G-STEELのデザインと新「レイヤーガード構造」

―― G-STEELをデザインする上でどんなところに気を配られましたか?

カシオ計算機 デザイン開発部 正林盛次氏

正林氏「MR-GやMT-Gは、まず決められた構造があって、基本的にその構造に合わせてデザインします。MASTER OF Gも想定フィールドやシーンがあり、そのイメージからデザインを起こしていきました。しかし、G-STEELはいろいろな人に着けて欲しいという裾野の広いシリーズなので、デザインの『とっかかり』を見つけるのが大変でした。

齊藤の話にもありましたが、G-STEELはMR-GやMT-Gとは立ち位置が違うので、デザインからもそれが見て取れなければなりません。かといって、MASTER OF Gのような航空、海洋といったイメージをデザインソースに取り込んでしまうと、途端に『特定の目的を持った時計』感が出てしまいます。そうならないよう、あくまで『ベーシックなメタルウオッチ』であること、それでいてG-SHOCKらしいデザインを追求しました。

特定の目的を持たないもの、特定の誰かに向けないものをデザインするのは難しいと、再認識させられました。そんな中でヒントになったのは、ベーシックモデルのヒット作であるGA-110。特定の使用シーンを感じさせないデザインながら、G-SHOCKらしい個性と、定番としての存在感があります。

これに気付いてから、スッキリした方向にまとまって行きました。結果的には先祖返りというか、原点に回帰した感じですね。とにかく、デザインにかかった時間がすごく長かった。こんなにシンプルなのに(笑)」

樹脂ベゼルの剛性を強化するファインレジンは、差し色としても効果を発揮

樹脂ベゼルと組み合わせるファインレジンは、緩衝材としつつ差し色としても機能

メタルベゼルはウレタンリングと組み合わせてショックレジストを実現

ベゼルを装着した状態。ベゼル下の黒いラインがウレタンリング

レイヤーガード構造について説明する正林氏

―― 樹脂ケースのモデルにはない「メタルウオッチの質感」も必要ですよね。

正林氏「そうです。たとえば、ベゼルリングを荒々しく削り出したような形にしてみたり、スパッと切ったようなシャープなエッジを強調したり。これは、G-SHOCKの力強いイメージにも通じると思います。

MT-Gとは違うというものの、メタルウオッチである以上、仕上げにも気を配る必要があります。そこで、ヘアラインやミラー面といった見せ場を作るために、ケースに『面』を意識的に作っています」

齊藤氏「メタルウオッチには、切削や磨きという工程が不可欠ですが、それはパーツの形状に大きく関係します。G-SHOCKといえば、バンパーやボタンガードなど凹凸の多さが印象的ですよね。

でも、大きな凹凸が多いと、刃やヤスリが入らないという不都合もあって難しいんですよ。そこで正林には、メタルのバリュー感を大切にしながら、ちゃんとG-SHOCKに見えるようにしてくれとリクエストしたんです」

―― それは大変ですね……。

正林「G-STEELでは、この問題をデザインと設計の両面から解決しました。たとえば、ボタンガードなどで必要不可欠な部分以外はなるべく凹凸を削減し、メタルの仕上げの入れやすさを考慮しつつ、ベゼル等の異素材の組合せ、噛み合わせ、それぞれの素材の厚み、存在感を強調することでG-SHOCKらしい力強さを表現していきました。

ベゼルはケースと別体になっていて、ビス留めされています。ベゼルはメタル製のモデル(GST-W110)と樹脂製のモデル(GST-W100)がありますが、メタルベゼルは間にウレタンリングを挟むことで緩衝効果を持たせ、樹脂ベゼルは硬めのファインレジンリングと組み合わせ、剛性を高めた上で取付けています。

異なる素材の組合せでもGの耐衝撃構造を等しく保つ。これがG-STEELの新しいレイヤーガード構造です。必要な強度を持った素材を必要な箇所に積み重ねていく。従来の構造よりかなりシンプルな作りですね。

おかげで、ケースやベゼルのデザイン的な自由度はかなり上がりました。樹脂ベゼルのファインレジンリングは正面からも見えるので、差し色として幅広いカラー展開が期待できます」

齊藤氏「この新しいレイヤーガード構造のおかげで、普通の時計に近いG-SHOCKがやっと作れるようになったともいえます。メタルツイステッドという意味では、G-STEELは確かにMT-Gに近いともいえますね」

「GST-W110-1AJF」4万円

GST-W110-1AJFを分解していくと……

これだけのパーツに分かれる