昨年から今年にかけて、YouTubeやInstagram、Facebookといった主要なSNSが一斉に縦型の動画に対応した。その背景には、スマートフォンで撮影される縦型動画の投稿が増えていること、そして横長の映像であってもスマートフォンを横にせず縦のまま見ている人が多いという事情がある。それなら、スマートフォンで見ることを前提にしたアニメは、最初から縦長で制作してもいいのではないか。

そんな発想から生まれたのが、まったく新しいアニメーション配信アプリ「タテアニメ」である。仕掛けるのは、『攻殻機動隊』シリーズなどで知られる大手アニメ製作会社・プロダクション I.Gと、デジタル作画でアニメ制作を行うシグナル・エムディだ。

左から、プロダクション I.Gの大塚裕司氏、シグナル・エムディ代表取締役社長 森下勝司氏

これまでのアニメの常識を覆す「タテアニメ」は、いかにして生まれたのか。開発の経緯と今後の展望について、プロダクション I.Gの大塚裕司氏、シグナル・エムディ代表取締役社長・森下勝司氏に取材した。

――本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが「タテアニメ」について詳しく教えてください。

大塚:スマートフォンで最適に見られる縦型のアニメと、それを配信するスマートフォンアプリです。1話3分のショートスタイルで、毎日新作を配信していく予定です。配信予定コンテンツとしては『孤独のグルメ』、『ひとり暮らしの小学生』、『てぃ先生』、『ルナたん~1万年のひみつ~』などがあります。

スマートフォンでの視聴になるので、画面はかなり小さくなります。ですから、TVや映画館で見るような描き込まれたハイエンドなアニメではなく、たとえば背景の数を極力減らすなどして制作コストを落としていきます。

しっかりしたものはTVなど大画面で見て、気軽に見られるライトな作品をスマートフォンで楽しむというスタイルを想定しています。

――1話3分という長さもスマートフォンを意識したものでしょうか。

大塚:そうですね。電車に乗りながら一駅分の時間で視聴できることを意識しています。

――タテアニメの企画はどのようにして生まれたのでしょう。

大塚:プランニングを始めたのは一年前くらいです。某動画サイトを立ち上げられた方とお話しさせていただいたとき、これからは縦の動画がきますよということを聞いて面白いなと思ったのです。もちろん、アニメ業界では縦長の作品はまったくありませんでした。

――プロダクション I.Gさんだけでなく、アニメ業界としても、まったく新しい挑戦だったわけですね。タテアニメは無料アプリで、毎日新作を配信するということですが、ビジネスモデルは?

大塚:基本的には広告収益モデルです。現在、スマートフォン広告の市場規模は5,000億円を突破する勢いがあり、広告のストックはあっても掲載するスマホの媒体が不足している状態です。昨年からYouTube、Facebook、Instagram、Twitterなどが縦の動画に対応し、広告代理店が縦動画に載せる広告の商品開発を行っています。

もう一つは有料課金モデルです。毎日新作を投入しますが、旬を過ぎたらアーカイブ化し、有料で視聴できるモデルを考えています。無料の漫画アプリがこの方法で成功しています。

――競合となるのはTVアニメではなく、スマートフォンの別コンテンツになりそうですね。

大塚:その通りです。がっつり競合するのはスマホゲームですね。それからライトノベルや漫画の無料アプリ。LINEやFacebook、YouTubeなどもそうです。そういったライトなコンテンツを楽しむというところに、アニメ業界は今までアプローチできていなかったのが現状なのです。

――たしかに電車のちょっとした時間を何に使うのか考えてみると、スマホゲームや電子書籍、SNSなどは選択肢に出てきますが、アニメを見ようとはなかなか思いませんでした。

大塚:ライトユーザー向けのアニメコンテンツというと「鷹の爪団」シリーズなどがありますが、それ以外がなかなかなかったのです。デバイスの多様化にアニメのコンテンツメーカーが追いつけていなかったのが理由でしょうね。

――縦型のアニメはユーザーにとっても初の体験ですが、受け入れられるのでしょうか。

大塚:TVを見ていても、視聴者投稿の縦型動画も普通に使われていたりします。左右にブランクがあっても成立しているわけです。縦型の動画自体はすでに受け入れられているといえます。

ただ、タテアニメでは旧作を単にトリミングするのではなく、しっかり縦型に合わせて制作します。横から縦になると、やはり演出の部分などが大きく変わりますから。

――『孤独のグルメ』など、ラインナップも豪華ですね。

大塚:実は『孤独のグルメ』自体のアニメ化は何年も前から各社さんがアプローチされていたようなのですが、谷口ジロー先生の絵が精密でなかなかアニメとして動かすのが難しかったのです。

