文化・風習の異なる海外の人たちとコミュニケーションをすることは、想像している以上にひと筋縄ではいかないもの。ましてや、一緒に仕事をするとなるとなおさらだ。グローバル社会の到来が叫ばれて久しい昨今、それを体現しているビジネスマンはまだ少ないが、そのためにはどんな資質が求められるのか。そこで、2015年10月に転職して株式会社博報堂に入社したばかりの吉岡由佳さん、二反田将紀さんのふたりに「異文化コミュニケーションのコツ」について聞いた。

インドでの生活は「仕事」の前に「健康」

2015年10月に株式会社博報堂に入社したばかりの吉岡由佳さん(左)、二反田将紀さん

――今日はよろしくお願いします!おふたりとも、最近転職してこられたんですよね。前職について聞かせてもらえますか?

吉岡「はい。私は大手総合電機メーカーで、半導体部品の営業と大手自動車メーカー向けプロジェクトマネージメント業務を担当しました。北米・ヨーロッパ・中国・アジア諸国と、クライアントが海外だったこともあり、ほとんど英語ベースで業務のやりとりをしていました」

二反田「自分は大手通信事業社の法人営業として、入社2年目でトレーニーという形でインドに駐在し、現地日系企業にネットワークサービスやクラウドサービスなどを提案する仕事をしておりました」

――なぜ、転職しようと思ったんですか?

吉岡「前職で日本の技術者が持つプロフェッショナリズムや企業としてのフィロソフィー(哲学)に惹かれ、それらを海外に伝えたいという想いが自分の中で次第に高まっていったんです。もともと広報の仕事に興味があったということもあり、思い切って広告の世界に飛び込もうと」

二反田「インド駐在中は、おかげさまでたくさんの人たちからお礼を言われたり感謝されたりしましたが、ITを扱っていると、自分の出した成果が目に見える形で得られにくいなと。そこで、ITに縛られず、もっと目に見える形でコミュニケーションというものを広げていきたいと感じていたところ、たまたまマイナビさんの記事(※1)が目に留まり、応募しました」

※1 博報堂では、現在も中途採用を募集しております。

――マイナビの宣伝まで、ありがとうございます(笑)。おふたりともサラッと自己紹介してくれましたが、二反田さん、1年間のインド駐在はなかなかタフなものだったのでは?

二反田「あくまで僕の感想ですけど、インドって、『仕事』の前にまずは日々を『生きる』ということが大変なんですよ(笑)。言い換えれば『健康』でいることが大事というか。出張で来る人たちが軒並みダウンして日本に帰っていく姿を目の当たりにして、そう思いましたね」

一同「(笑)」

二反田「その意味で、日本で活躍している優秀な人が海外でも同じパフォーマンスを発揮できるかというと、必ずしもそうではないと思うんです。また、人とのコミュニケーションに関していうと、仕事の仕方や責任分解点が全く違います。日本人って、たとえば営業と製造という異なる職種でも、同じ仕事の中で互いの間を補完しようと協調し合うんですけど、インド人は営業は営業、製造は製造と役割分担と意識がはっきり分かれていて、全体的なトラブルが起きても我関せずなんです」

――インドでは生水を飲んじゃいけないとか、よく聞きますもんね。

二反田「最初の1カ月はどうやって日本に帰ろうか、真剣に考えてましたね(笑)」

――そんな厳しい状況をどう乗り越えていったのでしょう。

二反田「自分もそうですけど、いきなりやってきた外国人から『その仕事の進め方は違う』って言われても、なかなか受け入れられないですよね。僕の場合、月並みかもしれませんが、まず相手の懐に入り込むという作戦で、インド人の『家に行く』ことから始めました」

――相手の家に行っちゃうんですか!?その試みはうまくいきましたか?

