みなさん、会社に見切りをつけられる勇気ありますか? 先の読めない経済社会では、ますます「良いものは良い」「悪いものは悪い」と言える勇気と信念が求められているのかもしれません。

波乱万丈の人生を楽しめますか?

今回は前回も登場した、総合商社・日商岩井(現双日)の一連のLNGプロジェクトのときのA主任から聞いたお話をご紹介します。ただし、あくまで聞いた話という前提でご覧ください。

LNG配船シミュレーションでは、海洋の気象情報を4kmメッシュ単位で入手する必要に迫られました。1980年代前半に、これらの気象情報はオーシャンルーツという会社が日本では唯一提供していました。元々は米国サンフランシスコに本社を置く会社です。当時のオーシャンルーツ日本支社長が石橋博良氏です。

石橋氏は1969年に総合商社・安宅産業(当時10大商社中10番目)に入社し、木材部門に配属されました。翌年担当した木材輸送船「空光丸」の寄港予定地である大阪港が混雑し、入港すると10日分の滞船料(2000万円)がかかるため、石橋氏は急きょ寄港地を福島県の小名浜港に変更させました。するとどうでしょう。突発的な天候悪化に見舞われ、空光丸は小名浜港で岸壁に叩きつけられ沈没し、15名の犠牲者を出してしまったのです。この事故が、石橋氏の気象予報会社への転職に大きく影響したものと思われます。ウェザーニューズ会長室にはウェザーニューズの原点となった事故を決して忘れないために、当時の朝日新聞を今でも掲示してあるそうです。

さて私がA主任から聞いたのは、まだ入社4年目の石橋氏が1973年に安宅産業を辞める際、「こんな会社潰れるわ」と言い放ったという逸話です。

A主任からは噂話程度に聞いていたので、石橋氏がそのように発言した理由までは記憶に残っていません。ただ安宅産業は、石橋氏の予言通り、1977年にカナダのいわくつきのブローカーが暗躍した石油精製プロジェクトの失敗で1,000億円の焦げ付きを出し、当時の住友銀行主導の下に伊藤忠商事に吸収合併させられます。かの三井物産も、1980年代初頭にイランのアザデガン油田開発で1,300億円の損失を出しましたが、こちらは官民一体型のプロジェクトだったこともあり、倒産の危機は回避されました。正にLNGで独歩勝ちの三菱商事とイランで失敗した三井物産は対照的でした。まあ、それでも当時の経済紙「プレジデント」ではニューヨーク駐在の物産マンと商事マンを、エリート商社マンのステータスとして特集していたので、IT業界のビジネスマンは格好良いなあと思ったものです。

安宅産業を紐解くと、安宅一族による同族経営的な色彩が強かったようで、部長に人事異動を言い渡された安宅一族に近い若手社員が、「ファミリーに言って撤回させてやる」と言い放ったというエピソードもあるようです。ひょっとしたら石橋氏は、そのような企業体質に失望したのかもしれません。A主任が言うには、石橋氏のこの話は業界内では有名だったようです。因みに山崎豊子原作の「不毛地帯」の中に登場する主人公で、近畿商事役員の壱岐元正(数年前のドラマでは唐沢寿明が演じた)は伊藤忠商事の元会長・瀬島竜三氏をモデルとし、東京商事の役員(遠藤憲一が演じた)は当時マクダネル・ダグラス航空機疑惑で渦中の人となっていた日商岩井の海部八郎副社長をモデルにしたと言われています。

そのようなことも背景にあるのか、A主任は何かにつけ「伊藤忠は自分たちが契約が取れないときは邪魔してくるんだよね」と目の敵にしていました。一方で石橋氏のオーシャンルーツでの活躍を、ある面、羨望の目で見ていたようにも感じました。1973年にオーシャンルーツ日本支社に転職した石橋氏は、あれよ、あれよという間に親会社の株式を取得して、1986年にみなさんご存知のウェザーニュース・ジャパンを設立します。そして遂に1993年にオーシャンルーツ社の全ての株式を取得し完全に買収してしまいます。そして今では放送局各社、また世界の船舶会社などに気象情報を提供する、世界最大の気象情報提供会社に成長しました。

提供する全世界の気象図

当時の私は気象情報は気象庁の予報で十分で、特殊なケースを除き4kmメッシュの気象データなど需要はないだろうと思っていました。世の中分からないものです。まあ、逆に分かっていたら世の中は成功者で溢れてしまいますね。しかし、継続的な気象情報や医療情報などのコンテンツ提供会社というのは、高収益の会社が多いですね。

このように大成功を収めた石橋氏でしたが、2010年に63歳の若さで他界しました。自分の哲学に正直かつ奔放に生きた元商社マンが今も生きていたら、今の日本をどのように見ているのか聞いてみたくなります。

最後に石橋氏が唱えたウェザーニューズ社(改名後)の社是をご紹介します。石橋氏の人生観が感じられる内容です。

人は遊ぶとき、
・とにかく楽しんでいる
・自分の意思で遊ぶ
・冒険心を持っている
・失敗をおそれない
・自分を磨くことを覚える
・新たな発見をする
・知れば知るほど、やればやるほどおもしろくなり、
・うまくなればなるほど、さらにおもしろくなる
・良い仲間をみつける
人は良い仲間と遊ぶとき、
・より大きな楽しみをみいだす
・今までにない自分をみいだす
・自分をさらけだせる
・仲間を思う心が芽生える
人はさらに多くの仲間と遊ぶとき、
・より大きな喜びをみいだす

本記事は、アイ・ユー・ケイが運営するブログ「つぶやきの部屋」を転載したものになります。

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