空気の流れとそれにより発生する騒音の低減、およびエネルギー変換機器の研究に取り組む東京大学生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター 加藤千幸研究室。同研究室では、各種実験に用いる計測システムのデータ収集プラットフォームにナショナルインスツルメンツ(以下、NI)製品を利用している。特にシステム開発環境「LabVIEW」はプログラム開発の効率化に大いに役立っているという。

そこで、同研究室の協力研究員/日本大学理工学部機械工学科准教授 博士(工学)の鈴木康方氏と東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程に在学している同研究室の小林典彰氏、そして、東京大学生産技術研究所 教授/革新的シミュレーションセンター センター長 博士(工学)の加藤千幸氏にお話を伺った。

騒音の低減をテーマに学術的な研究に取り組む

東京大学生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター 加藤千幸研究室 協力研究員/日本大学理工学部機械工学科准教授 博士(工学)の鈴木康方氏

最近、エアコンや扇風機、換気扇などで「静音」をうたう製品が増えている。あるいは自動車の静粛性が高まり、走行中の風切り音を気にすることもなくなった。このような私たちの身の周りにある空気の流れとそれにより発生する騒音の低減をテーマに、学術的な基礎研究や応用研究に取り組んでいるのが、東京大学生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター 加藤千幸研究室(以下、加藤研究室)である。

「当研究室では、空気の流れとそれにより発生する騒音の実験計測、および大規模なシミュレーションを用いた機器の性能向上と静音化、さらに自動車の低騒音化や空気抵抗の低減などの研究を行っています。主にメーカーと共同で研究を進める形になりますが、製品に反映させるだけでなく、アカデミックな立場からその分野全体に適用できる技術を開発し、5~10年先の生活環境を改善するような研究に取り組んでいます」と同研究室の協力研究員/日本大学理工学部機械工学科准教授 博士(工学)鈴木康方氏は語る。

空気の流れとそれにより発生する騒音の低減という幅広いテーマのうち、現在取り組んでいる研究の一つに、風力発電用風車の翼から発生する騒音を低減させる基礎研究がある。

動的乱れ発生装置を用いた風洞実験の様子

LabVIEW画面

「風車が受ける風は、必ずしも実験室のように一定したものではなく、いろいろな方向から吹いたり、乱れがあったりします。これまではこうした環境を実験室で再現することは困難でしたが、当研究室では乱れをわざと発生させた風を送り出すことのできる動的乱れ発生装置を製作しました。この装置を風洞装置のノズルに取り付けて、流れを撹拌することで乱れた風を生成します。この風洞実験の結果をもとに風車ではどのようなメカニズムで騒音が発生するかを解明し、騒音の低減や騒音予測ツールの精度向上につなげています」(鈴木氏)

LabVIEWの導入で実験の計測時間を大幅に短縮

こうした研究には実験装置と計測システムが欠かせない。しかし、ここに課題があったと鈴木氏は振り返る。「計測する流れは規則性がなく、統計的な結果を得るには多点のデータを同時に長時間計測して記録しておく必要があります。しかし従来の実験装置では、多チャンネルの信号を収録してあとでプログラムを使って統計解析処理をするか、2~4チャンネルに限定して収録と簡易的な解析を同時に行うかをしていました。このため、データを取得、解析するには相当な時間がかかるという課題がありました」(鈴木氏)

鈴木氏が東京大学大学院博士課程修了後、2007年にNI のシステム開発環境「LabVIEW」を本格的に導入。最大16チャンネルのデータを一度に取得、解析できる計測プログラムを開発した。

「LabVIEWでプログラムを開発したことにより、実験の計測時間を大幅に短縮させることができました。その場でデータの様子を確認できるだけでなく解析まで行えるため、数日かかっていた実験が1日以内で完了することが可能になりました。また必要なときに必要なモジュールを追加購入できるので、トータルコストを抑えることもできます。これは限られた予算の中で活動しなければならない大学にとって、非常に有り難いことです」(鈴木氏)