二反田「よく聞く話だと思いますが、トイレに入るとお尻を拭く紙はなく、水の入ったバケツしかない家も結構あるんです。実際にそれですべてまかなうことを経験しました。インドの家庭料理もいただきましたが、正直、僕の舌には辛すぎるんですよ(笑)。お腹を壊さないか心配ですし。でも、彼らは僕が食べるかどうか、ちゃんと見ているんです。そういった細かなことが実はインド人の信頼を掴むきっかけになると思うんです。おかげさまで、少しずつ打ち解けていき、彼らとの仕事がスムーズになったと思います。こういう経験は日本にいたらできないことですし、ネットで検索しても出てくるものではない。今、思えばもっとインドに入り込みたかったなという気持ちはありますね」

日本人がもっと異なる文化を理解するべき

――そのほかにインドで印象深いエピソードはありますか?

二反田「ガンジス川に入ると病気になるので、絶対入っちゃダメです(笑)」

吉岡「私の知り合いは、インドを旅行した時、入ってましたよ。何日か身体から匂いが取れなかったらしいですが(笑)」

二反田「あとは通勤時、フツーに牛が道路を歩いて“牛渋滞”が起こります」

一同「(笑)」

二反田「インドの渋滞は本当に酷いのですが、そのせいでクライアントとの打ち合わせに遅刻したことがあります。こういう場合、日本人の感覚でいうと『どうなってるんだ!』と、怒ると思いますけど、現地にいると『あ、そうでしたか』とおだやかに苦労を共有できるんですよ(笑)。勿論、激怒される時は激怒されますけど。あと、電子レンジ問題! インド人ってランチタイムは外食せず、ほぼお弁当持参なんですよ。でも、肉食OKの人が先にチンすると、ベジタリアンの人が『肉を温めた後のレンジは使えない』って怒って大げんかになるんです」

――やっぱり現地に行ってみないと分からないことって多いですね(笑)。

二反田「自分も心のどこかに『日本人は仕事をキチンとして偉い』という価値観を持っていたんですけど、実際に行ってみると、環境が全く違うわけで。その時、日本人がもっと異なる文化を理解しないといけないと思ったんです。僕のような若い人がフットワーク軽く、どんどん海外に出て行って、日本のマインドを伝え、逆に現地の経験を通じて得たものを日本に持ち帰ることがとても重要だと思います。僕自身もできたらまた海外に赴いて仕事をしたいです」

――今日の取材には人事部の方も同席していますし、お願いしてみたらどうですか(笑)。

二反田「じ、実は最近入籍したばかりなので、さすがにちょっと…すみません(笑)。でも、たかが1年赴任しただけで偉そうなことは言えませんが、インドでの経験がなかったら今、ここにいないことを思うと、本当に貴重な経験だったと思います」

――吉岡さんは帰国子女としてさまざまな経験をされてきたと思いますが、いかがですか?

吉岡「父親の仕事の都合で小学2年生から4年間ブラジル、中学から高校にかけてメキシコで過ごしました。大学の時に1年間、シアトル大学に留学していました。そのためか、小さい頃から海外に対する意識・関心は強かったと思います」

――その中で強く感じたこと、思ったことは何でしょう?

吉岡「ひと言でいうと『多様性』ですね。『強烈な個性』とも言えますが、私の周りには、両親が画家だったり、信仰する宗教上、特定の食べ物が禁止されていたり、タトゥーやピアスを当たり前のように入れていたりする中学生がゴロゴロいました(笑)。そんな状況の中で、安易に同調せず、意見を言い合って議論することの楽しさを見つけましたね」

――良い意味での自己主張というか。

吉岡「言い方は悪いですけど、海外では黙っていると『意見がない』もしくは『無能』と思われがちなんです。論点に対してしっかり自分のオピニオンを持ち、ポジショニングをすることがすごく大事なんです。日本では周囲を見て同調したり、あえて意見を保留して意思表示しないことが良いと思っている人がたまにいますけど、はっきり自分の意見をいうことは、ひいてはその人の『信頼』にもつながっていくと私は思います」

――でも、それをそのまま日本社会、とりわけ会社に当てはめて実践するのは難しいですよね?