昨年、『PSYCHO-PASS サイコパス』や『攻殻機動隊』シリーズなど、弊社が制作を担当したアニメ作品を谷口先生に見ていただいて、プロダクション I.Gならと仰っていただけました。年明けに谷口先生がお亡くなりになられて、作品をお見せできなかったのが残念です……。

その他の作品についても、まんべんなく人気があるというよりは、コアなファンを抱えている作品をピックアップしています。

――配信予定タイトルの一つ、『ルナたん』はスマホゲームが原作ですね。

森下:ゲーム自体が縦に穴を掘っていくというスタイルの作品で、それもあってタテアニメとは好相性でした。

ただ、最初はタテアニメのお話をしていなかったので、先方としては普通のアニメを想定されていました。いろいろ打ち合わせする中でタテアニメにぴったりなのではという話になり、制作が決定したのです。

ユニークなのは、ビジネス面でもNTTぷららさんとシグナル・エムディで一つの事業体としてやっているということ。「ルナたん」でビジネスを展開していったとき、ゲームとアニメのどちらで収益が上がってもそれを両社でシェアすることになっています。

従来のスマホゲームのアニメ化ですと、アニメ制作会社は受注して納品するだけで、収益の分配などはないのが普通でしたから、新しいスタイルといえますね。

――横から縦になったことで、これまでのアニメとは作り方が大きく変わりますよね。

森下:そうですね。そこは弊社がデジタル作画を取り入れていることが大きかったです。そもそも今まで縦型のアニメがなかったわけですから、紙のフォーマットも横しかなくて対応できません。その点、デジタルなら対応可能です。

演出面でも、たとえば敵同士が離れて向かい合っている――みたいなシーンを描くのは縦型では難しいです。そういう意味で、これまでのノウハウが使えません。「ルナたん」の場合はそもそもゲームが縦だったことと、監督が柔軟に対応出来る方だったことでスムーズに進行できました。

――デジタル作画のお話が出てきましたが、なぜシグナル・エムディさんではデジタル作画を導入されたのですか?

シグナル・エムディの仕事現場の様子

森下:一つは将来を考えてのことです。従来のアニメの作り方は基本的に分業制です。原画、動画、仕上、背景、撮影、編集、制作進行など細かく仕事が分かれていて、人手もかかります。

ただ、今後日本の人口が減少していったとき、これまでのような分業制では人が足りなくなってアニメが作れなくなる時代がやってきます。

ではどうすればいいのかというと、一人のクリエイターがいろいろな作業を担当するのです。動画担当が色も塗ったり、背景を描いたりするわけです。アナログでは難しいですが、それを助けてくれるツールがあればできるのではないかと。

――そのためのデジタル作画だと。

森下:そうですね。もう一つの理由は大画面化による高解像度の時代がやってきているからです。お客様の求める映像クオリティはどんどん上がっており、解像度も4Kや8Kの時代になりつつあります。そのとき、紙で制作していると描き込みが難しくなるのです。

デジタルでしたら一部分を拡大して描き込めるのですが、紙だと物理的な大きさに限界がありますから、引き伸ばしたときにどうしても粗が出てしまいます。

――シグナル・エムディさんで使用されているデジタル作画のツールは?

森下:CLIP STUDIO PAINT、TV Paint、ToonBoom Harmonyという3つのソフトを使い分けています。本来なら分業していたことも、これらのツールを使うことで同じ人が行えるのです。そして、ワコムさんの液晶ペンタブレットやペンタブレットを使用していますね。

たとえば「ルナたん」の監督は、脚本、絵コンテ、演出、撮影、編集などすべて行っています。デジタルですとスタッフ自身でデータのやりとりと管理が出来ますから、紙のように制作進行を置く必要もありません。

まだトータルで100%デジタルというわけではありませんが、今後は100%にするべくやっていきます。

――タテアニメの今後の展開についてはいかがですか?

大塚:将来的には海外進出も考えています。海外ですと、DVDプレーヤーを持っていない人も多くて、日本のアニメをスマートフォンの細い回線で見ている人も多いのです。そういう方には軽くて短いタテアニメが刺さるはずです。

また、海外に作品を持っていくのは、国ごとに表現の基準が違うなど大変なのですが、タテアニメのようなアプリであればローカライズするだけで、すぐに海外のユーザーにもリーチできます。グローバル展開も見据えていきたいですね。

――ありがとうございました。

スマホゲームにしろ、無料漫画アプリにしろ、スマートフォンのコンテンツは電車などのちょっとした可処分時間をいかに取っていくかというシビアな争いをしている。そこに今までアニメ業界は参戦できていなかったという話には思わずハッとさせられた。

「タテアニメ」は縦視聴に対応しているというだけでなく、無料で毎日新作が配信され、1話が短くて気軽に見られるなど、スマートフォンユーザーを強く意識したアプリとなっている。

タテアニメが新たなアニメの可能性を切り拓けるのか注目だ。

[PR]提供:株式会社ワコム

[PR]提供: