独創的な人材を発掘するための教育に取り組む「大阪大学サイエンス・テクノロジー・アントレプレナーシップ・ラボラトリー」(通称:e-square)では、実践型教育プログラムの一環としてナショナルインスツルメンツ(NI)「LabVIEW」を採用した授業を2014年度より開講している。学生自らが能動的に学ぶ“アクティブラーニング”の場を提供し、企業の現場で役に立つ実践的なプログラミングと制御の基礎知識を身につけることが目的だ。

企業と共同で提供する「実学主義」講座

e-squareは、「学生の創造性を育む実践的教育」「知の還流を促進するプロジェクト研究」「多様な分野にわたるコミュニティ形成」をミッションとし、社会に有益な科学技術を生み出すことを目的とする組織である。1995年に大阪大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーとして発足し、2012年に現名称に変更された。現在は、大阪大学産学連携本部イノベーション部配下の教育・研究組織という位置づけになっている。

大阪大学大学院工学研究科教授 理学博士 / 大阪大学産学連携本部イノベーション部長 兼 e-square 副ラボラトリー長 兼松泰男氏

e-squareでは、大学院教育の一環として「実学主義『企業の視点で科学する』」という高度副プログラムを開講している。高度副プログラムとは、事象・現象をさまざまな角度から科学的に捉えて理解する複眼的視野、およびグローバルな視点を有する人材の育成を目指す大阪大学独自の教育システムだ。実学主義はその一つであり、実学の現場に重点を置いた実践型教育プログラムを企業と共同で提供する講座として2014年度に開講した。

実学主義では複数の講座が組まれているが、そのうちの「製品開発 プログラミングと制御を学ぶ」において、NIのグラフィカル開発環境「LabVIEW」と教育用デバイス「myRIO」が採用されている。この講座を統括するのは、大阪大学大学院工学研究科教授 理学博士の兼松泰男氏である。同氏は、大阪大学産学連携本部イノベーション部長 兼 e-square 副ラボラトリー長も務めている。

LabVIEWを教育プログラムに取り入れる

兼松氏は研究室で実験計測用プログラムを開発するために、2000年頃にLabVIEWを導入したという。 「当時、簡易的な計測機器開発環境はいくつか存在していたものの、機能が不十分で習得にも時間がかかるという課題がありました。LabVIEWは、それらの課題を解決するために導入しました」(兼松氏)

その後、2010年には国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の先端計測機器開発プラットフォーム事業へ関わったことをきっかけにLabVIEWを教育プログラムにも取り入れることにしたという。

「プラットフォーム事業を立ち上げた際、日本の計測機器はソフトウェアプラットフォームが弱いということを痛感しました。海外にはハードウェアとソフトウェアを一体化した標準プラットフォームがあるのに、日本では会社の垣根を越えたプラットフォームがなく、クローズド(各社独自の仕様)のものばかりでした。その理由は、ハードウェアとソフトウェアを別々に作っているからだったのですが、その結果、先端計測機器の分野でも遅れをとっていたのです。すべての機器を思うように動かそうとすると、やはり複数のメーカーのハードウェア、あるいはソフトウェアの連動が困難となるのです。そこで、ひとつのソフトウェアですべての計測・制御システムが構築でき、操作も簡単に行える『プラットフォームをベースとしたアプローチ』が有効なのではないかと考えました」(兼松氏)

研究に使う機器、あるいは産業分野に展開する機器を考慮したうえで、大学としてきちんと取り組めるソフトウェアプラットフォームがほしい。そう考えた兼松氏が取り入れたのが、LabVIEWだった。

「NIはハードウェアもソフトウェアも提供する先駆的な企業です。そのNIが提供するLabVIEWはデータフロー型の開発環境で、学生にもとっつきやすいプログラミング手法を採っています。私がLabVIEWを使い始めた当初は、バージョンアップのたびに仕様が変わったり、動作が遅かったりなどの不満もありました。しかし、いまは機能が大幅に改善され、サードパーティー製品を含めた多数の計測機器にも対応しています。ハードウェアとの親和性と、開発環境としての操作性を考えると、他の選択肢はありませんでした。そこでLabVIEWを採用したのです」(兼松氏)

