多様化する船種・船型、省エネルギー化など顧客のさまざまなニーズに対応しているサノヤス造船。同社では、機構解析ソフトウェアを用いた「ブロック吊り解析システム」を開発し、時間・コスト・ノウハウを必要とした従来の設計プロセスからの脱却を目指している。7月25・26日に行われたアルテアエンジニアリングのユーザー会「Altairテクノロジーカンファレンス(ATC)」に登壇したサノヤス造船の技術本部 船殻設計部 構造設計課 本庄卓也氏に、同社の取り組みを語っていただいた。

サノヤス造船 技術本部 船殻設計部 構造設計課 本庄卓也氏

ブロック吊りの強度検討をフロントローディング

――そもそもブロック吊りの解析とはどういうことでしょうか。

まず、船の造り方ですが、いくつかに分割されたブロックを最後にドックでつなぎ合わせて組み立てるブロック工法と呼ばれる方法で製造します。各ブロックは工場内で製造されますが、溶接の作業性のため、ひっくり返した(反転)状態で製造するのが一般的です。ブロック吊りとは、この各ブロックをクレーンで吊り上げ、反転状態から正転状態にすること、また、ブロックを船の形に並べていく(搭載)ことを言います。このとき、どこをどのように吊るかが非常に重要で、これを誤ると最悪の場合船体ブロックが壊れてしまうこともあります。そのため、ブロック吊りの検討が必要となってくるのです。

――吊り検討の重要性がよく分かりました。「ブロック吊り解析システム」を開発するに至った背景についてお聞かせください。

一般的に造船業界では、船全体の構造設計を行った後、製造方法を検討(生産設計)します。弊社の場合、ブロック吊りの検討方法は2パターンあって、実績豊富な船種についてはこれまでのノウハウを活かした経験ベースで検討し、あまり経験のない船種については静解析による吊り解析を行っていました。

このプロセスでブロック吊りを行う場合、吊り上げ時に強度が不足する箇所に補強材が追加されることがしばしばあります。この追加部材は航行時には不要なものであり、部材追加によるコスト増など、構造設計の段階では想定していなかったことが生産設計の段階で起こるという問題があります。一方で、実施していた吊り解析というのも、ノウハウが必要で時間のかかるものでした。

こうした問題の解決のため、従来は生産設計の段階で行っていたブロック吊りの強度検討を、構造設計の段階にフロントローディング(上流化)し、はじめから吊りを考慮した設計ができないかと考えました。大げさなようですが、造船業界で常識となっている設計製造プロセスを変革しようと思ったのです。

専用ソフトウェアを一丸となって開発

――アルテアエンジニアリングの「HyperWorks」を採用したのは、どのような理由からでしょうか。

何と言っても皆が使い慣れているというのが大きな理由です。日本海事協会が提供する船舶設計・構造解析作業ソフトウェアのプラットフォームとしてHyperWorksが採用されており、以前から当社でも導入していました。そして構造設計課内では、さまざまな強度計算にHyperWorksが使えるとして利用が拡大していったのです。CAEの経験がない新人でもすぐに使いこなせるわかりやすさも魅力と感じ、ブロック吊り解析システムのベースとして採用することにしました。

このシステムの開発は、当社を合わせた造船所4社と、アルテアエンジニアリング、NAPAによる共同研究で取り組んでいます。各造船所はクレーン設備やブロック吊りのノウハウのほか、応力などの検討すべきポイントをアルテアエンジニアリングに示し、アルテアエンジニアリングはそれらの仕様を取り入れてシステムを構築しています。

――開発の成果を教えてください。

ブロック吊り解析システムの中身を説明しますと、機構システムモデリングソフトウェア「MotionView」をブロック吊り専用にカスタマイズした形になります。ジブクレーン、盤木など造船所の設備データが予め用意されているので、選択するだけで解析できます。モデル作成はHyperMesh、解析ソルバーはMotionSolve、結果表示はHyperViewを使っています。

従来行っていた吊り検討では、反転時の吊り上げ(反転地切)、吊り切った状態(片舷吊切)、正転(正転搭載)の3パターンの静解析のみを行っていましたが、今回のシステムでは、機構解析を導入し、一連の吊り上げ挙動を再現できるようになりました。従来の静解析の結果と比較しても、イコライザー機能を付与した状態で同様となり、結果の妥当性も評価できています。

ブロック吊り解析システムを使用したシミュレーション

1ヶ月かかっていた解析がわずか1週間で可能

――設計製造プロセスの変革になりそうですね。具体的な効果は出ていますか?

ブロック吊り専用の解析ソフトになっているため、設定が簡単になり、1ヶ月かかっていた解析作業を1週間に短縮することができました。また、プロセスが確立されたことで、多くの設計者が検討に携われるようになりました。解析内容の点でも大きく進歩し、連続した動きをシミュレートしているので、従来検討していた3つの姿勢以外の状態の危険な姿勢を発見できるようになったほか、より忠実に動作を再現しているため、ワイヤー1本1本の荷重やクレーンにかかる荷重まで検討できるようになりました。

造船所レベルで考えても、はじめからブロック吊りを考慮した計画図が作成でき、後戻り作業や部材の追加を防げるため大きなコストダウンになります。

──共同開発を行っているアルテアエンジニアリングについて一言コメントをいただけますか。

アルテアエンジニアリングの技術者は誰もが非常に熱心で親身に対応してくれるので感謝しています。実は、最初に過去の静解析の結果と新システムによる解析の結果を比較した際、結果は一致していませんでした。不一致の理由を考察したところ、クレーンに取り付けるイコライザーを解析モデルにも追加する必要があると分かり、新たにイコライザー機能を開発してもらったのです。もしイコライザーが完成できなかったら、検証結果が合うことはなかったですし、計画は頓挫していたと思います。こちらからこんな機能が欲しいと話したらすぐに対応してくれるのは心強いですね。

HyperWorksでは、今回使用したMotionSolveやHyperMeshの他にもたくさんのソフトウェアが使えますので、そうした機能の活用にもこれからチャレンジしていきたいと考えています。今後も頼りにしています。

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