『とらドラ!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』といったTVアニメシリーズ、劇場版アニメ『心が叫びたがっているんだ。』、そして世界中の話題をさらった『君の名は。』など、多数の大ヒットアニメで活躍するアニメーター・田中将賀さん。そんな田中さんの仕事に欠かせないツールが、シリーズの使用歴が約20年以上になるというワコムのペンタブレットです。そんな田中さんに、Wacom Pro Pen 2の採用と最高4K解像度対応でさらに進化し、プロのニーズに最高峰の性能で応えるWacom Cintiq Pro 16の感想と、アニメ業界の作画環境について伺いました。

――田中さんはペンタブレット歴が約20年というワコム製品のヘビーユーザーだと伺いました。使い始めたきっかけは何でしたか?

アニメーター・田中将賀さん

アナログでの色塗りを効率的にしたかったのがきっかけです。上京してアニメーターになり始めた頃からワコムのペンタブレットはずっと使っていて、数年前に液晶ペンタブレットのCintiq 22HDを購入し、そこからはずっと液晶ペンタブレット派ですね。

――ペンタブレットから液晶ペンタブレットへ移行されたのは、どういった理由からですか?

いちばんの理由は、PCモニターを覗き込みながら作業していると、どんどん首や肩に負担がかかり、痛みを感じだしたからなんです。やはり、絵を描くなら下を向いた自然な姿勢のほうが、作業もしやすい。書き味も自然です。なので、今は、自宅では自作のPCにCintiq 24HDを繋ぎ、アニメの制作現場にはCintiq 13HDとノートPCを持ち込んで作業をしています。どちらもOSはWindows10。アプリケーションも今までは「ペイントツールSAI」がメインでしたが、最近は大きなサイズの版権イラストを描く機会も多く、「SAI」では扱えるデータ量に限りがあって、高解像度のイラストには不向き。アニメのイラストは1色1レイヤーが基本にもなっているので、レイヤー数にも限りがある「SAI」から「CLIP STUDIO PAINT」に移行している最中です。

――版権イラスト作成のお話が出ましたが、実際のアニメ作画制作でもCintiqはお使いですか?

版権イラストとキャラクターデザインの設定資料はCintiqを使ってフルデジタルで描いています。ただ、いわゆるセルアニメ現場の制作環境は、未だにアナログがメイン。作業のデジタル化は現場や制作会社によってバラバラなんですよ。最近は3Dアニメが中心のフルデジタルの現場も多くなっていますが、まだ僕は経験していないので、作画作業の基本は僕も紙と鉛筆ですね。

――セルアニメの制作現場は、やはりアナログがまだ中心なんですね。

そうですね。アニメーターの作業スピードだけを比較すると、今はまだ圧倒的に紙のほうが速いんです。ベテランになればなるほど、ノウハウと技術の蓄積がありますから。ただ、すべてがアナログだと制作スケジュールが厳しいときに弊害もあります。デジタルデータならササッとPC上で修正が可能ですが、作画の現場でデジタルツールを使いこなせる人は、まだまだ少ないのが現実です。僕が総作画監督を担当した『あの花』(『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』)の現場では、修正を担当する動画検査スタッフの手が足りず、デジタルに明るい僕や長井(龍雪)監督が、ペンタブレットを使ってドット単位の仕上げ修正までもやっていました。

――デジタルツールをみなさんが使えれば、作業効率もより高まるでしょうね。

そう思います。なので最近は制作会社間のやりとりでも、とくに動画や動画検査のセクションはなるべくデジタル化して、液晶タブレットを使わせようという動きが高まっていますね。

――そういったプロの現場、プロのクリエイターのために進化したハイスペックな液晶タブレットが「Wacom Cintiq Pro」シリーズです。今回、田中さんにはWacom Cintiq Pro 16をお試しいただきましたが、率直なご感想は?