アクティブラーニングによりグループで学ぶ

講座ではソフトウェア(LabVIEW)を使ってプログラミングを行い、実際にハードウェア(myRIO)を動かしながら様々なアプリケーションを構築する。講師が教鞭をとる講義方式の授業ではなく、学生自身が能動的に学ぶ“アクティブラーニング”が特徴だ。

「最初にイントロダクションとして簡単な使い方を説明するものの、基本的には学生自らがeラーニングで学びます。また学生を数人ずつのグループに分け、テーマに沿った課題にチームで取り組むようにしています」(兼松氏)

この講座にスーパーバイザー的な役割で参加しているのが、日本ナショナルインスツルメンツ西日本事業部アカデミック技術営業マネージャーの竹内淳一氏だ。同氏は週1回大阪大学に出向き、学生から寄せられるさまざまな質問に対応する。講座では、自身の経験を通して身につけた技術・知識を学生に伝えることで、学生のスキル向上をサポートしている。

日本ナショナルインスツルメンツ株式会社 西日本事業部アカデミック技術営業マネージャー 竹内淳一氏

「講座では『モーターを動かす』『オーディオアナライザーを作成する』『画像処理を行う』の3つの課題を与え、各グループでどれかを選択するという形で進めました。わからないところは私に質問しつつ、講座で用意しているeラーニングで独自に学習を進めるという方法です。所属する研究室や専攻に縛られず、学生同士がグループで一緒になって積極的に学ぶ姿勢が生まれたこともあり、当初私たちが想定していた以上の成果が挙げられました」(竹内氏)

LabVIEWに興味を持った学生には「LabVIEW準開発者認定試験(CLAD:Certified LabVIEW Associate Developer)」の受験もサポート。現役エンジニアも受験する当該資格だが、2014年度には5名の合格者を輩出したという。

研究室の垣根を超えた勉強会

2015年度からは、実学主義の講座とは別の取り組みも行われている。それは、研究室で実際にLabVIEWを使っている学生を対象としたLabVIEWの勉強会だ。

「大学の研究室は残念ながら縦割りとなっており、どの研究室にもLabVIEWに詳しい人材がいるというわけではなく、何代か前の先輩たちが作ったLabVIEWをそのまま動かしているだけの場合もあります。それが勉強会を開始したことで、どこの研究室にLabVIEWに詳しい人がいるかが分かり、何かわからないことがあれば相談できるようになりました。これにより、LabVIEWに慣れていない学生同士が試行錯誤を繰り返すのではなく、助けが必要なときには助けを求めることが可能となったため、研究の引き継ぎにかかる手間と時間を大幅に削減・短縮する効果も期待できます」(兼松氏)

独創的な人材の育成に向けて

海外の教育機関では、入学当初から既に実学教育がなされており、卒業時には企業と組んでプロジェクトを行う機会も用意されている。さらに、学生実験、工学系でも広くNI製品を使用して、通年でソフトウェアとハードウェアの学習が滞りなく行えるようケアされている。そのような点を踏まえ、兼松氏は今後の産学連携のあり方について、次のように語った。

「日本でも、海外の研究機関のように、ソフトウェアとハードウェアを一緒に学び、使える環境が増えていくとよいと思っています。革新的な研究を行うには、ありものの機器で間に合わせるのではなく、やりたいことを実現するために独自の機器を作成する必要もあります。学生たちには、そのような努力を厭わず、果敢に取り組んでいってほしいと考えています。そのためにも、メーカー各社には、独自の機器が作りやすい環境づくりに協力していただき、私たちは私たちでエンジニアの素養作りに取り組んでいきたいと思っています。」

(マイナビニュース広告企画:提供 日本ナショナルインスツルメンツ)

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