吉岡「よく『根回し』『義理人情』『建前』といった言葉が否定的に捉えられがちですが、そこまで高度なコミュニケーション能力が発達したというのは、逆に日本人の強みだと思います。社会人になって、それぞれの立場を考えた上で全体合意を取ってから会議に臨む、という日本独自ともいえる文化も学べて良かったと思っています」

――それらを踏まえた上で、自分だからこそできる仕事ができると。

吉岡「仕事をする上で、社内に『味方』を作るということはとても大事なこと。どちらか片方の立場しか分からないと、なかなかそうはいかないと思うんです。相手がどういう考え方をするのかをしっかりと見た上で、自分の立場や出方を変えることができるようになりましたね」

他人の「好き」を否定しない

――吉岡さんにとって海外生活で得たかけがえのない体験、経験は何ですか?

吉岡「メキシコで住んでいたマンションのオーナーの家族と仲良くなって、毎週のように郊外にあるセカンドハウスに遊びに行ってたんですが、そういった家族ぐるみの交流を通じて、人として他人を全面的に肯定することを学びましたね。それはつまり『差異』をリスペクトする、リスペクトした上で受け入れるということだと思うんです。『この人はこういう考え方だから』『こういう文化だからしょうがない』と荒く切り捨てないことが異文化コミュニケーションには必要だと思います」

――とはいえ、多くの日本人は衝突を恐れてそこに踏み込もうとしないですよね。

吉岡「私の場合は『ごめん、自分には理解できない』と正直に言っちゃいますね。それは決して否定的な意味合いではなく、『分からないことを教えて欲しい』というスタンスなんです。プレーンな状態であなたの考えを知りたいから聞くのだと。もちろん、聞き方やある程度の配慮は必要ですけど、あえて踏み込むことが逆に理解を深めるきっかけにもなると思うんです」

――なるほど。

吉岡「あとは、相手の『好き』を否定しない。『そうなんだ、私は嫌い』で終らせるのではなく、『そうなんだ、どんなところが好きなの?』と、違和感をコミュニケーションのとっかかりにしていくことも私は日ごろから心がけていますね」

――二反田さんはどうですか?

二反田「そうですね。インド人と日本人は生活から考え方まで、衣食住や気候も含めて全然違いますから、受け入れないと生活できないですよね。その意味では吉岡さんと考えは同じです。ただ、一方で『否定する』ということも大事なキーワードで、全部に対して『うんうん』言っていることが求められているわけではないので、違う意見をぶつけるということも、仕事などのさらに深いコミュニケーションをしていくには大事だと思います」

――その考えは今の職場では活かせてますか?

二反田「確かにインドでの1年間があったので、今は『なんてこちらの機微を察してくれる職場なんだ』という嬉しさはありますね(笑)。その分、外国の人と話す時は自分の中のスイッチが変わります」

吉岡「私も変わりますね。言葉の構造上、主語の次にすぐ動詞が来るので、誰が何をするのか、何をしたのか、ポジショニングがはっきりするんですよ。自分の意見もはっきり言いやすいけど、何が言いたいのかをしっかり持ってないと言葉が続かないんです。英語を話してる時は自分の性格もちょっと変わっていると思います(笑)」

二反田「報告書にしても、日本語だと経緯から言葉をずらーっと並べないといけませんが、そういう時はあえて英語にすると結論が先に来るので、ボリュームがグッと減るのでオススメです(笑)」

吉岡「英語だとプレゼン資料がそもそも箇条書きなことが多いですよね」

二反田「大枠さえ合っていれば細かいことは置いておいてまずは進もう、という考え方なので、スピード感がありますよね」

吉岡「感じます。向こうの人と話す時は簡潔にロジック立てて話さないと。ちょっとでも曖昧なことを言おうものなら『意味が分からない』とバッサリですから(笑)。契約とエビデンス社会ですから、結論がないと打ち合わせもしてくれないこともあります」

