新薬の開発には、活性化合物(人体に作用する化合物)の発見、化学結合様式に関するシミュレーション計算、それにもとづいた化合物の分子構造の改変など、多くの工程と長い期間を要する。苦難のすえに活性化合物を発見したとしても、その内の9割が先に述べたプロセスで、臨床研究に到達することもなく開発中止となる。さらに臨床研究後にも商品化までには多くのハードルがあり、新薬の開発には1剤で約2,000億円もの莫大な費用が必要となる。

製薬 R&Dにかかる各工程と、そこで必要となる研究開発費例
引用 S.M.Paul, et. al. How to improve R&D productivity: the pharmaceutical industry's grand challenge. Nature Reviews Drug Discovery 2010,vol9,203-214.

多大な期間とコストを投じて開発される新薬。近年は上市(市場への正式な発売)の認可となる「承認取得」の確率も低下しており、新薬開発の所要コストは増加の一途をたどっている。こうした投資コストを回収するための取り組みが、今日の製薬メーカー各社には求められているといえよう。そこでは最適な上市戦略(上市価格と上市の順序)をグローバルレベルで適切に管理することが重大となることは言うまでもない。しかし多くの製薬企業が、この上市戦略に課題を抱えている。

本稿では、ライフサイエンス領域における上市戦略の重要性を改めて提言するとともに、そこではどのような課題が存在しているのか。SAS Instituteが提供するソリューションがどのように課題を解消するのかを紹介したい。

1%の薬価の変動が、収益を7%~15%も左右する

近年、外部の市場環境や政府からの価格へのプレッシャー、並行輸入、IRPと呼ばれる国際参照価格の変更などを要因に、上市価格の低下や市場での販売価格が年間3~6%下降するという事態が発生している。

IRP(International Reference Priceng):国際参照価格
1国または複数国における医薬品の価格設定を用いて自国内における同一(または類似)製品の薬価を設定/交渉する際の、基準となる価格。IRPを採用する国では規制当局が当値を定める。

注目すべきは、ある国でのわずかな価格変動が、世界全体の価格と収益、利益に大きな影響を及ぼすという事だ。Accenture社のレポート「成長の追及:回復期のグローバル経済における価格とコストのバランス」では、薬価が1%上昇することが営業総利益を7%~15増加させる可能性を指摘している。これは逆も然りであり、薬価が下降することで、いとも簡単に何千万ドルもの収益が損なわれる恐れがあるのだ。

市場参入を急ぐあまり上市戦略を厳かにした場合、製品ライフサイクル全体にわたって相当な収益を犠牲にするリスクを内包することとなる。安定した収益の確保には、外部要因による収益影響を可能な限り排除することが重要だ。つまり、今日の製薬会社には、全ての販売対象国を横断して「望みうる最大の上市価格の、規制当局との交渉」と「各国での上市タイミングの慎重な判断」を行って、国際参照価格の影響を最小限に抑えることが求められるのである。

以上のとおり、上市戦略を最適化することの重要性は明白であるが、理想的な戦略立案を難しくする課題がそこには存在している。これは主に「IRP枠組みの複雑さ」と「大局的なビジョン、ガバナンスの欠如」、「高度なアナリティクスの不在」の3つに分類できる。

1.IRP枠組みの複雑さ
IRPを定める枠組み(マトリクス)は極めて複雑だ。理解せねばならないことは「ほとんどの国が独自の計算式を用いている」こと、そしてその国々の多くが参照価格とルールを順次進化させ続けていることである。たとえば5年(60ヶ月)間で75ヶ国に製品を上市することを計画した場合、先の「上市価格」と「上市のタイミング(順序)」の組み合わせは、【60の75通り】という膨大な桁数の数値となる。この中から最適な組み合わせを見つけるには、そのための方法論からまず考える必要がある。

2.大局的なビジョン、ガバナンスの欠如
1.で挙げた方法論の検討や組み合わせを選定する上では、当然ながら各国とその市場を横断的にみる視点が必要だ。しかし、多くの企業組織が、大局的なビジョンを意識することなく各国レベルで上市価格を設定しているのが現状だ。よって、上市戦略を各国ではなく、グローバルで一元管理するための仕組みを構築し、それを統制することが求められる。

3.高度なアナリティクスの不在
1.で例に挙げた【60の75通り】という膨大な桁数の組み合わせから最適なものを選択するには、当然ながら人の力では限界がある。収益に大きく影響するがゆえに、上市価格の設定は大雑把な経験則に頼るのではなく、データに基づいた根拠ある結果として設定せねばならない。しかし、先のAccenture社のレポートでは、上市価格設定のための高度なITを整備していない製薬会社が全体の3分の2に達していることを報告している。最適化を完遂するためには、創造を絶する回数の順列置換に耐え得るアナリティクスを整備することが求められる。

これらの課題を解消し上市戦略を最適化するには、下の表にある4つの機能を備えたITを活用せねばならない。

上市戦略の最適化に必要な機能
(1)
上市戦略の一元管理
「大局的な視点からの上市戦略設定」をおこなうための、ビジネス構造とプロセスを一元管理する機能
(2)
新薬の上市結果の、短期間でのシミュレート
異なる上市価格・上市順序で利益効果の差異をシミュレートする機能。検討するシナリオの数を制限しないためには、1つのシナリオ実行に要する処理時間を最小化することが求められる
(3)
上市価格とグローバルな上市順序の最適化
(2)の情報にくわえて上市日も変数に含め、最適化を実行するための機能
(4)
市場価格のモニタリングと分析
政府の指示による価格変更や市場で発生するイベントからの影響を検討するための機能