鈴木氏は加藤研究室内に加え、教鞭をとる日本大学でもLabVIEWを勧めているという。 「一人でプログラム開発まで行うのは限界がありますし、研究テーマを遂行する担当者がプログラムを知らないとシステムの改良もできません。私は日本大学でC言語の授業も行っていますが、コマンドを入力していくC言語を学生に理解させるのは容易ではありません。その点、LabVIEWはGUIによるデータフロー言語なので非常にわかりやすく、学生にも自分でやってみようという意欲が出てきます」(鈴木氏) LabVIEWによるプログラム開発は、加藤研究室において代々引き継がれているという。

風洞試験の計測システムを構築した小林氏

現在、東京大学生産技術研究所(東京大学駒場リサーチキャンパス)の構内に設置されている加藤研究室所有の風洞装置は、測定部と計測システム制御部、計測システム処理部によって構成されている。測定部は騒音計測の精度を高めるために無響室になっており、その内部に実験用の模型と各種計測機などを設置して実際に計測を実施。計測システム制御部は無響室外にあり、測定部の機器を遠隔操作でコントロールするとともに、計測機から送られてくる計測結果のアナログ信号をNIのデータ収集プラットフォーム「CompactDAQ」で受信し、それを波形データとして計測用PCに転送する。さらに研究室にある計測システム処理部において、計測用PCに保存されたデータを処理用PCに転送し、計測結果をもとにした本格的な解析処理を行っているという。

この制御システムを手がけたのは、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程に在学中の小林典彰氏。同氏は現在、風車から発生する騒音が地形や建物など周囲の環境や大気中の乱れによってどのような影響を受けるか、そのメカニズムを明らかにするための研究を担当している。

東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程に在学している加藤千幸研究室の小林典彰氏

「LabVIEWを知ったのは、加藤研究室に来た大学4年のときでした。LabVIEWはアイコンを配置していくだけというシンプルな作りなので、ちょっと触れただけですぐにプログラムが完成し、計測を始められました。これで本当にプログラムができているのかと怪しむくらいに早かったことを覚えています。研究室には先輩が作成したLabVIEWのプログラムが残っていたため、最初は見よう見まねで作りはじめ、少しずつ実験に必要な機能を追加していきました」(小林氏)

小林氏は加藤研究室に在籍して取り組んだ学部での卒業研究,修士課程での研究,そして現在取り組んでいる博士課程での研究で用いる風洞実験用の計測プログラムは一貫してLabVIEWで開発したという。そうしたなか、エンジニアや設計者、システムインテグレータなど、相当なレベルでNI製品を使いこなしているユーザ向けの認定資格である「LabVIEW開発者認定(CLD=Certified LabVIEW Developer)」を取得した。

「CLDを取得したのはトレーニングコースを受講したのがきっかけです。そこでたまたま認定資格を持っている方と同席し、その豊富な知識量に、講師よりも知っているのではないかと思うくらい驚かされました。この資格を取得するくらいのスキルを持っていれば、LabVIEWを駆使して自在に実験ができると考えました」(小林氏)

そして風洞実験用に「翼面の多点圧力と翼騒音の同期計測システム」を開発。データの変換が不便で分析用ソフトを複数使用していた従来の制御システムを一新し、NI製の計測機とLabVIEWに集約して、計測からデータ管理、分析を一括で実行できる環境を構築した。このシステムは日本NIが開催するアプリケーションのコンテスト「Engineering Impact Award Japan 2015」において「学生部門優秀賞」を受賞。2016年に開催される米国本社主催のコンテストに日本代表作品として出品される予定になっている。

東京大学生産技術研究所 教授/革新的シミュレーションセンター センター長 博士(工学)の加藤千幸氏

「今後は計測と処理の連携をさらに深め、計測後のデータの自動転送、自動処理開始機能などを追加し、より一体的なシステムを構築したいと考えています」と、小林氏はシステムのさらなる改善を熱く語ってくれた。

また、小林氏の指導教員でもある東京大学生産技術研究所 教授/革新的シミュレーションセンター センター長 博士(工学)の加藤千幸氏は、「新しい理解や発見につながるデータ、計算結果を得て、研究者としての成長を、小林氏を初めとする若い研究者に期待しています。さらに、その研究を支えるNIには、そのようなことを可能にする計測・解析装置や計算機設備の提供を期待しています。」と話してくれた。

(マイナビニュース広告企画:提供 日本ナショナルインスツルメンツ)

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