二反田「日本人には日本人特有のキメ細やかさや丁寧さがあって、外国人には外国人特有のスピード感やパワーがある。どちらが良い悪いではなく、日本人のマインドを持った人が英語で外国人とコミュニケーションを取れると最強だと思います」

――それってまさに二反田さんのことじゃないですか。

二反田「いえ、英語は得意ではありません!つい先日、二週間ほどの海外出張から帰ってきたばかりですが、やっぱり現地に行って改めて語学力や、外国人とのコミュニケーション能力の足りなさを痛感しましたね。吉岡さんみたいに幼少期に外国語に触れていると、ヒアリングや発音の面でアドバンテージもあり、本当にうらやましいです」

吉岡「でも、シンガポールなどの東南アジアだとアメリカン・イングリッシュが通じない場合もありますよね」

二反田「確かにそうですね」

コミュニケーションにはユーモアが必要

――日本企業のグローバル化について思うことはありますか?

二反田「インドにいた頃、現地企業の日本人の社長に言われたのですが、『すぐに日本も気がついたら上司が外国人になっているよ』と。優秀な中国人やインド人がどんどんやって来て、自分の仕事のパフォーマンスを上司に評価してもらう際、英語で説明しなければいけなくなる。もしくは部下に外国人が入ってきて、仕事を教える際、英語で説明しなければいけなくなる。そうなった時どうするのか、と」

――そういう時代がもうすぐそこに来ている、と。

二反田「いつ、どこで、誰とでも、すぐに仕事ができる準備をしておかなければならないと強く思いますね。この先10年、20年後、博報堂がもっともっとグローバルになっていく、なっている状況の中、今頑張ることがきっとアドバンテージになると思って奮闘しているところです。自分が35歳くらいになって、優秀な外国人の新入社員に英語でベラベラまくしたてられたらダサいじゃないですか(笑)」

吉岡「私もこれから先、グローバルなチャレンジをもっとやっていきたいです。具体的には海外進出を目指す日本企業のグローバルコミュニケーションのサポートです。たとえば中国の方とビジネスをする際、日本人以上に役職や面子を重んじること、つまり『相手を立てる』ことが重要になってくるんです。そんなふうに相手の属性を理解し、差異を受け入れ、お互いにゴールに向かっていく『推進力』のある人物になりたいですね」

――では、おふたりがコミュニケーションにおいて心がけていることは何かありますか?

二反田「僕は基本的に真剣で真面目ですけど(笑)、初対面の場などではちょっとユーモアのある言い方を心がけるようにしています。たとえば自己紹介も『はじめまして二反田と申します。五反田の五が二で二反田です』と言ってみたり。信じてもらえないかもしれませんが、多くの場合、その場が和むんです。失笑される時もありますけど(笑)」

――確かに、ユーモアは世界共通なところがありますね。

二反田「そうですね。ただ、インド人から笑いを取るのはなかなか難しいですね(笑)。でも、ヒンドゥー語で自己紹介すると必ず喜ばれるので、ぜひ一度、試して下さい」

吉岡「私もユーモアってグローバルコミュニケーションにおいて大事だと思います。私の友人に、どんな国に行っても誰とでも友だちになってしまう素敵な女性がいるのですが、彼女は世界各国の言葉で『私にかっこいい男性を紹介して』って言えるんですよ(笑)」

二反田「その人、彼氏いるんですか?」

吉岡「いません(笑)」

――(笑)

まとめ

今回のおふたりの話から、いかに仕事とコミュニケーションが切っても切れない関係であることが理解できたのではないだろうか。今後ますます広がっていくグローバル化の流れの中、相手との差異を受け入れ、ユーモアと共に楽しむことができれば、仕事もきっと楽しめるはずだ。

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