SAS InstituteのLROソリューションによる、一元管理のアプローチ

それではここからは、SAS Instituteが提供する上市収益最適化(Launch Revenue Optimization:LRO)ソリューションによる一元管理のアプローチについて紹介していこう。同ソリューションは、業界三指に入る製薬会社向けにSAS Instituteが開発したシステムを前進とし、それに利便性やレポート機能を強化して一般提供を開始したものとなる。 上市戦略を設定する上で重要となるのは「最適化の精度」だ。いかに綿密な計算から結果を導き出したとしても、その精度が低ければ収益への悪影響は避けられない。そしてこの精度こそが、SAS Instituteの特徴となる。 市場にある上市順序最適化製品の多くは、モンテカルロ・シミュレーション(最適化対象の解空間の一部のみをランダムにサンプリングして解を導き出す手法)に代表される単純な分析手法を使用している。一方、SAS Instituteのソリューションでは、極めて高い水準で構造化されていることが数学的に認められている「(分枝切除ソルバーにもとづく混合整数線形計画法」を利用。高い精度を持った分析手法のもと、下図にあるフレームワークで、上市戦略の最適化を支援するのだ。

SAS Instituteの最適化エンジンでは、この図にあるフレームワーク内で、制約を満たす決定変数に値を割り当てて結果を算出する処理を反復。目的のパフォーマンス指標が最大になる値(の組み合わせ)を判定する。

もちろん、SAS InstituteのLROソリューションは、「表. 上市戦略の最適化に必要な機能」に挙げた各種要件も網羅している。

(1)上市戦略の一元管理
各国の系列会社や外部のデータソース(基幹データ、価格データ、市場規模、予測販売量、為替レートなど)から、プラットフォーム、フォーマット、保管場所を横断してデータの統合が可能。全ての国の基準価格設定ルールを一元的に管理することができる。さらにユーザーの役割に応じてアクセス権限が定義でき、全ての活動について監査証跡も生成されるため、ガバナンスの統制も測ることが可能。

各国のIRPの一元管理画面

価格設定ルールなどの更新ページ(証跡は監査可能な形で維持される)

(2)新薬の上市結果の、短期間でのシミュレート
SAS InstituteのLROソリューションではwhat-ifモデリング、市場収益シミュレーション、最適化モデリングなど手法を駆使して、価格設定の意思決定、基準価格、遵守義務が収益性に及ぼす影響を国別およびグローバルに評価することが可能。複数のシミュレーションや最適化シナリオはわずか数分で実行でき、結果を国レベルで比較して、市場価格や参照事象に関する変化を洗い出すことができる。

シミュレーション画面

最適化の結果を国レベルで比較した画面

(3)上市価格とグローバルな上市順序の最適化
MILP 手法にもとづいて最適な上市順序を判定するSAS Instituteの2段階アプローチは、業界でも他に例がない。シミュレーション・モデルや最適化モデルはハイパフォーマンス・コンピューティング・プラットフォームで超高速に実行される。

上市順序の時系列に沿って、各国の価格設定と収益が把握できる画面

(4)市場価格のモニタリングと分析
市場価格やそこへの影響が予想される事象の詳細を国レベルで把握し、それを上市時点における価格設定や参照事象を通じた価格改定に役立てることができる。各国の情報をドリルダウンして、他国との関係から生じる「ハロー効果」についても調べることが可能。また、経営層向けダッシュボードも用意されており、上市に関する統計や分析結果がまとめて把握できる。

市場価格、参照事象の閲覧画面

各国の事象をドリルダウンした画面

直感的なユーザー インターフェイスで、専門家でなくても最適な上市戦略を練ることができる

SAS Instituteのシミュレーションの利点として、こうしたアナリティクスのパワーを、博士号をもつ統計担当者でなくとも思いどおりに活用できることが挙げられる。製品にはSAS Instituteの定量分析専門家の知識とスキルが組み込まれているため、一般ビジネス ユーザーでも、直感的なユーザー インターフェイスを用いることで最適解を知ることができるのだ。

グラフィカルなユーザー インターフェイスによって、専門家でなくても高度な分析を実行することが可能

上市の最適な順序、最適な価格を設定することに成功すれば、特許を独占できる7~10年にわたって増収効果を持続することが可能。たとえ市場価格が徐々に下落するとしても、最初の出発点が最適であれば、巨額の収益増につながる可能性があるのだ。

冒頭のとおり、新薬開発の所要コストは増加の一途をたどっている。高度なアナリティクスを整備している製薬企業はいまだわずかだ。この状況下でアナリティクスを整備することは、単なる収益確保に留まらず、グローバルの競争力向上にも大きく貢献するだろう。本稿を参考に、上市戦略の課題をぜひクリアにしてほしい。

■関連資料
グローバル品目の上市から得られる総収益を最大化するためのヒントが記載された、SAS Instituteが提供するホワイトペーパー『上市の順序に関する戦略の最適化』をダウンロードできます。最適な上市戦略を計画するために、是非参考にしてください。

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