーや演出家は、自分の出している料理が一番美味い、と味を競い合ってますので、個性の強い料理人たちの良い意味でのライバル関係が続いていけば、どんどん面白いコンテンツが生まれてくると思います。

――『千原◯ニアの◯◯-1GP』の森俊和プロデューサーは「海賊船がどんどん出ていってるっていう感じ」と表現されていました。よしもとさんが制作にかかわっているAmazonプライム・ビデオのバラエティシリーズの中で、『戦闘車』は現時点で最後発となるわけですが、特に他の番組と違う独自性はどこでしょうか?

「スケール感」と「驚がくの激しさ」ですね。そして、その根本にある「純度100%の馬鹿馬鹿しさ」だと思います。車って本気でぶつかったらこんな音出るんや!っていうのを初めて聞きましたし、車が大爆破して炎上するのを見るのも初体験でした。そんな初めての奇妙な体験をいっぱいさせてもらいました。

――"初めての体験"というのは、他にもありましたか?

車ってこんなに飛べるんや!とも思いましたね(笑)。それと、こんなに壊れてもまだ車って走るんやと驚かされて、逆に言うと車ってこんなに頑丈で安全なんやなと車への信頼感が増しました(笑)

――いろんな車が参加されていますが、特に印象に残っている車はありますか?

武藤敬司さんのリンカーンが最強でしたね。もはや反則に近い大きさをしてますからね(笑)

――土俵の上で車をぶつけ合う競技は、「ロボコン」を見てるようで面白かったです(笑)。排気量何ccまでとかいう基準は設けていませんでしたもんね。

いろんな車種があったほうが面白いかなということで、それこそ会議では、消防車とかデコトラとかも参加したら面白いな、という話になり、どこで手に入るか調べたりもしました。次回以降で"チキチキマシーン猛レース"みたいなバージョンも作れたら面白いとは思ってます。もはや、まともなレースにならないかもですが(笑)

――『戦闘車』向けにカスタムしてくるタレントさんも出てくると、さらに盛り上がりそうですね。今回を通してAmazonプライム・ビデオの肌感覚が分かってきたと思うのですが、今後このフィールドでやってみたい企画はありますか?

今、若い芸人さんがブレイクするキッカケになる場がどんどん減ってきているような気がしているんです。昔はネタ番組ブームに乗って人気芸人が世に出たり、『はねるのトびら』や『ピカルの定理』といった若手芸人のユニット番組からスターが生まれたりするシステムがありましたが、今は皆無になってしまい、最初の着火点になる場所がないので、埋もれている才能豊かな若手芸人がいっぱいいるんです。なので、テレビに1回も出たことないような若手芸人を20人ぐらい集めて、エグいくらいの"超青田刈り"的な番組をやってみたいなと思いますね。

――今の地上波ではなかなか難しいけど、Amazonプライム・ビデオなら可能性があるんですね。

『戦闘車』のようにすごく大型企画の番組もあれば、低予算で実験的にトライした番組もある、という豊富なラインナップがAmazonプライム・ビデオの幅を広げると思いますので、近々提案しにいきたいと目論んでいます。

――世界に向けて配信される予定なので、日本で全然知られてない芸人さんが、海外で売れだすみたいなことがあると、面白いですよね。そこから、日本への"逆輸入"みたいなことも。

そうですね。「あいつ、なんかインドで大ブレイクしてるみたいやぞ!」みたいなことがあるかもしれないですよね(笑)

――それでは最後に、あらためて『戦闘車』の見どころをお願いします。

二度見してしまうくらいの目を疑う衝撃映像がバンバン出てくると思います。あとタレントさん、芸人さんたちが、見慣れたバラエティ番組では見せない本気丸出しの異様な表情を随所で爆発させますので、そこも楽しみにしてください。驚がく映像盛り沢山ですが、これは映画やドラマのフィクション映像ではありません。極限のリアルバラエティショーを、ぜひお楽しみください。

神夏磯 秀(かみがそ しゅう)
1978年生まれ、大阪府出身。大阪外国語大学卒業後、2001年に吉本興業入社。入社後、大阪本社で吉本新喜劇や舞台制作を担当し、東京異動後、島田紳助、加藤浩次、ロンドンブーツ1号2号、タカアンドトシなどのマネジメントを担当。3年前から、映像制作セクションに異動し、現職はよしもとクリエイティブ・エージェンシーのコンテンツ事業センター長。

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