じつは僕の場合、ペンタブレットを使い始めの頃からそうだったんですが、アナログ、デジタルと環境やツールが変わっても、絵自体はほとんど左右されないんです。なので正直なところ、今までのペンタブレットとWacom Cintiq Pro 16で、書き味としてここが違うということは、具体的に指摘できない。どれもいいので(笑)。ただ、触っていると確実に何かが違うのが分かるんですよ。それはなぜかな?と考えると……おそらく、ペン離れが良くなっているから。液晶面のガラスの厚みも前より気にならなくなったので、そう感じるのかもしれません。

――より、描きやすくなったと。

そうですね。現在使用しているCintiq 24HDとCintiq 13HDもドライバーの不具合がたまにあるくらいで、絵を描くには不満はないんですが、さらに使いやすくなった実感があります。個人的には筐体のベゼル部分がスマートになったのがいい。Cintiq 24HDもCintiq 13HDもファンクションキーはあまり使っていなかったので、僕にとってはWacom Cintiq Pro 16のシンプルなデザインは気に入りました。15.6型ディスプレイという大きさも、持ち歩きも可能な手軽さもありながら、じっくりと絵に向き合える、絶妙なサイズ感ですね。

――Cintiq Pro 16のディスプレイは、最高4K解像度(3840x2160)と高品位の色精度(AdobeR RGBカバー率94%)を実現していますが、どう感じられましたか?

他の製品よりも、発色は落ち着いた感じがしますね。今までとは明らかに違う。おそらく反射を抑えているからそう見えるのかな? 長時間作業が続く僕らのような仕事には、目に優しくていいと思います。4K解像度については……正直にいうと、アニメーターとして作画作業を行うのに、切実に必要な性能かというと微妙なんですよね。

――それはなぜでしょうか?

先ほどお話したように、スケジュールのきついTVシリーズのセルアニメ制作は、クオリティアップと効率化とのせめぎ合いがあります。アニメはそもそも、色数を制限して放映していますので、複雑な色の変化は必要とされないんです。実際、設定資料ではキャラクターに色の階調をつけても、色をのせる仕上げの段階で簡略化されることも多い。最初からフルデジタルで制作される3DCGアニメや、よりハイクオリティな劇場版アニメ、作業工程の少ないショートフィルムの現場では、4Kクオリティはとても魅力的ですが、TVシリーズの現場は、今よりデジタル化が進み、制作現場のフォーマットが変化したときにこそ、Wacom Cintiq Pro 16はもっと真価を発揮するのではないかと思います。加えて、今僕が液晶ペンタブレットでやっている大判の版権イラストの作成なども、もちろん解像度が高いほうが自然な絵にしやすい。その点でもWacom Cintiq Pro 16はとても魅力的ですね。

――ペンタブレットの進化が、創作意欲にも変化を与えそうですね。

それはありますね。ワコムさんが、OS搭載の13インチ液晶ペンタブレットを出したときも、非常に画期的な試みだと思いました。絵を描く人にとって、紙とペン感覚で手軽にいつでもどこでも作業ができるのは、とても幸せなこと。描きたいもの、描けるものもどんどん増えていきます。今回、Wacom Cintiq Pro 16を試させてもらい、ペンタブレット自体の使いやすさ、性能の進化に正直、驚いていますよ。

――液晶ペンタブレット歴も長い田中さんから、Wacom Cintiq Proへのさらなる要望はありますか?

現状で既にずいぶん満たされてはいるんですが(笑)わがままを言えば、ACアダプターなしで持ち歩けて、より軽くしてもらえると最高ですね。あとはスクリーンキーボードが普通のキーボード並みに使える様になると、さらに便利ですね。アニメ現場で液晶ペンタブレットを使っている人の多くは、別売りのキーボードやゲームコントローラを使ってアプリケーションのショートカットを動かしています。そのショートカットを、液晶上でできると効率がさらに上がるので、ぜひお願いしたいですね。

「君の名は。」Blu-ray&DVD  7月26日発売
Blu-ray コレクターズ・エディション ¥12,000+税
発売・販売元:東宝

田中 将賀
広島県出身。アニメーターとしてアートランドに在籍後、現在はフリー。キャラクターデザイン・総作画監督として、「とらドラ」(08年~09年)、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(11年)、「心が叫びたがってるんだ。」(15年)。「君の名は。」(16年)ではキャラクターデザインを担当。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

[PR]提供・制作: ワコム

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