イノベーションを生み続ける日本の造船

国立研究開発法人 海上技術安全研究所 構造基盤技術系 基盤技術研究グループ 松尾宏平氏

日本は、建造量で首位の座こそ中国・韓国に明け渡したが、現在でも世界第3 位を誇る造船大国である。高い技術力を持って世界の造船業をリードするとともに、経済の発展や雇用の創出など、地域社会へ大きな貢献を果たし続けている。

こうした造船業の発展は、日本人が得意とする高度な技能の活用と、数多くの技術的なイノベーションの創造に依るところが大きい。ブロック工法や生産管理手法など、今では世界中の造船事業者が採用しているさまざまな技術・工法を生み出してきたのも日本の造船業であり、世界的にも日本で建造された船舶の評価は高い。

一方で、日本の造船業は、厳しさを増す国際競争へ打ち勝つための力を付けるため、次のステップへ進まなければならないフェーズをむかえている。国立研究開発法人 海上技術安全研究所 構造基盤技術系 基盤技術研究グループに所属し、造船生産技術に特化した技術開発・研究を行う松尾宏平氏は、日本の造船業の将来について、次のように述べている。

「海に囲まれた日本において、造船業には、未来に向けた新しい価値を創造し、豊かな社会の構築に貢献できることがたくさんあると考えています。造船業は、社会にとってより身近で、もっと魅力のある事業になりうると思います」(松尾氏)

その一環として松尾氏が取り組んでいるのが、ICT技術のさらなる高度化と活用だ。設計分野においては、すでにCADソフトウェアが普及し、3次元情報に基づいた設計支援や自動化、生産管理などが行われている。しかし一方で、工作現場においてのICT活用には、まだ改善の余地があると松尾氏は主張する。

「他の製造業がICTを活用し、製作現場での自動化やロボット化を進めている一方で、造船の現場では属人的な作業が中心となっています。現場ではいまだに、大量の紙の図面を持って働く人も少なくありません。これからは、設計段階で生成された3次元情報を、工作現場でも効率よく利用できるようにすることが、大きなポイントになるでしょう。そうした新しいイノベーションの創発をサポートしたいと考えています」(松尾氏)

AR技術を応用して現場での配管作業を支援

現在、松尾氏はAR(拡張現実)技術を活用して造船作業を支援するシステムの開発に取り組んでいる。モバイルデバイスを活用し、造船現場にさまざまな情報を直接オーバーレイすることで、直感的な作業支援を提供するというものである。自動車や家電などの製造現場ではすでに活用されており、生産の指示やサポートを提供し、技術の習得や伝承に活用されている。しかし造船現場では、まだ応用例のない手法である。

そうしたシステムのひとつとして、松尾氏は、富士通システムズ・ウエスト(以下、FWEST)が提供する「FUJITSU Manufacturing Industry Solution PLEMIA MaintenanceViewer 」を採用した。

PLEMIA MaintenanceViewerは、作業現場やパーツ類に貼られたARマーカーをモバイルデバイスで読み取ることで画面上に作業情報を表示する仕組みと、作業情報や作業内容を管理する仕組みを組み合わせた作業支援システムである。

1隻の船舶内には、何千、何万本もの管が存在する。莫大な量の管から図面を読み解いて正しい管を選定するだけでも手間がかかる。本システムは、視覚的に配管の図面や取付け位置、履歴を見せることで、煩雑な配管取付け作業を大幅に短縮できる。また、現場での気づきを入力することで、情報の伝達ミスを防止することにもつながる。さらに、現場作業データを蓄積していくことで、作業進捗を確認したり、設計へのフィードバックを行ったりできるようになる。

「管に貼られたARマーカーを読み込めば、どの箇所に配管すればよいかが一目でわかります。作業効率を向上させるためには、適切な情報を、効果的に提供することが重要です。PLEMIA MaintenanceViewerの画像認識技術は精度と安定性が非常に高く、造船所の環境下でもスムーズに扱うことが可能です」(松尾氏)

業務支援システム導入が造船現場に変化を起こす - 進捗管理の変化と情報活用の連携

一般的な造船現場において、管のように多数の部品を取り扱う“小物”については、細かな物品管理が行われていない。例えば、複数の部品を収納したパレットなど、ある一定の単位で扱われ、ひとつひとつの部品については管理が省略されている。

そこで松尾氏は、PLEMIA MaintenanceViewerのスケジューラーや設備情報を中心とした管理機能に注目した。

作業者は、ARのサポートを受けることで管の取り付け作業をスムーズに進めつつ、取り付ける管ごとに作業状況(開始や終了)を入力する。サポートを受けると同時に操作する仕組みとなっているので、操作が自然で負担も少なく、入力漏れも起きにくい。この結果、管1本ごとに作業の進捗状況をリアルタイムに管理できるようになる。

「これは、造船業にとって大きなイノベーションのひとつです。造船は、他の製造業のようなライン生産方式による大量生産を行うものではありません。非常に巨大な工場で、作業員は各所に散らばって作業を行います。このような形態で、細かな物品ひとつ、ひとつの単位での管理は困難でしたが、モバイルデバイスとPLEMIA MaintenanceViewerによって、解決できる可能性が高まりました」(松尾氏)

現在のところ、松尾氏の作業支援システムは開発中で、プロトタイプができたばかりにすぎない。しかし、協力を要請している造船事業者には好感触で、“現場の変革”へ大きな期待が寄せられているという。今後、松尾氏とFWESTは、造船事業者の協力を得て、2015年から2016年にかけて実務での具体的な活用方法や導入方法を検討していく予定だ。

「細かなデータの作成や入力、造船現場での実証実験など、細かな作業においてもFWESTの支援を受けることができ、スムーズに研究を進めることができました。今度も強力なパートナーシップを築き、日本の造船業──モノづくりを盛り立てていきたいと考えています」(松尾氏)

国立研究開発法人 海上技術安全研究所


国立研究開発法人 海上技術安全研究所は、海上輸送の安全の確保・海洋環境の保全・海洋の開発・海上輸送の高度化を図ることを目的として、船舶に係る技術並びにそれら技術を活用した海洋の利用及び海洋汚染の防止に係る技術を研究し、それらの成果やノウハウを普及させ、社会に貢献することを目的とした国立研究開発機関である。具体的には、海上の安全技術、海洋保全、海洋開発、海上輸送技術という4つの分野を中核として、さまざまな研究に取り組んでいる。

(マイナビニュース広告企画:提供 富士通システムズ・ウエスト)

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