水面を猛スピードでカヌーが進んでいく。水中にカメラが移動した思ったら、次の瞬間には水球に場面が移り、さらに卓球、クライミング、スケートボード……と目まぐるしくスポーツが切り替わっていく――。

まるで自分がアスリートになってその競技をしているかのような迫力たっぷりの映像を公開したのは全日本空輸(ANA)。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のオフィシャルエアラインパートナーであることから制作したプロモーション映像だという。その割にはANAの存在感は控えめで、最後に時刻表掲示板を模したカットとロゴが登場するのみ。全体を通してアスリートの視点からシンプルに競技の魅力を描いている。

なぜANAはWeb動画を制作することにしたのか。企画の背景とオリンピック・パラリンピックにかける思いを全日本空輸株式会社マーケティング室マーケットコミュニケーション部・橋口直美氏に伺った。

全日本空輸株式会社マーケティング室マーケットコミュニケーション部・橋口直美氏

"普段見ることのない視点"の動画を

――今回、なぜWeb動画という形で映像を公開されたのでしょうか。

橋口氏:私がオリンピック・パラリンピックを担当し始めたのが昨年の4月からです。リオデジャネイロ 2016大会でもTVCMや交通広告を打ち出し、幅広い層のANAがスポンサーとして応援しているという認知度が一定程度上がりました。一方で、年代別で見ると若い世代はメディアとの接触の仕方が変わりつつあり、まんべんなくリーチできているとはいえない状況でした。様々な調査結果を見ると、そうした世代は特にスマホなどで動画を見る傾向があるそうです。そこでWeb動画という形で認知を広げられたらと考えたのです。

――動画の見せ方もユニークですね。選手の視点からの映像なので迫力があります。

橋口氏:どこかで見たことのある映像を出しても意味がないという思いが最初からありました。多くの方にとってはあまり見たことのない、新鮮な映像をきっかけに、興味を持って最後まで見てもらいたいと考えたのです。

水球選手がこちらに向かって力強くシュートを放つシーン。選手視点に立った動画は大迫力だ(画像クリックで動画へ)

――たしかにWeb動画はちょっとでも退屈すると途中で見るのをやめてしまいますよね。今回の動画は、選手の視点に立っていることで没入感があるほか、場面も次々に切り替わっていくので最後までワクワクしながら視聴できました。

橋口氏:そうですね。場面のつなぎも工夫しています。カヌーの水中視点から水球の水中視点へ、ボールが飛び込んでくると同時に卓球でボールを打ち返す場面へ……と場面ごとのつながりもスムーズにして1本の動画にしています。

――映っていた選手も若い方が中心でしたね。

橋口氏:今回は、東京2020大会での活躍を期待されている世代の方に、ご出演をお願いしています。迫力のあるシーンが次々と繰り広げられますが、競技していたのは、実はそうした世代の方だったと最後にネタばらしすることで、驚きを持っていただけるような演出にいたしました。

――カヌーや水球、クライミングといった、どちらかといえば経験したことのない人が多そうな競技が選ばれていますが、意図は?

橋口氏:ひとつは先ほどと同じく、「あまり見たことのない映像を出したい」というコンセプトからです。もうひとつは、「前に進む」や「上に登る」といったアスリートの動きが、企業として前進していこうというANAの姿勢に共通するものがあると思ったからです。アスリートが目指す世界とANAが目指す世界、それらを重ね合わせたいという思いがありました。